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大怪獣オチラ 対 宇宙怪獣モヘラ  弐拾

2019年07月29日 | オチラ 対 モヘラ(全27話完結)
 人類はモヘラの真の姿を知った。
 神とも救世主とも仰いでいたモヘラに裏切られたという絶望感、一方的に信頼しただけだったという自分たちの愚かさへのやり場のない怒り、この相反する感情に人々は包まれ、悄然としていた。
 人々はモヘラのぬいぐるみを廃棄し、家に飾ってあったモヘラの写真を破り捨てた。事情を理解できない幼い子供たちは悲しみに泣き叫んだ。昨日までモヘラを神の如く扱っていた大人たちの手のひらを返した態度に、多感な子供たちは皮肉で反抗的な態度を示した。
 以前からモヘラの危険性を主張していた一団もいた。その代表だったドイツの生物学者のハインツ・ハインリッヒ・ハーゲルシュタイン博士に、「なぜもっと強く主張してくれなかったのか?」と世界中の人々が詰め寄った。が、博士は「当時の状況でそれを行っていたら、我々は世界中の人々に殺されていただろう」と答えた。しかしその後、博士は、やり場のない怒りを抱えた人々の一人(東洋人らしいが詳細は不明)に襲われて命を落とした。犯人はいまだに捕まっていない。スケープゴートの様相を呈した博士に同情を示す人々と、強く警告しなかったから当然の報いだと息巻く人々とが、対立をした。
 人類はモヘラに対し、あまりにも無防備になっていた。地球の復興に注力していたため、軍事面は停滞していた。そのため、モヘラの動向を把握することが極めて困難になっていた。更に、モヘラは一所に留まってはいないので、対応が後手へ後手へと回ってしまった。モヘラ発見の報を受け、最寄りの国の空軍の戦闘機が発進する。しかし、到着時には襲われた跡が残っているばかりだった。仮に遭遇しても、モヘラの飛行速度に付いて行くことができず、去って行く後ろ姿を見るだけだった。
 出現場所も、今はアフリカ大陸の中央部だが次はロシア北部と予測が全くつかなかった。各国の軍部は協力し合い、徐々にモヘラ追尾網を整えて行ったが、出現場所が分かったところで防げるものではなかった。人々が建物内に避難しても、モヘラは羽ばたきの風圧で、あるいは直接の体当たりで建物そのものを破壊し、朽ちた瓦礫と共に舌で絡め取って行く。モヘラにとっては人間も瓦礫も違いのある物ではなかったのだ。陸軍による攻撃も、羽根から出る鱗粉で埋め尽くされ、全滅の憂き目に遭った。
 モヘラの恐怖とやり場のない怒り。これらの大きなストレスを抱えた人類は、いつしか諦めの境地へと向かって行った。いつもと変わらぬ日常を送り、モヘラが現われたなら覚悟を決めるようになった。
 天敵。
 野生の動物たちの間に見られたものが、今や人類にも当てはまる事になった。復興時の機運は最早無く、重々しい日々の繰り返しだった。人間はモヘラの餌でしかない。この現実から逃れられなかった。人々の心も荒み、犯罪が多発した。取り締まる事も減って行った。明日には死ぬ、人々から希望が消えた。


次回「大怪獣オチラ 対 宇宙怪獣モヘラ 弐拾壱」を待て。


 

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