百合恵はさとみの右手をつかんだまま歩き出した。その勢いにとんとんとんと、さとみは片足跳びを繰返した。そして、足がもつれたのか、その場にしゃがみこんでしまった。
「大丈夫?」さとみを立上らせた百合恵は、呆れたような表情で言った。「あなた、生身だと、相当鈍いみたいねえ・・・」
「・・・はい、すみません・・・」さとみはゆっくりと頭を下げた。「急に歩き出したものだから・・・」
「・・・」
百合恵は、じっとさとみを見つめた。さとみはその視線に戸惑って、おろおろと目を泳がせた。
「さとみちゃん・・・」
百合恵はさとみの肩にふわっと手を置いた。それから急にぎゅっと力を入れて、肩を握りしめた。
「いたたたたたた・・・」思わず、さとみは声を出した。身体をゆすって百合恵の手を振り払った。「何をするんですか・・・」
「そうそう、それでいいのよ」百合恵は満足そうな笑顔でうなづいた。「それが生身なのよ」
「はあ、そうなんですか・・・」
さとみは訳が分からないといった表情をして見せた。
そんな様子のさとみに、百合恵の笑顔が消え、真顔になった。さとみの前に歩み寄り、ぐっと顔を近づけた。思わずさとみはのけぞった。
「さとみちゃん・・・ あなた、このままだと大変なことになるわよ」
「どういう事ですか・・・」
「あなた、生身より霊体の方が楽だ、と思っているでしょう? 正直におっしゃい!」
「は、はい・・・」百合恵の迫力に押され、さとみは大きくうなづいた。「確かにそうです・・・」
「それじゃ、だめなの」百合恵は大きなため息をついた。「よく考えてみて? 生身より霊体が良いなんて、はっきり言って、死んでいるのと同じ事じゃない? どうかしら?」
「はあ・・・」
さとみは、おでこをぴしゃぴしゃ叩きながら、考えをまとめている。・・・確かに、霊体だと本当の自分になることが出来るし、人助けというか、霊体助けも行えるし、自分にはこれが一番向いていると思っているし。生身の身体はどうも苦手だわ。最近特にそう感じるわ。麗子と話すのも億劫だし、考えるのも、寝るのも、食べるのも、全部が面倒くさい。そう言えば麗子が「さとみ、最近痩せたんじゃない?」とか「寝不足?目の下が隈ってるわよ?」とか「いっつもぼうっとしてるけど、何考えているの?」なんて聞いてくるわ・・・
「・・・霊体的には、考えたり、寝たり、食べたりって、必要ないかもしれないけれど」百合恵はさとみの心を見透かしたように言った。「あなたは生きているの。生身の、それも若い、希望と可能性を持った身体を持っているのよ」
言い終えると、百合恵はさとみの右手をつかんだ。
「さあ、今度は引きずられるんじゃなくて、自分の意思で歩くのよ!」
百合恵はぐいと引っ張る。さとみは、やはりとんとんとんと片足跳びになった。
「・・・」百合恵は呆れた表情で、立ち止まったさとみを見た。「・・・ま、さっきみたいにしゃがみこまないだけ良しとするか・・・」
百合恵は気を取り直し、さとみを引っ張りながら歩き出した。さとみが片足跳びをしているのか、どたどたどたと歩いているのか、気にする様子を見せない。止まらないという事はついて来ているのだ、百合恵はそう思った。
つづく
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「大丈夫?」さとみを立上らせた百合恵は、呆れたような表情で言った。「あなた、生身だと、相当鈍いみたいねえ・・・」
「・・・はい、すみません・・・」さとみはゆっくりと頭を下げた。「急に歩き出したものだから・・・」
「・・・」
百合恵は、じっとさとみを見つめた。さとみはその視線に戸惑って、おろおろと目を泳がせた。
「さとみちゃん・・・」
百合恵はさとみの肩にふわっと手を置いた。それから急にぎゅっと力を入れて、肩を握りしめた。
「いたたたたたた・・・」思わず、さとみは声を出した。身体をゆすって百合恵の手を振り払った。「何をするんですか・・・」
「そうそう、それでいいのよ」百合恵は満足そうな笑顔でうなづいた。「それが生身なのよ」
「はあ、そうなんですか・・・」
さとみは訳が分からないといった表情をして見せた。
そんな様子のさとみに、百合恵の笑顔が消え、真顔になった。さとみの前に歩み寄り、ぐっと顔を近づけた。思わずさとみはのけぞった。
「さとみちゃん・・・ あなた、このままだと大変なことになるわよ」
「どういう事ですか・・・」
「あなた、生身より霊体の方が楽だ、と思っているでしょう? 正直におっしゃい!」
「は、はい・・・」百合恵の迫力に押され、さとみは大きくうなづいた。「確かにそうです・・・」
「それじゃ、だめなの」百合恵は大きなため息をついた。「よく考えてみて? 生身より霊体が良いなんて、はっきり言って、死んでいるのと同じ事じゃない? どうかしら?」
「はあ・・・」
さとみは、おでこをぴしゃぴしゃ叩きながら、考えをまとめている。・・・確かに、霊体だと本当の自分になることが出来るし、人助けというか、霊体助けも行えるし、自分にはこれが一番向いていると思っているし。生身の身体はどうも苦手だわ。最近特にそう感じるわ。麗子と話すのも億劫だし、考えるのも、寝るのも、食べるのも、全部が面倒くさい。そう言えば麗子が「さとみ、最近痩せたんじゃない?」とか「寝不足?目の下が隈ってるわよ?」とか「いっつもぼうっとしてるけど、何考えているの?」なんて聞いてくるわ・・・
「・・・霊体的には、考えたり、寝たり、食べたりって、必要ないかもしれないけれど」百合恵はさとみの心を見透かしたように言った。「あなたは生きているの。生身の、それも若い、希望と可能性を持った身体を持っているのよ」
言い終えると、百合恵はさとみの右手をつかんだ。
「さあ、今度は引きずられるんじゃなくて、自分の意思で歩くのよ!」
百合恵はぐいと引っ張る。さとみは、やはりとんとんとんと片足跳びになった。
「・・・」百合恵は呆れた表情で、立ち止まったさとみを見た。「・・・ま、さっきみたいにしゃがみこまないだけ良しとするか・・・」
百合恵は気を取り直し、さとみを引っ張りながら歩き出した。さとみが片足跳びをしているのか、どたどたどたと歩いているのか、気にする様子を見せない。止まらないという事はついて来ているのだ、百合恵はそう思った。
つづく
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