「支持者って……」アツコは呆然としている。「タケルさんだったの……」
アツコは倒れて気を失っているタケルを見て、頭を抱えた。信じられないのだろう。それは逸子も同様だ。側近の三人も互いに顔を見合わせている。
「……とにかく、わたし、タロウとナナさんに知らせて来るわ!」アツコが言う。「逸子も行く?」
「いいえ、わたしは残るわ。タケルさんの様子を見ておかなくちゃ……」
「そうね、じゃあ、お願いするわ……」
アツコは言うと、先程から生じている自分のタイムマシンの光の中へと入って行った。しばらくして光が消えた。
「……タケルさんが……」
逸子はタケルを見ながらつぶやく。心の中の騒乱とは真逆に、穏やかな風が逸子の頬を優しく撫でて過ぎて行く。
「人は見かけによらないと言うじゃないか」側近の一人が言う。「こんな若いヤツが『ブラックタイマー』を振り回していたのか……」
「恐ろしい事だな。もう一人の側近が言う。「歴史までも変えようとしていたのだからな……」
「タイムパトロールか!」三人目の側近が吐き捨てるように言う。「まともな組織じゃないな」
「わたし、思うんだけど」逸子が言う。「タケルさん一人の考えじゃないと思うのよ。きっと、他の何者かに影響されたのよ。良く聞くじゃない? アヤシイ秘密結社とか、怪しい宗教団体とか……」
「我々の時代には、そのようなものは無くなっているが……」
「じゃあ、タケルさんの時代になって、また出て来たのよ」
「あり得ない話ではないとは思うが……」
「タケルさんは、普段は変な事を言ったり、怒らせるような事を言ったりするけど、わたしたちには協力的よ。本当の支持者なら、協力なんてしないと思うの」
「だが、そう見せていただけじゃないのか。支持者は別にいると思わせるために……」
「でも、今回の計画はタケルさんも知っているのよ。支持者をわたしとアツコで、場合によっては側近のあなたたちで、支持者をぎったんぎったんに、ぐっちゃんぐっちゃんにしてやるって事を」
「まあ、それはそうなのだが……」
「分かっていて、そんな所にのこのこと現われるなんて、あると思う?」
「……余程の変態か、余程の忘れん坊だな……」側近の一人が言って、眉をひそめる。「少なくとも、オレはイヤだな。こうなると分かっているのに……」
「そうよね。分かっているのに、こんな事しないわよね」
「となると……」別の側近がつぶやく。「やはり、タケルさんは操られていたと……」
「そう、そう言う結論になると思うの……」
皆は動かないタケルを見つめる。
と、そこに光が生じた。真っ先にナナが飛び出してきた。ナナは倒れているタケルの横に駈け寄って膝を付く。
「タケル! しっかりしてよ! ねえったらあ!」ナナはタケルのからだを激しく揺する。タケルの反応はない。不安そうな表情を逸子に向ける。「……ねえ、タケル、大丈夫なの?」
「タケルさんだって分かったのは、光の中から出て来てからなのよ……」逸子は申し訳なさそうに言う。「支持者だと確信していたので、思いっきり攻撃しちゃったのよねぇ……」
「でも、気を失っているだけよ、ナナさん」そう言いながら光の中からアツコが出て来た。その後ろにはタロウが続く。光が消えた。「だから、大丈夫よ、きっと…… たぶん……」
「その言い方じゃ、心配よ!」ナナがきっとした目でアツコをにらむ。「それに、捕らえることが目的だったのに、こんなぼろぼろにされちゃったら、仇討ちそのものじゃない! 私怨を交えちゃ、上手くなんか行かないわよ!」
「だって、仕方ないじゃない! 急に腹が立っちゃったんだから!」
「仕方ないじゃ済まないわ! もしもって事になったらどうするのよ!」
「ならないわ! わたしの秘奥義も逸子の秘奥義も命を奪う技ではないわ!」
「でも…… タケル、こんなになっちゃって……」
ナナはすんすんと鼻を鳴らした。そして、タケルを見ながら、倒れた際にタケルの顔に付いた土を優しい手つきで払い始めた。
「……ねえ、コーイチさんたちは?」
逸子がアツコに言う。アツコはやりきれない表情を逸子に向ける。
「……リビングに出たら、ナナさんとタロウが居たの…… それで、支持者がタケルさんだって伝えたのよ。そうしたら、二人がすぐに行くって言って……」
「チトセちゃんは研究室のケーイチさんの所に行っていたので、取りあえずテーブルの上に置き手紙をしてきた」タロウが言う。「それを見てくれれば分かるだろう」
「で? コーイチさんは?」
「……コーイチさんはちょうどお風呂に入っていて……」
「そう……」逸子がつぶやく。「相変わらず、コーイチさんっぽい話ね……」
つづく
アツコは倒れて気を失っているタケルを見て、頭を抱えた。信じられないのだろう。それは逸子も同様だ。側近の三人も互いに顔を見合わせている。
「……とにかく、わたし、タロウとナナさんに知らせて来るわ!」アツコが言う。「逸子も行く?」
「いいえ、わたしは残るわ。タケルさんの様子を見ておかなくちゃ……」
「そうね、じゃあ、お願いするわ……」
アツコは言うと、先程から生じている自分のタイムマシンの光の中へと入って行った。しばらくして光が消えた。
「……タケルさんが……」
逸子はタケルを見ながらつぶやく。心の中の騒乱とは真逆に、穏やかな風が逸子の頬を優しく撫でて過ぎて行く。
「人は見かけによらないと言うじゃないか」側近の一人が言う。「こんな若いヤツが『ブラックタイマー』を振り回していたのか……」
「恐ろしい事だな。もう一人の側近が言う。「歴史までも変えようとしていたのだからな……」
「タイムパトロールか!」三人目の側近が吐き捨てるように言う。「まともな組織じゃないな」
「わたし、思うんだけど」逸子が言う。「タケルさん一人の考えじゃないと思うのよ。きっと、他の何者かに影響されたのよ。良く聞くじゃない? アヤシイ秘密結社とか、怪しい宗教団体とか……」
「我々の時代には、そのようなものは無くなっているが……」
「じゃあ、タケルさんの時代になって、また出て来たのよ」
「あり得ない話ではないとは思うが……」
「タケルさんは、普段は変な事を言ったり、怒らせるような事を言ったりするけど、わたしたちには協力的よ。本当の支持者なら、協力なんてしないと思うの」
「だが、そう見せていただけじゃないのか。支持者は別にいると思わせるために……」
「でも、今回の計画はタケルさんも知っているのよ。支持者をわたしとアツコで、場合によっては側近のあなたたちで、支持者をぎったんぎったんに、ぐっちゃんぐっちゃんにしてやるって事を」
「まあ、それはそうなのだが……」
「分かっていて、そんな所にのこのこと現われるなんて、あると思う?」
「……余程の変態か、余程の忘れん坊だな……」側近の一人が言って、眉をひそめる。「少なくとも、オレはイヤだな。こうなると分かっているのに……」
「そうよね。分かっているのに、こんな事しないわよね」
「となると……」別の側近がつぶやく。「やはり、タケルさんは操られていたと……」
「そう、そう言う結論になると思うの……」
皆は動かないタケルを見つめる。
と、そこに光が生じた。真っ先にナナが飛び出してきた。ナナは倒れているタケルの横に駈け寄って膝を付く。
「タケル! しっかりしてよ! ねえったらあ!」ナナはタケルのからだを激しく揺する。タケルの反応はない。不安そうな表情を逸子に向ける。「……ねえ、タケル、大丈夫なの?」
「タケルさんだって分かったのは、光の中から出て来てからなのよ……」逸子は申し訳なさそうに言う。「支持者だと確信していたので、思いっきり攻撃しちゃったのよねぇ……」
「でも、気を失っているだけよ、ナナさん」そう言いながら光の中からアツコが出て来た。その後ろにはタロウが続く。光が消えた。「だから、大丈夫よ、きっと…… たぶん……」
「その言い方じゃ、心配よ!」ナナがきっとした目でアツコをにらむ。「それに、捕らえることが目的だったのに、こんなぼろぼろにされちゃったら、仇討ちそのものじゃない! 私怨を交えちゃ、上手くなんか行かないわよ!」
「だって、仕方ないじゃない! 急に腹が立っちゃったんだから!」
「仕方ないじゃ済まないわ! もしもって事になったらどうするのよ!」
「ならないわ! わたしの秘奥義も逸子の秘奥義も命を奪う技ではないわ!」
「でも…… タケル、こんなになっちゃって……」
ナナはすんすんと鼻を鳴らした。そして、タケルを見ながら、倒れた際にタケルの顔に付いた土を優しい手つきで払い始めた。
「……ねえ、コーイチさんたちは?」
逸子がアツコに言う。アツコはやりきれない表情を逸子に向ける。
「……リビングに出たら、ナナさんとタロウが居たの…… それで、支持者がタケルさんだって伝えたのよ。そうしたら、二人がすぐに行くって言って……」
「チトセちゃんは研究室のケーイチさんの所に行っていたので、取りあえずテーブルの上に置き手紙をしてきた」タロウが言う。「それを見てくれれば分かるだろう」
「で? コーイチさんは?」
「……コーイチさんはちょうどお風呂に入っていて……」
「そう……」逸子がつぶやく。「相変わらず、コーイチさんっぽい話ね……」
つづく
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