お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

コーイチ物語 3 「秘密の物差し」 129

2020年09月13日 | コーイチ物語 3(全222話完結)
「そうと決めたら、行動あるのみ…… って事になるんだろうなぁ……」
 タケルは諦めたように言う。……あああ、出世が。安定した将来が。お父さんお母さん、不束な息子ですみません。とにかく、支持者ってのを見つけ出そう。……そうだ! 支持者を見つけ出して、何とか丸め込んで、上手く扱うことが出来れば、タイムパトロールに居続けることが出来るだろう。違反集団解散部門の責任者になれるかもしれない。それが出来れば、いずれは長官の椅子も狙えるかもしれない。そうなれば、それを足掛かりに政界に打って出る事も出来るだろう…… タケルはそんな事を考えて、一人にやりとした。
「タケル……」そう呼びかけられてタケルが振り向くと、ナナがにらみ付けていた。「……その顔は、何か良からぬ事を考えている時の顔だわね」
「え? そんな事なんて無いよ……」
「その顔は、支持者を見つけ出したら、何とか利用してタイムパトロールに違反集団解散部門を作って、そこの責任者になって、行く行くは長官に、最後には政界進出を狙っているって顔だわ」
「……は、ははは……」タケルは笑ってごまかそうとしたが、顔が引き吊っていた。ナナの視線に逸子とアツコも加わる。三人娘のきつい視線にタケルはついに音を上げた。「分かった、分かったよ。本当に分かった。もう邪まな事は考えないよ。……幼なじみってのは、隠し事が出来ないよなぁ……」
「そうよ、諦める事ね」ナナが言う。「これからだって、何か良からぬ事を考えたら、すぐに分かるんだから」
「はいはい……」
 すっかり諦めたタケルの様子を見てナナは満足そうに笑む。
「さあ、そうとなれば、何とか、その支持者ってのを見つけなきゃいけないわね」ナナが言う。「どうやろうかしらねぇ……」
「わたしも協力したい!」アツコが手を上げた。「そいつに振り回されたのが悔しいの。……もちろん、支持者の言葉を選んだのはわたしだけど…… そいつに振り回されなければ、違反集団なんて言われなかったかもしれないわ」」
「……ボクも……」タロウもおずおずと手を上げる。「結局、ボクが組織を解散させてしまったんだけど、やっぱり悔しい。支持者の甘言に乗ってしまった自分の不甲斐無さを差し引いても、やっぱり悔しい」
「わたしも、コーイチさんについては色々と世話になったから……」逸子は不敵な笑みを浮かべ、指をぽきぼきと鳴らす。「たっぷりとお礼をしなきゃあね」
 皆の視線がコーイチに集まった。コーイチは自分の後ろに誰かいるのかと振り返るが、もちろん、誰もいない。コーイチは皆の視線の意味が分かっていた。争い事は好きじゃないコーイチだったが、ここはどうしても避ける事は出来ない場面だった。コーイチは大きなため息をついた。
「……ボクもみんなに従うよ……」 
「それじゃ、全員一致って事で!」ナナが高らかに言う。「……でも、支持者を捜すのに、ここに居てはダメねぇ」
「そうだねぇ……」タケルは周りを見回す。「せっかくのエデンの園だけど、仕方ないか」
「良いのよ、別に」アツコは言う。「……そうだ、大工さんたちを戻してあげなくちゃね」
「家、建てなくて良いのかい?」コーイチが言う。「あんなに張り切っていたのに?」
「良いの……」アツコは力無く頬笑む。「やる事が出来たんだから、そっちが優先よ」
「そう…… アツコさんがそう言うんなら、それで良いんだけど……」
「何よ、コーイチさん」逸子がからかうように言う。「なんだか、残念そうね」
「いや、アツコさんが、ものすごく熱心だったからさ……」
「でも、良いの!」アツコが強く言う。その後に、誰にも聞こえないようにこっそりとつぶやいた。「……逸子には、勝てないから……」
「それじゃあ、支持者探しの作戦を立てようか」タケルが気を取り直したように言う。「タイムパトロールに戻って、一人一人に『あなたが支持者ですか?』って聞いて回るんだ。みんなで手分けしたら、すぐに終わるよ」
「タケル、こんな時に冗談はいらないわよ!」ナナが叱る。「真面目に考えてよね!」
「考えるんなら、タロウが居るわ」アツコが言って、タロウの腕を引く。「何しろ、タロウは頭が良いから! さあ、何か言ってよ!」
 皆の視線が、今度はタロウに集まる。タロウは「そんな、急に言われても……」とぶつぶつ言っている。アツコはそんなタロウを尻目に、自分のタイムマシンを操作した。光が生じる。
「……わたし、大工さんたちを棟梁の所に戻してくるわ」アツコは言って、タロウを見た。「その間に良い作戦を立てておくのよ」
 アツコは大工たちの方へ行って、話をしている。
「そうかい、残念だなぁ」「ま、お嬢が決めたんなら良いか」「ここの木は、なかなか良い木材になりそうなんだがな」「気が変わって家を建てたくなったら、何時でも言ってくれよ」大工たちは口々に言いながら、光の中へ入って行った。
「じゃあ、すぐに戻って来るから!」
 アツコは言うと、光の中へと入って行った。光が消えた。
 しばらくすると、再び光が生じた。
「アツコ、戻って来たね」タロウは光を見ながらつぶやく。「……まだ、何も決まっていないって分かったら、怒るだろうな……」
 光の中からアツコが出て来た。困ったような表情をしている。皆が怪訝な顔をしてみていると、光の中からもう一人出て来た。
「……チトセ……ちゃん!」
 コーイチは思わず叫んだ。


つづく


コメントを投稿