2025/01/20 mon
前回の章
『餓狼GARO』時代の部下、渡辺から食事の誘いを受ける。
俺があの店からいなくなり、猪狩の独裁政権がより強固になったようだ。
俺がフォトショップを使い、作った店のデータの数々。
それらをそのままパクり、背景の色を変えただけのメニューなどを新たに入った新人へ「これは俺がデザインしたんだよ」と自慢げに見せているらしい。
それから恒例の『AKB48』とのツーショットピース写真を見せては、得意げに鼻を膨らませていると渡辺は苦笑する。
「谷田川さんが、岩上さんいなくなって猪狩さん休みの時に、店打ちをしたんですよ。それがバレて大騒ぎになりました」
渡辺の言う店打ち。
店の金を抜く行為の一つである。
バカラで本線のプレイヤーかバンカーのどちらが来るか張るニコイチ博打。
店打ちをする人間は、店が元々持っているポイントを各卓へクレジットとして振り分ける訳だが、対象はあくまでも客。
それを従業員が客になりすまし、店のポイントを使ってバカラをプレイしてしまう事を指す。
例えば一万円分の百ドルをプレイヤーに張る。
すると当たれば二万円になるので、そこで終了すれば日払い分プラス一万円の報酬という形になる。
それをコツコツ繰り返せば、小遣い稼ぎにはなるのだ。
しかし仮にバンカーが来て外れた場合は、どうするか?
その場合、次にまた今度は倍の二万円をプレイヤーへ張る。
外れても四万、八万、十六万と…、一万円から始めた場合、五回連続プレイヤーへ張り続ける訳だ。
何故十六万までかというと、ほとんどのインカジのバカラの張れる上限が二十万までだから。
ニコイチ博打…、プレイヤーかバンカーしかないのだから、五回連続でバンカーが来る確率は相当低い。
つまり五回に一度プレイヤーさえくれば負けないやり方。
これを倍々法を業界用語で呼ぶ。
以前ギャンブル好きな伊達に連れられる形で、インカジを覚えた谷田川。
給料だけじゃ生活できなくなり、店打ちに手を染めたのだろう。
比較的勝ちやすい倍々法であるが、もしすべて外れた場合とんでもない事になる。
合計三十一万円の負けとなるので、ダメージは大きい。
谷田川はそれで店打ちが発覚し、バレたようだ。
「それであいつはクビになったの?」
「ん-、それが給料を三ヶ月間半額って処置で、今も店で働いていますよ」
「一日一万二千が、半分で六千円…。一ヶ月だいたい二十五日働いたとして、十五万の罰金を三ヶ月かー。まあ谷田川が悪いんだけど、辛いね。まああいつに俺は同情なんてまったく無いけど」
「ほんと馬鹿ですよね…。普通に働いていればいいのに」
「あ、それでさ、ナベリン」
「はい、どうしました?」
「前に『8エイト』においでって言ったけど、変な奴が入ってきたから、やめといたほうがいいな。俺も何度かキレそうになるぐらい」
「岩上さんがキレるって、猪狩さんレベルですか?」
「レベル的には変わらないけど、種類が違う。猪狩を柔の馬鹿だとしたら、今のところのは剛の馬鹿って感じ」
我ながらいい表現だ。
柔の猪狩と剛の楊。
「うーん、それは何か嫌ですね…。自分も『餓狼GARO』をそろそろ辞めようと思ってはいるんですけどね」
「次どうするの?」
「池袋に知り合いいるんで、そっちのインカジへ行こうと思ってます」
俺たちはお互いの店の愚痴を言い合い、新宿をあとにした。
俺より先に『餓狼GARO』を辞めた伊達から連絡が入る。
「岩上さん、久しぶりです」
「伊達さん、今どこで働いているんですか?」
「前の店の先に『ポン』ってあるじゃないですか。そこを曲がった通りですよ」
「何だ、凄い近くじゃないですか」
「ええ、向かいが桃太郎寿司で、うちのビルの一階にケーキ屋さんが入っているので、そこの二階です。裏スロなんですけど、だいぶ落ち着いたんで連絡してみました」
「じゃあ仕事帰り、顔出しに行きますよ」
袂を別れても、相性の合う人間同士はこのように繋がる。
インターホンが鳴った。
入口のモニターを見ると、ゆのゆのの顔が映っている。
ドアを開け、中へ招き入れた。
「岩ちゃーん、久しぶり!」
「やめろ、店の中で」
ゆのゆののあとに、池田由香と佐藤あみの看護婦コンビも続く。
「岩ちゃんがあそこ辞めたって聞いてね、だからこっち来ちゃった」
『8エイト』には元々の常連客で太い客もいる。
百万単位で使う客の横で、ゆのゆのたちにキャピキャピやられたら堪らない。
「あのね…、向こうと違ってこっちは本当に太い客いるからさ…、あまり騒がれても困るんだよね」
「私たちがあまり使わないから駄目だって言うの!」
「いやいや、そうじゃなくて…、ゲームするのはいいんだけど、少し静かにやってくれるなら」
「そんなの当たり前でしょ! 私たちが岩ちゃんの顔を潰しに来るわけないじゃん」
「凄い広い店だねー」
「休憩するソファーとかまであるよ!」
俺は三人を席まで案内する。
みんなそれぞれマイクロで五万円ずつのIN。
キャッシャーへ向かい、ゆのゆのたちの名前とINを伝えようとした時、楊がホールへ出てきた。
「おー、可愛い子たちやなー。何や、岩ちゃんの知り合いか?」
「ええ…、前の店の客でして」
「キャバ嬢かいな?」
「一人はそうで、あとの二人は看護婦ですね」
「ほー、いいなー。ワイにやらしてくれんかのー」
「……」
客に聞こえたらどうすんだ、この馬鹿が……。
何を根拠におまえのような小汚いオヤジに、ゆのゆのたちが身体を許すと思うのだ。
本当にコイツは頭の中身がどうかしている。
「彼女たちにワイを紹介してーな、岩ちゃん」
「それよりも早くINを入れて下さい」
まだ何か話し掛けてきたが、俺は無視して彼女たちのドリンクを作る。
ゆのゆのたちの席へ飲み物を出すと「ねえ、岩ちゃん。まだクレジット入らないの?」と聞いてくる。
何をやってんだよ、あのオヤジ……。
キャッシャー室へ向かうとすると、楊はまだ外に出たまま妙にソワソワしている。
「なあ、岩ちゃん。ワイを彼女らに紹介してえな」
「楊さん…、彼女たちはここへギャンブルに来ているんですよ。待ってるんだから、早くINを入れて下さい」
コイツが来て、ヤバい店がよりヤバくなっている。
最初に入った『ボヤッキー』をまともに感じる自分が怖い。
話し掛けてくる楊を無視する形でホールへ出た。
「ねーねー、岩ちゃん」
ゆのゆのが俺を呼ぶ。
「何でしょう?」
「私たちの中だと、誰が一番タイプ?」
キャバ嬢で派手な化粧のゆのゆの。
化粧で誤魔化してはいるが、元々の顔の作りは淡白でのぺーっとした感じ。
スタイルは細身でいいが、胸があまり無い。
佐藤あみは、黒髪ロングヘアーでぱっと見清楚が感じがするが、三人の中で一番地味で暗い感じ。
一番の特徴は最も大きな胸を持っているというところか。
池田由香が一番この中で美人顔。
胸もそこそこあるし、性格もハキハキしている。
もし病院へ行った時、この子が看護婦で来たらラッキーと思うだろう。
「うーん、由香さん」
「えー、ちょっとそれって酷くない?」
「何で由香なの?」
「わーい、岩ちゃんにタイプって言われちゃった!」
「はいはい、ゲームをゆっくり楽しんで下さいな」
ここにいると、他の客たちへ騒音で迷惑になるので、俺はキャッシャー室手前に戻る。
「なんや岩ちゃん、自分ばっか楽しそうにしくさって」
「仕事で相手をしただけですよ」
「ワイも混ぜろ言うたら、いいやないか」
「だって楊さん、若い頃はあの程度のレベルなんかでなく、もっとゴージャスな女性連れて歩いていたんでしょ?」
自分で言っていて鳥肌の立つようなお世辞。
途端に楊の表情が笑みに変わる。
「ほう、ようワイの昔の事知っとんなあ、岩ちゃん。ワイが若い頃はな……」
楊が訳の分からない自慢話を右から左へ流しつつ、業務を終えた。
帰り道、伊達の働く裏スロット屋へ向かう。
『ポン』のところを右に曲がって、桃太郎寿司の向かい。
あ、ケーキ屋がある。
ここのビルの二階か。
入口にあるインターホンを押す。
防火扉が開き、伊達が顔を出した。
「久しぶりです。入って大丈夫ですか?」
「ええ、どうぞどうぞ。もう〆をして終わるところですから」
店内は細長く左側の壁と中央に、スロット台がズラリと並んでいる。
入って右手にトイレとキャッシャーテーブルカウンター。
「岩上さん、冷茶でいいですか?」
「あ、すみません。ありがとうございます」
伊達の説明から要約すると、従業員は彼一人でこの店を回しているらしい。
スロットは店が設定をするので、二十四時間営業はあり得ない。
しかも従業員は伊達一人なので、夜から朝方までの営業時間で、休みをまったく取れないようだ。
「一人で大変じゃないですか?」
「いやー、逆に猪狩とかああいう変な奴がいないから、気楽なもんすよ。岩上さんこそ『8エイト』はどうです?」
俺は曲者揚の話をしてみた。
「んー、何て言うか、岩上さんて店運がほんと無いですよね」
「店運?」
「たまたまその店で働いた時の面子っていうんですか? 『牙狼GARO』だと猪狩や青柳、今のところはその揚とかって変なのがいつもいるじゃないですか」
「確かに……」
「まともな経営者なら、あんな猪狩みたいなボンクラなんて店長にしないで、岩上さんにしてるはずですよ」
「まあそうじゃなかったから、結局ああなったんですけどね」
「あいつ、妙に変なところ細かいじゃないですか」
「例えば?」
「炒飯作るのにネギじゃなくて、玉ねぎを使ったら、そこをずっとネチネチ言ってきたり……」
「ああ、谷田川がハム野菜サンド作るのに、チーズ一枚入れただけで『岩上さん、谷田がハム野菜サンドにチーズを入れていたんですけど…』とかわざわざ言ってきてましたね。別にそんなのどうだっていいじゃねえかって」
「乞食客ばかり集めようとしたり」
「『ポン』の桜田に何度も平手打ちされて、何もできなかったくせに、早番の連中来たら『まあ蹴りは全部防いだから』とか」
俺たち以外誰もいない空間で、猪狩話で盛り上がり、二人で大笑いした。
揚の後輩の坂本という屯田兵みたいな奴が『8エイト』にやってきた。
それに伴い番編成を行う。
早番は新井社長、入江、山下。
遅番は俺に、揚、坂本、新人の松尾の四名。
俺の顔を見に来る客が、基本的に遅番の時間帯になるので、遅番にいたほうがいいだろうという社長の提案だった。
また揚と同じ番か……。
坂本という揚の後輩は、角刈り頭でサイコロの一みたいな小さな目をしているくせに、態度だけは妙に偉そうな奴である。
インターネットカジノの事を何も知らないので、基本的な事から教えた。
「何や、あの客、一万円しか使わんのか。九州の本チャンやったらなー……」
両腕を組みながら細い客を見ると、首を傾げながら呟く。
九州にいた頃は本チャンのカジノにいたらしく『8エイト』に来る客を小馬鹿にしている感じの嫌な性格。
九州の本チャンやったらなあと言うくらいなら、新宿へ来るんじゃねえよ、この田舎者がと、何度も怒鳴りつけてやろうと思うくらいだ。
前の店の客だった双子のゆかが、二人の知り合いも一緒に連れて来店してくれる。
「パパー、会いに来たよー」
「おう、ゆか。ありがとうね」
気分が良くない状況であったが、これでかなり気が紛れた。
気持ちが、とてもありがたい。
俺がいるからと顔を出してくれる客には感謝の気持ちで一杯だ。
キャッシャーでは楊が、俺の客のゲームの仕方をチェックしながらブツブツ文句を言い始める。
「何や…、五千円しか使わんと…、掛け金もしょぼいし……」
コイツ…、人が連れてきた客を悪く言いやがって……。
自分じゃ誰一人客を呼べもしないくせに。
感情的になりそうだったが、あえて聞き流し、聞こえないふりをするのが精一杯だった。
その後また前の店の太客が来てくれた。
高橋南である。
「岩ちゃーん、打ちに来たよ!」
この人は女性だが、かなり太い勝負をする。
最低でも五十万。
熱くなると、百万、二百万の勝負を平気でする客だった。
当然俺の接客対応もより慎重になるし、気を使う。
朝方になると、高橋南のみになった。
楊は眠くなったのか、いきなりキャッシャーから出てくると、巨大モニターのある休憩場所のソファーへ寝転んだ。
客がまだいるのに、それはさすがにないだろう。
内心怒りが湧くが、注意の仕様がない。
「岩ちゃん、ごめん。これから約束あるんだった。OUTしてもらえるかな」
「畏まりました。十三卓様マイクロ四千ドルOUT。十三卓様マイクロ四千ドルOUTお願いします」
結局南は十万負けの状態で、用事の時間が来た為、席を立つ。
チラッと休憩場所の方向を見ると、まだ揚は寝転がっている。
「揚さん! 十三卓OUTですよ!」
「何や…、面倒臭いのう……」
「お客さん待ってんだから、早くして下さい!」
南はそんな揚の対応を見て、呆れた表情で見ている。
OUTのお金を渡し、入口まで一緒に歩く。
帰り際本当に腹を立てていた。
「何なの、あいつ…、本当に失礼な奴だね~……」
「南さん…、本当にすみません。自分もよく分からないんですが、オーナーから頼まれて監視に来たって言う中国人らしいんですよね」
さすがに楊を庇う気にはなれなかった。
「そうなんだ…。でも、あれは酷いね。いないほうがマシなレベルだもん」
「ん~…、確かに仰る通りかと……」
「まあでも、岩上さんがこの店来たから、今日ここへ来ただけだしね」
「本当にすみません。気を使っていただいて」
「今度休み教えて。飲みに行こうよ」
「ええ、喜んで」
とりあえず笑顔で帰せたものの、店へ戻ると楊は面白くなさそうに「さっきのあの女は初めての客か?」と偉そうに聞いてきた。
「違いますよ! あの人はこの店では三、四年来ていただいているし、負け額もこの店だけで八百万円以上ですよ」
「ふ~ん……」
それだけ言うと、楊は両腕を頭に回し寝始めた。
早い内、この男を何とかしないと、本当に店がヤバいな……。
俺は一番いい打開策を練るべく、頭の回転速度を上げた。
俺の優先順位では、まず客ありき。
いくら上の人間だと言っても、店に迫害を与えている者を放置するわけにはいかない。
朝になって新井社長が来る。
社長の笑顔を見て、ようやく少しだけ笑顔になれた自分がいた。
この中国人の楊。
最初からちょっとした嫌悪感を抱いてはいたが、それが何故なのか自覚した。
自身の作品で言えば、『新宿クレッシェンド』の第六弾として執筆した作品『新宿リタルダンド』に出てくる北中そっくりなのだ。
雰囲気といい、性格といい……。
できればあの時のような血生臭い流れにならなければいいが……。
出勤してすぐ、新井社長が俺に声を掛けてくる。
楊の件だった。
早番の入江が、俺と楊の仲がいまいちなのを感じ取り、新井社長へ進言したらしい。
「岩ちゃんは店に必要な人材だったい。だから何とかしちょるから、もう少しだけ我慢してくれんかのう」
見ている人はちゃんと見てくれていたんだ……。
うん、ならまだまだ俺らしく頑張ろうと思う。
店内が久しぶりにノーゲストになり、俺は外へ出て客を拾いに行く。
『牙狼GARO』の太客の大半は『8エイト』へ流れた。
これ以上店を出た道路で立っていても、そう効果は無いだろう。
大久保病院の方向を歩く。
深夜なのでこの辺は人通りも少ない。
病院の目の前にある公園へ差し掛かる。
昔からこの辺りは立ちんぼが多い場所である。
一人の若い女が立ってこちら見ている。
「お兄さん、遊ぼうよ」
「ごめんごめん。俺、仕事中なんだよ」
「え、仕事中? 何の仕事なの? ホスト?」
「こんな四十のオヤジ捕まえて、ホストはないだろ。インカジだよ」
「え、インカジ? 私行った事ないや」
「なら、ちょっと店の中見てみるかい? コーヒーくらい出すよ」
「えー、行く行くー!」
女の子から声を掛けられたので、そのまま店へ連れて行く事になった。
マイクロのある様々な種類のギャンブルを教える。
「ちょっとやってみようかな。一万円からでも大丈夫?」
「うん、平気だよ」
そこへポン中の客、加藤明が入ってきた。
「あ、加藤さん、いらっしゃいませ」
「おう、元気でやってっか」
「はい、お陰様で」
「ねーねー、お兄さんー」
立ちんぼ女が呼んでいるので、加藤の接客を坂本へ任せる。
おそらくこの子は極度の寂しがり屋で、誰かと話していない落ち着かないのだろう。
何かにつけてキャッシャー室前にいる俺のところへ来ては、他愛のない話を振ってくる。
「はいはい、分かったから自分の席に戻ってね。俺も仕事があるから」
二十卓のチャイムが鳴る。
加藤明からの呼び出し。
「おい、さっきからあの女、ちょっとうるせえぞ!」
「すみません、加藤さん。その都度注意はしていますので……」
確かに加藤の指摘は当然なくらい、立ちんぼ女はウザかった。
声掛けてここへ連れてきたの失敗だったな。
俺が奥の席にいるフィリピン女性客集団に呼ばれている時だった。
加藤明がキャッシャー前までやって来て、いきなり因縁を付け出す。
「おい、あんなのを店に入れんなや!」
「ご忠告はありがたいのですが、客層は当店の判断により決めますので」
俺がそう答えると、加藤明の顔つきが変わる。
「おい、コラ! おまえ、人が親切で言ってやってんのによ……」
「大変申し訳ございませんが、あくまでも当店の判断によりますので」
「おまえよ…、俺はな……」
加藤明はいきなり俺の腹へ向かって手を突き出す。
見ると、右手には刃物が握られている。
「俺は、こうやって刺そうと思ったら、刺せる男なんだよ」
面倒臭い男だ。
「それは分かりました。この件でそうしたいのならどうぞ。その代わり、私もその後然るべき処置をとらせてもらいますから」
「どういう意味や?」
「ん~…、分かり易く言いますと、この程度の件でいきなり刺されたんでは、私も瞬間的に動く場合があるという意味でとってもらって構いません」
「おまえ、口の利き方には気をつけろよな?」
俺は加藤明の目の前に右の拳を突き出し、ボキボキと鳴らす。
「少しでも刃物が腹に刺さった場合、その瞬間この拳が顔面を潰す事もありますので……」
「テメー……」
「もしも私の口の利き方が気に障りましたら、それは素直に謝ります。ですが、私もこの店の人間になりますので、お客様の要望だけを聞くというわけにはいかないというのだけは、ご了承いただけませんか?」
「……」
加藤明は無言で睨み付けてきた。
「客の話し声が気になるようでしたら、その都度こちらで対応致しますので」
俺は満面の笑顔で話すと、諦めたのか自分の席へ戻っていく。
オーナーから店を任されていると豪語する楊は、その光景を見ていたが、何一つ動こうとしない。
加藤明が話し掛けると、愛想笑いをしながら応対するのが精一杯のようだ。
彼が自分の席に戻ると、坂本はまた両腕を組みながら「いやー、九州の本チャンやったら、あんな客はなー」と抜かす。
「だったら新宿なんか来ないで、そのまま九州にいりゃあいいじゃねえかよ」
何もしないくせに不満だけは一丁前の坂本に対し、怒鳴りつける。
それでキャッシャーから揚が出てきた。
「何や何や、何を大声上げとんねん」
何の役にも立っていないくせに、偉そうな態度の坂本の事を言う。
「岩ちゃん、コイツはな、ワイの後輩やで? 金を扱う商売でワイが信用できる人間が必要なんや」
遠回しに俺では金を扱うのを信じられないと言われたようなものだ。
これだけたくさんの客を『8エイト』へ引っ張ってきた俺に対して、揚は何一つ評価をしていない。
その後、理不尽な物言いを変わらずしていたので、俺は新井社長へ伝える事にした。
「今、自分が抜けるというのはさすがに迷惑になりますが、このままですと、他の店からも誘われていますので、そちらへ行こうかなと考えてはいます」
「岩ちゃん…、申し訳ない。ちょっと我慢したってくれんか?」
「もちろんすぐいなくなるというわけじゃないですから」
反社会的な不良三人組が来店。
「いらっしゃいませ」
「おう、早く席へ案内せいや」
まだ見た目二十代後半くらいな三人組。
「入れて、これ」
一人は百万円を出す。
残りの二人も五十万円ずつINをしてきた。
何か悪い事をしている集団なのだろうが、どんな稼ぎ方をしても金は金だ。
坂本や揚は怖かって反社三人組に近付こうともしない。
始めは態度悪く怒鳴りつけていた三人組も、ハキハキ対応する俺を見て「お兄さん、前にどこかでやっていたの?」と聞いてきた。
「どこかと言いますと?」
「いや、俺たちこの店来て数年経つけどさ、こうやってちゃゆと接客できる従業員って初めて見たからさ」
話せば、人間性はそんな悪い連中ではないかもしれない。
立ちんぼを店に招き入れ、それがきっかけで加藤明に腹へドスを突きつけられた。
最後は反社会的三人組。
嫌な一日だなと思ったけど、反社の一人がチップで俺に一万五千円をくれた。
三月に入る。
あれだけ寒かった気温も少しは緩和して、もうじき春が訪れようとしていた。
あかりからは相変わらず連絡がくる。
ストレスの溜まる仕事の日々。
このままでいいのかという焦りはもちろんある。
三月十四日、ホワイトデー。
あかりの誕生日とこのイベントが重なる。
「ねえ、少しでもいいから時間作って欲しいな」
「うん、俺もあかりと会いたいよ」
店で楊へ、十四日休みにしてくれとお願いする。
元々その日の休みは楊が入れていた。
「何で休むんや?」
「まあ、彼女と言いますか…、その子の誕生日も近いし、ホワイトデーなので」
「ああ、その日はワイが予定あるから無理やで」
「何とかなりませんか?」
「あー、無理やな」
何を言ったところで何も聞く耳すら持たない楊。
俺はあかりへ平謝りするしかなかった。
安い給料で働き、適当な扱いのされ方。
「私の存在って迷惑かな?」
「そんな事ある訳ないでしょ。とても大事に想っている」
言葉と行動が伴わない状況。
言い方を変えれば、あかりへの気持ちに対し、金と仕事状況がまったく釣り合っていない。
せめて俺が今、彼女へ示せる事……。
身体を鍛え、再びリングへ戻る。
力も何も無い俺は、それくらいしかできない。
仕事を終え、黙々と鍛錬。
本当は今すぐあかりの店へ行き、派手に金だって使ってやりたい。
そうなれるよう店だって流行らせ、客だっていっぱい『8エイト』へ連れてきた。
しかし一向に上がる気配もない給料。
そして何の評価もない現実。
俺は何をしに歌舞伎町へ戻った?
ゲーム屋、裏ビデオ屋時代とは違い、二度目の新宿復帰は明らかに空回りしているような気がする。
ホワイトデーも、あかりの誕生日すらも自由に時間が作れない環境。
不甲斐ない自身を呪う。
楊に対する恨みは募る。
俺は振り払うかのよう懸命にトレーニングへ没頭した。
何故またあの世界へ飛び込もうと思ったのか……。
最初は綺麗な女性が、その姿を見たいと願うから格好つけようと思っただけ。
だけど、実際はそんなんじゃなくて、もっと全然違った自己の根底に眠る誇り高き神聖な何かの為にだった事に気付く。
若い頃、身体を大きくしよう。
強くなろう。
ずっとそれだけで生きた時代があった。
女も抱かず、遊びもせず、稼いだ金はひたすら食費へ回し、毎日寝ゲロを吐いているような日々を送っていた。
気付けば自分と会った誰もが、姿を見ただけで強さを感じ取ってくれるようになり、また自身の身体は簡単に人間を壊せる人間凶器となっていた。
俺って凄い強い。
自身の強さへ酔っていた時期もあった。
年月は流れ、身体はどんどん衰えていく事に気付きながらも、俺は別の事を始めてしまい、鍛錬を怠っていた。
力が落ちたって、俺はあれだけ強かったんだから……。
そうやっていつも自分を甘やかし、それでも心のどこかに強さとは何かをずっと引っ掛けながら生きていた。
小説で賞を受賞し、総合格闘技からのオファーもあった時、俺は名を売るにはいいチャンスだと思った。
だが…、七年というブランクは非常に大きかった。
三十秒以上首を絞められてのタップ。
負けた俺にはたくさんの嘲笑を浴びせられ、多くの人が離れていった。
それでも俺は生きていかなきゃいけないから、現実逃避を見つけながらここまで生きてきた。
ずっと自分を誤魔化し、言い訳をしながら……。
歯痒さ、悔しさ…、そんな感情はずっとある。
でも、心の奥底へ封印するように努め、もう年を取ったんだからと必死に言い聞かせてきた。
今、過去の古傷などをケアしつつ、メンテナンスをしている俺。
またあの頃のような激しいトレーニングに身体がついていくかどうかも分からない。
でも、少しだけまた感じられるようになった、全身の細胞が歓喜の悲鳴を上げだしたのを……。
もしも…、またあの上へあがれるコンディションになれたら、俺は何の為にやるのだろうか?
若かりし時代突っ走って気付けなかった大切な何か……。
それをこの年になって拾いたいのかもしれない。
昔はああだったとか、俺はどうだったとか、そんなんじゃなくて、今…、今がどうかなのが生きていく上で一番重要な事をようやく気付けたような気がする。
一月の末で立ち上げから自身のスキルを惜しみなく解放して築き上げた店『牙狼GARO』。
目標は従業員にとって働きやすい環境を作る為だった。
何度も上と衝突し、居心地いい環境を目指そうとするも、それが癪に障ったのだろう。
俺はたった一日という短い期間でクビを通告され、路頭に迷う。
そこで得たものは部下たちからの信用と信頼。
しかし、それだけでは飯を食えるわけでもなく、俺は理不尽な対応をした店に対し、復讐を誓った。
復讐といっても別に暴れるわけではない。
その半年間ちょいで築き上げた客との信用関係を利用し、すぐ目の前の同業の店舗へ移籍し、太い客層を取り上げようという趣旨のものだった。
一従業員が起こすリアクションとしては、異例な行動をとったわけだが、自分一人が動くだけなら単なるエゴに過ぎない。
でも、前の店の顧客の高橋南が動いてくれ、その店の社長に俺を推薦してくれた。
今の俺に金はない。
でも、人脈という財産が少しずつではあるが、新たな土地で溜まりつつあるのを実感する。
新しい店で実際に働くようになって、あまりのアナログさに俺は驚く。
おそらく歌舞伎町内で一番の広さと台数を誇る店造りなのに、客数はまばら。
酷い時になると、ノーゲストになる場合もある。
客を呼び込もうと俺は必死に動いた。
他の従業員からは「そんな一人で張り切らないで下さい。うちらがやらないの上に分かっちゃいますから」とそんな風にも言われた事もある。
構わず俺は、ひたすらできる事を専念した。
結果、その店に元々来ていた太客の目が変わる。
そして俺に対して酷い扱いをする客がいなくなった。
臥薪嘗胆(がしんしょうたん)とは、復讐のために耐え忍ぶこと
また、成功するために苦労に耐えるという意味を持つ、中国の故事成語である。
紀元前六から五世紀の呉と越の国家間の戦争に由来する。
この成語の現在確認できる初出は、「嘗胆」のみならば『史記』巻四十一越王句践世家、「臥薪嘗胆」と揃った形で存在する説話は十四世紀前半に成立した『十八史略』である。
この成語は明治時代の日本において、三国干渉が発生した時に、ロシア帝国に復讐するために耐えようという機運を表すスローガンとして広く使われた。
別に『牙狼GARO』に対する復讐心が、今でもあるわけではない。
当初のきっかけが復讐心だったというだけ。
正道な意見を述べ行動した事に対し、店長の猪狩が出した答えはクビだった。
プライドは著しく傷つけられ、これまで自身の開放した数々のスキルをうまく利用された事に気づき、復讐を誓ったわけである。
これは臥薪嘗胆だと受け止め、どんな嫌な事柄からも逃げずに耐える日々。
ストレスのせいか今まで頭痛などした事がないのに、寝て数時間で起きてしまう日もあった。
年齢による体力の低下が原因かと考えた。
自分の身体を岩上整体時代の高周波を使い、自ら施術しても、頭痛は続いた。
復讐という意味合いを持つという事は、必ず相手があっての事。
ある日ふと、俺はこれまでほとんど誰かのせいにする事で、自身を責める事から逃げていたのではと考えるようになった。
まず自己を振り返ってみようではないか。
これまで第三者に自分の考えを話すと、ほとんどの人は間違っていないと言われた。
でも現場で、その考えを忌み嫌われるのは何故なのか?
第一に思いつくのが、現場で実際に働く人間と無関係の人間とでは、その感覚に温度差の開きはかなりあって当然。
では、職場内ではどうか?
自分より下の人間たちは、みな賛成派である。
それより上だけが反対派。
店側と別に客側はどうか?
自分が新しい店に来て数週間、営業もしていないのに二十名ほどの客が毎日のように来店してくれている。
俺のしてきた接客というものについてきている証拠じゃないか。
前の店の俺がいた時代の月の売上は一千五百万。
いなくなってからの月はマイナス四百万になったと前の部下が教えてくれた。
自身が唱えてきた自論は、今回の一件で言えば正論だったのだ。
なら自信を持とう。
戦国時代を例に例えるとすれば、俺は主に使える軍師に過ぎない。
もしも、意見を好意的に受け入れてくれる主だったら……。
どれだけ心は満たされ、また店に繁栄をもたらせる事ができるだろうか。
自身のポジションは絶対に履き違えぬよう、冷静に。
意見を聞く主でなければ、我を出さぬよう、慎重に。
金または権力を持つ主のほとんどは、自我の塊である。
今の自分自身ができる最大限の事を常に頭に入れ、虎視眈々と時期が来るのを見誤らないように心掛けようじゃないか。
不満や愚痴はもういい加減、体内のみで抑え付け、怒りを溜め込んでおけ。
日々鍛錬を怠らず、肉体は以前のように。
爆発させる頃合を履き違えるな。
今はただひたすら耐えねばならない。
同じ失敗だけはもう、繰り返しちゃいけない。
人生とは…、絶望との戦いの中、光明を見出して生き抜く事。
楊と性格が合わない現状を新井社長が考慮して、俺は早番へ行く事が決定した。
代わりに遅番へ入江が行ってくれる。
新井社長と山下は『餓狼GARO』時代の話をすると、料理を作ってくれとねだってきた。
ポテトのガーリックバター風味トマトソース、クリーム添えを作ってみる。
『8エイト』では六畳ほどの広さのキッチンがあった。
型は古いがこんな豪華な厨房設備を使うのは初めてである。
まるでホテルの厨房並みに立派なキッチン。
俺はじゃが芋を茹でながら、トマトソースを作った。
年季の入ったオーブンで、アルミホイルを巻いて包み焼をしてみた。
新井社長や山下は、大きな歓声を上げながら喜んで食べる。
うん、やっぱりこれが普通の反応だよな。
『餓狼GARO』の時だけが特別な対応ではないはず。
今日仕事を終われば、明日は休み。
中学時代の同級生である飯野君とゴリを家へ招き、家で飲み会を開催する。
「岩上、俺さ、ニンニクの芽炒め食べたいんだけど」
「あいよー」
「ほい、ニンニクの芽炒めね」
「うおー!」
「飯野君は?」
「前にミクシィに載せてた最強唐揚げ食べてみたいです」
「あいよー。最強唐揚げに、ワカメご飯」
いつかあかりと、こんな風に楽しく過ごしてみたいなあ……。
「岩上の作る料理で酒を飲むってのも、やっぱいいよなー」
「ゴリ、政治結社とはあれから音沙汰無し?」
「テメー、何が政治結社だよ! 朋花とはあれ以来だな。あいつの部屋で金を分けたのが最後」
「え、何その金を分けたって?」
ゴリの話によると、まだ付き合い始めの熱い頃、二人でいつか一緒に住もうと五百円玉貯金を始めたらしい。
十数万の五百円玉が溜まった頃、政治結社朋花から別れ話がくる。
それでそれまで貯蓄していた貯金箱を壊し、等分しようという事になった。
「キッチリ半分ずつ分けてさ、最後に五百円玉一枚だけ残ったから、それは朋花へくれてやったんだ」
鼻を膨らませながら得意がるゴリを見て、当分これじゃまた彼女できないだろうなと思った。
玄関の開く音がする。
ゴリと飯野君は顔を見合わせた。
叔母さんであるピーちゃんが帰ってきたのだろう。
素直にそのまま階段で三階へ向かってくれればいいが……。
俺の意向と反し開くドア。
「こ、こんばんは」
「お邪魔しています」
ゴリと飯野君の挨拶をまたも無視して居間へ入ってくるピーちゃん。
空いている椅子へ腰掛けるとテレビを見だす。
何でこの人は、こういう失礼な事が平気でできるのだろうか?
「岩ヤン…、そろそろ帰りますね」
「岩上、悪い。そろそろ帰るよ」
二人は申し訳なさそうに今を出ていく。
玄関まで見送ると、俺は居間へ向かう。
「おまえ、本当にふざけんなよな!」
テーブルを思い切り蹴飛ばす。
それでも微動だにせずテレビを眺めるピーちゃん。
これ以上騒ぐと、おじいちゃんが起きてくるかもしれない。
俺は背を向け居間を出ようとした。
「おい、ちゃんと自分で散らかしたものは片付けろ」
「うるせんだよ! テメーがやっとけ!」
本当に殺してやろうか、コイツ……。
家から出て暮らしたほうがいいと、過去何度も言われた先輩の坊主さんの言葉を思い出す。
本当にこの家にいると、俺はおかしくなりそうだ。
真面目に金を貯めて、家を出る時なのかもしれない。
部屋にいても無性にイライラが無くならなかった。
トレーニングして身体を動かそう。
理解できない人間の事をいつまでも考えたところで、結論など出ない。
俺はアレンジトレーニングを思い付いて開始した。
部屋のドアを開けた場合、何かしらの筋トレをしなくてはならないという風に自身で義務付ける。
トイレに行くだけでも、その前に何かしらトレーニングするようなので、これがまたやってみると結構大変だ。
また明日から新宿での生活が始まる。
四月に入る。
楊と番が代わったおかげで、仕事上のイライラはかなり軽減した。
新井社長と山下は、何かしら俺に料理を作ってくれとうるさい。
まあ、美味しそうに食べてくれるのは嬉しいものだ。
みんなで金を五百円ずつ出して、買い物と料理は俺が担当する。
早い時間帯の『8エイト』は、そのぐらい暇な店だった。
まず、デカい鍋に挽肉を一キロ、玉ねぎ二個、キャベツ半分を微塵切りし、卵三個、小麦粉、パン粉、粉パセリ、塩、コショウ、黒胡椒、ブイヨン、醤油を入れて、これでもかというぐらいよく練り込む。
形を整えたら両面を焼く。
新井社長は後ろから作る過程を覗き込みながら「凄かね!」と興奮している。
デミグラスソースに焼いたハンバーグを入れて煮込む。
アルミホイルにハンバーグ、その上にチーズを乗せる。
以前関係のあった望から教えてもらったミートローフも、作り方はそう変わらないので作ってみた。
ケチャップ、砂糖、ナツメグ、粉からしをフライパンで煮詰め、大きく型どったミートローフへピ巻とソースを塗る。
あとはアルミホイルで包み、オーブンで焼くだけ。
包み焼きチーズハンバーグはもういいだろう。
ミートローフも取り出し、包丁で切れ目を入れた。
パスタを茹で、じゃが芋を茹でてからバターで炒める。
「はい、デミグラスハンバーグです」
「おぉっ!」
「岩ちゃん、天才っちゃ!」
「包み焼きチーズインハンバーグです」
「凄い! 岩上さん」
「ほんま贅沢っちゃー」
「それとミートローフの完成です」
「何ですか、この大きなハンバーグは?」
「ヤバいっちゃねー」
調味料が店にあったとはいえ、俺もよくこんなものを材料費千五百円で作れたものだ。
十九卓のチャイムが鳴る。
俺はゆのゆのの席へ向かう。
この女、キャバ嬢のくせにちゃんと店に行っているのかと思うほど、毎日のように長時間『8エイト』にいる。
「ねえ、岩ちゃん。何か凄いいい匂いがするんだけど?」
「ああ、俺がハンバーグをまかないで作ったからかな」
「え、食べたい! 私にもちょうだい」
量は三人で食べても余るほど作ったので、ゆのゆのにもあげる事にした。
「何これ、凄い美味しい! 岩ちゃん、最高」
ゆのゆのは俺に抱きついてくる。
「あれ、岩ちゃんって筋肉凄いのね。ちょっと触らせて」
甘い香りのするゆのゆの。
仕事中じゃなければ、押し倒しているところだ。