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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第六章 備品飛び交う校長室の怪 30

2022年05月14日 | 霊感少女 さとみ 2 第六章 備品飛び交う校長室の怪
「片岡さん!」
 さとみは叫び、目を閉じる。が、ぶつかったような音はしない。片岡の苦悶の声も聞こえない。さとみは片目を開けて様子を見る。
 片岡が伸ばして広げた右手の手前でトロフィーが止まったままで浮いている。片岡の並々ならぬ霊力がトロフィーの動きを封じたのだ。
「片岡さん、凄い!」
 さとみは思わず声を上げる。片岡は微笑むと右手を下げる。それに合わせるようにトロフィーが床へと下がって行く。片岡が右手を軽く握ると、トロフィーはじゅうたんの上の転がった。
「これで終わりではないでしょうからね。気を引き締めましょう」片岡は言うと、散らかっている楯や額を見る。「操る者がいるのは分かりますが、姿は感じられませんね」
「そうなんですよね」さとみはうなずく。「だから、厄介で……」
「お仲間の皆さんも苦慮なさるわけだ……」片岡は言うと豆蔵たちを見る。「石礫、良いコントロールだったのですがね」
 片岡の言葉を聞いた豆蔵が、虎之助を見る。虎之助が何かを説明しているようだ。豆蔵は納得したようにうなずき、片岡に振り返ると一礼した。
「……何を話していたんだろう?」
「ははは、あの岡っ引きの方がコントロールと言う言葉の意味が分からずに、チャイナ服の美しい女性(虎之助はにやりと笑む)に質問しましてね、意味が分かった所で、わたしに礼をしたってところです」
「片岡さん、豆蔵たちの会話が聞き取れるんですか? 凄いなぁ…… 百合恵さんも生身のままで会話が出来るんです。わたしはダメなんですよ。霊体を抜け出させないと……」
「それは瑣末な事ですよ ……おや?……」
 ゆっくりと幾つもの楯や額が浮き上がり始めた。
「さとみさん、霊体を抜け出させてください」片岡が言う。その表情は険しいものとなっていた。「懲りずにまた仕掛けて来るようですね」
「でも、それだと……」
「見たでしょう? あんなポルターガイストなど、わたしには効きません」片岡は困惑の表情のさとみに笑みを向ける。「心配ご無用ですよ」
 片岡は前に出た。浮き上がった楯や額は片岡に向いた。片岡に狙いを定めているようだ。
「片岡さん!」さとみは声を荒げる。「これじゃ、片岡さんだけ狙われちゃう!」
「大丈夫ですよ。こんなつまらない攻撃はわたしが一人で受け流しましょう」片岡は平然としている。「それよりも、さとみさんは、元凶の姿を探る事です」
「そんな、片岡さんを放っておくなんて事、出来ませんよう……」
「大丈夫ですよ」
 楯や額が一斉に片岡目がけて飛んで来た。片岡は両手を上げ、手の平を向けて、飛んでくるそれらを宙に留める。
「さあ、今の内に霊体を抜け出させ、元凶を探るのですよ!」
 温かく力強い言葉に、さとみは霊体を抜け出させた。まだ床に残っている楯や額などが浮き上がった。今度のそれらは霊体の抜けた生身のさとみに向いている。
「わっ、どうしよう!」
 さとみはあわてて霊体を戻そうとした。
「いけませんよ、さとみさん!」片岡が言う。「敵の目的は、さとみさんが霊体を戻し、身動きを取れなくする事です」
「じゃあ、どうしたら……」
「わたしに任せて下さい」片岡はそう言うと、両手を上げたまま、立っているさとみの前へと動いた。片岡が生身のさとみの盾になった。「これで良い。さあ、お仲間とともに!」
 片岡に言われ、さとみはさとみは振り返る。豆蔵たちが立っていた。
「嬢様、あのご老人、凄いですねぇ」豆蔵が関心している。「あっしのことを褒めてくれやしたし……」
「豆蔵さん、今はそれどころではありません」抜刀したみつが言う。「いくら強いとは言え、ご老体の身。しかも生身であるならば、いずれ力も弱まりましょう」
「左様ですわ」薙刀を手にして冨美代はうなずく。「あの浮遊物にはわたくしたちは太刀打ちできません。ならば、一刻も早く、あの黒い影を探さないと」
「そうよ、豆ちゃん。自惚れは後にしましょ」虎之助が言う。豆蔵が面目無さそうにしている。「……でも、あのおじい様、わたしを美しい女性だって! うふふ、分かる人には分かるのよねぇ」
「何でぇ、お前が一番自惚れてんじゃねぇか」竜二が呆れ顔で言う。「それでさ、あの影野郎、この部屋にいるのかね?」
「どうして。そう思うんで?」気を取り直した豆蔵が訊く。「あれだけのものを操るんだ。いくら力が強くても、近場に居ねぇと難しいと思いやすがね」
「でもさ、全然姿が見えないじゃないかよう……」
 さとみは片岡を心配そうに見ている。今は、霊力を用いて浮き上がった品々を留めておいてくれている。しかし、みつの言うように、片岡は生身だ。限界はある。まして、任せて下さいと言ってはくれたけれど、老齢だ。長い時間を掛けるわけにはいかない。さとみはすっと息を大きく吸い込んだ。
「や~い! こそこそ隠れっ放しの、影めぇ!」さとみは見えない影に罵声を浴びせる。「わたしが怖いんでしょ? そりゃそうよね。ずっとあなたを邪魔してきたしね。だから。隠れているんでしょ?」
 言うとさとみは室内を見回す。変化はない。豆蔵たちはさとみを守るように、さとみの周りを囲む。
「どうしたのよう! 図星過ぎて何にも言えないの? だったら、とっととあの世に逝っちゃってくれないかしら?」
 空気が変わった。冷たく殺伐とした空気だ。
 校長室の窓から射し込む朝日が薄れて行き、闇になった。


つづく



作者呟き:「ローマの休日」を新吹き替えでやってました。でもやはり、わたしはオードリー・ヘプバーンは池田昌子さん、グレゴリー・ペックは城達也さんですね。この声の取り合わせ、「劇場版 銀河鉄道999」で聞けますね。池田さんはメーテル。城さんはナレーター。「劇場版999」を観て、ふと懐かしさを覚えたのこのせいだったんですねぇ。


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