シュタークスミス博士の大発明 17 ―危機管理―

「大発明だ！」シュタークスミス博士は叫んだ。「これであらゆる危機は回避できるぞ！」
　博士の発明したものは、腕時計の形をした装置だった。実際に手首に装着して使用するのだが、身の危険が迫ると、大音量の警報が鳴って装着者に知らせる様になっている。その場を離れ、警報が鳴り止めば、危機を回避できた事になる。
「これさえあれば、いつどんな時でも安心していられるぞ。早速郊外で実験してみよう」
　博士は腕に装着し研究所を出てからスイッチを入れた。
「ふむ、まだ警報は鳴らないか。意外と外は安全なんだな」
　博士は独り言を言いながら通りを歩き始めた。
　歩道を歩いていると後ろから物凄い速さの自転車が博士のすぐ脇を通り抜けた。建築現場にさしかかると上から鉄骨資材が落ちて来て博士のすぐ目の前に散乱した。横断歩道を渡っていると赤信号なのに自動車が突っ込んで来て博士のすぐ横で急停車した。
「どう言う事なんだろう？　危ない事ばかりが続いているぞ？」
　博士は周囲に気を配りながら、なんとか研究所に戻って来た。戻って来た途端に地震が起こり、研究所内がぐちゃぐちゃになってしまった。
「やれやれ、失敗だ。おかしいなぁ、設計に問題は無いはずなんだがなぁ」
　博士は片付けをしながらつぶやいていた。
　博士の設計は正しかった。ただ、周囲には危機が存在し過ぎて、スイッチを入れた途端に許容量を超えてしまい、壊れてしまったのだ。
　危機管理は難しいものだ。