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コーイチ物語 3 「秘密の物差し」 137

2020年09月26日 | コーイチ物語 3(全222話完結)
「『ブラックタイマー復活作戦』……?」
 ナナはそうつぶやくと、アツコの顔を見た。アツコはぽかんとした顔をしている。
「タロウ、どう言う事?」アツコが呆れたように言う。「もう組織を作るつもりなんて、わたしは無いわよ」
「うん、分かっている」タロウはうなずく。「これは支持者を見つけるための手段だよ。『ブラックタイマー』の元リーダーのアツコが密かに組織を立ち上げようと画策している。側近だったタロウも合流して、本格的に動き出すらしい、って話を、タケルさんがタイムパトロール内に流す。臨時の長官って人は支持者を利用したがっているみたいだから、話に乗ってくると思うんだ。『支持者よ、動け』なんて余計な発破をかけるかもしれない。そうなれば、支持者は動く。再びアツコに接触してくるはずだ。そこを捕まえる」
 タロウは一気に話した。一同はしんとしている。タロウのせわしない呼吸の音だけがしている。
「なるほどねぇ……」タケルが沈黙を破る。「そりゃ、面白いや。感心したよ。……でもさ、上手く行くかねぇ?」
「それはタケルの腕次第じゃない?」ナナが言う。「でも、わたしは大丈夫だと思うわ。あなた、口だけは達者だから」
「う~ん、それって、褒めてんの? それとも、その逆?」
「両方よ!」
 皆が笑う。方向が見えた事で活気付いて来たようだ。
「その支持者ってのを捕まえるのは、わたしに任せて」逸子が言う。すでにオーラが揺らめいている。「今までの分のお返しをしなきゃいけないから」
「お返しなら、わたしもよ」アツコも言いながらオーラを漂わせる。「逸子さん以上にお世話になったからね……」
 逸子とアツコは顔を見合わせ、不敵な笑みを浮かべた。免許皆伝同士、通ずるものがあるようだ。
「わたしはどうしようかな?」ナナが言う。「……そうだ、タイムパトロールに復帰したいって上層部の人に掛け合ってみようかしら。そして、タケルと一緒にタイムパトロール内で言って回るの。タケルだけだと。冗談だって思われる危険が大きいから」
「ひどい事を言うなぁ……」タケルはため息をついた。「……でも、それは言えるよなぁ。まあ、ナナが加われば百人力だ」
「あら、わたしって、百人くらいなのもなの?」
「いや、もっと、いっぱい……」
 そんなみんなのやり取りを、コーイチはにこにこしながら見ている。隣にチトセが座った。
「……コーイチは何もしないのか?」
 チトセがコーイチに言う。何故か心配そうな表情だ。
「そうだね、ここからはボクに出来る事はなさそうだよ」コーイチは言う。「ボクは知恵も力も凡人並みか、それ以下だからね」
「でも、コーイチは優しいし、話は聞いてくれるし、凄いと思うけどな」チトセは言う。「オレはそんなコーイチが好きだ」
「ははは、ありがとう」コーイチは優しく笑う。「それに、これからは結構危険な事が続きそうだからね。ますますボクの出番は無いよ。チトセちゃんは剣術が出来るから、何か出来るかもしれないよ」
 コーイチはそう言うと、みんなの話に耳を傾けた。チトセもそれに倣う。
「……それで、新たな拠点として、エデンの園が良いんじゃないかと思うんだ」タロウが話している。「アツコの城でも良いんだけど、新しく組織するって言う気分も出るしさ」
「あ! そう言えば、あの城にまだ側近三人衆が残っていたわ!」アツコが言う。「そうだ、連中に言って協力させよう。もし城に居なかったら、きっと新たな道を進んだって事で良いんだけど、万が一残っていたら、是非とも加わってもらうわ」
「そりゃ良いね」タロウはうなずく。「彼らが居れば、より信憑性が高まる」
「それじゃ、作戦をさらに細かく練って行きましょう」ナナが言う。それから、気が付いたようにチトセとコーイチを見た。「お二人さん、どうしよう……」
「コーチさんはともかく、チトセちゃんは巻き込めないわね」逸子が言う。「何が起きるか分からないからね……」
「でもさ、オバさん」チトセが言う。オバさん呼びに慣れたのか逸子はむっとしなくなった。「オレも何か手伝いたいよ。オレ、剣術は上手いんだぜ」
「うん、知ってるわよ。あの時の打ち込み、凄かったから」逸子は山賊のアジトでのチトセの攻撃を思い出していた。「でも、心配なのよ」
「ちぇっ、オレを子ども扱いしてんだな!」チトセはぷっと頬を膨らませて抗議する。「オバさんは、すぐにこれだよ……」
「いや、そうじゃないよ」コーイチが言う。「本当に、みんな心配しているんだよ」
 コーイチの言葉にチトセは皆の顔を見回した。皆、大きくうなずいている。
「……分かったよ」チトセは不承不承な感じで言った。「でも、何か手伝いたい!」
「それじゃあさ、チトセちゃん」コーイチが笑顔で言う。「兄さんの世話をしてくれるかな? 兄さん、今は研究に没頭しているけど、お腹もすくだろうし、お風呂にも入らなきゃいけないだろうし。でも、兄さん一人だと全部面倒臭がっちゃって、何にもしないと思うんだ」
「コーイチの兄者はそんなに何にもしないのか?」チトセは信じられないと言う表情だ。「そんなんじゃ、世話する者がいないとダメだな。分かった、オレ、やるよ。コーイチの頼みだしな」
「そうかい、ありがとう」
 コーイチはぺこりとチトセに頭を下げた。チトセは嬉しそうな顔をする。


つづく


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