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日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

ブラック・メルヒェン その21 「サンタクロースの贈り物」

2009年12月24日 | ブラック・メルヒェン(一話完結連載中)
 ティムは寝返りを打ちました。
 ごつん・・・
 おでこに何か当たりました。
「なんだ、なんだあ・・・!」
 眠りを妨げられたティムは不機嫌な声を上げ、むくりと起き上がり、ベッド脇の灯りスイッチを点けました。明るさに慣れるまで幾度もまばたきを繰り返します。
 灯りに馴染んだ目で見ると、枕元には、枕と同じくらいの大きさの、きれいな模様の入ったリボンが掛けられた、赤い箱がありました。この箱に、おでこをぶつけたようでした。
「誰だあ、こんなもの置いたのはあ!」
 文句を言いながら箱を持ち上げて見ます。随分と軽い箱です。箱を耳元で振ってみました。音はしません。訝しそうな顔で箱を見つめます。
「・・・そうか!」カレンダーを見ました。「サンタクロースからのプレゼントって訳か・・・」
 ティムは笑い出しました。高校生にもなってサンタクロースなど信じてはいません。きっと親がこっぞりとプレゼントを置いて行ったのでしょう。靴下なんかぶら下げてはいないのですから。
「しょうがないな、明日『わーいサンタさんがプレゼントを持ってきたよ、パパ、ママ!』なんていって喜ばせてやろうか」言いながら溜め息をつきました。「・・・やっぱ、それは無理だよ」
 とりあえず、中身を見てみようと、ティムはリボンをぐいっと引き千切り、包んであった赤い包装紙をびりびりと破き、上蓋をぽいっと放り投げました。
「うーん・・・」
 ティムは唸りました。入っていたのは丁寧に折りたたまれた白いシャツのようでした。
「親は何を考えているんだ?」
 箱から取り出して、目の前に吊り上げてみました。
「うーん・・・」
 ティムはまた唸りました。男物にしては丈が長く、袖もなく、ほっそりとしています。どう見ても、女の子のワンピース風でした。
「親は何を考えているんだ?」
 今度の言葉には、呆れよりも不安な気持ちが含まれていました。
 そのとき、ティムの携帯電話が鳴りました。
『ホーホーホー!』ティムが声を出す前に、もの凄い大きな笑い声が流れてきました。『いやあ、申し訳ない、申し訳ない!』
「・・・」ティムの知り合いにこんな年寄りの声を出すものはいません。一体、どこの酔っぱらいだ、ティムは思わず電話をにらみつけます。「何時だと思ってんだよ、間違い電話なんぞ掛けてきやがって!」
『ホーホーホー! 間違い電話ではないぞお、ティム・カーソン君!』
 相手は楽しそうに言います。ひょっとして、変質者か、ティムはぞっとしました。
『心配するな。わしは、お前さんが信じなくなったサンタクロースじゃよ』
 ティムは電話を切りました。冗談にせよ、変質者にせよ、関わりにはなりたくありません。
「ホーホーホー!」
 不意に背後から今聞いたばかりの笑い声が聞こえてきました。思わず振り返ります。
 そこには、サンタクロースが、にこやかな笑顔を湛えて立っていました。ティムは驚いて、ベッドから落ちてしまいました。
「何もそう驚く事はなかろう」サンタは言います。「君が信じなくなっても、わしは実在するのだよ」
「・・・何をしに来たんです?」ティムは不安な声を出します。「まさか、信じなくなった僕を、どうにかしようなんてつもりじゃないですよね?」
「ホーホーホー!」サンタはさも愉快そうに笑います。「そんな事はせんよ。これで君も改めて信じてくれるだろうしね」
「じゃあ、何をしに、ここへ・・・?」
「それじゃよ」サンタはティムの持っているワンピースを指し示しました。「実はな、それはうっかり間違えて置いてしまったんじゃ。別の娘に渡すプレゼントだったんじゃよ」
「・・でしょうね。男の僕がもらっても、どうして良いのか分からない・・・」
「それは特別製でな、持っている者の思い通りの形に変わるんじゃよ」
「じゃあ・・・」ティムはいたずらっぽい顔をします。「赤くてハイレグで胸元がグイって切れ込んでいるレオタード、なんって言ったら・・・、わっ、わっ、わ!」
 ワンピースが勝手に縮み、また伸びると、ティムの言ったままになっていました。
「元に戻れと言えば良いんじゃよ」あたふたしているティムを見て、サンタは笑いながら言いました。「どうじゃ、面白いじゃろう? ただし、これは女の子用じゃ。君に服にはならんよ」
「僕も男の子用がほしいです」
「君はサンタを信じていなかった。だから、今回はプレゼントは渡せんな」
「そんな冷たいこと・・・」ティムは溜め息をつきます。「・・・ま、言われてみれば、当然だよな・・・」
「ホーホーホー!」サンタが笑い出しました。「じゅうぶん反省をしとるな? では、チャンスをあげよう」
「本当ですか?」ティムは喜びます。「僕、何でもします!」
「では、さっきも言ったんじゃが、君の持っているプレゼント、本当に待っている娘に渡してきてほしいんじゃよ。・・・包みを台無しにしてしまったんじゃからな」
 サンタはいじわるな顔をティムに向けます。
「親から僕へのプレゼントだと思ったもんですから・・・」
 ティムは散乱した包みの残骸をちらりと見ます。
「サンタを信じていないのに、プレゼントはもらうのかい?」
「いえ、あのその・・・」
 ティムはばつの悪そうな顔をして下を向いてしまいました。
「ホーホーホー!」サンタは愉快そうに笑います。「これで決まりだな。君にやってもらおう。異存はないね?」
「分かりました・・・ それで、どこの誰に渡すんですか?」
「その服にタグがついておるじゃろう?」
 見てみると、いつの間にか糸で留めた紙のタグがぶら下がっていました。
「それに名前が書いてある」
「ええと・・・」あまり上手な字ではありません。何とか読み取ります。「・・・ジュ・・・ディ・・・ハーマ・・・イ・・・ケル・・・ ジュディ・ハーマイケル?」
「そうそう、その名じゃ!」サンタは満足そうに頷きます。「さっそく渡して来ておくれ」
「どこに住んでいるんです? どんな娘なんです?」
「知らんのかね?」サンタの顔が少し曇ります。「顔も、知らんのかね?」
「はい、すみません・・・」思わず謝ってしまいます。「・・・僕の知ってる娘なんですか?」
「ホーホーホー!」サンタは笑い声を上げました。しかし、顔は笑っていません。「仕方ない少年だな、ティム・カーソン君! じゃあ、これを頼りに探すのだ」
 サンタはポケットから三枚の写真を取り出しました。ティムは受け取って一枚一枚じっくりと見ます。
「・・・あのう」ティムは困った顔でサンタを見ます。「これ、後ろ姿ばかりなんですけど・・・」
 ティムと同じくらいの歳の娘の後ろ姿で、赤みがかった三つ編みお下げが特徴といえば特徴でしょうか。
「背景を良く見てごらん」サンタは思わせぶりに言います。「きっと知っている場所じゃよ」
 もう一度見直します。確かに見たことがあるぞ、ティムは考え込みます。
「あっ!」気が付きました。「学校じゃないか! ・・・しかも、こっちの写真は僕のクラスだ!」
「ホーホーホー!」今度は本当に笑っています。拍手も加えています。「正解じゃ! 正解じゃ!」
「それじゃ、このプレゼントは、クラスメイトへって事ですか?」
「そうじゃよ。・・・さ、もう分かったじゃろう?」
「・・・」悲しそうに頭を振ります。「ダメです、分かりません・・・」
「うむ」サンタは腕組みをします。「確かに目立たない、控え目な娘じゃからのう・・・ そうじゃ! クラスの名簿みたいなのは、ないかな?」
 ティムは学校の名簿録を本棚から取り出しました。
「写真も載ってます。一緒に見ましょう」
 サンタとティムはベッドに並んで腰掛けました。ページを繰ります。赤みがかった三つ編みのお下げを肩から前に垂らし、照れくさそうに微笑んでいる娘がいました。名前は「ジュディ・ハーマイケル」とあります。
「この娘かあ!」ティムは写真を指差し、大きな声で言いました。「・・・話をしたことがないなあ・・・」
「ホーホーホー! この娘は、恥ずかしがり屋さんでな。なかなか自分から進んで話の出来るタイプではないんじゃ」
「ふ~ん、そうなんだあ・・・」ティムはじっと写真を見つめています。「こんな娘がクラスにいたんだなあ・・・」
「しかも、このクラスになってから、ずっと気になっている男の子がいるそうなんじゃよ」
「ふ~ん・・・」
 ティムは上の空で返事をします。
「それは君なんじゃ、ティム・カーソン!」
「ふ~ん・・・えっ!」
 サンタはティムの肩に手をかけます。振り返るティムに優しく微笑みかけます。
「ジュディは君に好意を持っている。デートもしたいと思っておる。しかし、君が友だちに言った『女の子は服装が大事だな』の一言をずっと気にしておる」
「それでこれを望んだんだ・・・」
「そう言う事じゃ。これがあれば、君の好みの服にすぐ出来るからな。健気な娘じゃ」サンタはティムにウインクしました。「ジュディは毎年、寝ないでわしを待ってくれておる。今年もそうしておるじゃろう。そこへわしからのプレゼントを持った君が現われれば、ジュディには最高のプレゼントになろう」
「そうですね・・・」ティムはまた、写真に目を落とします。ぽっと頬が赤くなりました。「僕にも最高のプレゼントになりそうです」
「よし、そうと決まれば、すぐに行動じゃ!」サンタはティムを立たせます。「わしがぽんぽんと手を打つと、君はジュディの部屋に移動している。そこで君は・・・」
「分かっています。後は全部、任せてください!」ティムは照れくさそうに続けます。「信じなくなって、ごめんなさい。これからは一生信じ続けます。それと、わざと間違えてくれて、感謝しています!」
 サンタはにこやかに何度も頷くと、手をぽんぽんと二度打ちました。たちまちティムはジュディの部屋へと移動しました。
「やれやれ・・・」静かになったティムの部屋で、サンタはつぶやきました。「小さいうちは物で済むが、年頃になると、それじゃ治まらん。サンタを信じてもらえるようにするのも、一苦労じゃて・・・」
 サンタは手帳を広げました。大きな溜め息をつきます。
「次はスーザン・ブラウン、三十五歳、独身、同僚のベン・ソーンと結婚できますように・・・か。やれやれ・・・」

 子供の心で純粋にサンタクロースを信じているあなた。プレゼントのおねだりも子供の心で純粋に。サンタさんのためにも・・・




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