しばらくすると、通りにじっと佇んでいる霊たちが動き始めた。先程までの凶悪な表情ではなく、恐怖におののき逃げ惑う、情けないまでに卑屈な表情をして逃げ始めたのだ。ある者は廃墟の中へ駆け込んで身を潜めた。別のある者は行き場を定めることもできずにその場をうろうろとしている。またある者はさとみに懇願するように手を合わせている。
なんて情けない連中なんだろう、さとみは思った。
そして、どうしようもない霊たちに天誅を加えているみつと、石礫を繰り出しながらみつを手助けしている豆蔵とが、こちらへ向かって来るのを見ていた。目の前に二人が辿り着いたのを見て、さとみは霊体を抜け出させた。
「みつさん、豆蔵、ご苦労様です!」さとみはぺこりと頭を下げた。「二人がチームを組むと無敵ね!」
「ちいむ……ですか?」豆蔵は言いにくそうだ。しかし、すぐに不敵な笑顔を作る。「ま、とにかく、大体の掃除は済みました。嬢様、安心してお通りください」
「本当はさとみ殿のように説得できればと思ったのですが……」みつは暗い表情で言った。「言っても聞かない連中だらけでしたので……」
「そうですか。それじゃ仕方がないですね」
さとみはみつに笑顔を向けた。みつはほっとした表情になった。それから、さとみは豆蔵に顔を向けた。
「なんだか、繁華街から離れた霊たちがここに集まってきたみたいだけど……」
「さいですね、以前よりも数が増えていますね……」豆蔵は言って腕組みをした。「ま、碌でなしは碌でなしのところに群れるってことでしょう」
「『同病相哀れむ』と言うところでしょうね」みつは言うと、収めていた刀を抜いた。「さ、わたしと豆蔵さんが先導します。参りましょう!」
「え? もう大丈夫なんじゃないんですか?」
「碌でなしのからだに憑りついた連中が、飛び出してくるかもしれません……」
「よろしくお願いしま~す」
さとみは言うと霊体を戻し、必死になって止めるアイに笑顔を向け、とことこと歩き出したのだ。
突然、廃墟ビルの中から、若い男が二人、飛び出してきた。さとみには、碌でもない二つの霊がその男たちにしがみついているのが見えた。豆蔵が素早く石礫を放つと、それを食らった霊たちは男たちを離れた。凶悪な表情で豆蔵に突進したが、みつの刀が一閃、二閃すると霊はすっと消えた。憑りつかれていた男たちは、立ったまま気を失っていた。さとみはその横を何事もなかったかのように通り過ぎる。
「姐さん!」
アイが呼びかけながら駆け寄ってきて、さとみの前に回り込んだ。そして、さとみに両手をしっかりと握った。その両の瞳はキラキラとしている。そう、堂間光一の話をしていた時の瞳と同じだった。
「姐さんって、本当にすごいんですね! こんな恐ろしい所を平気で歩くし、さっきもそうでしたが、目にも留まらない必殺技でこいつらを黙らせるし」
「えっ?」さとみは困った顔でアイを見た。アイはキラキラした瞳でさらにぎゅっとさとみの手を握ってきた。「……あのう、何か勘違いが生じているようだけど……」
豆蔵とみつはうなずいている。さとみは霊体を抜け出させた。
「どうしよう、アイはわたしがやったものだって思っているわ……」
「嬢様」豆蔵が笑みを浮かべて言った。「姐さんの貫録には、その、なんて言いましたっけ…… か、かるいすうまあ、とか言うものが必要だそうですから、ちょうど良いでしょう」
「……」さとみはおでこをぴしゃぴしゃ始めた。その手が止まる。「あ、カリスマのことね!」
「そうです」みつも楽しそうに言う。「さとみ殿はご自分で思っている以上に、実際、頭を張れるだけの器量を持っていると思います」
「そんなあ……」さとみは照れて頬を赤くする。「……でも、みんなの助けがないと無理です!」
「その謙虚さが、さとみ殿の一番の良い所!」言い終わると同時にみつの刀が空を切る。さとみに襲い掛かろうとした碌でもない霊が消えた。「……こうしてさとみ殿を守るのは、ひょっとしてわたしの使命かと思います」
「あっしもそう思っていますぜ、嬢様」豆蔵が大きく頷く。「さ、先を急ぎましょう。もたもたして、ももさんに何かあったら大変ですから」
「あら、竜二がいるんじゃない?」
「だから、急ぐんですよ」
「ああ、納得!」
さとみは霊体を戻した。
つづく
なんて情けない連中なんだろう、さとみは思った。
そして、どうしようもない霊たちに天誅を加えているみつと、石礫を繰り出しながらみつを手助けしている豆蔵とが、こちらへ向かって来るのを見ていた。目の前に二人が辿り着いたのを見て、さとみは霊体を抜け出させた。
「みつさん、豆蔵、ご苦労様です!」さとみはぺこりと頭を下げた。「二人がチームを組むと無敵ね!」
「ちいむ……ですか?」豆蔵は言いにくそうだ。しかし、すぐに不敵な笑顔を作る。「ま、とにかく、大体の掃除は済みました。嬢様、安心してお通りください」
「本当はさとみ殿のように説得できればと思ったのですが……」みつは暗い表情で言った。「言っても聞かない連中だらけでしたので……」
「そうですか。それじゃ仕方がないですね」
さとみはみつに笑顔を向けた。みつはほっとした表情になった。それから、さとみは豆蔵に顔を向けた。
「なんだか、繁華街から離れた霊たちがここに集まってきたみたいだけど……」
「さいですね、以前よりも数が増えていますね……」豆蔵は言って腕組みをした。「ま、碌でなしは碌でなしのところに群れるってことでしょう」
「『同病相哀れむ』と言うところでしょうね」みつは言うと、収めていた刀を抜いた。「さ、わたしと豆蔵さんが先導します。参りましょう!」
「え? もう大丈夫なんじゃないんですか?」
「碌でなしのからだに憑りついた連中が、飛び出してくるかもしれません……」
「よろしくお願いしま~す」
さとみは言うと霊体を戻し、必死になって止めるアイに笑顔を向け、とことこと歩き出したのだ。
突然、廃墟ビルの中から、若い男が二人、飛び出してきた。さとみには、碌でもない二つの霊がその男たちにしがみついているのが見えた。豆蔵が素早く石礫を放つと、それを食らった霊たちは男たちを離れた。凶悪な表情で豆蔵に突進したが、みつの刀が一閃、二閃すると霊はすっと消えた。憑りつかれていた男たちは、立ったまま気を失っていた。さとみはその横を何事もなかったかのように通り過ぎる。
「姐さん!」
アイが呼びかけながら駆け寄ってきて、さとみの前に回り込んだ。そして、さとみに両手をしっかりと握った。その両の瞳はキラキラとしている。そう、堂間光一の話をしていた時の瞳と同じだった。
「姐さんって、本当にすごいんですね! こんな恐ろしい所を平気で歩くし、さっきもそうでしたが、目にも留まらない必殺技でこいつらを黙らせるし」
「えっ?」さとみは困った顔でアイを見た。アイはキラキラした瞳でさらにぎゅっとさとみの手を握ってきた。「……あのう、何か勘違いが生じているようだけど……」
豆蔵とみつはうなずいている。さとみは霊体を抜け出させた。
「どうしよう、アイはわたしがやったものだって思っているわ……」
「嬢様」豆蔵が笑みを浮かべて言った。「姐さんの貫録には、その、なんて言いましたっけ…… か、かるいすうまあ、とか言うものが必要だそうですから、ちょうど良いでしょう」
「……」さとみはおでこをぴしゃぴしゃ始めた。その手が止まる。「あ、カリスマのことね!」
「そうです」みつも楽しそうに言う。「さとみ殿はご自分で思っている以上に、実際、頭を張れるだけの器量を持っていると思います」
「そんなあ……」さとみは照れて頬を赤くする。「……でも、みんなの助けがないと無理です!」
「その謙虚さが、さとみ殿の一番の良い所!」言い終わると同時にみつの刀が空を切る。さとみに襲い掛かろうとした碌でもない霊が消えた。「……こうしてさとみ殿を守るのは、ひょっとしてわたしの使命かと思います」
「あっしもそう思っていますぜ、嬢様」豆蔵が大きく頷く。「さ、先を急ぎましょう。もたもたして、ももさんに何かあったら大変ですから」
「あら、竜二がいるんじゃない?」
「だから、急ぐんですよ」
「ああ、納得!」
さとみは霊体を戻した。
つづく
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