式典の準備は整った。多くの人々がニューヨークに、東京に集まった。全人類が一体感を覚えていた。
式典の模様は世界同時中継が行なわれ、会場へ訪れる事の出来ない人々も楽しめるよう配慮された。
メインのニューヨークには各国の要人が会していた。冬のニューヨークは寒かったが、中継で映し出される人々の顔はどれも笑顔で、白い息にも喜びが溢れているようだった。
モヘラの「繭玉」がニューヨークに飛来したした際に実況を担当していたCNNのメインキャスターだったビル・ハックスレイが、この記念すべき式典の模様を実況した。式典ではドランク大統領を筆頭に各国首脳が挨拶を行った。誰もがモヘラを復興の真の担い手として讃えた。挨拶の後にはウィーンフィルハーモニー交響楽団がウィーン学友教会合唱団を伴って、ベートーヴェンの第九交響曲の第四楽章が演奏された。また、その演奏に合わせて世界中で、老若男女を問わず「歓喜の歌」を合唱している様子も中継された。その後はニューヨークで各国を代表するポピュラ―歌手たちの競演によるコンサートが続いた。
サブ会場の東京では、日本をはじめアジア地区の歌手たちを会したコンサートが催された。が、最初に歌った日本の女性アイドルグループの出来が微妙だったため、多くの人々はメインのニューヨークからの中継を放送しているチャンネルを楽しむ事となった。
ともかく、人々は平和を心から楽しんでいた。オチラの恐怖も去り、オチラに強いられた汚れた不衛生な生活から解放され、人としての本来の姿を取り戻したかのようだった。
式典の中継画面が、式典の模様から空へと切り替わった。夜空に照明が向けられた。照明の中に浮かび上がったのはモヘラだった。幾つもの照明がモヘラの動きを追った。中継を視聴している人々は、モヘラも式典に参加しに来た、あるいは、式典への感謝を表しに来た、そう思った。実況を担当しているハックスレイは「ウェルカム・トゥ・リトル・アップル!」と洒落を言いつつ、モヘラを歓迎するコメントを発した。
モヘラは甲高く一声鳴いた。そして、式典の会場へと降りてきた。近付くにつれ、羽ばたきによる風圧で会場の飾りや設置物が飛ばされた。式典にモヘラなりの花を添えているのだと誰もが思っていた。人々は羽ばたきの風の中に立ち、降りてくるモヘラを諸手を挙げて迎えようとしていた。
モヘラの口が開いた。再び甲高い金属的な鳴き声を上げた。モヘラの口から、白く細長い紐上のものが伸びてきた。そのままでモヘラは摩天楼の間を飛んだ。紐状のものは路面にまで垂れた。それは前後左右に揺れた。その全体から何かが滴っていた。不快な臭いがした。モヘラは集っている人々の上を通過した。通り過ぎると、その紐状のものに、多くの人々が貼り付いていた。モヘラはそれをゆっくりと丸め込むと口に中に収めた。「蠅取りリボンに付いた蠅だ」中継を見た日本の伊部首相がつぶやいた。
伸びたものはモヘラの舌だった。舌を伸ばして人々を絡め取り食していたのだ。モヘラは再び舌を伸ばした。怒号と悲鳴が入り混じり人々は逃げ惑った。巨大な塊となった人の群れの上をモヘラが通り過ぎる。伸ばした舌に人々が貼り付いている。それを口の中へと収める。
人類は知った。
自分たちはモヘラの餌として飼われていたと。
衛生面でモヘラが援助してくれていたと思っていたが、それは単に餌としての条件をより良くする為だったのだと。
モヘラが今まで何も食べていなかったのは、餌が熟するのを待っていたからだと。
路上の人々の大半を腹に収め、モヘラは夜闇の中へ飛び去って行った。
次回「大怪獣オチラ 対 宇宙怪獣モヘラ 弐拾」を待て。
式典の模様は世界同時中継が行なわれ、会場へ訪れる事の出来ない人々も楽しめるよう配慮された。
メインのニューヨークには各国の要人が会していた。冬のニューヨークは寒かったが、中継で映し出される人々の顔はどれも笑顔で、白い息にも喜びが溢れているようだった。
モヘラの「繭玉」がニューヨークに飛来したした際に実況を担当していたCNNのメインキャスターだったビル・ハックスレイが、この記念すべき式典の模様を実況した。式典ではドランク大統領を筆頭に各国首脳が挨拶を行った。誰もがモヘラを復興の真の担い手として讃えた。挨拶の後にはウィーンフィルハーモニー交響楽団がウィーン学友教会合唱団を伴って、ベートーヴェンの第九交響曲の第四楽章が演奏された。また、その演奏に合わせて世界中で、老若男女を問わず「歓喜の歌」を合唱している様子も中継された。その後はニューヨークで各国を代表するポピュラ―歌手たちの競演によるコンサートが続いた。
サブ会場の東京では、日本をはじめアジア地区の歌手たちを会したコンサートが催された。が、最初に歌った日本の女性アイドルグループの出来が微妙だったため、多くの人々はメインのニューヨークからの中継を放送しているチャンネルを楽しむ事となった。
ともかく、人々は平和を心から楽しんでいた。オチラの恐怖も去り、オチラに強いられた汚れた不衛生な生活から解放され、人としての本来の姿を取り戻したかのようだった。
式典の中継画面が、式典の模様から空へと切り替わった。夜空に照明が向けられた。照明の中に浮かび上がったのはモヘラだった。幾つもの照明がモヘラの動きを追った。中継を視聴している人々は、モヘラも式典に参加しに来た、あるいは、式典への感謝を表しに来た、そう思った。実況を担当しているハックスレイは「ウェルカム・トゥ・リトル・アップル!」と洒落を言いつつ、モヘラを歓迎するコメントを発した。
モヘラは甲高く一声鳴いた。そして、式典の会場へと降りてきた。近付くにつれ、羽ばたきによる風圧で会場の飾りや設置物が飛ばされた。式典にモヘラなりの花を添えているのだと誰もが思っていた。人々は羽ばたきの風の中に立ち、降りてくるモヘラを諸手を挙げて迎えようとしていた。
モヘラの口が開いた。再び甲高い金属的な鳴き声を上げた。モヘラの口から、白く細長い紐上のものが伸びてきた。そのままでモヘラは摩天楼の間を飛んだ。紐状のものは路面にまで垂れた。それは前後左右に揺れた。その全体から何かが滴っていた。不快な臭いがした。モヘラは集っている人々の上を通過した。通り過ぎると、その紐状のものに、多くの人々が貼り付いていた。モヘラはそれをゆっくりと丸め込むと口に中に収めた。「蠅取りリボンに付いた蠅だ」中継を見た日本の伊部首相がつぶやいた。
伸びたものはモヘラの舌だった。舌を伸ばして人々を絡め取り食していたのだ。モヘラは再び舌を伸ばした。怒号と悲鳴が入り混じり人々は逃げ惑った。巨大な塊となった人の群れの上をモヘラが通り過ぎる。伸ばした舌に人々が貼り付いている。それを口の中へと収める。
人類は知った。
自分たちはモヘラの餌として飼われていたと。
衛生面でモヘラが援助してくれていたと思っていたが、それは単に餌としての条件をより良くする為だったのだと。
モヘラが今まで何も食べていなかったのは、餌が熟するのを待っていたからだと。
路上の人々の大半を腹に収め、モヘラは夜闇の中へ飛び去って行った。
次回「大怪獣オチラ 対 宇宙怪獣モヘラ 弐拾」を待て。
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