「おっと、こりゃあ、大変だ」
林谷が、もうすでに人囲いの出来ている老婦人の方へ向かって、走って行った。
「驚いたな、来て下さるとは思っていなかったのに……」
西川も急ぎ足でそちらへ向かった。
「さ、みんなでお出迎え、お出迎え、OK?」
社長がパンパンと手を打ち鳴らし、重役たちと共に行った。
「わたしたちも行ってみましょうか」
清水が言うと、聞かれたわけでもないのに、名護瀬が「分かりました。ついて行きます!」と大声で返事をして、清水の後に従った。
「京子さんも行ってみない?」
逸子が言って京子を見る。
「先に行ってて。ちょっと用があるから」
京子が笑顔で答えると、逸子も笑顔でうなずき、先に行った。
静世たちはいつの間にかその場から立ち去っていた。コーイチとの「ツーショット(コーイチより上であると言う設定に限定されているが)」が見られなくなってしまうので、岡島への興味が薄れてしまったらしい。口ではなんだかんだ言っても、岡島一人には、それほど魅かれていないのかも知れない。
岡島はいつの間にか老婦人を迎える輪の中に加わっていた。社長達が出迎えるほどの人物ならば、きっと大物に違いない。ここで顔を売っておけば、後々のプラスになるだろう、岡島はそう考えたに違いない。……問題は、顔の売り方だ。
結局、その場に残ったのは、ちょっと用があると言った京子と、移動するタイミングを逃したコーイチの二人だけだった。コーイチと京子は向かい合う形で立っていた。
「あ、あー……」コーイチは笑顔で見つめてくる京子の視線を照れくさそうにかわしながら言った。「用事ってのを、早く済ませておいでよ」
「あら、用事なんて、無いわ」京子は笑顔で続けた。「コーイチ君と、二人っきりに、なりたかったの!」
「え、ええっ!」コーイチは思わずにやけそうになる自分の顔を、むりやり強張らせた。「ど、どう言う、事…… かな?」
コーイチと京子は、仲良く手をつないで、青空の下、遥か彼方まで続くお花畑の中を、楽しそうに笑い声を立てながら、スローモーション風に駆け巡っていた。走りながら京子の方を向くと、そのたびに、京子の服は、赤いふわふわしたブラウスにミニスカートだったり、白いミニのチャイナ服だったり、赤いドレスだったりした。しばらく走り続けて立ち止まる。ちょっと乱れた呼吸も、充実したコーイチには快い。赤いドレスを着た京子は、周りのどの花よりも美しく、可愛らしく見えた。やがて二人の呼吸も整い、そのまま見つめ合う。そして、どちらからともなく近付いて……
「コーイチ君! 何考えているの?」
京子が不思議そうな顔でコーイチを見ていた。
「え、いや、あの、その……」
コーイチはあわてて言葉を濁した。……まずい、こんな所で行き過ぎてしまった。
「あ、そうそう、実はお話があるのよ。……色々脇道へ逸れてしまって、ちゃんとお話ができなかったでしょ?」
京子はずいっとコーイチに近付き、耳元に口をくっつけんばかりにして囁いた。京子の吐息が軽くかかる。
「ノートの事、よ……」
途端に、コーイチは現実に引き戻された。そうだった、あのノート(そのせいで、と言うか、おかげで、と言うか、京子に会えた。それはそれで嬉しいとは思うが)、一体何なんだ!
「そうだ、ノートだ。教えてくれ!」
コーイチは言って、京子を見つめた。
「あのノート……」京子はゆっくりと続けた。「わたしのペット……」
「おおい、コーイチ君!」
林谷が手を振りながら戻って来た。そして、コーイチと京子を見てにっこり笑った。
「お楽しみ中、申し訳ないんだけど、西川新課長が、営業四課全員集合って言ってるもんで、悪いけど来てくれないかな。もちろん、京子さんもご一緒にどうぞ」
また話が途切れてしまったか…… コーイチは思いながら、林谷について行った。
つづく
林谷が、もうすでに人囲いの出来ている老婦人の方へ向かって、走って行った。
「驚いたな、来て下さるとは思っていなかったのに……」
西川も急ぎ足でそちらへ向かった。
「さ、みんなでお出迎え、お出迎え、OK?」
社長がパンパンと手を打ち鳴らし、重役たちと共に行った。
「わたしたちも行ってみましょうか」
清水が言うと、聞かれたわけでもないのに、名護瀬が「分かりました。ついて行きます!」と大声で返事をして、清水の後に従った。
「京子さんも行ってみない?」
逸子が言って京子を見る。
「先に行ってて。ちょっと用があるから」
京子が笑顔で答えると、逸子も笑顔でうなずき、先に行った。
静世たちはいつの間にかその場から立ち去っていた。コーイチとの「ツーショット(コーイチより上であると言う設定に限定されているが)」が見られなくなってしまうので、岡島への興味が薄れてしまったらしい。口ではなんだかんだ言っても、岡島一人には、それほど魅かれていないのかも知れない。
岡島はいつの間にか老婦人を迎える輪の中に加わっていた。社長達が出迎えるほどの人物ならば、きっと大物に違いない。ここで顔を売っておけば、後々のプラスになるだろう、岡島はそう考えたに違いない。……問題は、顔の売り方だ。
結局、その場に残ったのは、ちょっと用があると言った京子と、移動するタイミングを逃したコーイチの二人だけだった。コーイチと京子は向かい合う形で立っていた。
「あ、あー……」コーイチは笑顔で見つめてくる京子の視線を照れくさそうにかわしながら言った。「用事ってのを、早く済ませておいでよ」
「あら、用事なんて、無いわ」京子は笑顔で続けた。「コーイチ君と、二人っきりに、なりたかったの!」
「え、ええっ!」コーイチは思わずにやけそうになる自分の顔を、むりやり強張らせた。「ど、どう言う、事…… かな?」
コーイチと京子は、仲良く手をつないで、青空の下、遥か彼方まで続くお花畑の中を、楽しそうに笑い声を立てながら、スローモーション風に駆け巡っていた。走りながら京子の方を向くと、そのたびに、京子の服は、赤いふわふわしたブラウスにミニスカートだったり、白いミニのチャイナ服だったり、赤いドレスだったりした。しばらく走り続けて立ち止まる。ちょっと乱れた呼吸も、充実したコーイチには快い。赤いドレスを着た京子は、周りのどの花よりも美しく、可愛らしく見えた。やがて二人の呼吸も整い、そのまま見つめ合う。そして、どちらからともなく近付いて……
「コーイチ君! 何考えているの?」
京子が不思議そうな顔でコーイチを見ていた。
「え、いや、あの、その……」
コーイチはあわてて言葉を濁した。……まずい、こんな所で行き過ぎてしまった。
「あ、そうそう、実はお話があるのよ。……色々脇道へ逸れてしまって、ちゃんとお話ができなかったでしょ?」
京子はずいっとコーイチに近付き、耳元に口をくっつけんばかりにして囁いた。京子の吐息が軽くかかる。
「ノートの事、よ……」
途端に、コーイチは現実に引き戻された。そうだった、あのノート(そのせいで、と言うか、おかげで、と言うか、京子に会えた。それはそれで嬉しいとは思うが)、一体何なんだ!
「そうだ、ノートだ。教えてくれ!」
コーイチは言って、京子を見つめた。
「あのノート……」京子はゆっくりと続けた。「わたしのペット……」
「おおい、コーイチ君!」
林谷が手を振りながら戻って来た。そして、コーイチと京子を見てにっこり笑った。
「お楽しみ中、申し訳ないんだけど、西川新課長が、営業四課全員集合って言ってるもんで、悪いけど来てくれないかな。もちろん、京子さんもご一緒にどうぞ」
また話が途切れてしまったか…… コーイチは思いながら、林谷について行った。
つづく
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