「おっ? どうした? 今なら負けを認めても、傷は浅いぞぉ」
ブサシは花子の表情を見て、からかうように言った。
「あなたねえ……」花子はブサシを睨みつける。「あなたにはそのお化け刀があるけど、わたしはこれよ!」
花子は腰から木の棒を引き抜いた。
「これで、どうやって勝負するのよ!」
「知らねぇなぁ……」ブサシは無精髭の伸びたあごを撫でながら言う。「でも、それを何とかするのが、お前の『十文字流』じゃねえのか?」
「……あなたって、お馬鹿さんの極みね!」
花子が呆れたように言う。……僕もこのセリフを言われたぞ。言われるのはイヤだが、聞くのは良い気分だな。コーイチは思った。
「な、何だとぉぉぉぉ!」ブサシは顔を真っ赤にし、柄にかけた右手を動かし、刀の鯉口を切った。ジャキンと鳴った金属音が恐ろしい。「サムライを愚弄するとは、死を覚悟することだぞぉぉぉぉ!」
「なに熱くなってんのよ!」花子はブサシの怒りを平然と受け止める。「そもそも、木の棒で物を斬るなんて、物理的に無理じゃない! そんな事もわからないわけぇ?」
「ふん!」ブサシは柄から手を放した。するりと刀が鞘に収まった。「さっきも言ったろう? 言い訳はサムライの恥だ」
「じゃあ、あなたは、失敗するのがわかっているのに、木の棒で釣り鐘を斬らせようってわけぇ? しかも、こんなか弱い乙女を、こんな大勢の前で恥かかせて、笑いものにしたいってわけぇ? ……ひどい、ひどいわあ!」
花子は両手で顔を覆った。肩を小刻みに震わせている。「うっ、うっ」と嗚咽が覆った手の間から洩れている。
……え? 泣いてる? 驚いたコーイチは花子を見た。花子はコーイチに顔をちらっと向けた。ウインクしながら舌を出し、にやりと笑っていた。……なんだ、芝居か。ほっとしたような、残念なようなコーイチだった。
「花子様! これをお使いください!」
サムライの中から一人飛び出してきて、鞘ごと刀を差し出した。
「おう、お前!」ブサシがサムライの胸ぐらをつかんで持ち上げた。「このブサシ様の前で、いい度胸じゃねえか! あ?」
「いえ、これではあまりにも花子様が不憫で……」
「やかましい!」
ブサシはサムライを放り投げた。サムライは地面を激しく転がり、気を失ったのか、そのまま動かなくなった。
「ひどい……」花子は顔を上げ、低い声で呟いた。それからブサシを睨みつけ怒鳴った。「結局、あなたも力馬鹿って事じゃない!」
……おいおい、責任の一端はその小芝居にもあるんじゃないのか。花子に向かってそう思うコーイチだった。
「うるせぇ!」
「うるさくないわよ!」
二人は再び睨み合う。
「……で、花子さん……」洋子が恐る恐る花子に話かける。花子は洋子に顔を向ける。「……刀、どうするんですか?」
「……そうねぇ……」花子は手にした木の棒をしげしげと見て、ため息をついた。「仕方ないわね……」
「お? 負けを認めるか?」ブサシが機嫌良さそうに言う。「サムライはあきらめも肝心だ」
「そんなの聞いたことないわよ!」花子は言うとブサシを睨みつける。「勝手な事ばかり言うんじゃないわよ!」
「じゃ、花子さん、どうするんです?」言い返そうとしたブサシより先に洋子が言った。「まさか、その木の棒で……」
「う~ん、それはさすがに無理ね」
「だったら、あきらめて、オレの勝ちだな!」
花子は、鼻息の荒いブサシをちらっと見てから、周りのサムライたちに声をかけた。
「すみませ~ん」
途端にサムライたちが一斉に花子を見る。ブサシは苦々しい表情を作った。
「あれと同じものを持って来て欲しいんですけど……」
花子は指差した。その先には、ブサシが腰に差している刀があった。
「おいおい、それは無茶だよ、花子ちゃん!」
「花子様! お気を確かに!」
「そんな物より、わたしを指差してよ~ん!」
口々に様々な声が飛び交った。
花子はすっと右手を上げた。声がぴたっと止み、しんとなった。
「同じ刀はあるの?」
皆、ばらばらだったが、うなずいている。
「それなら……」花子はにっこりと笑顔を作った。「持って来て。お・ね・が・い。うふっ♡」
サムライ数十人が駆け出した。
ブサシは花子の表情を見て、からかうように言った。
「あなたねえ……」花子はブサシを睨みつける。「あなたにはそのお化け刀があるけど、わたしはこれよ!」
花子は腰から木の棒を引き抜いた。
「これで、どうやって勝負するのよ!」
「知らねぇなぁ……」ブサシは無精髭の伸びたあごを撫でながら言う。「でも、それを何とかするのが、お前の『十文字流』じゃねえのか?」
「……あなたって、お馬鹿さんの極みね!」
花子が呆れたように言う。……僕もこのセリフを言われたぞ。言われるのはイヤだが、聞くのは良い気分だな。コーイチは思った。
「な、何だとぉぉぉぉ!」ブサシは顔を真っ赤にし、柄にかけた右手を動かし、刀の鯉口を切った。ジャキンと鳴った金属音が恐ろしい。「サムライを愚弄するとは、死を覚悟することだぞぉぉぉぉ!」
「なに熱くなってんのよ!」花子はブサシの怒りを平然と受け止める。「そもそも、木の棒で物を斬るなんて、物理的に無理じゃない! そんな事もわからないわけぇ?」
「ふん!」ブサシは柄から手を放した。するりと刀が鞘に収まった。「さっきも言ったろう? 言い訳はサムライの恥だ」
「じゃあ、あなたは、失敗するのがわかっているのに、木の棒で釣り鐘を斬らせようってわけぇ? しかも、こんなか弱い乙女を、こんな大勢の前で恥かかせて、笑いものにしたいってわけぇ? ……ひどい、ひどいわあ!」
花子は両手で顔を覆った。肩を小刻みに震わせている。「うっ、うっ」と嗚咽が覆った手の間から洩れている。
……え? 泣いてる? 驚いたコーイチは花子を見た。花子はコーイチに顔をちらっと向けた。ウインクしながら舌を出し、にやりと笑っていた。……なんだ、芝居か。ほっとしたような、残念なようなコーイチだった。
「花子様! これをお使いください!」
サムライの中から一人飛び出してきて、鞘ごと刀を差し出した。
「おう、お前!」ブサシがサムライの胸ぐらをつかんで持ち上げた。「このブサシ様の前で、いい度胸じゃねえか! あ?」
「いえ、これではあまりにも花子様が不憫で……」
「やかましい!」
ブサシはサムライを放り投げた。サムライは地面を激しく転がり、気を失ったのか、そのまま動かなくなった。
「ひどい……」花子は顔を上げ、低い声で呟いた。それからブサシを睨みつけ怒鳴った。「結局、あなたも力馬鹿って事じゃない!」
……おいおい、責任の一端はその小芝居にもあるんじゃないのか。花子に向かってそう思うコーイチだった。
「うるせぇ!」
「うるさくないわよ!」
二人は再び睨み合う。
「……で、花子さん……」洋子が恐る恐る花子に話かける。花子は洋子に顔を向ける。「……刀、どうするんですか?」
「……そうねぇ……」花子は手にした木の棒をしげしげと見て、ため息をついた。「仕方ないわね……」
「お? 負けを認めるか?」ブサシが機嫌良さそうに言う。「サムライはあきらめも肝心だ」
「そんなの聞いたことないわよ!」花子は言うとブサシを睨みつける。「勝手な事ばかり言うんじゃないわよ!」
「じゃ、花子さん、どうするんです?」言い返そうとしたブサシより先に洋子が言った。「まさか、その木の棒で……」
「う~ん、それはさすがに無理ね」
「だったら、あきらめて、オレの勝ちだな!」
花子は、鼻息の荒いブサシをちらっと見てから、周りのサムライたちに声をかけた。
「すみませ~ん」
途端にサムライたちが一斉に花子を見る。ブサシは苦々しい表情を作った。
「あれと同じものを持って来て欲しいんですけど……」
花子は指差した。その先には、ブサシが腰に差している刀があった。
「おいおい、それは無茶だよ、花子ちゃん!」
「花子様! お気を確かに!」
「そんな物より、わたしを指差してよ~ん!」
口々に様々な声が飛び交った。
花子はすっと右手を上げた。声がぴたっと止み、しんとなった。
「同じ刀はあるの?」
皆、ばらばらだったが、うなずいている。
「それなら……」花子はにっこりと笑顔を作った。「持って来て。お・ね・が・い。うふっ♡」
サムライ数十人が駆け出した。
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