お話

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ヒーロー「スペシャルマン」・4

2009年04月29日 | スペシャルマン
 オレは「スペシャルマン」と呼ばれる正義のヒーローだ。常人の及ばない様々な特殊能力を秘めている。この力で悪を倒し続けているのだ。
 さて、ヒーローの条件の一つとして認識されているものに、戦闘員との格闘と言う事がある。
 宿敵「ブラックシャドウ」にも、戦闘員(いわゆる下っ端)がいる。いるなんてもんじゃない。それこそ、倒しても倒しても倒しても倒しても倒しても倒しても倒しても倒しても、次の戦いの時にはまたうじゃうじゃといやがる。しかも、戦いが終わってみると、倒したはずの戦闘員の姿がないのだ。ヤツらは倒されると消滅するようになっているのか? それとも、仲間が連れ去るのか? オレはその時々のミッションの親玉を倒すのに夢中で、しっかりと確認をしてはいないのだが・・・
 さらに気になる事がある。ヤツらの存在意義についてだ。オレにあっけなく倒されるくせに、次から次へと挑んできやがる。はっきり言って、ヤツらとオレとでは力の差が圧倒的だ。それなのに何故だ? あの無謀とも言える行動の源はなんなのだ? ただ単にオレの邪魔をするだけの時間稼ぎ要員なのか? それだけなのか?
 もっと気になる事がある。ヤツらはどこから集められているのか? いわゆる「職業紹介」で集められたのか? 時給制か、月給制か? ヤツらにも家族があるのか? 家を出る時、奥さんがまだ幼い子供を胸に抱いて玄関先まで見送り、その子供がまだカタコトの舌足らずで「パパ、いってらっちゃい、早くかえっちぇね」なんて言って、バイバイと手を振ってるんだろうか? オレに倒されると「ブラックシャドウ」から「ご主人は殉職なさいました」とでも通知が行くのだろうか? 子供から父親の事を聞かれた母親は「パパは遠くへ仕事に行っているのよ」と涙ながらに言うんだろうか? 何がしかの保険金か恩給か見舞金が出るんだろうか? いや、悪の組織がそんな事をするわけが無い、と思う。全くのやられ損ではないか。
 ひょっとすると、まだ幼い子供をかき集め、徹底した教育を施しているのかもしれない。「ブラックシャドウは世界一!」とか「ブラックシャドウは最高!」なんて感じで。「優秀な者は幹部登用もあるぞ」などと互いの競争心をあおり、格闘術も仕込まれ「お前はなかなか筋が良いな」とおだてられ、いざ、実戦で、オレに見事なまでにあっけなくやられてしまうのだ。やられる瞬間「・・・一体何のためににここまで頑張ってきたんだ。仲間を蹴落とし、いずれは大幹部になって世界を悪に染め上げようとしていたのに・・・」と、激しい後悔の念が渦巻くだろう。
 そうなのだ。戦闘員と言っても、人間なのだ。そして、オレは人々の平和のために戦っている。戦闘員こそ、救ってやらねばならない第一の存在なのかもしれない。
 そんなある日、アーマーメカが出現した。変身したオレをいつものように戦闘員が取り囲む。「ブラックナイト三号」が戦闘を命じた。一斉に戦闘員がオレに飛び掛ってくる。だが、オレは手が出せなかった。「雨だれ石を穿つ」の例えがあるが、なまくらパンチやキックや武器攻撃でも、数が当たれば効いて来る。迂闊だった。オレは倒され、気を失ってしまったのだ。
 翌日の新聞に「スペシャルマン大失態! やる気があるのか?」「戦闘員達にやられる情けないスペシャルマン」とデカデカと記事が載り、テレビのワイドショウではやられまくるオレを盗撮した映像を繰り返し流し続け、偉そうにしたコメンテーターどもが非難を浴びせ、抗議の電話がオレの家に殺到し、外を歩けば石を投げつけられ、つき合っていた翔子に愛想をつかされ、政府によって謝罪会見までさせられた。オレの気持ちを分かってくれる者はいなかった。こんなんじゃ、オレが悪のヒーローになってしまうかもしれない。




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