こんな時間にここを歩くなんて初めてだわ・・・
葉子は周りの風景に目をやりながら思った。いつもはせわしなく歩き過ぎている道だった。意外と一軒家が多いんだ・・・ 大きさは様々だったが、塀で囲われ、庭に植えられている樹の枝先がのぞいている家が多い。昔からの家、新しく建てられた家、それらの家には家族があり、暖かい生活がある。葉子の心が少し和んだ。
空からは明るい陽光が降り注いでいる。あいつらと別れた途端に、何もかもが良くなった様に見えるわ・・・
葉子は立ち止まり、深呼吸をしてみた。イヤな気持ちになったりしなければ、あんな変なのは現れないはずよ。それに、あんなのを呼び寄せたのは、わたしじゃなくてあいつら自身なんだわ。あいつらと切れたわたしにはもう何も無いに決まっているわ!
葉子はブロック塀の一点をじっと見つめた。何も現われない。・・・ほうら、思った通りだわ。みんなあいつの仕業だったのよ! 葉子は見つめていたブロック塀を指先で突ついた。
明日、嫌味タラタラを覚悟で課長に電話しよう。「あれは兄の勝手な言い分でした。わたしは辞めたくないんです」と言えば、何とかなるわ。それに、由紀や敦子や真弓達も応援してくれるはずよ。
不意に空腹な事に気がついた。喫茶店ではカレーを食べられなかった。あの娘の話、気持ち悪かったわ。そんなの聞きながら、食べられるわけが無いわよ・・・ それに、あの出来事も・・・
葉子は頭を左右に振った。・・・やめよう、思い出すのは! あれは夢だったのよ! 現実じゃないわ! 第一、わたしが刀みたいなのを振り回すなんて、ありえないじゃないの!
葉子は電線の上で啼いている鳥を見た。聞いた事の無い啼き声の鳥だった。明るく澄んだ声だ。・・・そうよ、わたしの知っている世界は、こっちなのよ。あんなわけの分からない、イヤな世界じゃないのよう!
葉子は目にしたコンビニに入った。弁当コーナーの前に立つ。当分カレーは食べる気にならないわ・・・ 葉子はカレーを見て思った。そして、おにぎりを幾つかとペットボトルのお茶を持ってレジに行った。陰気そうな若い女の店員が、黒縁の眼鏡越しに葉子を見据える。その視線にイヤなものを感じた。しかし、生臭い臭いはしなかった。・・・そうよ、わたしはもうあんな変なヤツらとは縁を切ったんだから、何も起きるはずが無いんだわ! 葉子はその店員に笑いかけた。面食らったような店員を見て、葉子はさらに微笑んだ。
コンビニを出てアパートへ向かう。心無しか足取りが軽い。路地を曲がるとアパートが見えた。足が速まる。
しかし、その足が止まった。
アパートの前に男が立っていたからだ。葉子の体から血の気が退いた。
・・・ユウジ!
あの喫茶店で倒れていた男だった。その時と同じ服を着ているので、所々に赤い染みが、血が付いている。
きょろきょろしていたユウジは、葉子に気が付くと駆け寄って来た。葉子の前で直立すると、大仰に頭を下げた。
「葉子さん。葉子さんにお渡しする物があって参りやした!」大きな声で言う。・・・何なのよう! 何がどうなっているのよう! 「朧の兄ぃとエリお嬢に言われやして・・・」
そうか、あいつが妖魔から受けた傷を直してやって、あの娘が上手く記憶を操作したのね。それに、息が上がっている所を見ると、全力疾走でもさせられてここに来たんだわ。一体どう言うつもりなのよう!
葉子は憮然とした顔をユウジに向けた。ユウジはズボンのポケットを探り、取り出した。
「これを葉子さんにお渡しするよう、言われやした」
取り出し、葉子の前に差し出されたのは、妖介が「それはお前にくれてやる。使いこなせ」と言って渡して寄越した『斬鬼丸』だった。
つづく
著者自註 
勝手に「妖魔始末人 朧 妖介」主題歌にした7月29日発売の堂本光一さんのシングル『妖~あやかし~』のオンエアが始まりました。聞きましたか? 伝統的な「和」よりも、明治時代の鹿鳴館的な「和」を感じました。つまり、外側はともかく、内に秘めた「和」とでも言うんでしょうか、上手くは言えないんですけど。また、偶然テレビで流れたPV(ガンガン踊っていましたね。でも、ハンチングは被っていませんでした)を観て、さらにそう思いましたね。あくまでも個人的感想ですから、放って置いてくださいね。コンサートも追加発表がありました。所属グループでは出せない味を充分に出してほしいですね。一体全体、アルバムは出ないんですか? 応援しています。
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葉子は周りの風景に目をやりながら思った。いつもはせわしなく歩き過ぎている道だった。意外と一軒家が多いんだ・・・ 大きさは様々だったが、塀で囲われ、庭に植えられている樹の枝先がのぞいている家が多い。昔からの家、新しく建てられた家、それらの家には家族があり、暖かい生活がある。葉子の心が少し和んだ。
空からは明るい陽光が降り注いでいる。あいつらと別れた途端に、何もかもが良くなった様に見えるわ・・・
葉子は立ち止まり、深呼吸をしてみた。イヤな気持ちになったりしなければ、あんな変なのは現れないはずよ。それに、あんなのを呼び寄せたのは、わたしじゃなくてあいつら自身なんだわ。あいつらと切れたわたしにはもう何も無いに決まっているわ!
葉子はブロック塀の一点をじっと見つめた。何も現われない。・・・ほうら、思った通りだわ。みんなあいつの仕業だったのよ! 葉子は見つめていたブロック塀を指先で突ついた。
明日、嫌味タラタラを覚悟で課長に電話しよう。「あれは兄の勝手な言い分でした。わたしは辞めたくないんです」と言えば、何とかなるわ。それに、由紀や敦子や真弓達も応援してくれるはずよ。
不意に空腹な事に気がついた。喫茶店ではカレーを食べられなかった。あの娘の話、気持ち悪かったわ。そんなの聞きながら、食べられるわけが無いわよ・・・ それに、あの出来事も・・・
葉子は頭を左右に振った。・・・やめよう、思い出すのは! あれは夢だったのよ! 現実じゃないわ! 第一、わたしが刀みたいなのを振り回すなんて、ありえないじゃないの!
葉子は電線の上で啼いている鳥を見た。聞いた事の無い啼き声の鳥だった。明るく澄んだ声だ。・・・そうよ、わたしの知っている世界は、こっちなのよ。あんなわけの分からない、イヤな世界じゃないのよう!
葉子は目にしたコンビニに入った。弁当コーナーの前に立つ。当分カレーは食べる気にならないわ・・・ 葉子はカレーを見て思った。そして、おにぎりを幾つかとペットボトルのお茶を持ってレジに行った。陰気そうな若い女の店員が、黒縁の眼鏡越しに葉子を見据える。その視線にイヤなものを感じた。しかし、生臭い臭いはしなかった。・・・そうよ、わたしはもうあんな変なヤツらとは縁を切ったんだから、何も起きるはずが無いんだわ! 葉子はその店員に笑いかけた。面食らったような店員を見て、葉子はさらに微笑んだ。
コンビニを出てアパートへ向かう。心無しか足取りが軽い。路地を曲がるとアパートが見えた。足が速まる。
しかし、その足が止まった。
アパートの前に男が立っていたからだ。葉子の体から血の気が退いた。
・・・ユウジ!
あの喫茶店で倒れていた男だった。その時と同じ服を着ているので、所々に赤い染みが、血が付いている。
きょろきょろしていたユウジは、葉子に気が付くと駆け寄って来た。葉子の前で直立すると、大仰に頭を下げた。
「葉子さん。葉子さんにお渡しする物があって参りやした!」大きな声で言う。・・・何なのよう! 何がどうなっているのよう! 「朧の兄ぃとエリお嬢に言われやして・・・」
そうか、あいつが妖魔から受けた傷を直してやって、あの娘が上手く記憶を操作したのね。それに、息が上がっている所を見ると、全力疾走でもさせられてここに来たんだわ。一体どう言うつもりなのよう!
葉子は憮然とした顔をユウジに向けた。ユウジはズボンのポケットを探り、取り出した。
「これを葉子さんにお渡しするよう、言われやした」
取り出し、葉子の前に差し出されたのは、妖介が「それはお前にくれてやる。使いこなせ」と言って渡して寄越した『斬鬼丸』だった。
つづく


勝手に「妖魔始末人 朧 妖介」主題歌にした7月29日発売の堂本光一さんのシングル『妖~あやかし~』のオンエアが始まりました。聞きましたか? 伝統的な「和」よりも、明治時代の鹿鳴館的な「和」を感じました。つまり、外側はともかく、内に秘めた「和」とでも言うんでしょうか、上手くは言えないんですけど。また、偶然テレビで流れたPV(ガンガン踊っていましたね。でも、ハンチングは被っていませんでした)を観て、さらにそう思いましたね。あくまでも個人的感想ですから、放って置いてくださいね。コンサートも追加発表がありました。所属グループでは出せない味を充分に出してほしいですね。一体全体、アルバムは出ないんですか? 応援しています。
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