真っ先に姿を見せたのは竜二だった。得意げな表情だ。
「さとみちゃん! 百合恵さんに話をして、警察に来てもらったぜ!」
竜二に続いて、どかどかと、いかつい男たちが入ってきた。最後に百合恵が入ってきた。
さとみはあわてて霊体を身体に戻す。そうか、竜二が見えなかったのは、わたしがいつものように無視してたんじゃなくって、本当にいなかったんだ。さとみはそう思いながら、ぴしゃぴしゃとおでこを叩いた。
豆蔵が百合恵のもとに駆け寄り、揉み手をしながら状況を説明していた。百合恵は何度もうなずいている。
みつはぐったりしているももの上半身を起き上がらせて背後に回り、背中に喝を入れた。うめきながらももは目を開けた。竜二がももの傍に行く。
豆蔵の話を聞き終わった百合恵は、ぼうっと立っているさとみを抱きしめた。
「さとみちゃん、話は全部聞いたわよ。頑張って偉かったわね」
「いえ…… あの、頑張ってくれたのは、みんなやおばあちゃんです……」
百合恵の胸で顔がふさがれないよう、横を向きながらさとみは答えた。
私服の刑事たちが、倒れて動けないスガゲンや三人のボディガードを見て、救急車の手配をしている。
「このスガゲンって人、お父さんが実力者で、どうたらこうたら言ってましたけど……」
「まあね…… 動機はももちゃんが邪魔になったってところかな。ふざけた野郎だよねえ」百合恵は汚物を見るような眼差しで、泡を吹いて気を失っているスガゲンを見た。「でも、さすがに殺人はね。親父さんも、もうかばいきれなくなったみたいと言うよりも、もう愛想を尽かしたって感じじゃないかしらね」
「そうなんですか……」
「そう、証拠もぞろぞろ出て来たようだし……」百合恵はため息をつく。「隠蔽なんて考えなかったんでしょうね。何でも親父さんが後始末してくれていたからね……」
「おう、百合恵!」
丸刈り頭でごつい顔の中年男がポンと百合恵の肩を叩く。この現場の責任者のようだった。
「鈴木の旦那!」百合恵が振り返り、にこりとする。「今回はお世話様」
「いや、お前さんが連絡くれたから部下集めて来てみたんだが、こいつらをだれがやっつけちまったんだ?」
「さあねぇ……」百合恵は豆蔵を見ながら言う。「どっかの正義の味方じゃないのかい?」
「このスガゲンはともかく、三人のボディガードは凄腕だぜ。オレの部下が束になってもかなわねえ……」
「だから、正義の味方…… いや、悪の権化かもしれないねえ」
百合恵は楽しそうに笑う。確かに、楓じゃ悪の権化だ。さとみは思った。
鈴木はぼうっとした顔のさとみに気がついた。
「まさか、このお嬢ちゃんじゃねえだろうな?」鈴木はさとみの顔を覗き込むように身をかがめた。さとみはギュッと百合恵にしがみつく。「……お嬢ちゃん、そんなに怖がらなくてもいいじゃねえの」
「旦那の顔は破壊力あるから、仕方ないさ」百合恵は笑う。「それに、さっきも言ったけど、この娘とあの娘は私の連れだから、見逃してもらうよ」
百合恵は突っ立ったままのアイを指さす。まだ意識が戻っていない。刑事たちが不思議そうな顔でアイを見るが、関わりになりたくないのか、すぐに離れて行く。
「……おやおや、立ったまま気を失しなうとは、器用な娘だねえ」百合恵は言いながらさとみから離れ、アイに近寄る。「さあ、終わったよ!」
百合恵は言うと、アイのお尻を思い切り叩いた。
「うわああっ!」アイは叫ぶと、飛び上がった。きょろきょろと周囲を見回す。真っ先にさとみに眼が行った。「姐さん!」
アイはさとみに駆け寄る。ぼろぼろと涙を流している。
「姐さん! すみません…… しばらく意識が無くなっちまって……」
「いいのよ、アイ」さとみは優しく言う。「あなたのおかげで全部解決よ!」
「解決って…… わたしは何もしてませんけど……」
「いいの、いいのよ」
「姐さんがそうおっしゃるんなら、舎弟は詮索しません!」
アイは言うと深く頭を下げた。
「さ、二人とも、ここを出るわよ」百合恵がさとみとアイに言う。「ここはもう私たちのいる所じゃなくなったわ」
百合恵は二人の背中を押しながら玄関に向かった。
「じゃ、鈴木の旦那」百合恵は忙しそうに指示を出している鈴木に手を振った。「後はよろしくね」
「おう、こっちこそありがとな」鈴木も手を振りかえす。「また何かあたら、頼むぜ」
百合恵を先頭にさとみとアイが続く。
さとみは、一緒になって部屋を出て来た、ふらふらしているももに寄り添っている竜二、何気に百合恵を見る豆蔵、生身に憑いた霊を斬り伏せる技を模索しているみつたちを見ていた。
「みんな仲間……」
さとみは富の言葉を思い出していた。
つづく
「さとみちゃん! 百合恵さんに話をして、警察に来てもらったぜ!」
竜二に続いて、どかどかと、いかつい男たちが入ってきた。最後に百合恵が入ってきた。
さとみはあわてて霊体を身体に戻す。そうか、竜二が見えなかったのは、わたしがいつものように無視してたんじゃなくって、本当にいなかったんだ。さとみはそう思いながら、ぴしゃぴしゃとおでこを叩いた。
豆蔵が百合恵のもとに駆け寄り、揉み手をしながら状況を説明していた。百合恵は何度もうなずいている。
みつはぐったりしているももの上半身を起き上がらせて背後に回り、背中に喝を入れた。うめきながらももは目を開けた。竜二がももの傍に行く。
豆蔵の話を聞き終わった百合恵は、ぼうっと立っているさとみを抱きしめた。
「さとみちゃん、話は全部聞いたわよ。頑張って偉かったわね」
「いえ…… あの、頑張ってくれたのは、みんなやおばあちゃんです……」
百合恵の胸で顔がふさがれないよう、横を向きながらさとみは答えた。
私服の刑事たちが、倒れて動けないスガゲンや三人のボディガードを見て、救急車の手配をしている。
「このスガゲンって人、お父さんが実力者で、どうたらこうたら言ってましたけど……」
「まあね…… 動機はももちゃんが邪魔になったってところかな。ふざけた野郎だよねえ」百合恵は汚物を見るような眼差しで、泡を吹いて気を失っているスガゲンを見た。「でも、さすがに殺人はね。親父さんも、もうかばいきれなくなったみたいと言うよりも、もう愛想を尽かしたって感じじゃないかしらね」
「そうなんですか……」
「そう、証拠もぞろぞろ出て来たようだし……」百合恵はため息をつく。「隠蔽なんて考えなかったんでしょうね。何でも親父さんが後始末してくれていたからね……」
「おう、百合恵!」
丸刈り頭でごつい顔の中年男がポンと百合恵の肩を叩く。この現場の責任者のようだった。
「鈴木の旦那!」百合恵が振り返り、にこりとする。「今回はお世話様」
「いや、お前さんが連絡くれたから部下集めて来てみたんだが、こいつらをだれがやっつけちまったんだ?」
「さあねぇ……」百合恵は豆蔵を見ながら言う。「どっかの正義の味方じゃないのかい?」
「このスガゲンはともかく、三人のボディガードは凄腕だぜ。オレの部下が束になってもかなわねえ……」
「だから、正義の味方…… いや、悪の権化かもしれないねえ」
百合恵は楽しそうに笑う。確かに、楓じゃ悪の権化だ。さとみは思った。
鈴木はぼうっとした顔のさとみに気がついた。
「まさか、このお嬢ちゃんじゃねえだろうな?」鈴木はさとみの顔を覗き込むように身をかがめた。さとみはギュッと百合恵にしがみつく。「……お嬢ちゃん、そんなに怖がらなくてもいいじゃねえの」
「旦那の顔は破壊力あるから、仕方ないさ」百合恵は笑う。「それに、さっきも言ったけど、この娘とあの娘は私の連れだから、見逃してもらうよ」
百合恵は突っ立ったままのアイを指さす。まだ意識が戻っていない。刑事たちが不思議そうな顔でアイを見るが、関わりになりたくないのか、すぐに離れて行く。
「……おやおや、立ったまま気を失しなうとは、器用な娘だねえ」百合恵は言いながらさとみから離れ、アイに近寄る。「さあ、終わったよ!」
百合恵は言うと、アイのお尻を思い切り叩いた。
「うわああっ!」アイは叫ぶと、飛び上がった。きょろきょろと周囲を見回す。真っ先にさとみに眼が行った。「姐さん!」
アイはさとみに駆け寄る。ぼろぼろと涙を流している。
「姐さん! すみません…… しばらく意識が無くなっちまって……」
「いいのよ、アイ」さとみは優しく言う。「あなたのおかげで全部解決よ!」
「解決って…… わたしは何もしてませんけど……」
「いいの、いいのよ」
「姐さんがそうおっしゃるんなら、舎弟は詮索しません!」
アイは言うと深く頭を下げた。
「さ、二人とも、ここを出るわよ」百合恵がさとみとアイに言う。「ここはもう私たちのいる所じゃなくなったわ」
百合恵は二人の背中を押しながら玄関に向かった。
「じゃ、鈴木の旦那」百合恵は忙しそうに指示を出している鈴木に手を振った。「後はよろしくね」
「おう、こっちこそありがとな」鈴木も手を振りかえす。「また何かあたら、頼むぜ」
百合恵を先頭にさとみとアイが続く。
さとみは、一緒になって部屋を出て来た、ふらふらしているももに寄り添っている竜二、何気に百合恵を見る豆蔵、生身に憑いた霊を斬り伏せる技を模索しているみつたちを見ていた。
「みんな仲間……」
さとみは富の言葉を思い出していた。
つづく
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