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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第三章 窓の手形の怪 22

2022年01月07日 | 霊感少女 さとみ 2 第三章 窓の手形の怪
 校門前には、朱音としのぶが立っていた。他にはまだ誰もいない。寒い季節では無かったが、ぽつんと立つ二人の様子は寒そうだ。
「早く来過ぎよ」朱音がぶすっとしている。「六時前から立っているなんてさ。麗子先輩じゃないけど、美容に悪いわ」
「何を言ってんのよ。昨日は明るい顔でオーケーしたじゃない」しのぶが言う。すでに心霊モードだ。「早く来れば何か見えるかもしれないって思うじゃない? ほら、『早起きは三蔵法師』って言うし」
「それは『早起きは三文の徳』よ」朱音はため息をつく。「のぶ、少しは国語も勉強しなさいよ。バランスの良い勉強は大切だと思うよ」
「でもさ、国語って文字ばかりじゃない? わたし、数式や化学記号の方が好き。だって、ぱっと見ただけで分かるじゃない? 文字は読まなきゃ分かんないし」
「やれやれ……」
 呟きながら周りを見ると、アイと麗子が連れ立って現れた。朱音としのぶは二人に駈け寄り、頭を下げる。
「おはようございますぅ! アイ先輩、麗子先輩ぃぃぃ!」朱音としのぶは大きな声であいさつをする。「本日もよろしくお願いいたしますぅ!」
「ちょっと、声が大きいわよう」麗子が戸惑いながら言う。「ねえ、そうでしょ、アイ?」
 しかし、アイは満足そうにうなずいている。
「よしよし、お前らも、舎弟らしくなってきたな。後は会長をお待ちするだけだ」
「はいぃぃぃ!」
 朱音としのぶは再び頭を下げる。それから校門のところへ戻って行った。
「……アイ、良いの? あんな事をさせちゃって」麗子はアイに言う。「なんだか、不良の挨拶みたいじゃない」
「そんな事はないよ」アイはご機嫌だ。「挨拶はどんな世界でも基本だし、大切さ。可愛がられたきゃ、先ずは挨拶だ」
「まあ、そうなんだろうけど……」
 と、そこへ松原先生が現われた。
「あ、先生、おはようございます」麗子が挨拶をする。「……あら?」
 アイは「ちゅ~っす」と適当な挨拶をし、朱音としのぶはぺこりと頭を下げただけだった。
「ははは、おはよう、おはよう」松原先生は挨拶をされた事でご機嫌のようだ。「おや? 綾部はまだか?」
「あの娘は、時間通りに来たことなんてありません」麗子が言う。「そのくせ、一生懸命力を尽くしてやって来た感が満載なんです」
「おい、麗子、会長の悪口なんか言うなよ」アイが文句を言う。「それにまだ時間じゃない。もし遅れたとしても、待つのが舎弟の務めだ」
「……はいはい……」麗子は呆れる。「もう何にも言わないわ……」
 エンジンの爆音が聞こえ、それは止まった。しばらくするとさとみと百合恵が姿を見せた。アイと朱音としのぶは駈け出した。松原先生もだ。麗子一人取り残された。
 アイたちはさとみと百合恵に向かって「百合恵姐さん! 会長! おはようございますぅぅぅ!」と上半身を直角に折り曲げて大きな声で挨拶をする。松原先生は「いやあ、これはこれは、百合恵さん、おはようございます。その、何て言うか、女性実業家と言った感じですかねぇ。いやあ、お美しい」と、最後の一言が言いたいがために色々と付け足しをしながら百合恵に挨拶をする。
 さとみはどうしたものかと困惑し、百合恵は楽しそうににこにこしている。離れた所にいる麗子は向こうを向いて関係の無い振りをしている。
「ところで、百合恵さん、どうしてこちらへ?」松原先生が言う。「誰かから連絡でもあったんですか?」
「ええ、まあ、ちょっと……」百合恵は笑む。「気になる事がありまして、ご一緒させて頂ければと……」
「もちろんですよ!」松原先生はうなずく。無意識なのだろうが揉み手をしている。「ボクが案内します」
「ありがとうございます」百合恵は言うと、微笑む。「またお店にいらしてくださいね」
「もちろんです! そうだ、今日行こうかな?」
「ほほほ、面白い方ですわね」
 百合恵と松原先生は並んで校門へと進む。
「会長は百合恵姐さんと一緒だったんですね」アイが百合恵たちの後ろ姿を見ながら言う。「どうしてまた? さっき姐さんが気になる事があるっておっしゃっていましたが……」
「そうなの。気になるって言うか、深刻な問題なのよね……」さとみが言う。「何か分かれば良いんだけれどもね」
「会長」しのぶがぐいっとさとみに顔を寄せる。「霊体の皆さんに何かあったんですね?」
「え?」さとみは驚いてしのぶを見る。その顔は心霊モード全開で、かなりの圧があった。「そう、そうなのよね」
「何があったんです?」
「麗子の見立てた通り、恋する男女の霊が別れ別れになっていて、その原因になっている悪い霊が、みんなを困らせているって感じね」
「会長、そこの所を詳しく!」しのぶはきらきらした瞳をさとみに向ける。「その悪い霊って何をしでかしたんですか?」
「う~ん……」
「こら、しのぶ!」アイがドスの利いた声を出す。「会長が困っていらっしゃるだろうが! それに、会長が自らおっしゃるまで、舎弟は待つのが筋だ。そう教えただろうが!」
「は、はいっ! そうでしたぁ!」しのぶは直立不動になって大きな声で答える。そして、さとみに向かって直角にからだを曲げる。「出過ぎましたぁ! すみませんっ!」
 どうも、アイの教えが身に染みているらしい。さとみは苦笑する。だが、話をしないで済んだのでほっとする。校門から少し離れた所に、豆蔵たちがいるからだ。


つづく


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