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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第五章 駈け回る体育館の怪 1

2022年03月09日 | 霊感少女 さとみ 2 第五章 駈け回る体育館の怪
「ねえ、かねぇ、のぶぅ……」
 学校の昼休み、いつものようにさとみ会長の居るクラスへ向かおうとする朱音としのぶは、クラスメイトの田所千賀子に呼び止められた。
「なあに? ちか?」朱音が振り返る。「急ぎ? そうじゃなかったら後にして欲しいんだけど」
「集合に遅れると、アイ先輩が怒るのよ」しのぶもうなずきながら言う。「そのくせ、ちょくちょくアイ先輩は遅れるんだけどね」
「……じゃあ、後で良いわ」千賀子がため息をつく。「でも、気になっちゃって……」
「そう言われちゃうと、気になるなぁ」朱音がしのぶを見る。「……どうする?」
「何についての話なの?」しのぶが千賀子に訊く。「それによっては優先順位が変わるわ」
「うん……」
 千賀子はそう言うと黙ってしまった。しのぶは千賀子の次の言葉を待っているが、朱音は明らかにそわそわしている。アイの怒った顔がちらついているからだ。
「あなたたち、サークルやってるじゃない?」千賀子が意を決したように顔を上げて言う。「……その、ちょっと変わった……」
「心霊研究サークル『百合恵会』よ」しのぶが憮然とした表情で言う。「変わってなんかいないと思うけど?」
「……それで? サークルに関係ある話?」朱音が訊く。そして、何か思い当ったようにぱっと顔が明るくなった。「分かった! サークルに入りたいのね!」
「いえ、そうじゃないわ」千賀子はすぐに否定する。「だって、わたしバスケ部だから」
「……じゃあ、何よ?」朱音も憮然とする。「悪いけど、わたしはバスケ部には入らないわよ。のぶだって同じだわ」
「いや、そうじゃなくって……」千賀子は言う。「気になる事があって……」
「気になる事?」朱音が首をかしげる。「はっきり言ってよ」
「分かった!」しのぶが割って入る。「出るんでしょ? あるいは、何かおかしな事が起こっているんでしょ?」
「……そう、なんだけど……」
「ええっ! そうなのぉ!」朱音が叫ぶ。「それを早く言ってよぉ!」
 心霊モードを全開にしたしのぶと朱音が、きらきらした瞳でぐいぐいと千賀子に迫ってくる。その異様な迫力に千賀子は困惑している。
「なら、話は早いじゃない!」しのぶは千賀子の右手を取る。「一緒に会長の所へ行こう! 会長に話を聞いてもらうのよ!」
「うん! それが一番早いわ!」朱音は千賀子の左手を取る。「大丈夫よ。会長は優しいから。怖くないわ。怖いのはアイ先輩だけよ」
 アイの不良っぷりは学校中に知れ渡っている。千賀子は躊躇する。
「ほらあ、急いで! アイ先輩が怒っちゃうわ!」しのぶが千賀子の手を引っ張る。「『ぜんざいはしるこ』って言うじゃない!」
「また、そんな事を言って!」朱音が呆れながら、千賀子の手を引っ張る。「のぶ、それを言うなら『善は急げ』よ!」
 二人に両手を引かれ、千賀子はさとみの所へと連れて行かれる。

「遅ぇぞ!」
 アイの怒鳴り声がした。さとみの教室前の廊下に、すでにさとみとアイと麗子が立っていた。
「すみませんでしたぁぁ!」
 朱音としのぶが上半身を直角に曲げて、大きな声で詫びを入れた。
「アイ、そんなに怒らなくても良いじゃない?」さとみが言う。「アイだって、ついさっき来たばかりなんだし……」
「ですけど会長、一番下の舎弟はきっちりしませんと……」
 自分を棚に上げるアイだった。ほうら、やっぱりと言う思いを持つ朱音としのぶだったが、口にも顔にも出さない。
「で? その娘は?」麗子が千賀子を見て言う。「まさか、入部、とか?」
「いえ、そうじゃありません」朱音が言う。「ちかはバスケ部なんです」
「バスケ部?」さとみが千賀子を見る。まっすぐ見つめてくるさとみに、千賀子は戸惑う。「何かあったのね?」
「……はい、そうなんです……」
「やっぱりね」さとみは笑む。「しのぶちゃんも朱音ちゃんも心霊モード全開だから、そうだろうって思ったわ」
「そうなんですか」
「そうよ。二人して分かりやすいから」さとみはけらけらと笑う。「……さあ、話してみて」


つづく


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