ボードレールは麻薬に酔い痴れていたから『人工楽園』が書けたのではない。資質上の、あるいは生活上の弱点や破綻か麻薬中毒におちいりながら、なお醒めた部分がその詩の宇宙を形づくったのである。太宰治についても同様であって、表現というものがもつ自己の自由の宿命化によって、資質的な運命性に自己呪縛の加速度をあたえることによって、その生命は燃焼し尽くしたが、私たちにとって価値のあるのは、あくまで表現の側であって、資質そのものではない。
~高橋和巳「滅びの使徒」
実生活では、社会や世間というものに全くといっていいほど適応でき
なかった太宰さん。彼は、なにより作品の上で、より深い、コミュニ
ケーションを夢みた。人間であるより、小説家としての生を全うした
太宰さん。
負の十字架という言葉は決して大袈裟な芸術家の自己陶酔と言い切
れないと思う。不朽の作品は、尊い犠牲なしには創り得ない。
私たちは、その遺産をしっかり受け止めなくてはいけない。感傷に浸
ってばかりいられないのだ。
私たちは、決して同じ道を歩む必要はない。彼の血と悔恨が生んだ作品によって開かれた世界を、想像と追体験によって一足飛びに我がものとし、そして<解った>と呟けるときがくれば、その世界を背後におき去りにしてもよいのである。
~同上
~高橋和巳「滅びの使徒」
実生活では、社会や世間というものに全くといっていいほど適応でき
なかった太宰さん。彼は、なにより作品の上で、より深い、コミュニ
ケーションを夢みた。人間であるより、小説家としての生を全うした
太宰さん。
負の十字架という言葉は決して大袈裟な芸術家の自己陶酔と言い切
れないと思う。不朽の作品は、尊い犠牲なしには創り得ない。
私たちは、その遺産をしっかり受け止めなくてはいけない。感傷に浸
ってばかりいられないのだ。
私たちは、決して同じ道を歩む必要はない。彼の血と悔恨が生んだ作品によって開かれた世界を、想像と追体験によって一足飛びに我がものとし、そして<解った>と呟けるときがくれば、その世界を背後におき去りにしてもよいのである。
~同上