お話

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コーイチ物語 「秘密のノート」17

2022年08月26日 | コーイチ物語 1 2) 悪夢  
 林谷は、左手を見るからに高級そうな黒のジャケットの右の内ポケットに差し入れた。
 取り出すと、いつもの純金製のシガレットケースが目映い輝きを放ちながら、その手に握られていた。
 林谷は、持った左手で器用にかしゃんと言う快い音を立ててケースを開け、右手で一本取り出し、銜えた。
「わっ! わっ! わっ!」
 コーイチは思わず殺し屋を見た。林谷のタバコは殺し屋と同じ細長いタバコだった。林谷さんと殺し屋さんは同じ組織の者同士なんだ! あのタバコは組織御用達にちがいない!
 林谷はケースを閉じ、内ポケットに戻し、今度は右手を左の内ポケットに差し入れた。
 取り出すと、純金製の銃がその手に握られていた。にたりと笑い、銃口をコーイチに向けた。コーイチはまた硬く目を閉じた。林谷さん! 純金の使い道をもう少し考えてくださいよ…… コーイチは泣きそうになった。
「わっはっはっは。コーイチ君。そんなに恐がるなよ。大丈夫だから、目を開けたまえ」
 林谷の快活な声に安心したようにコーイチは目を開けた。途端に林谷が引金を引いた。
 コーイチは思わず後ろへ飛び退き、また背中を思い切り壁にぶつけた。
 しかし、銃口からは小さな炎がちろちろと立ち上っていた。林谷はその炎をタバコにゆっくりと近付け、燃え移らせた。タバコの先から紫煙が立ち上り始めた。
「わっはっはっは。コーイチ君。驚いたかい? これはライターだよ。ただし、銃身のこのボタンを押してから撃つと、純金の弾丸が発射される仕掛けだがね……」
 林谷は言いながらボタンを押し、銃口をコーイチに向け、引金に指を掛けた。
「どうだね、コーイチ君。こうなったらボクの仲間になるしかないだろうな」
 殺し屋は銜えたタバコを上下させ、犬歯をむき出しにした笑い顔を向けた。無言でそうしろにと言っている。コーイチは引きつった笑顔を返した。
 突然、死神が上半身だけの身体丸ごとをコーイチの目の前に寄せた。下あごをしきりにカチカチ鳴らした。文句を言っているようだ。
 手品師は握った左手を前に伸ばし、手のひらを上に向けてぱっと開いた。そこには真っ赤なリンゴが一つ乗っていた。

      つづく


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