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『KCIA 南山の部長たち』を観た~機能不全に陥った独裁者の末期えがく~

2022-07-19 11:21:52 | 日記
『KCIA 南山の部長たち』を観た。
朴正煕時代の剣力者たちの三つ巴のような内紛を描いた政治的アクション映画の傑作といえる。
「南山」といえば、ソウル市南に位置する丘陵地帯で現在は南山公園の隣にはソウルタワーがあり、ソウル市が一望できる。その「南山」の別称といえば、韓国では泣く子も黙る権力機関である中央情報部(KCIA)南山庁舎がある。中央情報部は、国内の民主派活動、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)のスパイ取り締まりのための情報収集、そして海外の情報収集を担当する里門洞庁舎があったが、主には部長の公邸や執務室は南山となる。
 
主人公は、79年10月26日朴正煕を射殺したKCIA部長金載圭(キム・ジュギュ)。一世風靡したチャン・ドンゴンが演じる。
1976年10月、ワシントン・ポストが「朴東宣ロビー事件」を一面で報じた。
その内容は、韓国政府が組織的に、アメリカの国会議員187人にのぼる上院・下院議員に働きかけを行い、韓国への軍事援助と経済支援などに協力するようにと莫大なワイロで懐柔したという内容であった。その際に、KCIA職員25名ほどが暗躍し、年間90~100万ドルをワイロに充てていた事が判明し、アメリカ国内で騒然となり、上院ではフレーザー調査委員会が設置されることになる。
この「朴東宣ロビー事件」は、韓国政府が組織的に韓米の関係をとりもつ際、このロビー疑獄が統一教会との関係で日本でも暴露された。社会党参議院議員が国会質問でロビー活動に統一教会もこの事件に関与している点をあげている。
 

いわゆる「コリアゲート(コリア疑惑)」ともよばれている。

1977年6月22日、アメリカに亡命中の元KCIA部長である金炯旭(キム・ヒョンウク、김형욱)は、「朴東宣ロビー事件」でアメリカ下院議会フレーザー委員会に喚問され次のように読み上げた。

「朴大統領が何にもまして最も恐れる存在は、71年に彼と大統領選で対決した野党候補の金大中氏と、米国の対韓政策を左右する米国議会だった。朴大統領は、最も恐れる個人、金大中氏の問題を『金大中拉致事件』で解決しようとし、最も恐れる集団である米議会に対しては『朴東宣ワイロ工作』で解決しようとした。」(『金大中自伝』p286)

(新民党本部に籠城するYH貿易労組の女工に襲い掛かる戦闘警察)
 
韓国国内民衆の民主化を求める声は、同年、倒産した会社の存続を求めて野党事務所に籠城したYH貿易労組の女工への血みどろの弾圧や同年10月16日に釜山で勃発し、隣接する馬山でも民主化を求める「釜馬民主化抗争」が拡がり戒厳令となり封殺される。
 
映画でも登場する重要な人物として大統領の警護を担当する車 智澈(チャ・ジチョル)警護室長は、これらの抗争を「戦車でサーと踏みつぶしてしまえ」という程の恐怖政治でKCIA部長金載圭(キム・ジュギュ)と確執を生み出していた。車 智澈警護室長は朴正煕の右腕となるが、のちの10月26日朴正煕射殺の際に金載圭(キム・ジュギュ)によって射殺される。
 
朴正煕軍事独裁政権は、韓国民衆の民主化を求める声やアメリカからも改善を求められるも武力で弾圧しワイロで懐柔という政権の機能不全が末期的となっていたのだった。
 
それは末期的な政権によって育てられた凶弾によって朴正煕が射殺されたとも言えるだろう。
当時、射殺した金載圭が韓国で英雄視されたともいうが、全斗煥独裁が新たな流血弾圧をはじめた事を考えると、「民主主義はクーデターや暗殺でなるものではありません。国民の力で達成されてこそ、ほんものの民主主義です」という金大中の言葉は重い。
 
先日起きた安倍襲撃事件でも、このことは言えるだろう。権力者が育てた凶弾で倒れる前に、私たちは民主主義の力で安倍個人の命ではなく、安倍的な民衆不在の政治を終わらせねばならなかったのだと思う。
 

※2005年2月3日、国家情報院(KCIAの後継機関)によって設置された「過去事件真実究明を通じた発展委員会(過去事件真実委)」は、金炯旭失踪事件を調査したところ朴正煕を射殺したKCIA部長金載圭によってパリにおびき出され射殺されたと結論付けた。この内容も映画には反映されている。(金炯旭WIKI

それにしても金炯旭(キム・ヒョンウク)の『権力と陰謀』をネットで注文しようとしたら4000円越え。買いたいと思ったがおこずかいが無いので図書館で注文したい。