新宿歌舞伎町。
日本一の繁華街。
不夜城。
眠らない街。
色々な呼ばれ方をする街で、勝男は働いていやがる。しかもたんまり金を稼いでいやがるのだ。許せないものがあるが、今は勝男を探す事に専念したい。
靖国通りを渡り、セントラル通りに入る。チャラチャラした軽薄そうな男が、歩く女に声を掛けているのが目につく。ウザい、ウザ過ぎる。軽い男に声を掛けられて、笑顔で答える女。こんな事だから、日本も戦争に負けてしまうのだ。
ドン……。
「あ、すんませんね~」
チャラ男がよそ見をしたまま、私にぶつかってきた。謝っているが、表面上のものだ。心の底から出た言葉ではない。ヘラヘラしやがって…。これは教育が必要だな。
「いてーじゃねえか、おらっ!」
黄金の膝蹴りをチャラ男の腿目掛けてぶち込む。
「うぎゃぁ~!」
大声を張り上げながら、チャラ男は地面に倒れ込んだ。辺りの人が一斉に注目する。仲間がいたら面倒だ。私は走って逃げようとした。
「待ちなよ、おっさん」
後ろから肩をつかまれた。振り向くと、二十台ぐらいの男が二人立っている。
「な、何ですか?」
「何ですかじゃねえよ。うちの人間にいきなり蹴りを入れやがってよ」
やっぱり仲間がいたのか……。
「いや、それはあのですね」
「言い訳してんじゃねえよ」
「いや、聞いて下さいよ。実はですね……」
話の途中で火花が散る。殴られたと分かったのは、尻餅をついてからだった。
「ひ、ひぃ……」
「ふざけてんじゃねえぞ、おっさんよ」
この暴力魔め。いきなり殴るなんて、任侠の風上にも置けない奴だ。
「ま、待って下さいよ」
この光景を見ている人は多いのに、誰一人止めに入る者はいない。薄情な街である。この場は、自分で何とか切り抜けないといけない。
「何が待って下さいだ?」
「は、話を聞いて下さいよ」
「何を聞くんだよ、あ?」
一発殴って余裕ができたのか、男は私の胸倉をつかんでくる。しめた、今しかない。
「実はですね……。うりゃっ!」
「うぉっ!」
至近距離なら私の間合いである。渾身の膝蹴りをお見舞いしてやった。
「テメー、この野郎!」
もう一人がつかみかかってくるのをすり抜け、私はコマ劇場へ向かって逃げ出した。
「待ちやがれ!」
そんな事を言われて待つ奴などいるものか。先日、私のだんごを食べて逃げた小学生を追い駆けたのと同じぐらいのスピードで、必死に逃げた。
怒鳴り声は次第に遠くなり、振り切ったのが分かるとその場に座り込んだ。
「ハァハァ……」
「あ、あの~、そ、そこに座られると困るんですが……」
座ったまま息を整えていると、背後から声を掛けられた。よく見ると、店の入り口の目の前にいる私。
「あ、すみません」
急いでどこうとすると、また声を掛けられた。
「よ、よっ君……」
振り返り顔を見ると、勝男が不思議そうな表情で立っていた。
「まったくおまえはよー……」
金を貸してくれなかった事。仕事も紹介してくれなかった事。私からの電話を着信拒否にした事。
私は勝男に怒鳴りまくった。申し訳なさそうな顔で頷くだけの勝男。ひと通り言い終えると、少しだけ落ち着いた。
ここは勝男が働いているゲーム屋の休憩室。店の入り口で怒鳴りだした私を制し、中へ入れられたのだ。さっきのチャラ男軍団に見つかるのも面倒なので、大人しく店の中へ入った訳である。
「ご、ごめんよ」
「ごめんで済んだら警察いらねえじゃねえか」
「よ、よっ君、い、一応ここはゲーム屋だからさ、け、警察って大きな声で言わないでよ」
小声でホールを振り返りながら、勝男はビクビクしている。
「ふざけんじゃねえって。だいたいおまえが……」
「お、お金なら貸すからさ。と、とりあえず三万ぐらいでいい?」
勝男は財布から福沢諭吉さんを三枚取り出して、目の前に置く。私は札を引ったくりながら言った。
「金でどうこうしようなんて、人としてどうかと思うぞ」
「ご、ごめん…。じゃ、じゃあ、ど、どうしたらいい?」
「そんなもん、自分で考えろや」
「こ、この間さ、し、知り合った女の子いてさ……」
「何、知り合った女?」
「う、うん。こ、今度二対二で飲もうって誘われているんだ」
「ほう、で?」
「よ、良かったらよっ君来る?」
「行くに決まってんじゃないのさ。で、いつ飲むんだい?」
持つべきものは友。私はこやつと友達で良かったと心の底から言える。
「ま、まだ決まってないんだけどさ」
「分かった。じゃあ、今日は勝男のところに泊まるから、作戦会議をしよう」
「え……」
「何だよ、嫌なのかよ?」
「わ、分かったよ。で、でもさ、ぼ、僕まだ仕事中だからさ。ま、漫画喫茶でも行って、じ、時間潰してきてよ。そ、そろそろ仕事に戻らないと怒られちゃうしさ」
ホールから『ターララ~』という電子音が聞こえてくる。これがこやつのいう月給四十五万の仕事か。ま、勝男の働いている店も分かったし、今は言う通りにしといてやるか。
「そうか、頑張ってな。じゃあ、漫画喫茶代も貸しといてくれよ」
「え?」
「おまえから行けって言い出したんだぞ。俺は行きたくもないのにさ。あと一万円ほど、貸しといてちゃぶだいよ」
「ま、漫画喫茶で一万なんて使わないでしょ?」
「何があるか分からねえじゃねえのさ。さっき勝男の財布見たら、たんまり入ってたじゃないのさ。俺は今、非常に困ってる訳だよ。それをそんなケチケチしてると、地獄に落ちちゃうかもよ?」
「わ、分かったよ。そ、そのかわりちゃんと返してよ」
「当たり前だろ」
こやつが仕事をちゃんと紹介してくれたらな。私は心の中で呟いた。
「じゃ、じゃあ仕事終わったら電話するから……」
「ちょっと待て。今、着信拒否を解除しとけ。じゃないと、店まで押し掛けるからな」
「わ、分かったよ」
そんな訳で軍資金四万を手にした私は、勝男の店から出た。
まずは胃袋を満たさないとな。この街は様々な店がある。牛をかっくらってもいいし、豚をしばいてもいい。魚類を詰め込んでもいいな。
ここしばらくカップラーメンだけという粗食生活だったから、今日ぐらい素敵な食べ物を食べてやろう。
近くにあった寿司屋に入り、レモンサワーを頼む。
「らっしゃい。何握りやしょ」
「う~ん、トロを」
「へい」
捻りハチマキ職人は、何故か首を右斜め四十五度に傾けながら寿司を握っていた。こんな奴にうまい寿司など握れるのだろうか。まあ大した事なかったら、料金を踏み倒してやればいい。
「へい、トロお待ち」
男らしく手づかみでトロを食べる。む、うまい……。
「あ、あとハマチ。それとエンガワ」
「へい」
なかなか新鮮でいいネタを使っている店だ。舌鼓を打ちながら、私は満足して店を出た。腹が満たされれば、自然と性欲も湧いてくる。前に勝男と行った裸でエプロンの店にでも行ってやるか。まだ私の手持ちは三万円もあるのだ。
今日こそはあの『アヤ』という女のパイオツを揉みしだき、ベロベロに舐めてやろうじゃないの。想像しただけで股間が熱くなる。
「ゲッ……!」
私は慌てて自動販売機の横に身を隠した。先ほど膝蹴りをぶち込んだチャラ男三人組が、道路の真ん中で辺りを見回している。ヤバイヤバイ……。
一人ぐらいなら膝蹴り一発で終わるが、三人相手は無謀である。これは真っ直ぐ漫画喫茶へ行けという神の啓示だろう。それが天命というなら私は素直に従うさ。そんな訳で駅前の漫画喫茶へ向かった。
漫画喫茶の個室へ着くと、私はドリンクを取りに行く。ディスペンサーの前で何をしようか迷っていると、後ろで待っていた男がイライラしながら「早くして下さいよ」と抜かしてくる。人がコーラにするか、それとも烏龍茶にするか考えているのに何て無粋な野郎だ。
仕方なくコーラをグラスに注ぎだすが、烏龍茶も飲みたい。そうだ。どうせ飲み放題なのだ。私はコーラを注ぎ終わると、烏龍茶も注ごうと別のグラスをとった。
「あの~、いけないんですよ?」
後ろのイライラ男が声を掛けてきた。
「何がいけないの?」
「ドリンクは一人一つまでって、そこに書いてあるじゃないですか。あなた、目が見えないのですか?」
まったくこのクソが。こういう輩は小学時代、きっと何かあるとすぐ先生に言いつけるチクリ魔だったに違いない。とんでもない奴だ。
「そんなの知ってるよ!いちいちうるせえ奴だな」
「知ってて何故、そのような行為をするんですか?」
店の人間に言われるならまだしも、おまえには何の関係もないだろうが……。
「あんた、少し黙りなさいよ。うるさいよ」
「都合が悪くなると、怒って誤魔化す訳ですね。いいですか?ドリンクは一人一杯まで。それがここの常識なんですよ。お分かりですか?」
「うるせー、このチクリ魔が!」
思わず出る黄金の膝蹴り。
「うぎゃぁ~!」
チクリ魔は、足を押さえながら倒れた。ふん、ザマーミロってんだ。しかし、騒ぎを聞きつけ、店員が来るだろう。この場にいるとまずい。私はさり気なくカウンターへ行き、会計を済ませて漫画喫茶を出た。
まったく何て街だ。この温厚な私が、今日だけで三人に膝蹴りを見舞ってしまう現実。それだけ悪党が多いという証拠でもある。
それにしても私の膝蹴りの威力は素晴らしい。一撃必殺とはこの事を言うのだろう。私がその気になって道場を開いたら、門下生がドッと押し寄せてくるに違いない。その場合、道場名をどうするかがテーマだな……。
『道場 膝蹴り』……。いや、これじゃそのまんまだ。『道場 李書文』……。これじゃ中国拳法と間違われてしまうか。『五木善行の道場』……。いまいちパッとしないな。
喫茶店に入り、コーヒーでも飲みながらゆっくり考えるか。
ん、音楽が聞こえる。薄っすら目を開けると、目の前で携帯が鳴っていた。勝男からの着信だった。喫茶店でコーヒーを飲んでいる内に、睡魔に襲われ寝てしまったようだ。
「はい、もしもし」
「あ、よ、よっ君。か、勝男だけど、し、仕事終わったよ」
「そうか。じゃあ、今から店の前まで行くよ」
ずいぶんと寝ていたのか時計を見ると、朝の六時になっている。こんな時間まであいつは働いているのか。
私たちは店の前で合流すると、勝男のマンションへ行った。
「さっき言ってた飲み会だけどさ、女の写真とかないの?」
「しゃ、写真なんてないよ。こ、この間知り合ったばかりだし……」
「可愛いの?」
「か、可愛いよ」
「ほんとかよ?だいたいどこで知り合ったんだよ?」
「と、陶芸教室で」
「陶芸?おまえの趣味はいまいち分からんな」
こやつ、顔に似合わず訳の分からん事をしおってからに。
「べ、別に僕の自由じゃないか」
「いつ、飲み会やるんだ?」
「い、いつって……」
「こういう事はよ。素早く動かなきゃいけないもんなんだよ。分かるかな、その辺?」
「わ、分かるかなって、そ、そんなの勝手だよ」
「馬鹿野郎!じゃあ、何か?俺様がずっとそれまでここに居座ってもいいのか?」
「な、何でそうなるの?」
「おまえがもったいぶるからだよ」
「も、もったいぶってなんか……」
「じゃあ、今電話しろ」
「む、無理だよ。ま、まだ朝の六時だよ?」
「じゃあ、今日の何時に連絡するんだ?」
「と、とりあえず寝るからさ、お、起きてからでいいでしょ?」
「いや、駄目だ!俺は散々寝たから眠くない」
「ひ、酷いなあ~」
「とりあえず時間だけ決めろよ。そしたらその時間になったら、俺が起こしてやるからさ」
「……」
「早く時間を言えよ。何時になったら電話するんだよ?」
「じゃ、じゃあお昼」
「昼って何時だよ?」
「い、一時でいいでしょ?」
「分かった。それまで寝ていいぞ」
ふて腐れ気味に勝男は私に背を向けて横になる。まったくふてぶてしい男だ。同級生じゃなかったら、とっくにこの膝の餌食にしているところだ。私に感謝しやがれ。
今日は色々な事があったな。
まず彼女と約束があったから、イトーヨーカドウまでわざわざ出向く。
夜の八時に彼女の仕事が終わるから、それまでオナニーを我慢しながら寝る。気がつくと、九時になっていたので彼女のマンションまで向かう。
どんなご馳走が出るかと期待していると、あやつはご飯に半熟の目玉焼きのみしか出さなかった。しかも、目の前で醤油をダバダバ掛けやがったのだ。
怒った私は皿を引っくり返して、勝男を探しに新宿歌舞伎町まで出た。
セントラル通りでチャラチャラ三人組に絡まれたが、この黄金の膝蹴りを二発も繰り出し窮地を脱出する。
多勢に無勢なので、逃げて休んでいたところが偶然にも勝男の働く店だった。
私は勝男から金を借り、寿司を食べる。
その後、漫画喫茶へ行くが、訳の分からないチクリ魔野郎がイチャモンをつけてきやがった。そこでも膝蹴り一閃。
普通の深夜喫茶に入り、コーヒーを飲みながら寝てしまう私。起きてから勝男を合流って感じか……。
ここまでくると、人間というよりも超人だ。何故世のマスコミは、私にスポットライトを当てようとしないのだろうか?不思議でならない。
さて、昼まで何をして時間を潰すか……。
勝男の部屋は、よく言えばシンプル。悪く言えば何もない。お決まりのテレビとDVDプレイヤーぐらいしかないのだ。
「ガーガー……」
鼾を派手に掻きながら下品に寝おってからに。あまりにも鼾がうるさいので、私は勝男の鼻を指で摘み、ギュッと捻ってやった。
「う~ん……」
苦しそうな表情を一瞬だけ見せるが、起きる気配はない。鼾のうるさい奴は鼻を捻ってやると、不思議と掻かなくなるのだ。
特にする事もないので、しばらく勝男の寝顔を眺めていた。まったく惚けた男である。半開きの口から涎が垂れていた。
いい事を思いついたぞ……。
私はグラスに水を入れ、寝ている勝男の口に少しずつ流し込んだ。
「う……、ゴ、ゴホッ……」
「ギャハハ」
なかなか面白いものだ。始めの内は水が口内に溜まり、このまま溢れてしまうのではないかと心配になった。しかし、『ゴホッ』と、勝男が咳き込むと、トイレの水が流れるように喉の奥へと吸い込まれていく。何度か咳き込んでいたが、勝男はそれでも起きなかった。
暇だ。とても暇だ。私はタンスの引き出しを開け、何か面白いものを隠していないか調べる事にした。
「おっ!」
早速ブツが見つかった。『漏らしちゃイヤン!』というタイトルのDVD。勝男の奴、こっそりとこれをおかずにして、寂しい日々を過ごしているのだろう。
勝男がぐっすりと寝ているのを確認すると、私はDVDを観てみる事にした。
『あん、漏れちゃう。そんな事したら、漏れちゃうよぉ~……』
「何だ、こりゃ……」
なかなか可愛い顔したAV女優。観ていて妙に熱くなるものがあった。気付けば私の股間はギンギンである。
「ガーガー……」
横で鼾を掻きながら熟睡する勝男。私は出来る限り音を立てないようにしてズボンを脱いだ。昨日からオナニーをずっと我慢しているのだ。こんなものを見せられたら溜まったもんじゃない。
起きるなよ……。
横目で勝男の様子を伺いながら、私はパンツも脱ぐ。
『ほらほら、もうこんなになっているじゃないか』
『駄目!恥ずかしい……』
何、そこで手を止めているのだ。やれ、そこだ。もっと攻めろ。
いい掘り出し物だ。勝男の奴、いい趣味をしているじゃないか。ヤバイ、テッシュはどこだっけ?
下半身裸状態で部屋をうろついていると、「な、何をしてんの、よ、よっ君……」と背後から声が聞こえた。振り向くと、勝男が目を丸くしながら私を凝視している。
「いや、これはだね……」
「ちょ、ちょっと勘弁してよ。た、頼むからさ」
「馬鹿者、何をおまえは勘違いしているのだ。これはだね……」
「ど、どうでもいいから早くパンツぐらい履いてよ」
「あ、ああ……」
それから私たちは終始無言のまま、時間だけが過ぎていった。
勝男が知り合いの女と連絡をとり、飲み会の日にちが決まった。
「の、飲み会は、あ、明日の夜九時に決まったからさ」
職なし金なしの私は、それまで勝男のマンションでやっかいになる事にした。夜になると、勝男はゲーム屋へ働きに出るので、その間を見計らい、奴の秘蔵DVD『漏らしちゃイヤン!』をじっくり堪能する。誰もいない自由な空間でのオナニーは気持ちいいものだ。
翌日になり、私と勝男は飲み会へ出掛けた。
場所はどこにでもありそうな普通の居酒屋。もうちょっと洒落たところにすればいいものを……。
生ビールを注文して先に飲んでいると、二人の女性が笑顔で近づいてきた。
「どうも~、勝男く~ん」
勝男が陶芸で知り合ったという女性は、なかなか可愛い。横にいる子もタイプは違うが美人である。
「あ、た、環ちゃん」
「紹介するね。友達の清美ちゃん」
「こんにちは、清美です。はじめまして」
ぺこりとお辞儀をする姿に、私の胸はきゅんとなった。ひょっとしてこれは運命の出会いじゃないだろうか?
「勝男さん、環と一緒のところで陶芸をしているんですよね?」
「う、うん。な、なかなか難しくてうまく作れないけどさ」
「みんな、最初は誰だってそうよ。勝男君、いいセンスしてると思うよ」と環。
どうでもいいけど、早く私を紹介しろよ。三人で盛り上がりやがって……。
「私も今度、陶芸やってみようかな?」
「あらあら、散々私が今まで誘っても、興味ないのにどういう風の吹き回しかな?」
「だって何だか面白そうじゃない、陶芸ってさ」
「えへへ……」
だらしなくニヤけている勝男の横っ腹を軽く突く。はよ、私を紹介せんかい。
「あ、しょ、紹介するね。ちゅ、中学時代の同級生の五木善行君」
「はじめまして、五木です」
「はじめまして~」
環に清美か、へへへ……。
どうでもいい雑談をしながら、私は妄想の中で二人を弄び犯しまくった。場も盛り上がり、清美がほろ酔い状態になった時を見計らい、アドレスを聞いてみる事にする。
「清美ちゃんさ、良かったらアドレス交換しない?」
「うん、いいよ」
こりゃうまく行きそうだ。私は清美のメールアドレスを登録すると、空メールを送る。
「届いたよ。善行君ね」
「今度、メールしていいでしょ?」
「構わないよ」
新しい恋の予感。勝男も環と二人で盛り上がっているのを横目に、私は勝手に未来絵図を描いていた。
え、彼女はどうするって?目玉焼きを半熟にして醤油をぶっ掛ける女なんて、どうだっていいわい。私は清美と生涯を楽しく過ごすのだ。
飲み会が終わり地元に帰る。寝て起きてから、早速私は清美にメールを打った。
『昨日は楽しかったよ。近い内、おいしいものでも食べに行こうね。 善行』
送信してから、少しシンプル過ぎたかなと思った。これから愛を育むのに、もうちょっと洒落た言葉を添えたっていいんじゃないのか……。
『今だから言えるけど、実は初対面で君にあった瞬間、体中、電撃が走ったんだ。おいしそうに食べる君を見て、こういう子となら幸せな時間を築いていけるだろうって確信したんだ。 善行』
ふふふ、清美はこのメールを見て、赤面しているだろうな。俺も罪な男だ。次回デートする時は、最初に唇を奪ってやろう。待てよ、この興奮を彼女に伝えたいな。そうなると、メールより電話のほうがいい。
私は清美に電話をした。しかし、何回鳴っても出ず、やがて留守電に切り替わった。
仕事中だったかな?まあいい。留守電に愛の言葉を吹き込んでおくか。
「あ、善行です。清美かい?メール見てくれたかな。俺は君にぞっこんだよ。英語で言えば、アイラブユーってところだね。ライクではなくラブ。こんな感情を持ったのは君が初めてだよ。また電話するね」
彼女があとになってこれを聞いたら、どんなに喜ぶだろう。いや、ひょっとしたら、留守電があるなんて気付かないかもしれない。メールで知らせておいたほうが親切だな。
『さっき電話したら留守電になったから、愛の言葉を入れておいたよ。 善行』
このペースで行けば、出会って二ヶ月ぐらいのスピード結婚なんて事になるかもしれないな、おほほ……。
あ、そうか。今度デートする際、清美の食べ物の好みを聞いておいたほうが親切でマメな人だって思うだろう。これもメールしとくか。
『清美の好みって何? 善行』
「あ、しまった……」
メールを送ってから気付く。清美の好みだけじゃ、何の事だか分からないな。もう一度打ち直しだ。
『さきほどのメールの訂正。清美の食べ物の好みって何?今度会った時の参考までに聞いておきたい。 善行』
これで、まったく隙のない完璧な男だな、私は……。
そういえば、勝男に仕事の斡旋頼むのをすっかり忘れていたな。幸せな家庭を築く為にも、私はそろそろ働かなければいけない。
意気揚々と立ち上がると、勝男のところからかっぱらってきたDVD『漏らしちゃイヤン!』が目に入る。
「今日はこれを見て、ぶっこいてから考えればいいか……」
私はズボンを脱ぎ、オナニー準備に差し掛かった。
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