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ジェシル、ボディガードになる 130

2021年06月03日 | ジェシル、ボディガードになる(全175話完結)
「ところでさ、ここはあなたの星って言っていたわよね?」ジェシルはムハンマイドに言う。すでに敵対するような雰囲気は無くなっていた。「間違いないわよね?」
「ああ、間違いないよ」ムハンマイドの方にも敵対的な雰囲気はない。「この星は、ボクが正規の手段で手に入れた、ボク個人の所有物だ」
「あなたがこの星に迎えに来るように言ったのよね。それで間違いないわね」
「ああ、そうだけど…… それが何か?」
「それは、あなたが、わたしたちを招いたって事よね?」ジェシルは「あなた」を強調する。「それで間違いないわね?」
「そう言えるかな……」
「だったら、わたしたちはお招きを受けたお客様って事になるわ」ジェシルは澄まして言う。「この星はあなたの家みたいなものでしょう? そこに招かれたんだから、当然、客として、わたしたちをもてなす義務があるわ」
「何だってぇ……」
 ムハンマイドは険しい表情になった。ジェシルは、そんなムハンマイドを平然と見つめ返している。しばらくして、ムハンマイドはにやりと笑った。笑うと好青年だ。
「ははは、これはやられたね。言われてみれば、確かに君たちは客だな」ムハンマイドはうなずく。「もてなしをしなければならないな」
「あら、物分りが良いわね」ジェシルも笑む。「じゃあさ、宇宙船の修理が終わるまで、あなたの家に泊めてよ。それに、食事もお願いね。ちゃんとした物をあんまり食べていないから。それと、そうねぇ、お風呂も使いたいわ。それに、疲れもあるから、ゆっくり眠りたいわ。ふかふかのベッドなんかあると嬉しいわね」
 次々と無茶な要求をするジェシルを、ミュウミュウは困惑と不安の入り混じった表情で見る。
「……ジェシルさん、幾らなんでも、あれこれ言い過ぎじゃありませんか……?」
「平気よ」ジェシルはミュウミュウに笑顔を見せる。「だって、この人って天才なんでしょ? だったら、これくらいは簡単に出来るわよ」
「でも……」
「大丈夫だよ、平気さ」ムハンマイドはミュウミュウに言う。その口調は、やはりどこか優しい。「君が心配する事は無いよ」
「ふん!」ジェシルは口を尖らせる。「相変わらずミュウミュウには優しそうよね!」
「それは仕方の無い事だろう?」ムハンマイドはジェシルを見る。「ボクにだって、女性の好みがあるんだよ。何でもぽんぽん言うお転婆な女性より、お淑やかで控えめな女性の方が断然好みだ」
「じゃあ、わたしはお転婆だって言うの?」
「自覚が無いのか?」ムハンマイドは呆れた顔をした。「……まあ、良いや。個人の見解の相違を言い合うつもりは無い。じゃあ、ボクの家まで案内しよう。少し歩く事になるけどね……って、年寄りたちは歩けるのかな?」
 ムハンマイドは急に無表情になって、リタ、アーセル、オーランド・ゼムを見る。
「ふざけんじゃねぇ!」怒鳴ったのはアーセルだ。「身動きの取れねぇ、隣のばばあと一緒にするんじゃねぇってんだ! オレはこのまま、この星を一回りだって出来るぜい!」
「ほほほ、何を子供のようにムキになって喚いているのやら…… 本当、下品なじいさんよねぇ……」リタはアーセルを小馬鹿にして笑った。「……わたくしは大丈夫ですよ。歩みは遅いかもしれませんが」
「わたくしが付き添い致しますわ、リタ様」ミュウミュウはそう言うと、リタの傍らに寄った。「ご安心下さいませ」
「いえいえ……」リタは大仰に首を左右に振る。「いつもいつもあなたを煩わせてばかりはいられません。……それに、若い者同士、楽しく行くと良いでしょう」
「リタ様……」ミュウミュウは涙ぐむ。「何と、お優しいお心遣いで……」
「ははは」オーランド・ゼムは優しく笑う。「リタの言う通りだよ、ミュウミュウ。若い者同士って言い方があるのなら、老いた者同士って言い方もあるだろう。リタの事は、わたしに任せておいてくれたまえ」
「……オーランド・ゼム……」リタはつぶやき、オーランド・ゼムの顔を見た。リタの頬がほんのりと染まって見えた。「では、お任せ致しますわ……」
「話はまとまったようだな」ムハンマイドは言うと、まだ宙に留まっているハービィを見上げた。「ハービィ! 予定変更だ! これからボクの家へ行く事になった!」
「了解しましたですう!」
 ハービィは、通常では聞こえないと思ったのか、音声が割れるような大音量で返事をすると、地上に降りてきた。持っていた道具に入った袋を、どすんと地面に置いた。それから、ぎぎぎと音を立てながら、ぎごちなく歩いて来る。
「……ハービィが一番心配ね……」ジェシルはハービィを見ながらつぶやく。「途中で壊れちゃいそうだわ」
「うん、それは言える」ムハンマイドはうなずく。「ハービィは優秀な助手だからなぁ。失うわけにはいかない。……おい、ハービィ! ちょっと止まれ!」
 ムハンマイドの声に従い、ハービィは右脚を上げた状態で止まった。不安定に揺れている。
「脚は下ろして良いよ、ハービィ」ムハンマイドは言う。ハービィはそれに従う。「ハービィ、君は宇宙船で待機していてくれ。多分、明日は戻って来るから、その時に再開だ」
「かしこまりましてございますです」
 ハービィはそう言うと、ぎぎぎぐぎぎぎと音を立てながら、上半身を折り曲げて礼をし、がぎぎぎと音を立て姿勢を戻し、がちゃがちゃと足音を立てながら回れ右をすると、宇宙船へと戻って行った。
「……さあ、ボクたちも行こう」
 ムハンマイドは歩き出す。ムハンマイドの後にジェシルとミュウミュウ、アーセル、リタ、リタと並んだオーランド・ゼムと続く。


つづく


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