花の分類には、まず大分類としての「科」があって、その中に中分類としての「属」がある。今までずっとそう理解していたし、今でも決して間違いではないが、際限なく多種多様化する今に至っては、しっくりこないことも多い。
新しい花には、属名に学名を充てることも多く、学会での見直しにより、そう変更されているものも見られる。そうなると属名は学名の日本語表記あるいは代表的な花の和名などになる。
イベリス 学名 lberis 和名マガリバナ(屈曲花)アブラナ科マガリバナ属(イベリス属)
サイトによっては属名をあえて記載せず、学名を記載しているものもある。
イベリス 学名 lberis アブラナ科
イベリス・センペルビレンス Iberis sempervirens などは種として確認され学名となっている場合で、いわば公認された名前となっているようだ。
イベリス‘マスターピース’ Iberis ‘Masterpiece’ などはイベリスの交配種の愛称(商品名)を表しているようで、非公認の名前なのかもしれない。
マガリバナのような一般的に無名で商品名として使いにくい和名は流通から遠ざけられ、やがては消滅していくのだろう。かつて外国からの新しい花に、ふさわしい和名をと努めた日本の文化は、もうそんな無理はせず、そのままが良いというトレンドに押され消えかかっている。
オキシペタラム 和名ルリトウワタ(瑠璃唐綿)
学名 Oxypetalum coeruleum キョウチクトウ科またはガガイモ科オキシペタラム属
学名 Tweedia caerulea キョウチクトウ科またはガガイモ科トゥイーディア属と別れているが
園芸市場では専ら
‘ブルー・スター’
‘ホワイト・スター’
‘ローズ・スター’
などの愛称で流通する。オキシペタラムとトゥイーディアは併用されるがオキシペタラムが一般的なようだ。どんどん複雑多岐になっている現状に学術の世界にも揺れが生じている。だが現実の市場は関係なく動いている。また和名はいわばマニア用語となっている。
一方で、たとえば「ナデシコ」など、あまりに名が知られ日本人の意識から永遠に消えない花の名前は、時代のいかなるトレンドにも決してひるまずにいる。
ナデシコ(撫子)学名 Dianthus ナデシコ科ナデシコ属(ダイアンサス属)にはナデシコを称する花々で満ち溢れている。一方で、本来の和種ナデシコ(ヤマトナデシコ)はもはや超希少な存在で、我々が目にできるのは何世代もわたり交配が重ねられ、人工的につくられた園芸種となっている。
そんな中で、本来「カワラナデシコ」は昔のナデシコを言うのだが、今はそれに似た雰囲気を持つ園芸種にその名を冠した流通名となっている。
逆に、目新しい新種は「ダイアンサス」として愛称をつけて販売され、使い分けがなされている。さらに、これらの場合には、原種をたどると、ダイアンサス属以外のナデシコ科の植物が混じっている可能性もありそうだ。
花は自然科学の対象であると同時に人為的な商品作物でもある。
極端に言えば、自然科学では「学名」が名前であり、園芸の世界では「流通名」あるいは「愛称」が名前と言える。「科」は上位分類から花のイメージを思い浮かべるための関連情報へとなりつつあり、また「属」は存在の意味すら薄れつつあるのかもしれない。