さとみの目の前に富と静の顔があった。二人は驚いた顔をしている。それから心配そうな顔になって、さとみを見ている。口々に何か言っている。さとみは霊体を抜け出させた。
「どうしたんだい?」静がやや強い口調で言う。「悲鳴なんて上げるから、こっちがびっくりしちまったよ!」
「どうしたんだい?」冨は穏やかな口調で言う。「何か、怖い夢でも見たのかい?」
静と富の顔を交互に見て、二人の対応に違いに戸惑いながらも、さとみは話す。
「さゆりが夢に出てきたの」さとみは続ける。「さゆり、夢に潜り込むことが出来るって言ってたわ……」
「なんだって!」普段温厚な富が声を荒げた。「あいつ、夢の中にだなんて!」
「あ、でも、わたしと話がしたかっただけだって」
「そんな事言って、油断させてんじゃないのかい?」
「まあまあ、落ち着きなさいな、富さんよ」静が富を落ち着かせる。いつもと逆だとさとみは思った。「夢の中じゃ、さゆりだって何もできやしないさ」
「そうかねぇ……」
「まあ、普通のヤツなら、夢の中にそんなのが出てきただけで、縮みあがって何も出来なくなっちまうだろうけどさ、さとみはそんな事はないさ。な?」
静から同意を求められたさとみは、大きくうなずく。富は安心したと言うように大きく息をつく。
「それにしても、なかなかの美人だったわ……」さとみは、急にぽうっとした顔になって言う。「いや、美人って言うより大人可愛いって言うのかなぁ? でも、わたしとそんなに歳が違っていないかな? 麗子やアイと同じタイプなのかなぁ? 色気もたっぷりだったなぁ……」
「さとみ、お前、何を言っているんだい?」静が呆れた顔をする。「さゆりを誉めてどうすんだい!」
「さゆりの呪でも受けたのかねぇ?」富は心配そうな顔をしている。「時間が経てば治まるとは思うけどね。さゆりってのは、油断ならない相手だねぇ」
「なんたって、恨み辛みの権化だからね」静は言ってうなずく。「わたしらが思いもしない手をどんどん使って来そうだ。それに、取り巻きもいるしねぇ」
静と富は神妙な顔で見合うと、ため息をついた。
「……ところで、おばあちゃんたちは、どうしてここに?」さとみが訊く。「みんな帰ったんじゃなかった?」
「実はね」冨が話す。「さとちゃんに何かあったら心配だからって、みんなで交代の見張りをしようって事にしたの」
「さとみの事だから、この事を話すと、断るか、一緒になって起きてるかって事になるから、黙ってようって決めたんだ」静が言う。「でもねぇ、夢の中に出て来るんじゃ、どうしようもないねぇ……」
「夢の中で呪を掛けられて、さゆりに好感を持ってしまうようになるかもしれない。実際、さゆりの容姿を誉めてたしねぇ……」
心配する二人を見て、さとみの不安になる。
「わたし、さゆりの虜になっちゃうの……?」
「それはさとみ次第だ」静が言う。「間違えちゃいけないのは、さゆりはお前を滅ぼしたがっているって事だ。さゆりがどう見えようが、どう言おうが、それを忘れない事だ」
「最後にさゆりは、わたしは手加減する間もなく消し飛ぶって脅してた……」
さゆりに呪が解けたのか、青褪めるさとみだった。富がさとみの背中を優しく撫でる。
「……こりゃあ、先手を打たなきゃなんないねぇ……」
そう言って天井から現われたのは珠子だった。
「あんたらだけじゃ心配でさ」珠子は言う。「でも、夢の中に出て来るんじゃ、みんながいてもどうしようも出来ないねぇ……」
「みんな腕は立つんだけど、夢の中には入れないからねぇ」静がため息交じりに言う。「ここはさとみに踏ん張ってもらうしかないねぇ」
「片岡さんがさゆり封印を早くしてくれればいいんだけどさ」冨が言う。「さゆりは強力で凶悪だからね、難しいだろうねぇ」
「なに言ってんだい!」静が反論する。「片岡さんは、もう封印の方法を見つけているさ。もしまだなら、あとちょっとで見つけるのさ」
「はいはい……」冨は呆れた顔で言う。「でも、一刻も早くって思いは変わらないね」
「あのさ……」珠子が静と富を交互に見る。「ちょいと話があるんだけど」
「話?」静は言うと富と顔を見合わせる。富は怪訝そうな表情だ。「まあ、いいけど」
「じゃあ、いったんここを離れるよ」珠子は言って、さとみを見る。「さとみちゃん、一人でも大丈夫だね? さゆりももう夢には出て来ないだろうさ。さとみちゃんがどんな娘か分かったと思うからさ。でも、どうしても心配なら、誰かに来てもらうよ」
「いえ、大丈夫です。この際起きています」さとみは答える。「眠くなったら、学校で、得意の『目を開けたまま寝る』で、乗り越えます」
「何を得意気に言ってんだい」静が呆れた俑に言う。「自慢できる技じゃないよ」
「えへへ……」さとみは恥ずかしそうに笑う。「すみません……」
「まあ、それだけ落ちつていりゃ、大丈夫だね」冨はうなずく。「さすが、わたしの孫だ」
「じゃあ、ちょいとついて来ておくれ」
珠子が言って、壁の中へと消える。それに続いて静が壁へと消える。富はさとみに振り返った。
「いいかい、さとちゃん、ちゃんとするまで、絶対に屋上に行っちゃダメだからね」
「分かっているわ、富おばあちゃん」
さとみの言葉にうなずくと、富も壁へと消えた。
つづく
「どうしたんだい?」静がやや強い口調で言う。「悲鳴なんて上げるから、こっちがびっくりしちまったよ!」
「どうしたんだい?」冨は穏やかな口調で言う。「何か、怖い夢でも見たのかい?」
静と富の顔を交互に見て、二人の対応に違いに戸惑いながらも、さとみは話す。
「さゆりが夢に出てきたの」さとみは続ける。「さゆり、夢に潜り込むことが出来るって言ってたわ……」
「なんだって!」普段温厚な富が声を荒げた。「あいつ、夢の中にだなんて!」
「あ、でも、わたしと話がしたかっただけだって」
「そんな事言って、油断させてんじゃないのかい?」
「まあまあ、落ち着きなさいな、富さんよ」静が富を落ち着かせる。いつもと逆だとさとみは思った。「夢の中じゃ、さゆりだって何もできやしないさ」
「そうかねぇ……」
「まあ、普通のヤツなら、夢の中にそんなのが出てきただけで、縮みあがって何も出来なくなっちまうだろうけどさ、さとみはそんな事はないさ。な?」
静から同意を求められたさとみは、大きくうなずく。富は安心したと言うように大きく息をつく。
「それにしても、なかなかの美人だったわ……」さとみは、急にぽうっとした顔になって言う。「いや、美人って言うより大人可愛いって言うのかなぁ? でも、わたしとそんなに歳が違っていないかな? 麗子やアイと同じタイプなのかなぁ? 色気もたっぷりだったなぁ……」
「さとみ、お前、何を言っているんだい?」静が呆れた顔をする。「さゆりを誉めてどうすんだい!」
「さゆりの呪でも受けたのかねぇ?」富は心配そうな顔をしている。「時間が経てば治まるとは思うけどね。さゆりってのは、油断ならない相手だねぇ」
「なんたって、恨み辛みの権化だからね」静は言ってうなずく。「わたしらが思いもしない手をどんどん使って来そうだ。それに、取り巻きもいるしねぇ」
静と富は神妙な顔で見合うと、ため息をついた。
「……ところで、おばあちゃんたちは、どうしてここに?」さとみが訊く。「みんな帰ったんじゃなかった?」
「実はね」冨が話す。「さとちゃんに何かあったら心配だからって、みんなで交代の見張りをしようって事にしたの」
「さとみの事だから、この事を話すと、断るか、一緒になって起きてるかって事になるから、黙ってようって決めたんだ」静が言う。「でもねぇ、夢の中に出て来るんじゃ、どうしようもないねぇ……」
「夢の中で呪を掛けられて、さゆりに好感を持ってしまうようになるかもしれない。実際、さゆりの容姿を誉めてたしねぇ……」
心配する二人を見て、さとみの不安になる。
「わたし、さゆりの虜になっちゃうの……?」
「それはさとみ次第だ」静が言う。「間違えちゃいけないのは、さゆりはお前を滅ぼしたがっているって事だ。さゆりがどう見えようが、どう言おうが、それを忘れない事だ」
「最後にさゆりは、わたしは手加減する間もなく消し飛ぶって脅してた……」
さゆりに呪が解けたのか、青褪めるさとみだった。富がさとみの背中を優しく撫でる。
「……こりゃあ、先手を打たなきゃなんないねぇ……」
そう言って天井から現われたのは珠子だった。
「あんたらだけじゃ心配でさ」珠子は言う。「でも、夢の中に出て来るんじゃ、みんながいてもどうしようも出来ないねぇ……」
「みんな腕は立つんだけど、夢の中には入れないからねぇ」静がため息交じりに言う。「ここはさとみに踏ん張ってもらうしかないねぇ」
「片岡さんがさゆり封印を早くしてくれればいいんだけどさ」冨が言う。「さゆりは強力で凶悪だからね、難しいだろうねぇ」
「なに言ってんだい!」静が反論する。「片岡さんは、もう封印の方法を見つけているさ。もしまだなら、あとちょっとで見つけるのさ」
「はいはい……」冨は呆れた顔で言う。「でも、一刻も早くって思いは変わらないね」
「あのさ……」珠子が静と富を交互に見る。「ちょいと話があるんだけど」
「話?」静は言うと富と顔を見合わせる。富は怪訝そうな表情だ。「まあ、いいけど」
「じゃあ、いったんここを離れるよ」珠子は言って、さとみを見る。「さとみちゃん、一人でも大丈夫だね? さゆりももう夢には出て来ないだろうさ。さとみちゃんがどんな娘か分かったと思うからさ。でも、どうしても心配なら、誰かに来てもらうよ」
「いえ、大丈夫です。この際起きています」さとみは答える。「眠くなったら、学校で、得意の『目を開けたまま寝る』で、乗り越えます」
「何を得意気に言ってんだい」静が呆れた俑に言う。「自慢できる技じゃないよ」
「えへへ……」さとみは恥ずかしそうに笑う。「すみません……」
「まあ、それだけ落ちつていりゃ、大丈夫だね」冨はうなずく。「さすが、わたしの孫だ」
「じゃあ、ちょいとついて来ておくれ」
珠子が言って、壁の中へと消える。それに続いて静が壁へと消える。富はさとみに振り返った。
「いいかい、さとちゃん、ちゃんとするまで、絶対に屋上に行っちゃダメだからね」
「分かっているわ、富おばあちゃん」
さとみの言葉にうなずくと、富も壁へと消えた。
つづく
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