お話

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コーイチ物語 「秘密のノート」16

2022年08月26日 | コーイチ物語 1 2) 悪夢  
「や、やあ、印旛沼さん林谷さん清水さん、今日はお揃いですか。しかもお早いですね!」
 コーイチは額に一筋の汗を伝わせながら愛想笑いを浮かべ、上ずった声を出した。そうしながらも少しずつ後退りを始めた。
 三人は返事をせず笑い声だけを立てて、いつの間にかそろい始めた歩調でコーイチに近寄ってくる。
 三人が一歩前に出ると、コーイチは一歩後退する。一歩前に出る。一歩下がる。コーイチの額を伝う汗が増え始めた。
「わっ! わっ! わっ!」
 コーイチはたまらず後ろを向いて走り出そうとし、そのまま動きが止まった。
 走り出そうとした先に、鎌を振り上げた死神と銃口を向けた殺し屋と白いステッキを持った手品師が横一列に並んでいた。
「わっ! わっ! わっ!」
 コーイチは思わず反対に向きを変えた。しかしそこには清水と林谷と印旛沼が迫って来ている。反対を向くと、死神と殺し屋と手品師が迫って来ている。
 両側から迫られたコーイチは壁に背を付け、さらに迫ってくる両側を代わる代わる見た。それから硬く両目を閉じた。……ボクはどうなってしまうんだ? 課長みたいになってしまうのだろうか? いやだ、来年上映の特撮映画『大怪獣オチラ対宇宙怪獣モヘラ』を見たいんだ! 
「ねぇ、コーイチ君……」
 呼ばれている事に気が付き、目を開けた。清水が目の前にいた。
 コーイチは思わず後ろへ飛び退き、背中を思い切り壁にぶつけた。
「あのノートを使ったんでしょう?」
 いつもの目だけ笑っていない笑顔で言った。コーイチは何度も首を横に振った。
「嘘はいけないわよ。だって、吉田課長、あんな事になったんですもの…… うふふふふ」 
 コーイチは観念したように、今度は首を縦に振り続けた。
「じゃあ、当然、私の仲間になってもらうわよ。いいわね?」
 コーイチは死神を見た。鎌を持っていない左手をこちらへ突き出し、カツカツと骨のぶつかり合う音を立てながら、おいでおいでをしている。
 首を縦に振ろうとした時、隣の殺し屋の持つ銃の撃鉄が起こされ、カチッと言う非情な音が鳴った。その隣の手品師がステッキを一振りし青龍刀に変え、刃先をきらりと光らせた。汗がまたどわっと流れた。
「いや、あの、その、えーと、んーと……」
 コーイチは銃と青龍刀を見ながら言葉を濁していた。

      つづく


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