2025/01/22 wed
前回の章
新井社長は、酒を飲むのが本当に大好きだ。
店にいるよりも、外で酒を飲んでいる時間帯のほうが明らかに多い。
遅番は四名と形上なっているが、事実上俺と入江で店を回しているようなものである。
楊の後輩坂本は相変わらず使えない。
屁理屈ばかりで仕事を覚える気がないのだろう。
ただのお荷物要員だ。
今日はフィリピン女性客が妙に多く、八名の集団がいる。
そこへゆのゆのと佐藤あみも加わり、双子のゆかまで来た。
女性客の比率が多くなったなあ……。
何だか『餓狼GARO』にいた時のような感覚になる。
そこへ新井社長が店へ帰ってきた。
千鳥足でまともに歩けないほど酔っている。
「飲み過ぎですよ、社長」
「大丈夫、ワイは無敵ばい」
「ほら、水飲んで」
キャッシャー室の椅子へ座らせる。
かなりグデングデン状態。
俺も入江も呆れた表情で新井社長を見た。
この日、太客はいないもののそこそこの客数が入っているので忙しかった。
一時間ほどダウンしていた社長が立ち上がり、ホールへフラフラと出てくる。
「社長、奥で休んでていいですから」
「ト、トイレばい」
こんな泥酔状態なら、家に帰って寝ていてくれよと思う。
社長といっても、所詮はパクられ要員の名義社長だというだけ。
少し自由気ままにやり過ぎではないかと感じる。
「キャー!」
「いやー!」
「パパー! ちょっと来てーっ!」
奥の列から女性客の悲鳴が聞こえる。
一人二人ではない。
ゴキブリでも出たのか?
俺は奥の列の席へ向かう。
するとトイレの通路から新井社長の姿が見える。
必死で逃げる女性陣。
みんなが悲鳴を上げている。
俺は思わず駆け寄った。
「ワイは無敵ばい! ワイは無敵ばーい!」
ズボンは足元まで下がり、パンツも履いていないフルチン状態の新井社長。
泥酔状態で意味不明な事を叫びながら少しずつ前に進む。
足元がズボンで固定されているので、本当に少しずつペンギンのような歩き方だった。
何故か妙に臭い。
よく見ると、足に白いものが巻かれ、それがトイレットペーパーだと認識するのに時間が掛かった。
さらに下痢上の茶色のウンチが、足からズボン、様々な箇所へ飛び散ったようにこびり付いている。
店内は大パニックだ。
「ワイは無敵ばい! ワイは無敵ばーい!」
フルチン、汚い、臭い、酔っ払いの四セット揃った状況に、女性客は本気で逃げている。
「岩ちゃん! 何とかしてよ、あれ!」
ゆのゆのが抱きついてくる。
入江もキャッシャー室から出てきた。
「何や、あれ……」
唖然とする入江。
一度すべての客を外へ出して待機させる。
「ワイは無敵ばい! ワイはむて……」
新井社長は少し進んでから、力尽きたようにその場へボテッと崩れ落ちた。
何をしてくれてんの、あの人……。
ウンチの匂いが充満する店内。
阿鼻叫喚だった。
本当に洒落になっていない展開。
俺と入江ですべてのクソを拭き掃除する羽目になった。
坂本は知らん顔をして、何もしない。
怒るより先に、この地獄絵図のような店内を何とかしないといけなかった。
一番酷かったのはトイレ。
どんな状態でクソをしたら、こんなにトイレが汚れるのかというほど酷い。
壁にまで茶色の下痢クソは飛んでいる。
何故、俺と入江はこんな後始末をしているのだろう。
いや、今は無心でとにかく奇麗にする事だけを考えないと……。
先日の新井社長クソまみれ事件の一件で、社長と入江は早番へ行き、代わりに楊と松尾が遅番に来るという番交代になった。
楊は一部始終を聞き、何度も頭を下げる新井社長の肩を優しく掴み「もー。しゃーちょったら」と薄気味悪い笑顔でご機嫌を取っている。
あのクソまみれで、多数の客を失う可能性だってあるのだ。
コイツの人に対する温度差は一体何なのだろうか?
またこの男と同じ番で仕事をするのかと思うだけで憂鬱だ。
以前来た反社会的な三人組が来る。
百万単位で勝負をするので、俺は楊とキャッシャーを代わった。
INを入れるのをモタモタするだけで、彼らと揉める原因になり兼ねないからだ。
「何や、岩ちゃん。ワイだってキャッシャーくらいできるんやで」
「楊さん、それよりもホール見て下さい。坂本と松尾じゃ、いまいち慣れていないんで」
皮肉な事に、こんな時に限って他の客も同時に入ってきた。
前回ナイフを出してきた加藤明。
『8エイト』元々の太客の前川。
ホストの湊と姫川。
ここは絶対にキャッシャーを俺がやらないと、間違いが起きる。
とてもじゃないが、楊じゃ悪いけど処理しきれないだろう。
三人組は十六、十七、十八卓。
加藤明は二卓。
前川は二十二卓。
「あー、十六卓五千」
「二卓六百」
「あー、十七は三千。十八は四千」
松尾と坂本がキャッシャーへ金を持ってきて、同時にコールをし出す。
「ちょっと待って! 一人ずつしか処理できないんだから、順番にお願い!」
インターネットカジノのキャッシャーは、あくまでもパソコンを使ってINを送るので一人一人順番にやっていくしかない。
一気に客が来たので、ホールにいる三人はかなり混乱している。
持ってきた金を目の前に置かれ「十六、五千」と松尾が言う。
「十六卓が五千ドルですね」
俺はマウスで操作しながら、十六卓へ五千ドルを送る。
「二、六百」
坂本が、先ほどの五十万円の上に札を重ねた。
「ちょ…、ちょっと何をしてんの!」
「はい、十七、三千」
俺が制止しようとすると、松尾までその上に札束を重ねだす。
「おい、何をしてんだよ! 重ねるなよ! 重ねるなって、松尾!」
「えーと、十八、四千」
「……」
すべての金を重ねてしまう二人。
しかも十万ずつのヅクも作らず、そのまま一万円札を無造作に重ねてしまった。
仕方なく客へのINを優先し、それぞれの卓へクレジットを送った。
十六卓が五千ドルに、二卓が六百ドル。
十七卓が三千ドルに、十八卓が四千ドル。
紙に卓番と客の名前、それぞれのINを書く。
そのあとでマイクロのポイントの照らし合わせをする。
次に置かれた現金を数える。
全部で百二十六万円なきゃいけない。
本来なら、客のIN別に金は置くものだ。
それを坂本と松尾の馬鹿二人は、すべての金を重ねて置いた。
例えば二千ドルと言いながら、受け取った金が十九万しかない場合、一万円ショートする。
そうなると現場で身銭を切って埋めなければならないのだ。
「岩ちゃん、二十二卓一万ドル」
「はい、二十二卓、前川さんで一万ドル。あ、楊さん! お金を重ねないで下さい!」
え、百二十四万しかないじゃん……。
二万円足りていない。
こういう事があるからこそ、客から受けた金は別々に置かないといけないのである。
何度数えても百二十四万円。
俺は坂本と松尾に、文句を言う。
「二万円足りてなかったよ? ちゃんと金数えたの?」
「自分は数えた」
「俺も数えました」
「だから金を重ねるなって何度も言ったのに……」
本当にコイツらまったく使えない。
どうするんだよ、二万円もショートさせて……。
「何や何や?」
楊が口を挟んできたので状況を説明する。
「現金が二万足らんのか? それはキャッシャーやってる岩ちゃんの責任やな」
「……」
一日十二時間働いて一万二千円。
こんなくだらないミスをすべて俺のせいにされ、二万円を埋めなきゃならない仕打ち。
本当にくだらない店だ。
本当にいい辞め時なのかもしれない。
坂本と松尾のミスで、俺は先日二万円の金を埋めされられた。
何で働いていて赤字にならなきゃならないんだ?
楊は責任をすべて俺一人へ被せ、ミスの原因となった坂本と松尾には何のお咎めも無し。
本当に理不尽な仕打ち。
それでも俺を慕って来てくれる客がいる。
腐る訳にもいかない。
何とも言えない複雑な気分のまま、仕事を続けていた。
下手な責任感など持つからこのような目に遭うのだ。
あまりに阿呆らしいので、ミスしようがキャッシャーを楊へやらせるよう促す。
太客前川が来店。
毎回百万単位の勝負をするので、接客にも神経を使う。
太客に対し、坂本や松尾を行かせられない。
一回で二十万円張れる奥の列へ進む。
十五卓へ座った前川。
隣の十四卓ではホスト風の客がスロットを回している。
「ほい、入れて」
前川は百万円の帯び付きを出す。
「十五卓様、前川様でマイクロ一万ドル。十五卓様マイクロ一万ドル、お願いします」
コールを飛ばし、数えてからキャッシャーへ金を持っていく。
「えーと十五…、一万はゼロを四つやな?」
おぼつかない手つきでパソコンを操作する楊。
俺は金を置いて再び十五卓へ戻った。
ちゃんと十五卓の席に一万ドルのクレジットが反映したかを確認する為である。
しかし一分経っても二分経っても、クレジットは出てこない。
何やってんだよ、あいつ。
太客なんだから早く入れろよ。
チラッと隣の十四卓のモニタを見る。
クレジット百十だったのが、一万ドル増えた。
あの馬鹿、間違って隣にいれやがったのか。
俺は走ってキャッシャー室へ向かう。
「楊さん! 一万ドルどこへ入れました?」
「何や何や……」
「あー、もうどいて!」
緊急時なので俺は楊を突き飛ばしてどかす。
INとOUTの履歴を確認。
やはり、楊は間違えて十四卓へ一万ドルを送っている。
俺は十四卓のクレジットをOUTした。
「楊さん、十五卓に一万ドルINしといて下さい」
履歴の部分をプリントアウトして、十四卓へ持っていく。
「プレー中すみません。先ほどキャッシャーで間違って一万ドルのINが入ったんですね」
「え、そうなんすか?」
十四卓の客は惚けたが、知らないはずがない。
目の前で二桁は違うクレジットがいきなり反映されたのだから。
俺は先ほどプリントアウトした紙を見せながら説明を続ける。
「それでこちらの手違いとはいえ、ご迷惑をお掛けしましたので、元のクレジット分二百二十ドルに加え、二十ドル分のサービスを致しますのでご了承下さいませ」
「あ、何かすみません」
「いえいえ、それではごゆっくりとご遊戯をお楽しみ下さい」
一礼して下がる。
「おい、まだIN入んないの?」
十五卓の前川が声を掛けてきた。
「すみません、確認致しますので少々お待ち下さい」
楊の奴、まだ一万ドル入れてないのかよ……。
俺は再び走ってキャッシャー室へ行く。
「楊さん! 何で十五卓に一万ドル入れてないんですか!」
何故か楊は俺を睨み付けている。
「岩ちゃん、ワイをさっき突き飛ばしやがったな?」
「楊さん! そんな事よりも十五卓のIN!」
「何を言うてんのや、おい?」
「もういい。どけよっ!」
俺は楊を突き飛ばし、十五卓へINを入れた。
「おまえ、また人を突き飛ばしたな?」
目を剥き出して敵意を見せる楊。
コイツのミスを俺が救ってあげた事が何も分からないのか?
最初に一万ドル…、百万円のINを間違って十五卓ではなく隣の十四卓へ入れたのは楊自身。
だからすっ飛んでここへ来たのだ。
十四卓の客が小狡かったら、突然増えたクレジットをもっと大きなベッドをして使う事も可能だ。
とにかく時間を争う事だった。
だから状況を理解していない楊をどかし、俺がすべて処理したのである。
そこまでやってから十五卓の前川にINを入れろと言い残し、十四卓のフォローへ行ったのだ。
一つ間違えば、百万円のショートになっていた事態。
そうなった場合、誰がその百万円を埋めるのだ?
それを最優先で防ぐ為の行動である。
それを何一つ仕事できていない楊が、突き飛ばしたという部分だけを切り取って、勝手に怒っていた。
馬鹿だとは思っていたが、使えなさ過ぎる。
「のう坂本。さっき岩ちゃんは間違いなくワイを突き飛ばしたよな?」
「ええ、突き飛ばしました!」
駄目だ、コイツら……。
脳みそに蛆虫でも湧いてんじゃねえのか?
「もういいわ……」
「何だって、おい?」
「どけよ……」
楊を乱暴に突き飛ばす。
「ちょっと!」
「おまえもどけ」
目の前に立ち塞がる坂本も、手で払いのける。
もうこの店は限界……。
勝手にすればいい。
こういう馬鹿だけで勝手にやればいいのだ。
俺は仕事時間途中にも関わらず『8エイト』をあとにした。
勢いよく飛び出たはいいが、まだ夜中の三時過ぎ。
家に帰ろうにも電車など動いていない。
伊達の裏スロへ顔を出したが、営業時間中で客がそこそこ入っている。
彼一人しか従業員はいないので、悪いと思い店を出た。
こう考えると、俺って歌舞伎町へ戻ってきたのに、行き場所が無いんだなあ……。
携帯電話に店から電話が掛かってくる。
面倒なので電源を落とす。
どこかで遊ぶにしても、そんな金など無いしな。
月極の給料なのに、先日の二万円を埋めさせられたのが痛い。
現在の手持ち四千円……。
四十歳の独身男が金も無く、目的も無くただ世界一の繁華街である歌舞伎町を深夜徘徊する。
惨めなものだな。
これで職も無くなった。
せめて村上や酒井さんの話を聞いて、次を決めてから行動しなきゃって思っていたのになあ。
我慢の限界だった。
あそこまで殺人的に頭が悪い楊。
無知は罪である。
恥を知らない者は、生きる資格など無い。
以前家で図々しい加藤皐月を見た時、思った事。
楊にはそれと似たような気持ち悪さがあった。
まあいい。
明日になったら『8エイト』から連絡あり、新井社長とは話をする必要性はある。
最悪な店だったが、最低限の筋を通さないといけない。
大久保病院方向へ向かい、ガードレールに腰掛ける。
四月になり暖かくなってきたからまだ良かったが、少し前の冬だったらキツかったな。
明日になればすぐ酒井さんなり村上に連絡を取り、仕事を決めなきゃな。
そこだけはまだ救いがある。
こんな事になるなら、もっと早く辞めて、村上のいう月収百二十万の話へもっと早く乗れば良かったんだ。
タバコへ火をつける。
最後の一本。
吸い終わるとコンビニへセブンスターを買いに行く。
外へ出ると、背後から声を掛けられた。
「あれ、パパ。どうしたの、こんな時間に?」
『餓狼GARO』時代からの客である双子の片割れゆかだった。
ゆかが何故こんな時間に外へいるのか、あれこれ質問攻めしてくる。
話すと長くなるからなあ。
まあ始発まで時間潰すにはちょうどいいか
さっきタバコ買ったから、あと三千円しかないよな……。
喫茶店くらいならいけるだろ。
「ゆか、凄い長くなるんだよ、この話…。聞きたいなら、その辺の喫茶店でも入る?」
「うん、いいよ! でも、仕事は大丈夫なの?」
「今日で辞めた」
「うっそー! 何で?」
「だからそれを話すと長くなるから、喫茶店でも行くかいって聞いたの」
「そっかー。じゃあ行こう!」
四十歳の男と二十歳の女が一緒に深夜歌舞伎町の街を歩く。
周りから見れば、俺がこの子を買ったのだろうくらいにしか見られないだろう。
俺は交番近くの喫茶店『クール』へゆかと入る。
『ボヤッキー』の面接で根間とここで話をした。
さらに『餓狼GARO』の猪狩と最後に話をしたのが、この場所だ。
あれ以降来てなかったが、こんな形で足を運ぶ事になるなんて皮肉なものである。
「パパのいる新しい店、あそこヤバいね。何で無敵とか言いながら、フルチンでウンチまき散らかしてる人がいたの?」
「あんなのが、あの店の社長なんだ……」
「ちょっとヤバくなーい?」
「うん、かなり問題だよね。あんなのばかりだから、今の店が嫌になっちゃってね……」
「辞めちゃうの、パパ?」
「うん…、そうだね……」
これまでの流れを淡々とゆかへ話した。
『餓狼GARO』を辞めた経緯まで聞いてくるので、正直にすべて話す。
「パパ、凄い大変だったんだね…。あ、ゆかね、お腹減っちゃった。ピザトースト頼んでもいい?」
「え……」
すでに二人で飲み物を五杯注文している。
財布の中を調べた。
三千円で足りるよな、多分……。
「パパ、ごめんね…。今お金無い時だったんだよね」
二十歳年下のゆかにまで同情される。
本当に情けない限りだ。
「ゆかね、少しはお金持っているから大丈夫だよ。パパも何か食べよ、ね?」
金も力も何も無い中年男は、生きているだけで罪である。
あまりの情けなさに、俺はつい泣いてしまった。
「ねえ、どうしたの、パパ?」
何で俺はこんな風になってしまったのだろう……。
ゆかは始発が出る時間まで、俺に付き合ってくれた。
援助交際をして生活をしているのだろうと、白い目で見ていた俺。
勉強なんてまるでできず、世間一般からは小馬鹿にされているのだろう。
でも、そんな子に俺は救われた気分だった。
人の痛みを分かってあげられる事が、とても大切な事だと思う。
双子で歌舞伎町に生息しているのだ。
人には話せない辛い事だって、腐るほど体験しているはず。
それでもこの子なりに、今を一生懸命生きている。
誰が、彼女を軽蔑できるのか?
喫茶店『クール』の会計をゆかが全部出してくれた。
俺は素直に頭を下げ、心を込めて「ありがとう。本当に色々とごめんね」とお礼を言う。
西武新宿駅で始発の電車を待つ俺。
肝心な事を忘れていた。
自分のノートパソコンを『8エイト』に忘れたままだったのだ。
小説の大事なデータも入っているし、自分が使い易い仕様にしている。
俺はまた店へ戻る事にした。
インターホンを押す。
五分経ってもドアは開かない。
向こうでは画面に映る俺の顔を見て、嫌がらせでワザと開けないのだろう。
もう辞めるからどうでもいいが、自分のノートパソコンだけは取り戻さないと。
もう一度押すが、反応は無い。
背後から階段を上がってくる音がした。
「あれ? 岩上さん、どうしたんです?」
振り返ると、酒井さんが立っていた。
「いえ…、タバコが切れたんで買い物に行った帰りでして…。それよりこんな時間にどうしました?」
「前回負けて悔しかったので、またリベンジにと思いましてね」
こんなタイミングで酒井さんが客としてくるなんて……。
再びインターホンを押した。
まだ開かないドア。
「おや、中の従業員寝ちゃっているんですかね?」
酒井さんは首を傾げる。
正直に言ってしまおうか……。
いや、俺はあの店を辞めている身であり、酒井さんはあくまでもお客さんとしてここへ来ているのだ。
失礼にあたる。
でも、このままではさすがにマズい状況だろう。
そんな事を考えていると、ドアが開いた。
楊は俺の顔を見て「ちょっと岩ちゃんさー…」と大声をあげる。
「ちょっと! 楊さん! お客様の酒井様が来店です!」
「あ? え…、ああ、いらっしゃいませ」
馬鹿な楊でも、前回百五十万円負けた酒井さんの顔を覚えていたようだ。
辺りをキョロキョロしながら酒井さんは、不思議そうな表情で中へ入る。
俺が席までアテントする途中、坂本が怒った顔で「岩上さんねー」と出てきたので「お客様です」と手でどかす。
醜い内輪揉めが分かってしまうだろ、この馬鹿が……。
キャッシャーから一番遠い席の二十四卓へ案内した。
「何か人間関係であったんですか?」
そう言って酒井さんはニヤニヤしている。
「お恥ずかしながら、業務上の方針でちょっとした行き違いがありまして……」
「色々大変そうですねー…。あ、岩上さん、これを入れてもらえますか」
帯び付き百万円の束を二つ差し出された。
「か、畏まりました。二十四卓様、マイクロ二万ドル。二十四卓様、マイクロ二万ドルお願いします」
「さーて、リベンジ頑張りますよー」
こんな陽気で話が分かるオーナーだったのなら、俺はあそこを辞めるのを早まったかもしれない。
楊もそうだし、新井社長もそうだけど、この店はクソまみれで最低だ。
自身の選択が、ミスった事を痛感した。
ここを紹介してくれた高橋南でさえ、楊の態度を毛嫌いし、あれから二度と来なくなったのだ。
キャッシャーへ二百万円を持っていく。
できる事なら酒井さんには派手に勝ってもらい、このクソみたいな店の金を大量に持っていってほしい。
楊は黙ったまま、金を受け取る。
坂本も俺を睨むだけで、一切会話はない。
出て行った俺が、こんな太客を連れて戻ってきた事が悔しくて仕方がないのだろう。
チャイムが鳴る。
俺は酒井さんの元へ小走りで向かう。
「すみません、これも入れて下さい」
また百万の束を二つ。
「二十四卓様、マイクロ二万ドル。二十四卓様、マイクロ二万ドルお願いします」
もうさっきの二百万が溶けたのか……。
俺はキャッシャー室へ行き、金を置くと坂本に「セブンスターメンソールとマルボロメンソール買ってきて」と声を掛けた。
「何で俺が?」
「俺が酒井さんの傍を離れる訳にいかないだろ! 楊さん! 俺がタバコ買いに行きましょうか?」
「あ、いや…、坂本。タバコ買ってきてくれ」
「……。分かりました……」
不服そうな坂本。
二百万を楊へ渡すと「ほんま太い客やのう…」と、さっきまでの不機嫌さなど吹っ飛んでいる。
俺だってこんな朝方になって四百万の勝負をしにくるなんて、想像もつかなかった。
坂本がタバコを買ってきたので、俺が受け取り酒井さんの元へ届ける。
「遅くなりました。酒井さん、おタバコです」
「お気遣いすみません」
チラッと画面を盗み見る。
「……」
合計四百万入れたINは残りのクレジット三千ドルになっていた。
こんな短時間で四百が三十万?
勝負の邪魔にならぬよう息を殺しながら戻る。
従業員みんな無言で、酒井さんの勝負を見守っていた。
十分ほどして立ち上がるのが見える。
キャッシャーでクレジットを確認するとゼロ……。
俺は入口付近で待機し、酒井さんが来ると「大変申し訳ございません」と深々頭を下げた。
「やめて下さいよ、岩上さん。前にも言いましたけど、勝負に負けた自分が悪いだけなんですから」
一体どれだけこの人はお金を持っているんだ?
恐縮しまくりながら出口まで見送る。
「本当に申し訳ございませんでした」
「それより岩上さん、近い内食事行く時間作って下さいよ」
「ええ、それはもちろんです。酒井さんのご都合に合わせますので」
「分かりました。それでは楽しみにしてますね」
酒井さんは飄々と帰っていく。
張り詰めていた空気が、ようやく緩和される。
辞めるとあれほど怒っていた俺も、すっかり毒気が抜けていた。
それは楊にしても坂本にしても、そうだった。
たった二回の来店で百五十万と四百万円の負け。
合計五百五十万……。
自分の懐に入る訳ではないが、申し訳ない気持ちで一杯だった。
朝になり早番と交代の時間がやってくる。
辞めるつもりが突然の酒井さんの出現により有耶無耶になった俺。
こんなタイミングで酒井が四百万円も負けるなんて、辞めるに辞めれない。
「岩ちゃんここに入れて、本当に良かったばい」
新井社長は売り上げを見てかなりの上機嫌。
あんたがクソを巻き散らかす時じゃなくて、本当に良かったよ……。
楊も昨夜揉めた件を社長へ話す様子もなく、この日はそのまま仕事を終えた。
何だか落ち着かない気持ち悪い気分だったが、まだ次の職場が決まっている訳ではない。
今日は休みなので、ゆっくり過ごそう。
帰りの電車の中、あれだけ負けた酒井さんが、笑顔で俺との食事を希望する意味合いを考えてみた。
普通の食事で済むはずがない。
いい方向で考えたら、また戻ってこいとのラブコールか?
もしくは新しく店を立ち上げるから来て欲しいとか?
悪い方向も考えてみた。
「……」
この数日間で五百五十万も使っているんだぞ?
どう考えても、俺が悪い方向へ行くとは思えなかった。
早めに食事をして、もし誘いがあったらすぐその話へ乗る。
うん、この線でいたほうがいいだろう。
新井社長のあの酒癖も大概だが、楊や坂本のような従業員がいる時点で、あの店は終わっている。
あとは俺自身の辞め時を見誤るな。
これは大チャンスの手前の段階なのだ。
俺が何の為にまた歌舞伎町へ戻ってきた?
あんなクソみたいな店で扱き使われる為ではない。
とりあえず今日はゆっくり寝て、夜になったら天下鶏でも行って酒を飲めばいい。
飲んでいる途中、古木から電話が掛かってくる。
昔よく通った岩上整体の裏側にあったJAZZBarスイートキャデラックは、マスターが難病に掛かった為店を閉店したと聞いた。
小説で賞を取った日に、常連客だった水野や日野のたかり行為から、あまり行かなくなってしまったが、一抹の寂しさを感じる。
本当、小説のネタになるような驚く事の連続だ。
二千十二年四月十三日。
一日休みを置いての出勤。
楊も坂本も、俺と揉めた事を話していないのか、店へ行っても何の違和感も無い。
今日もフィリピン女性客の集団が、ルーレットを楽しんでいた。
彼女たちの特徴として、球がルーレットの回る時、一緒に手でマウスをグルグルさせる。
何かのおまじないの類だろうか?
朝方になり、入口のインターホンが鳴る。
女性客一人。
俺はドアを開けると、韓国人か中国人らしき三十代の女性が立っている。
何人かまでは見分けがつかない。
どちらにしてもアジア系のこの人種は、質が悪いのが多いので、用心だけは欠かせなかった。
「ご来店はございますか?」
「前に来てるよ」
「お入り下さい」
インターネットカジノ『8エイト』は店内設備に様々な金を掛けている。
カメラだけで十台以上のモニターがあるのだ。
各カメラ毎にちゃんと録画もでき、もちろん再生もできる。
過去、俺がこの店へ入りたての頃、元々いた従業員の石松に金を抜いた濡れ衣を着させられ、潔白を証明する為に、店内監視カメラは大いに役に立った。
奥の列にフィリピン集団がいるので、手前の列の七卓へ案内する。
店内状況の客入りはまばら。
ホストクラブ『愛本店』の湊と姫川が来店。
手前の列の五卓、六卓へ案内した。
突然先ほど入れた女性客が騒ぎ出す。
俺のところまで来ると「前はバカラ、五百円からできた。何故今できない?」と言ってくる。
基本どこのインカジもバカラのプレイヤーかバンカーを張る本線の最低ベットは千円から。
五百円から張れる店なんて、聞いた事ないレベル。
「前はできた。なのに何故できなくした?」と、とてもしつこい。
「おそらく他のお店と、勘違いされているのではないでしょうか? 当店は元々前から千円以上でしか本線を賭ける事はできませんよ」
「あなた、私の事を韓国人と思って馬鹿にしてるのか?」
コイツ、韓国人ね。
「別に馬鹿にはしていませんよ。ただお客様の言うように五百円でできますなんて、それをした事がないので、当店としても嘘を言う訳にはいきません」
「絶対にできた!」
何度同じ説明をしても、まるで納得をしない。
「前は旦那と一緒来た。今から旦那を呼ぶ。もしそれでそっちが嘘をついているのが分かったら、警察へ電話をする」
何をコイツはいきなり警察とか言っているのだ?
大金を賭けて負けたとかなら、まだ分かる。
まだ勝負すらしていない状態で、前は五百円からできたと意味不明な事を言っているだけなのに……。
「はあ? 何でそうなんですか? 旦那さんを呼ぶなら呼んで構わないですよ。ただ、警察は関係ないでしょ?」
「分かった。今から旦那呼ぶ」
十分もしないで、韓国人女性の旦那が来店する。
見た目は年齢的に俺と同じ四十歳前後。
パッと見完全な日本人サラリーマンで、女房である韓国人女には頭が上がらない感じを受けた。
状況を話し「以前一緒に来られたようですが、当店五百円からバカラの本線を受けられる設定にした事がないんですね。奥様がその辺を勘違いしているようなので、うまく説明してもらえませんか?」とお願いしてみた。
すると「いえ、前来た時は、確かにできました」と旦那まで嘘に嘘を重ねて来る始末。
大方女房の稼ぎでほとんど養われていて、常にペコペコしているのだろう。
この髪結いの亭主が。
「いやいや、旦那さん。当店はずっと本線を千円から下げた事がないんですね。おそらく他の店と勘違いしてるんじゃなんですか?」
「いえいえ、五百円で絶対にできました」
自信満々に答える旦那。
韓国人はこうやって息を吐くように嘘をつくのか。
「だから…、そんな設定にした事が無いんですね?」
もう同じ会話の繰り返しで、まるで話にならない。
例えると、缶ジュースを百円でずっと売っているのに、この韓国人は前来た時は五十円だったと言っているようなもので、旦那も呼び確認するから、それで五十円と言ったら警察に連絡すると言っているような無茶苦茶な理論なのだ。
「あー、もしもし…、警察ですか……」
ギョッとなった。
韓国女は俺が旦那とやり取りしている間、携帯電話で警察へ連絡していたのだ。
こんなどうでもいい事で、普通警察なんかへ電話するか?
面倒なのが百十番通報だと、ガセ情報だろうが警察は動くという事。
過去ゲーム屋時代、それで機動隊に囲まれた事があった。
俺は携帯電話を取り上げ、電源を切る。
「人の電話に何する!」
「おまえ、ふざけんなよ? 一体何がしたいんだよ?」
俺の怒鳴り声に坂本、楊も出てくる。
「何や何や、岩ちゃん! 大きな声出してからに」
「いや、この女、バカラが五百円でできないからって、いきなり警察へ電話しやがったんです」
「返せ! 私の携帯返せ!」
韓国女が騒ぎ出したので、警察には電話しないと約束させた上で返す。
俺は少し離れて、楊にこれまでの経緯を簡単に説明した。
「そりゃ岩ちゃんの言う通りや。うちの店は五百円でなんてした事ないわ」
するとまた韓国女が「あ、警察ですか?」と電話を掛け始めた。
俺はダッシュで取り上げる。
「おまえ、ほんと何なんだよ!」
「私の携帯返せー!」
奥の席にいるフィリピン集団の一人アンジェリカが迷惑そうな表情で立ち上がり、こちらを見ていた。
「ウーサイナー」
その声に反応した韓国女は「何だと!」とアンジェリカへ掴み掛ろうとした。
俺は慌てて引き離す。
息を切らしながら韓国女は七卓へ座り、手を出して「おしぼり!」と偉そうに要求してくる。
俺はホットウォーマーの中からおしぼりを取り出し、手渡すとまた「おしぼり!」と言い出した。
何なの、この女……。
三本目のおしぼりを取ろうとすると、坂本が「岩上さん、経費なんですよ、これ。無駄に何本も渡してどうすんですか」と注意してくる。
「じゃあ、おまえがあの女の対応しろよ!」
俺と坂本が言い合っていると、韓国女が勝手におしぼりを取ろうとしてきた。
勝手に開けて、五本も六本もおしぼりを取り出す。
「何やってんですか!」
ホットウォーマーの蓋を閉める坂本。
「私、客よ!」
ホットウォーマーの蓋を開ける韓国女。
「あんたは客なんかじゃない」
ホットウォーマーの蓋を閉める坂本。
「何だと? 警察電話するよ?」
ホットウォーマーの蓋を開ける韓国女。
見ていて卓球のラリーをしているようで、俺は変な想像をして吹き出した。
「おい、何がおかしい? 韓国人馬鹿にしてるのか!」
またこれが妙にドツボにハマり、俺は腹を抱えて大笑いした。
新井社長が早めに来て、韓国女と旦那の話を外で聞く形に。
店の監視カメラの映像を再生し、俺はいずれ何かのネタとして絶対に使えるだろうなと思い、写真で映像を何ショットか撮った。
あとで分かった事が、韓国女は日本で商売すればチョロいと思って店を始めたが、まったくうまくいかずに潰れ、自国へ帰るところだったそうだ。
ただ面白くないから、どこでもいいから他の店を滅茶苦茶にしたかったと、新井社長に話していた。
この一件以来、俺は韓国人を毛嫌いするようになる。
池田由香が一人で来店。
店に入ってくるなり笑顔で俺にビニール袋を手渡してくる。
「ん、何これ?」
「この間、ご飯ご馳走になったでしょ。そのお礼。開けてみてよ」
俺はお礼に君の身体をご馳走になったけどなと思いながら、中身を見る。
黒いワイシャツだった。
「うん、髪型もこの間私が言ったようにしてるのね。黒いほうが似合っているかなと思ってね」
「由香さん、そんな気を使わなくても……」
「私、ゲームしてるから早速着替えて来てよ」
彼女の気遣いが素直に嬉しかった。
坂本にINを頼み、俺はトイレで着替えに行こうとする。
いや、新井社長のクソまみれ事件のせいか、できるだけトイレは行きたくない。
俺はキャッシャー室の中へ入り、着替えを済ませる。
「何で岩ちゃんに、あの子がそんなもんプレゼントするんや?」
「多分、前に金が無くなった時、俺が食事をご馳走したのを気にしててくれたんでしょうね」
「あんまりプライベートで店の従業員と客が、外で会うのは感心できんのう」
ゆのゆのたちを見た時「やらしてくれんかのー」とほざいていた男が何を抜かす。
俺は無視して由香の元へ向かう。
「はい、由香さん。着替えてきたよ」
「ほら、似合う似合う。写真撮ろう!」
「いやいや、由香さん…、恥ずかしいから……」
「いいからいいから。あ、あとであみたちここに来るってさ」
「畏まりました」
酒井さんからは、あれ以来連絡も無ければ店にも来ていない。
こっちから連絡をするのも何だか恐れ多い。
五百五十万円負けた客でもあり、前の店のオーナーへ、俺から電話は、さすがに掛けづらかった。
朝方鳴るインターホン。
「誰か分かります?」
楊に聞くと画面を見て慌てて立ち上がる。
そして急いで入口へ向かった。
何なのコイツ?
普段怠そうにしか動かないくせに。
「誰なんですか、楊さん?」
「この店のオーナーや!」
雇われの新井社長でなく本物のオーナーか。
俺はとりあえず立って出迎える。
ここへ入ってどれだけの客を連れてきたか。
またそれに伴い売上も、相当上がったはず。
何かしらお礼の言葉くらいは掛けてくるだろう。
楊と話しながらキャッチャー前へ来るオーナー。
俺を見るなり突然睨み付けてくる。
「何だ、コイツは?」
「はあ、岩上と言います」
「何だ、うちの従業員か。なんちゅー格好してんだ、おい!」
いきなりデカい声で怒鳴りだした。
俺の黒ワイシャツにベスト姿が気に入らなかったらしい。
楊や坂本のような私服よりは、全然マシだと思うが……。
今の店の客層はほとんど俺を慕って来てくれている客ばかり。
先日だって前の店のオーナーの酒井さんが百五十万と四百万、二回も大金を落としてくれている。
新井社長は俺をこの店の宝だと言っていた。
それがこのオーナーの対応は何なの?
考えられるのが、新井社長や楊は、増えた入客やら売上を自分たちの手柄として報告し、俺の存在など何も話していないのだろう。
これまでの実績も何も見ずに、こういった失礼な真似を平気でする人間が、この店のオーナーなのか。
ここまで頑張って働いたのに、時給千円。
しかも初顔合わせで、小馬鹿にされた対応。
正直非常にガッカリした。
最初の一ヶ月だけで、俺経由で来た客数は四十名以上。
店内PCのシステム構築全般。
印刷物のデザイン及びメニューの更新。
新人の教育全般。
ホール内の接客全般。
顧客収支管理。
アナログをシステム化し、円滑に業務が進むよう整備。
これらの事柄何一つ、何の評価もなく、また感謝も何もないという事だったんだ。
客を多く連れて来れる事、そして多くの客に好かれる事が、商売として最大の効力ではないのだろうか?
俺経由の客だけで、少なくともここ一ヶ月のみで一千万以上の金額は動いている。
純粋にINだけで例えたなら、億単位にのぼるはず。
今の髪型だって「岩ちゃんがいるからここに来てるの」と慕ってくれる女性客たちが、このようにしてほしいというから、それに合わせてするぐらいやってきたつもり。
女性客たちが好み、喜んでくれる髪型との気遣い。
あかりの誕生日もホワイトデーも休ませてもらえず、必死に仕事をし、結果彼女からの連絡が無くなった。
俺はそれくらい頑張ったつもりだったんだけどなあ……。
さすがに阿呆らしくなったので、もう俺の客を店に呼ぶのは一切やめる事にする。
便利になると思い、タダで入れてあげたマイクロソフトオフィスやアドビのフォトショップやイラストレーターなどのプログラムもすべて消そう。
以前の店の時で、散々懲りたはずだろう?
何をしても、認めようとしないところはずっとそのままであり、また逆に足を引っ張ろうとしてくるだけだって。
いい加減学ぼう。
馬鹿は相手にしない。
俺がいなくなったあとの大きさを、ただ思い知ればいい。
もっと自身の能力を高く買ってくれるところで、俺はまた頑張ればいい。