「誰なの、その人?」
逸子が谷畑に向かって聞いた。洋子はきっと口を結んでいる。
「うちの社の問題児・・って、もうおじさんですが・・・」谷畑が困ったように答えた。「とにかくわめきながら芳川さんを探しているんです」
「何かトラブルでもあったの?」
「昼間、仕事の引継ぎをしただけですが・・・」
「それで何かあったとか?」
「あったと言っても、六田さん側の一方的な問題でしたから、芳川さんに落ち度はないと思います」
「じゃあ何で探しているのよ!」
「分かりませんっ!」
不安そうな顔で逸子は洋子を見た。その視線に気がついた洋子は微笑んで見せた。
「大丈夫です。きっと、逆恨みか勘違いでしょう。どちらにしても会って来ます。ご来場の皆様にご迷惑をお掛けする事はできませんから」
「でも、あの怒鳴り方じゃ、普通じゃないわ。わたし、加勢するわよ」
逸子は言って指をパキポキと鳴らしてみせた。
「いいえ、ここに居て下さい。そして、コーイチさんを看ていて下さい」言いながら洋子はコーイチを見た。「あっ、少し意識が戻って来たみたいです!」
「まあ!」逸子はコーイチの顔を覗き込む。しかし、相変わらず幸せそうな笑顔のままで気を失っている。「まだみたいよ、洋子ちゃん・・・」
逸子は洋子の方へ顔を向けた。だが、洋子はいなかった。周囲を見回したが、いるのはおろおろした様子の谷畑だけだった。
「あなた・・・」逸子は谷畑に詰め寄り、にらみつけた。「洋子ちゃんはどこへ行ったの?」
「あの・・・」谷畑はざわめく会場内を指差した。「あっちへ行きました・・・」
「あなたねぇ!」逸子はこわい顔でさらに詰め寄った。「あんな所へ生かせちゃダメじゃない! どうして止めなかったのよ!」
「止めようとしたんですが、間に合いませんでした・・・」
「じゃあ、どうして追いかけないのよ!」
逸子は谷畑のスーツの襟首をつかむと、会場内へ投げ飛ばした。
「う・う・う・・・」
逸子も向かおうとした時、コーイチがうめき出した。
「あっ、コーイチさん!」逸子は幸せそうなコーイチの顔が次第に元に戻って行くのを見た。「コーイチさん! ちょっと目を覚まして!」
逸子はコーイチを激しく揺らした。コーイチの頭が何度も前後に揺れる。目が開いた。逸子は揺するのを止め、コーイチの様子をうかがう。
「・・・あ、ああ・・・」コーイチは二、三度頭を軽く振った。それから、逸子へ顔を向けた。「やあ、逸子さん。今のは少し効いたなあ・・・ 慣れているはずと思っていたけど、まだまだ修行が足りないね」
「何をのん気な事を言っているの! 洋子ちゃんが大変よ!」
「どうしたんだい?」
「『鞍馬の六郎』とか言う問題おじさんが洋子ちゃんを探しにここへ来て、暴れているの」逸子は会場の騒ぎにコーイチの注意を向けさせた。「それを知った洋子ちゃんは、その人に向かって行ったみたいなのよ!」
「なんだって!」コーイチは立ち上がった。「そりゃあ・・・ まずいぞ!」
つづく
いつも熱い拍手、感謝しておりまするぅ
(特番、面白かったですね。レギュラー化すると良いですね。応援しましょう)
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逸子が谷畑に向かって聞いた。洋子はきっと口を結んでいる。
「うちの社の問題児・・って、もうおじさんですが・・・」谷畑が困ったように答えた。「とにかくわめきながら芳川さんを探しているんです」
「何かトラブルでもあったの?」
「昼間、仕事の引継ぎをしただけですが・・・」
「それで何かあったとか?」
「あったと言っても、六田さん側の一方的な問題でしたから、芳川さんに落ち度はないと思います」
「じゃあ何で探しているのよ!」
「分かりませんっ!」
不安そうな顔で逸子は洋子を見た。その視線に気がついた洋子は微笑んで見せた。
「大丈夫です。きっと、逆恨みか勘違いでしょう。どちらにしても会って来ます。ご来場の皆様にご迷惑をお掛けする事はできませんから」
「でも、あの怒鳴り方じゃ、普通じゃないわ。わたし、加勢するわよ」
逸子は言って指をパキポキと鳴らしてみせた。
「いいえ、ここに居て下さい。そして、コーイチさんを看ていて下さい」言いながら洋子はコーイチを見た。「あっ、少し意識が戻って来たみたいです!」
「まあ!」逸子はコーイチの顔を覗き込む。しかし、相変わらず幸せそうな笑顔のままで気を失っている。「まだみたいよ、洋子ちゃん・・・」
逸子は洋子の方へ顔を向けた。だが、洋子はいなかった。周囲を見回したが、いるのはおろおろした様子の谷畑だけだった。
「あなた・・・」逸子は谷畑に詰め寄り、にらみつけた。「洋子ちゃんはどこへ行ったの?」
「あの・・・」谷畑はざわめく会場内を指差した。「あっちへ行きました・・・」
「あなたねぇ!」逸子はこわい顔でさらに詰め寄った。「あんな所へ生かせちゃダメじゃない! どうして止めなかったのよ!」
「止めようとしたんですが、間に合いませんでした・・・」
「じゃあ、どうして追いかけないのよ!」
逸子は谷畑のスーツの襟首をつかむと、会場内へ投げ飛ばした。
「う・う・う・・・」
逸子も向かおうとした時、コーイチがうめき出した。
「あっ、コーイチさん!」逸子は幸せそうなコーイチの顔が次第に元に戻って行くのを見た。「コーイチさん! ちょっと目を覚まして!」
逸子はコーイチを激しく揺らした。コーイチの頭が何度も前後に揺れる。目が開いた。逸子は揺するのを止め、コーイチの様子をうかがう。
「・・・あ、ああ・・・」コーイチは二、三度頭を軽く振った。それから、逸子へ顔を向けた。「やあ、逸子さん。今のは少し効いたなあ・・・ 慣れているはずと思っていたけど、まだまだ修行が足りないね」
「何をのん気な事を言っているの! 洋子ちゃんが大変よ!」
「どうしたんだい?」
「『鞍馬の六郎』とか言う問題おじさんが洋子ちゃんを探しにここへ来て、暴れているの」逸子は会場の騒ぎにコーイチの注意を向けさせた。「それを知った洋子ちゃんは、その人に向かって行ったみたいなのよ!」
「なんだって!」コーイチは立ち上がった。「そりゃあ・・・ まずいぞ!」
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