葉子は右手を伸ばし、棒を受け取った。黒っぽくて枯れ木のようは外見に関わらず、ズシリとした重さがあった。思わず左手も添える。太さは丁度一握り分だった。
「これは、昨夜の公園であなたが使った・・・」
葉子は妖介を見た。妖介は黙って葉子を見つめている。
葉子の脳裏にあの忌まわしい化け物――妖魔――の姿が蘇った。
てらてらした緑色の細かい鱗で覆われた全身。ぽたぽたと生臭い雫が引っ切り無しに滴っていた腕。内側を何かが這い回っているかのように膨れたり縮んだりを絶え間なく繰り返す体。
吊りあがった瞳のない白濁の眼。胸元に走った上下に開き始めた亀裂のような口。そこから強烈な生臭さを発する唾液を滴らせ、葉子に向かって伸び出た長い舌。
外見はヒトの形をしていた・・・。
「詰まらない事を思い出すな」妖介がうんざりしたような顔で言った。「また反吐と小便を垂れ流されちゃ、たまらない」
「もう平気よ!」葉子は睨み返す。「・・・この棒は何なのよ」
あの時、稲光みたいなのがこの棒から出たような気がする。それで妖魔が霧散した・・・
「これは『斬鬼丸』と言う。ヤツら用の武器だ」妖介はいらだらしそうに言った。「ぐだぐだ言わないで、刀を構えるように持ってみろ」
葉子はむっとした顔をした。
「わたし、こんな事したこと無いから、よくわかんないわ」
「いいからやれ!」
妖介は睨み返す。
仕方なく、葉子は剣道で竹刀を持つような構えをしてみた。
「馬鹿! 座ったままでやるヤツがいるか! 立ってやれ!」
妖介は罵倒した。
「もうっ!」
葉子は文句を言いながら立ち上がった。
また両手で持ち、わざと妖介の方に向けて、構えを取った。
「見ものだな。黒の淫乱下着を着けて、ピンクの淫乱Tシャツを着た、女剣士か!」
妖介はからかうように言った。
「馬鹿にしたかっただけね!」
葉子は手を下げようとした。
「下げるな! 構えていろ! 淫乱剣士!」
何よ、この男! 馬鹿にして! 許せない! 許せない! ・・・
昂ぶった感情がすぅーっと退いて行った。妖介の後ろの壁に黒い靄のような物が見え始めたからだった。 ・・・なに、あれは?
「目を逸らさないで、よく見ていろ」
妖介の声がした。遠くから聞こえて来るようだった。
つづく
「これは、昨夜の公園であなたが使った・・・」
葉子は妖介を見た。妖介は黙って葉子を見つめている。
葉子の脳裏にあの忌まわしい化け物――妖魔――の姿が蘇った。
てらてらした緑色の細かい鱗で覆われた全身。ぽたぽたと生臭い雫が引っ切り無しに滴っていた腕。内側を何かが這い回っているかのように膨れたり縮んだりを絶え間なく繰り返す体。
吊りあがった瞳のない白濁の眼。胸元に走った上下に開き始めた亀裂のような口。そこから強烈な生臭さを発する唾液を滴らせ、葉子に向かって伸び出た長い舌。
外見はヒトの形をしていた・・・。
「詰まらない事を思い出すな」妖介がうんざりしたような顔で言った。「また反吐と小便を垂れ流されちゃ、たまらない」
「もう平気よ!」葉子は睨み返す。「・・・この棒は何なのよ」
あの時、稲光みたいなのがこの棒から出たような気がする。それで妖魔が霧散した・・・
「これは『斬鬼丸』と言う。ヤツら用の武器だ」妖介はいらだらしそうに言った。「ぐだぐだ言わないで、刀を構えるように持ってみろ」
葉子はむっとした顔をした。
「わたし、こんな事したこと無いから、よくわかんないわ」
「いいからやれ!」
妖介は睨み返す。
仕方なく、葉子は剣道で竹刀を持つような構えをしてみた。
「馬鹿! 座ったままでやるヤツがいるか! 立ってやれ!」
妖介は罵倒した。
「もうっ!」
葉子は文句を言いながら立ち上がった。
また両手で持ち、わざと妖介の方に向けて、構えを取った。
「見ものだな。黒の淫乱下着を着けて、ピンクの淫乱Tシャツを着た、女剣士か!」
妖介はからかうように言った。
「馬鹿にしたかっただけね!」
葉子は手を下げようとした。
「下げるな! 構えていろ! 淫乱剣士!」
何よ、この男! 馬鹿にして! 許せない! 許せない! ・・・
昂ぶった感情がすぅーっと退いて行った。妖介の後ろの壁に黒い靄のような物が見え始めたからだった。 ・・・なに、あれは?
「目を逸らさないで、よく見ていろ」
妖介の声がした。遠くから聞こえて来るようだった。
つづく
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