光が生じた。ナナの住んでいるトキタニ博士の屋敷だ。
まず、ナナが光から出て、続けてタケル、逸子、アツコ、タロウが出て来た。コーイチはチトセにしがみつかれたまま出て来た。場所はリビングだった。
「ふ~ん、そんなに変わった雰囲気って無いのね」アツコがぐるりと見回して言う。「本当に、ここがタイムマシンの生みの親、トキタニ博士の家なの?」
「疑うのは勝手だけど、本当よ」ナナが言う。「今はわたしが住んでいるのよ」
「ちなみにね、このナナは、トキタニ博士の曾孫なんだよ」タケルが言う。「ま、疑うのは勝手だけどね」
「いや、ボクは信じるよ」タロウが言う。「ここは何だか知的雰囲気に満ちているよ。調度品一つ取っても、それが良く分かる」
「あら、良く気が付いたわね」ナナが感心したように言う。「頭が良いって言うのは、本当なのね……」
「何よ? わたしが言ってたのを疑っていたってわけ?」アツコがむっとした顔で言う。「未来人ってのは疑い深いのね」
「それはあなたがあなただからじゃない!」ナナが言い返す。「いっつも逃げ回ってさ、素直じゃなかったんだから!」
「それは、あなたが追いかけて来るからじゃない!」アツコも言い返す。「事あるごとに邪魔しに出て来たんだから」
「はいはい、もう『ブラックタイマー対タイムパトロール』はおしまいだ」タケルが割って入る。「今は、同じ目的のために手を組んだ仲間だよ」
ナナとアツコは黙ってしまった。やれやれと言う感じでタロウはため息をつく。
「……コーイチ……」チトセがささやく。「オレ、何だか怖い…… コーイチと一緒なのに……」
「大丈夫だよ、チトセちゃん」コーイチは優しく笑う。「チトセちゃんは若いから、すぐに慣れるよ。……実はボクもここは初めてなんだよ。だからボクもちょっと怖いんだ」
「じゃ、一緒だな」チトセは言うと、ほっとしたように息をつき、笑顔になる。笑顔になると普通のかわいい女の子だ。「良かった。オレだけかと思っていたから……」
「あ! そうだわ!」逸子が突然大きな声を上げると、ナナに振り返った。「ナナ! お兄様!」
「あ! ケーイチさん!」ナナも大きな声を出す。「今の今まで、すっかり忘れていたわ!」
「え?」コーイチもつられて大きな声を出す。「ケーイチ兄さん、ここに居るのかい?」
「そうなのよ」逸子が言う。「地下の、トキタニ博士の研究室にいるわ」
「そうなんだ……」コーイチはつぶやく。「兄さんの事だから、また何か作ったり調べたりに没頭しているんだろうなぁ……」
「会いに行きましょう」逸子は言う。「ナナ、お願い」
「良いわよ」
ナナを先頭に皆がぞろぞろと続く。逸子とタケルには見慣れた室内だが、アツコとタロウ、コーイチとチトセは初めてだ。
「リビングと同じで、特に目新しくないわね」アツコが言う。ちょっと小馬鹿にした口調だ。「未来ってこんな感じなのね。過去の方が面白いわ」
「でもさ、トキタニ博士って、この時代からすれば過去の人なんだろう?」タロウが言う。「なら、ボクたちの感覚に近くて当然じゃないか? 目新しくないってのはそのせいだと思うんだけど……」
「何よ、タロウ!」アツコはぷっと頬を膨らませる。「わたしに文句を言うわけ? 世間知らずの馬鹿女って言うわけ?」
「そこまでは言ってないよ……」タロウはあわてる。「でもさ、この時代の最新鋭はきっとすごいんだろうとは思うよ」
「ははは、タロウさんの言う通りよ」ナナが笑う。「この時代の最新鋭の物は、敢えて少なくしているのよ。この屋敷に合わないから」
そんなやりとりに全く関心を示していないチトセは、やたらときょろきょろしながら、コーイチにしがみついている。コーイチもすっかりしがみつかれ慣れしたのか、全く気にしていないようだ。
「ねえ、コーイチ……」チトセは右腕を伸ばして、窓ガラスをぺちぺちと叩く。大工作業をしていたので、そんな所に興味が沸いたのかもしれない。「これって何だ? 硬いけど冷たいし、向こうが見えている……」
「これはガラスって言うんだよ」コーイチが言う。その眼差しは優しい。「チトセちゃんは初めて見るのかな?」
「うん。……外が見えるって良いね。明るいしさ。オレが居た小屋は昼でも薄暗かった……」
「そうだったね。ボクも居たから分かるよ。あの時、うっすらでも射し込んできた太陽が、こんなに貴重なものなんだって、しみじみ思ったなぁ」
「それでさ、コーイチ」チトセはコーイチを見上げる。「このガラス…… だっけ? どうやって作るんだ?」
「え?」コーイチは答えに詰まる。「……ごめん、分からない……」
「そうか……」チトセが言う。「他の大人は、知ったかぶりをして、なんだかんだ言うんだけど、コーイチって正直だな」
「ははは…… ありがとう……」
他に答えようのないコーイチは笑うしかなかった。
コーイチは腕にしがみつくチトセの力が少しずつ弱まっているの感じていた。緊張がほぐれて来ているのだろう。また、環境にも慣れてきているようだ。……若いってのは適応力も高いんだなぁ。まだ馴染んでいない自分が急にオジさんになった気がするコーイチだった。
それから、チトセは天井の照明を指して「あれは何だ?」と聞いてきたり、「どうやってここに来たんだ? タイム何とかって何だ?」と聞いてきたりしてきた。コーイチは「あれは照明と言って電気で点くんだよ」とか「タイムマシンと言って、それで時間を超えて、ここに来たんだよ」とか答える。そうすると「電気って何だ?」「時間を超えるってどうやるんだ?」と聞かれる。結局、コーイチは答えられなかった。
「コーイチは何も知らないんだな」
「ははは…… ボクは知らない事の方が多いんだね。がっかりしたかな?」
「オレ、そうやって正直に言えるコーイチが良いな」
チトセが再び腕に強くしがみついてきた。それが不安からではない事を、鈍感なコーイチは気が付いていない。
つづく
まず、ナナが光から出て、続けてタケル、逸子、アツコ、タロウが出て来た。コーイチはチトセにしがみつかれたまま出て来た。場所はリビングだった。
「ふ~ん、そんなに変わった雰囲気って無いのね」アツコがぐるりと見回して言う。「本当に、ここがタイムマシンの生みの親、トキタニ博士の家なの?」
「疑うのは勝手だけど、本当よ」ナナが言う。「今はわたしが住んでいるのよ」
「ちなみにね、このナナは、トキタニ博士の曾孫なんだよ」タケルが言う。「ま、疑うのは勝手だけどね」
「いや、ボクは信じるよ」タロウが言う。「ここは何だか知的雰囲気に満ちているよ。調度品一つ取っても、それが良く分かる」
「あら、良く気が付いたわね」ナナが感心したように言う。「頭が良いって言うのは、本当なのね……」
「何よ? わたしが言ってたのを疑っていたってわけ?」アツコがむっとした顔で言う。「未来人ってのは疑い深いのね」
「それはあなたがあなただからじゃない!」ナナが言い返す。「いっつも逃げ回ってさ、素直じゃなかったんだから!」
「それは、あなたが追いかけて来るからじゃない!」アツコも言い返す。「事あるごとに邪魔しに出て来たんだから」
「はいはい、もう『ブラックタイマー対タイムパトロール』はおしまいだ」タケルが割って入る。「今は、同じ目的のために手を組んだ仲間だよ」
ナナとアツコは黙ってしまった。やれやれと言う感じでタロウはため息をつく。
「……コーイチ……」チトセがささやく。「オレ、何だか怖い…… コーイチと一緒なのに……」
「大丈夫だよ、チトセちゃん」コーイチは優しく笑う。「チトセちゃんは若いから、すぐに慣れるよ。……実はボクもここは初めてなんだよ。だからボクもちょっと怖いんだ」
「じゃ、一緒だな」チトセは言うと、ほっとしたように息をつき、笑顔になる。笑顔になると普通のかわいい女の子だ。「良かった。オレだけかと思っていたから……」
「あ! そうだわ!」逸子が突然大きな声を上げると、ナナに振り返った。「ナナ! お兄様!」
「あ! ケーイチさん!」ナナも大きな声を出す。「今の今まで、すっかり忘れていたわ!」
「え?」コーイチもつられて大きな声を出す。「ケーイチ兄さん、ここに居るのかい?」
「そうなのよ」逸子が言う。「地下の、トキタニ博士の研究室にいるわ」
「そうなんだ……」コーイチはつぶやく。「兄さんの事だから、また何か作ったり調べたりに没頭しているんだろうなぁ……」
「会いに行きましょう」逸子は言う。「ナナ、お願い」
「良いわよ」
ナナを先頭に皆がぞろぞろと続く。逸子とタケルには見慣れた室内だが、アツコとタロウ、コーイチとチトセは初めてだ。
「リビングと同じで、特に目新しくないわね」アツコが言う。ちょっと小馬鹿にした口調だ。「未来ってこんな感じなのね。過去の方が面白いわ」
「でもさ、トキタニ博士って、この時代からすれば過去の人なんだろう?」タロウが言う。「なら、ボクたちの感覚に近くて当然じゃないか? 目新しくないってのはそのせいだと思うんだけど……」
「何よ、タロウ!」アツコはぷっと頬を膨らませる。「わたしに文句を言うわけ? 世間知らずの馬鹿女って言うわけ?」
「そこまでは言ってないよ……」タロウはあわてる。「でもさ、この時代の最新鋭はきっとすごいんだろうとは思うよ」
「ははは、タロウさんの言う通りよ」ナナが笑う。「この時代の最新鋭の物は、敢えて少なくしているのよ。この屋敷に合わないから」
そんなやりとりに全く関心を示していないチトセは、やたらときょろきょろしながら、コーイチにしがみついている。コーイチもすっかりしがみつかれ慣れしたのか、全く気にしていないようだ。
「ねえ、コーイチ……」チトセは右腕を伸ばして、窓ガラスをぺちぺちと叩く。大工作業をしていたので、そんな所に興味が沸いたのかもしれない。「これって何だ? 硬いけど冷たいし、向こうが見えている……」
「これはガラスって言うんだよ」コーイチが言う。その眼差しは優しい。「チトセちゃんは初めて見るのかな?」
「うん。……外が見えるって良いね。明るいしさ。オレが居た小屋は昼でも薄暗かった……」
「そうだったね。ボクも居たから分かるよ。あの時、うっすらでも射し込んできた太陽が、こんなに貴重なものなんだって、しみじみ思ったなぁ」
「それでさ、コーイチ」チトセはコーイチを見上げる。「このガラス…… だっけ? どうやって作るんだ?」
「え?」コーイチは答えに詰まる。「……ごめん、分からない……」
「そうか……」チトセが言う。「他の大人は、知ったかぶりをして、なんだかんだ言うんだけど、コーイチって正直だな」
「ははは…… ありがとう……」
他に答えようのないコーイチは笑うしかなかった。
コーイチは腕にしがみつくチトセの力が少しずつ弱まっているの感じていた。緊張がほぐれて来ているのだろう。また、環境にも慣れてきているようだ。……若いってのは適応力も高いんだなぁ。まだ馴染んでいない自分が急にオジさんになった気がするコーイチだった。
それから、チトセは天井の照明を指して「あれは何だ?」と聞いてきたり、「どうやってここに来たんだ? タイム何とかって何だ?」と聞いてきたりしてきた。コーイチは「あれは照明と言って電気で点くんだよ」とか「タイムマシンと言って、それで時間を超えて、ここに来たんだよ」とか答える。そうすると「電気って何だ?」「時間を超えるってどうやるんだ?」と聞かれる。結局、コーイチは答えられなかった。
「コーイチは何も知らないんだな」
「ははは…… ボクは知らない事の方が多いんだね。がっかりしたかな?」
「オレ、そうやって正直に言えるコーイチが良いな」
チトセが再び腕に強くしがみついてきた。それが不安からではない事を、鈍感なコーイチは気が付いていない。
つづく
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