SMILEY SMILE

たましいを、
下げないように…

くじら、ねこ  6

2004-08-08 16:56:00 | くじらねこ
都は、もう嫌になってしまっていた。無駄に大きくなった身体横たえ、

うつらうつらしながら、終わりの来るのを待っていた。

都の老舗カフェでは、眠れなくてイライラしているねこがくじら相手に

やつあたりしている。

「いったい、どれが、夢なんだろう。僕が、いつ眠ったと言うんだい」

くじらはなにも言わず、ただ曖昧にうなずいている。

ねこは気持ちを落ち着かせるために、ピアノの上ですねるように丸くな

っている。

「ひつじくんなにか、弾いてお呉れ」

ひつじは、2分半思案してから、あの曲を27回繰り返して弾いた。

そう、あなたが、ここに相応しいと思う曲を。

最後に、こう、弾き語った。

「赤かったね、君の嫌いなトマトより赤かった。

 それに、嘘をついた血よりみどりだったさ。

 君のせいではないよ。

 きみのせいではないんだよ。

 伝わるべきものは、結局、僕らの意思に依るしかないんだもの」

ねこは、眠らない。

くじらが、ビールを勧める。ありがとう、と言って首を振る。

ねこには、苦くて呑めないし、呑んだところでくじらの気持ちを汲むこ

とはできないから。悲しいことだけれども。

ねこは、ナア、と鳴いた。

このなきごえが、今のきもちに一番相応しかった。確かに。ミルクは足

りていなかった。

                            (続)




くじら、ねこ  5

2004-08-08 16:03:40 | くじらねこ
しばらく、くじらさんはお一人で黙って例のドイツワインを三本、お空

けになりました。ゆっくりと味わって、つぶれているねこさんにお手本

を見せるように召しあがっておりました。とは言ってもものの17分42秒

で飲み干してしまうような量で御座います。くじらさんの特製ワイング

ラスはボトル一本が丁度はいるようになっておりまして、しかもギリギ

リ、表面張力で無理やり注いで一杯。日本酒ではないのですからとて

もお行儀が悪いことのように映りますが、くじらさんは、これに注ぐこ

とに無上のスリルを感じるようで、少ないと、ちっ、といまいましげに

舌打ちをし、多くて、あと数滴のところで溢れてしまったりしても、や

はり舌打ちですが、そのお顔は恍惚、といってもいいような表情をお浮

かべになるのです。

それから、ワインの、その輝きを3分半、長いときは4分を超えるほど、

じっとお眺めになります。ドイツワインは白といってもクラスの高いも

のほど黄金色になってゆきますので、その高貴とも言える色彩を印象

派を見るような目でご覧になるのが常でございます。照れ屋で見栄坊

なくじらさんは、他に知らないお客様がいらっしゃるときは決してなさ

いませんが、今のような時間で、いい気分にお酔いになるとこのような

ことをなさるのです。

お酒を注ぐこと、その色彩を愛でること、そしてそれをこころゆくまで

堪能すること。お酒を飲むというのはこういうことだよ、とまさにここ

において実践なさっているくじらさんでありますが、ねこさんは相変わ

らず、異界にて浮遊する悦びでご満悦の様子。

ひつじさんは「Days of Wine and Roses」をスローに、やがて軽快

に、そしてまだ艶っぽく、テンポを自在に操って、絶妙の演奏をいたし

ました。


「わたしも、あまりお酒はあまりいける口ではないのですが、酔うとい

うのは、今、演ったように一杯目のとろりとした気分から、やがて快活

になってゆき、そして心地よい疲れのような倦怠にたどり着く、そんな

感じでせうね」

普段は寡黙なひつじさんが、くじらさんをうれしがらせることを仰るの

で、くじらさんはまた、うれしはずかし、お話をおはじめになりまし

た。


・・・・・・・・・・・・・・・・・。



突然、音もなく、ミルクが溢れてまいりまして、私たちは、・・・・。






ミルクの海






しろく、白く、呑み込んで、沈んで、暗転。


                            (続)

勝手に継承

2004-08-08 08:25:40 | 太宰
太宰さんが亡くなったのは、

昭和23年6月13日か14日

私の母が生まれたのは、

昭和23年12月25日

きっと、太宰さんのたましいは、

キリストの生まれた日を撰んで、

生まれたばかりの母の中に入ったんだと思う。

そして、次の生のために、休眠を取った。

昭和50年6月9日

残念ながら、太宰さんと同じ19日には出てくること叶わずも、

また、この世に生まれたのであります。

そうして、目の前に死をちらつかせて生きることを止めた

太宰さんのたましいは生まれ変わったのであります。


などと、勝手に妄想して、結びつけてほくそえんでいる男は、

不憫かもしれない。





村上春樹と太宰さん

2004-08-08 07:40:29 | 太宰
全く共通項がなさそうな、このお二人。

太宰的なものを否定したところに彼はいるのだろう。

「風の歌を聴け」「スプートニクの恋人」「ノルウェイの森」・・・

何冊か、読んだことがある。

おもしろかった。

それだけといえば、それだけだった。

おもしろいだけで十分じゃないか。

でも、それだけだったら、再読には値しない。

この辺り、複雑な心境。




王座

2004-08-08 07:27:35 | 
出来もしないのに、将棋雑誌をめくることがある。

能條純一「月下の棋士」を読んで以来、

彼らの戦いぶりが、気に掛かる。

私は、羽生善治氏が好き。

今は、どうやら不調のようで、かつての七冠の勢いはない。

しかし、今だ、棋界の中心人物。

同世代がしのぎを削っているというのも、興味深い。



彼らは、棋上になにを見ているのだろうか。