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ジェシル、ボディガードになる 129

2021年06月02日 | ジェシル、ボディガードになる(全175話完結)
「どうして、そこまでお年寄りを嫌うの?」ミュウミュウがおずおずと尋ねる。ムハンマイドの剣幕を怖れているようだ。「わたくしには、分からないわ……」
「それは、君が騙されているんだよ」ムハンマイドの声はジェシル対するのとは反対に優しい。「見たところ、ずっと、そのばあさんに付き添っているようだね」
「ええ、それが仕事でしたから……」ミュウミュウは優しく笑む。「……でも、今ではわたくし自身の心の支えでもありますわ」
「何よ!」ジェシルが割って入る。「わたしに冷たくて、ミュウミュウには優しいなんて! どう言う事よ!」
「それは君のせいだろう! ぎゃんぎゃんうるさく言い出したのは、そっちが先だろう?」ムハンマイドはむっとしたかをジェシルに向ける。「そんなんじゃ、口うるさい嫌わればばあになっちまうぜ!」
「そっちが先に横柄で偉そうに言って来たんじゃない!」ジェシルも負けてはいない。「そんなヤツに優しく話なんか出来るわけないわ!」
「……まあまあ」オーランド・ゼムが苦笑しながら割って入る。「若い者同士なんだから、仲良く出来ないかね?」
「若いだって?」ムハンマイドが喰いついた。「そうさ、若いさ。あんたらだってそうだったろう? 今の発展を築いたのは、あんたらが、今の年寄どもが、若い頃に働いたからだって言うけどさ、その際に生じた様々なマイナス要素を次の世代に丸投げしているじゃないか! その当時はマイナスには気が付かなかったなんて言い訳をするのか? そんなのは通用しないよ! 大勢いるのに、マイナス要素に気が付かないなんて言うんなら、単に馬鹿野郎な集団だ! 束になった馬鹿野郎ども程、手に負えないものは無いな。……だけどね、そんな事は無いとボクは思っている。マイナスの要素は気が付いていたんだ。だが、自分たちの生きている間には影響が無いとか、次の世代がより優れた解決策を見いだすだろうとか言って、逃げ回っていただけなんだ!」
 ムハンマイドは一呼吸置く。怒りに燃えた眼差しを、リタ、アーセル、オーランド・ゼムに向ける。
「そのくせ」ムハンマイドは続ける。「こうやって長く生きていれば、人生の先輩面をして偉そう若い連中にぐだぐだとぬかしやがる! 一個人の、それも限られた経験ごときで、他人の人生にしゃしゃり込んで来るなって言うんだ! そして、自分が利権をつかむと自分だけのものにして、若い連中に渡そうとしない。それを武器にして周りを自分の意のままにしようとする。反発する若いヤツらは排除し、媚を売ってくるどうしようもない連中ばかりを可愛がり、そいつらを後継者にする。結果として悪循環を作り上げる。そんな屑な年寄りどもは、全員、消えてなくなりゃ良いんだ!」
 ムハンマイドは一気に捲し立て、肩で息をする。怒りに燃えた眼差しは、さらに燃え上がったようだ。
「やれやれ、相変わらずだねぇ、ムハンマイド君は……」オーランド・ゼムは楽しそうに笑む。「まあ、否定できない所は多々あるけどね」
「そうさ、あんたらは利権と権力の上にふんぞり返っている亡霊なのさ! さっさと消えちまえって言うんだ!」
 リタとアーセルは苦い顔をしている。ミュウミュウは困惑の表情を浮かべている。ジェシルは、ムハンマイドの言葉に同調したのか、大きくうなずいている。
「あなたの言いた事、わたしには良く分かるわ!」ジェシルが言う。口調がやや熱っぽい。「わたしも偉そうな年寄りは大嫌いだわ! 特に組織内の長老級の人たちね! 大した事を言わないくせに勿体ぶってさ! 自分は偉いんだ、何でも知っているんだって顔をしていて。そのくせ、最新の事には全く疎いのよね。答えに詰まると、やれ昔はこうだった、やれ時代が違っているとか、言い訳ばっかり。素直に、それは知らなかった、教えてほしいなんて言う人はほとんどいないわ! そう言う事が言える人は、逆にさっさと後進に道を譲るのよ。人の役目は終わったって言ってね」
「そうなんだよな!」ムハンマイドは、ジェシルの言葉に大きくうなずく。「新しい事は、前例がない、予算が掛かり過ぎる、本当にそう言う結果が得られると言う保証はあるのか、そんな下らない事ばっかりぬかしやがるんだ! 後世を憂うって感覚が全く無いんだよな!」
「それは、今の年寄りの前の代からそうだったのよ!」ジェシルの鼻息が荒い。「悪しき習慣を改めようともしないんだわ! 伝統って名前で全部をまとめちゃってね!」
「だがね」ムハンマイドも鼻息が荒い。「悪しき習慣を改めて、新しい伝統を作ったとしても、それがいつしか利権や権力を生み出して、それを死守する年寄りが出て来るのさ」
「じゃあ、どうするのよ? いつまで経っても終わらないじゃない!」
「だから、年寄りには消えてもらうのさ。どこか隅の方で大人しくして、お迎えが来るのを待っていてほしいんだ」
「それは良い考えだわ! 賛成!」
「自分はもう用済みだって、絶対に分かる時があるものだ。ボクたち若い者にだって、その感覚はあるんだからね」
「そうよね、良く分かるわ!」
 ジェシルとムハンマイドは見つめ合う。いつしか、二人の気持ちが通じ合ってしまったようだ。リタ、アーセル、ミュウミュウは困惑の表情だったが、オーランド・ゼムだけがにやにやしていた。


つづく


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