「あなた・・・ 誰?」
葉子は言った。涙は止まった。しかし、今度は言い知れぬ嫌悪感が湧き出した。・・・何かしら、あの男と同じ匂いがする・・・。
少女は後ろ手を組み、上半身を軽く左右に揺らしながら近づいてきた。身長差があまり無く、目の前で立ち止まると、ほぼ同じ位置に顔がある。化粧っ気はないが、おそろしく整った顔立ちだ。やっと人並みの葉子はそれだけで圧倒された。その顔には相変わらず皮肉な笑顔が浮かんでいる。
「わたしは、エリ」少女は言った。「妖介が認めたのに、葉子お姉さん、わがままだわ」
妖介・・・? このエリと言う娘、あの男を呼び捨てにしたわ。やっぱり何か関係があるんだわ。
「あなた、あの男とどんな関係なの?」葉子は言った。感じた嫌悪感は妖介に対するものと同じだった。「あなたも、妖魔を追いかけているのかしら?」
「そうよ、お姉さんと同じよ」
エリは言った。すらりと長い足を交差させる。そのスタイルの良さにまた圧倒された。
「あなた・・・」・・・似ている、あまりにも。葉子は尋ねた。「あの男の妹?」
「妹! 妹ですって! あはははは・・・!」エリが大声で笑い出した。人が振り返る。エリはそれに構わず、涙を流し、からだを折り曲げ、葉子を指差しながら笑い続けている。「わたしが! あはは! わたしが妹!」
指差され笑われている葉子は面白くない。しかも、この娘の馬鹿の仕方は妖介にそっくりだった。・・・これじゃ、誰がどう見たって、この娘とあの男は同類だわ! 葉子は憮然として歩き出した。・・・もう関わっていられるもんですか!
「あっ、ちょっと待ってよ、お姉さん」立ち去りかけた葉子にエリが声をかける。声にまだ笑いが残っている。「お話があるの」
エリは葉子の右腕をつかんだ。華奢なからだなのに強い力だった。葉子は思わずうめいた。エリはそんな葉子を無視して、グイグイと引き付ける。
「何するのよう、放してよう!」葉子は振り切ろうとするが、びくともしなかった。返って強くつかまれた。「痛い、痛いわよう!」
「じゃあ、ついて来て」葉子をつかんだまま、エリは歩き出した。「お姉さん、お金を持ってるわね。そこの喫茶店に行きましょう」
この娘も触った相手の事が分かる能力があるんだわ。葉子はいやな気分になった。
「まあ、いやだあ!」エリがわざとらしい大きな声を出した。「お姉さん、昨日すごい格好でいたのねえ・・・」
「・・・」
葉子は下を向いて立ち止まった。エリも立ち止まる。しかし、手は放さなかった。
・・・昨日・・・ 妖介に助けられ、全裸でベッドに寝かされ、過去の恥ずかしいものを次々と暴露され・・・
「でも、酷いわね、妖介。何も『淫乱馬鹿女』なんて言わなくてもいいのに!」
「ねえ、お願い・・・ もうそんな事言うのやめてよう・・・」葉子は力なく言った。隠す事が出来ないのなら、せめて頼んでみるしかない。「ついて行くから、もう、やめて・・・」
「分かった」エリは手を放した。「大人って、色々と大変なのね。ふふふ・・・」
分かったわけではないんだわ。単にわたしをからかっているんだ・・・ 目の前のエリが涙でにじみ始めた。
・・・あの男といい、この娘といい、わたしはどうしたらいいのよう!
「どうしたらいいかですって?」皮肉な笑顔を浮かべながら、エリが言った。「まずは、腹ごしらえね。わたしもお付き合いさせてもらうわね、葉子お姉さん!」
エリは先に歩き出した。葉子は溜め息をついて、後に従った。
つづく
web拍手を送る
![にほんブログ村 小説ブログへ](http://novel.blogmura.com/img/novel100_33.gif)
![にほんブログ村 小説ブログ ホラー・怪奇小説へ](http://novel.blogmura.com/novel_horror/img/novel_horror88_31.gif)
葉子は言った。涙は止まった。しかし、今度は言い知れぬ嫌悪感が湧き出した。・・・何かしら、あの男と同じ匂いがする・・・。
少女は後ろ手を組み、上半身を軽く左右に揺らしながら近づいてきた。身長差があまり無く、目の前で立ち止まると、ほぼ同じ位置に顔がある。化粧っ気はないが、おそろしく整った顔立ちだ。やっと人並みの葉子はそれだけで圧倒された。その顔には相変わらず皮肉な笑顔が浮かんでいる。
「わたしは、エリ」少女は言った。「妖介が認めたのに、葉子お姉さん、わがままだわ」
妖介・・・? このエリと言う娘、あの男を呼び捨てにしたわ。やっぱり何か関係があるんだわ。
「あなた、あの男とどんな関係なの?」葉子は言った。感じた嫌悪感は妖介に対するものと同じだった。「あなたも、妖魔を追いかけているのかしら?」
「そうよ、お姉さんと同じよ」
エリは言った。すらりと長い足を交差させる。そのスタイルの良さにまた圧倒された。
「あなた・・・」・・・似ている、あまりにも。葉子は尋ねた。「あの男の妹?」
「妹! 妹ですって! あはははは・・・!」エリが大声で笑い出した。人が振り返る。エリはそれに構わず、涙を流し、からだを折り曲げ、葉子を指差しながら笑い続けている。「わたしが! あはは! わたしが妹!」
指差され笑われている葉子は面白くない。しかも、この娘の馬鹿の仕方は妖介にそっくりだった。・・・これじゃ、誰がどう見たって、この娘とあの男は同類だわ! 葉子は憮然として歩き出した。・・・もう関わっていられるもんですか!
「あっ、ちょっと待ってよ、お姉さん」立ち去りかけた葉子にエリが声をかける。声にまだ笑いが残っている。「お話があるの」
エリは葉子の右腕をつかんだ。華奢なからだなのに強い力だった。葉子は思わずうめいた。エリはそんな葉子を無視して、グイグイと引き付ける。
「何するのよう、放してよう!」葉子は振り切ろうとするが、びくともしなかった。返って強くつかまれた。「痛い、痛いわよう!」
「じゃあ、ついて来て」葉子をつかんだまま、エリは歩き出した。「お姉さん、お金を持ってるわね。そこの喫茶店に行きましょう」
この娘も触った相手の事が分かる能力があるんだわ。葉子はいやな気分になった。
「まあ、いやだあ!」エリがわざとらしい大きな声を出した。「お姉さん、昨日すごい格好でいたのねえ・・・」
「・・・」
葉子は下を向いて立ち止まった。エリも立ち止まる。しかし、手は放さなかった。
・・・昨日・・・ 妖介に助けられ、全裸でベッドに寝かされ、過去の恥ずかしいものを次々と暴露され・・・
「でも、酷いわね、妖介。何も『淫乱馬鹿女』なんて言わなくてもいいのに!」
「ねえ、お願い・・・ もうそんな事言うのやめてよう・・・」葉子は力なく言った。隠す事が出来ないのなら、せめて頼んでみるしかない。「ついて行くから、もう、やめて・・・」
「分かった」エリは手を放した。「大人って、色々と大変なのね。ふふふ・・・」
分かったわけではないんだわ。単にわたしをからかっているんだ・・・ 目の前のエリが涙でにじみ始めた。
・・・あの男といい、この娘といい、わたしはどうしたらいいのよう!
「どうしたらいいかですって?」皮肉な笑顔を浮かべながら、エリが言った。「まずは、腹ごしらえね。わたしもお付き合いさせてもらうわね、葉子お姉さん!」
エリは先に歩き出した。葉子は溜め息をついて、後に従った。
つづく
web拍手を送る
![にほんブログ村 小説ブログへ](http://novel.blogmura.com/img/novel100_33.gif)
![にほんブログ村 小説ブログ ホラー・怪奇小説へ](http://novel.blogmura.com/novel_horror/img/novel_horror88_31.gif)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます