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日本版DBS法案の制定に反対する声明(案)

2024-05-29 08:35:43 | ノンジャンル

日本版DBS法案の制定に反対する声明(案)

―差別・排除の社会ではなく、共生・受容の社会の樹立を目指して-

政府によって国会に提出された、子どもに接する仕事に就く人に性犯罪歴がないか確認する制度、いわゆる「日本版DBS」を導入するため、「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律案」(以下「本法案」という。)は、5月22日衆議院特別委員会、23日の本会議で、全会一致で可決され、参議院に送付された。

本法案によれば、学校設置者等に加え、広範な範囲の民間教育保育等事業者(以下「民間事業者」という。)に対し、教員等として本来の業務に従事させようとする者について、性犯罪前科を確認する義務を課し、その結果などから児童対象性暴力等を防止するために必要な措置を講じる義務を定めようとしている。

対象となる性犯罪は、強制わいせつなどの刑法犯だけでなく、痴漢や盗撮などの条例違反の犯罪も含まれている。そのため、対象となる性犯罪を新たに設けるため、条例を制定することも可能となる。

さらに、起訴猶予処分を含め不起訴処分や懲戒処分などの行政処分等は対象から外されたものの、服役した者は20年、執行猶予とされた者や罰金刑を科された者も10年という極めて長い期間、その確認の対象とし、刑法第34条の2第1項(刑の消滅)よりも長い期間の不利益を課そうとしている。

「日本版DBS」が参考にしたとされる、イギリスのDBS制度(Disclosure Barring Service)は、DBSという公的機関が性犯罪歴を管理し、事業者からの照会を受けて、DBSが就業希望者に無犯罪証明書を送付し、就業希望者がこれを事業者に提出する仕組みである。

これに対して、本法案では、学校設置者等及び民間事業者に前科確認義務を課し、その前科を照会させ、その通知を直接事業者に交付することとしている。この照会に際しては、本人の同意は全く必要なく、戸籍抄本や戸籍記載事項証明書等についてのみ、本人に提出させているだけである。前歴の通知を受けた事業者等は、たとえ守秘義務が課されているとはいえ、どのような形でその情報が洩れるかはわからない。これで、最も重大な個人情報である前科履歴を保護することができるのであろうか。これでは、情報が安易に漏洩されることは目に見えている。

 本法案では、性犯罪の前歴に限られているが、もし他の犯罪についても同様な紹介制度が必要となった場合、ほかの法律を作り、他の犯罪例えば傷害罪の前科情報の照会も可能となり、その適用範囲は果てしなく拡大される危険性がある。

本法案については、衆議院段階で、対象となる性犯罪の範囲を下着窃盗やストーカー行為などにも広げることやベビーシッターや家庭教師なども性犯罪歴を確認する対象とするよう検討することなどを盛り込んだ附帯決議がつけられた。

この付帯決議は、この声明の目指す共生・受容社会の樹立とは真っ向から対立するものであり、到底容認することはできない。

 本法案は、一度性犯罪を犯し、有罪判決を受けた者について、子どもに接する仕事につかせないようにするもので、社会的な差別を行い、その仕事から排除しようとするものである。

 憲法22条1項は、職業選択の自由を定めている。禁固以上の刑に処せられた者は、裁判官・検察官・弁護士・医師・教員等につけないことにつき、それぞれの法律で就業が禁止されている。これらは個別法での判断であり、一般化されてはいない。

 これに対し、本法案では、特定性犯罪者等を就業させないシステムを採用している。これは、性犯罪を理由とした就業制限であり、個別職業への就業禁止とは全く異なるものである。

 その意味では、本法案は、憲法22条1項の「職業選択の自由」に抵触する疑いは濃厚である。

さらに、本法案はイギリスの制度と異なり、本人が自己の犯罪歴を自分で入手する手続きを求めていない点で、憲法13条の「自己決定権」を侵害する恐れがある。個人情報保護法20条2項は、犯罪歴や前科などの情報収集には、原則として本人の同意を求めているが、本法案はこれに例外的に対応することを求めている。また、個人情報保護法124条が、保護すべき情報を開示させることを、強く限定する趣旨を規定しており、日本版DBS法案とは相いれないことは明白である。

現在、法務省では、「性犯罪再犯防止プログラム」を実施していることが示す通り、排除モデルではなく、医療モデルによる解決も模索されている。

子どもを対象とした性犯罪者であっても、更生可能であり、ともに社会で生きることができる。そのような共生し、受容できる社会の樹立こそを目指すべきではないのか。

私たちは、以上の理由により、「日本版DBS法案」の制定に強く反対するものである。



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