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ジェシル、ボディガードになる 128

2021年06月01日 | ジェシル、ボディガードになる(全175話完結)
「何だ、何だ、何だあ!」
 驚いた声を上げたのはムハンマイドだった。宇宙船の右舷の修理をするために左右の腰に小型のジェット推進装置を着け、修理個所に浮かんだままで留まりながら、地面を見下ろした。ムハンマイドが驚いたのは、宇宙船からジェシルを先頭に、オーランド・ゼム、アーセル、リタ、それを支えるようにミュウミュウと、ぞろぞろと続いて現われたからだ。
「ハービィ、どうなっているんだ? まだ二日は掛かると伝えてくれたんだろう? それに、彼らは何をしているんだ?」
 ムハンマイドは、隣で道具に入った袋を両手で持ってぶら下げながら、ぎぎぎぎと音を立てて、同じジェット推進装置で浮かび留まっているハービィに言う。
「二日は掛かると伝えましたです」ハービィは答える。「ハニーは不服そうでしたが、了解してくれました」
「ハニー?」
「宇宙パトロールのジェシル・アン捜査官です」そう言うと、ハービィの動きが止まった。何か計算中のようだ。やがて、ぎぎぎと音を立てながら頭をムハンマイドに向けた。「彼らは、気分転換をしているのだと思われますです」
「ふん!」ムハンマイドは鼻を鳴らす。「ああ言った、年寄りの行列ってのは、なんだか見苦しいな」
「若い人もいます」ハービィが答える。「平均年齢で言えば年寄りになるのでしょうが。何しろ、オーランド・ゼムは一番の年寄りで……」
「それ以上は言わなくて良いよ」ムハンマイドは手を上げてハービィを制した。「ちょっと、文句を言ってくる」
「遠くへは行かないと思いますが」
「ボクの星を勝手にうろうろされるのがイヤなんだ、あんな年寄りたちに!」ムハンマイドは言うと、歩いているジェシルたちを見下ろした。「おい! どこへ行くんだ! 宇宙船に戻っていろよ!」
 ムハンマイドの声に皆は顔を上げた。驚いた顔が並ぶ中、むっとした顔をしていたのはジェシルだった。
「うるさいわね!」ジェシルは右手をホルスターベルトにやった。敵だと認定すると無意識に熱線銃に手が伸びるようだ。「ちょっとした気分転換じゃない! あなたは修理をしていれば良いのよ!」
「うろうろされちゃ、修理に集中できないんだよ!」ムハンマイドはジェシルの前に降り立った。制服姿のジェシルをじろりと見る。「……ふむ、その格好なら宇宙パトロールだと認めてやるよ。だったら分かるだろう? この星はボクの個人所有だ。許可なく歩き回るのは法律違反だ」
「あらそうなの?」ジェシルは関心が無さそうに答える。「じゃあ、証拠となるものを見せてよ。それが無きゃ、判断はできないわ」
「家に戻るのは面倒だ。それに、ムレイバ星で検索すれば、すぐに分かる事だ」
「天才さんじゃ、何でも出来そうだから、検索結果をどうとでも書き換えられるんじゃないかしら?」ジェシルは疑い深そうな眼差しをムハンマイドに向ける。「それに、二日間も宇宙船に居続けなんて、絶対、からだに悪いわよ!」
「ボクは家から一歩も出ないで一年は平気だぞ? たかが二日も辛抱できないなんて、どう言う構造をしているんだ?」
「おかしいのは、あなたの方だわ!」
「そうだ、若造!」アーセルがずいっと前に出てきた。「ずっと、偉そうにぬかしまくってやがったのは、お前ぇか!」
「何だ、あんたは?」ムハンマイドは思い切りイヤな顔をして見せ、自分の鼻をつまんだ。「それと、何だい、この酒臭さは!」
「ごちゃごちゃ、うるせぇんだよ!」アーセルは、手にしたボトルに直接口をつけて、中身をぐいと一口飲んだ。「これはな、単なるジュースなんでぃ!」
「何を子供じみた事を言っているんだ……」ムハンマイドは呆れ顔でアーセルを見る。「まったく、これだから、年寄りは!」
「ねえ、あなた……」今度はリタが話し始めた。「どうして、そう年寄りを嫌うのかしら? いずれは、あなたもおじいちゃんになるのよ?」
「ボクはそこまで生きるつもりは無い」ムハンマイドはリタに向かって吐き捨てるように言う。「老醜を晒す気なんか、微塵も無いんだよ!」
 ムハンマイドの鼻息は荒い。


つづく


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