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コーイチ物語 2 「秘密の消しゴム」 72

2009年04月26日 | コーイチ物語 2(全161話完結)
 ・・・食べてみなければ分からない・・・ コーイチはきのこをじっと見つめていた。
「あのねえ・・・」花はじれったそうに言うと、ふわりと浮き上がり、コーイチの顔の前で漂った。「別に毒きのこじゃないんだから、さっさと食べてよね。それに、もたもたしていると、本当に首をちょん切られちゃうかもよお・・・」
 コーイチは顔の前に花を見つめた。花はまた地面に降り立ち、きのこの横に立った。
「さあ、男でしょ? 良い所を見せてちょうだい!」
 コーイチは軽くうなずくと、きのこを根元から折り取った。
 全体は白く、香りは特に無い。傘は大きく肉厚な感じだ。・・・この傘のどちらか側が大きくなる訳だ。コーイチは柄をクルクルと回しながら思った。
「さあ、早くかじって食べてみてよ」
「あのさ・・・」コーイチは視線をきのこから花へ移した。「ひょっとして、君はこの状況を楽しんでいるんじゃないかなあ?」
「どうしてよ!」花は怒った声でそう言うと高く浮き上がり、コーイチを見下ろした。「私は、あなたが自転車じゃ疲れる、早く城へ行きたい、仲間を助けたいって言ったから、持っている知識を総動員してこのきのこの事を教えてあげたんじゃない! それなのに、何て言い草なのよ!」
「あ、いや・・・ ごめんなさい・・・」コーイチはそう言うと、見上げていた顔を下げた。「・・・でも、何だか口調が楽しそうだったからさ・・・」
「まあ!」花はふわりとコーイチの顔の前に移動し、コーイチを覗き込む。・・・何か文句を言われるぞ。コーイチは思わず目を閉じた。「よく分かったわね。実は大正解よ。うふふふふ」
「ええっ!」コーイチは唇を尖らせた。「ひどいなあ・・・」
「あなたって、なんとなく苛めたくなっちゃうのよねぇ。困った顔を見てると、もっと困らせたくなっちゃうの。あなたってそんな顔をしているわ」
 ・・・そう言えば、清水さんもやたらと僕に呪いをかけたがるよなあ。それも、僕がイヤな顔をすればするほど、レベルの高い黒魔術を使おうとするし・・・ そんな顔をしてるのかなあ・・・ コーイチはため息をついた。
「どうしたの? 怒っちゃった?」花はさらにからかうように言った。「怒るのは勝手だけど、もしそうならわたしの協力はここまでだけど。それでも良いの?」
「・・・」コーイチは花を見た。それから、諦めたように小さな笑みを浮かべた。「分かりました。協力をしてもらわなきゃ、僕は何も出来ません」
「そうね。この世界にいる限り、その自覚は大切にしなきゃいけないわよ」
 花は両方の葉を腰のあてがうようにし、胸を張るように茎を反らせた。
「じゃ、分かったんなら、早く食べなさいよ」花はコーイチの手にしているきのこを葉先で突ついた。「心配ないわ。さっきも言ったけど、毒は入っていないわよ」
 ・・・からだが大きくなったり、小さくなったりなんて、ある意味毒だと思うんだけど・・・ コーイチはそれでも疑り深そうな表情を花に向ける。
「あなたって、アリスほどの度胸も無いの? 小さな女の子でも出来た事なのに・・・」花は呆れたように言うと、くすくすと笑い出した。「どうしてもイヤだ、でも助けに行きたいって言うんなら、自転車で行くといいわ。いつ着くかは分からないし、間に合わないかもしれないけど・・・」
「分かった、分かりました! 食べるよ、食べりゃあ良いんだろう?」
「そう、食べりゃあ良いのよ」花は楽しそうに言った。「さあ、早く、早くう!」
 コーイチはきのこを顔の前に持ってきた。・・・よし、右側をかじるぞ。コーイチは意を決し、口を近づける。目を閉じ、口を開ける。歯が傘に当たった。ひと思いにかじる。味はしなかった。食感はハンバーガーのパフに似ている。何度かもぐもぐもぐと噛み続けた。
「どわああああああ!」
 きのこを飲み込んだ途端、コーイチのからだが大きくなり始めた。

       つづく

(今後の活動予定が発表されませんね。そろそろソロかと思うんですが・・・)



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