「蟹工船」日本丸から、21世紀の小林多喜二への手紙。

小林多喜二を通じて、現代の反貧困と反戦の表象を考えるブログ。命日の2月20日前後には、秋田、小樽、中野、大阪などで集う。

組曲虐殺 多喜二役・井上芳雄氏 (御影暢雄)

2009-10-04 06:32:01 | 仲間たちから多喜二への手紙
組曲虐殺 多喜二役・井上芳雄氏 (御影暢雄)
2009-09-30 15:39:21


 いよいよ10月3日より東京・天王洲・銀河劇場で、井上ひさし・新作芝居「組曲虐殺」が上演開始です。9月28日の「しんぶん赤旗」にて、同劇にて多喜二役を演じる井上芳雄氏がインタビューに答えています。(以下、”月曜インタビュー”記事の要約)

 透き通る美声、ずば抜けた歌唱力、演技の巧みさで「ミュージカル界のプリンス」と呼ばれる井上芳雄さん。その井上芳雄さんが、「蟹工船」の作家・小林多喜二を演じます。10月3日から始まる井上ひさしさんの新作芝居「組曲虐殺」。ところが台本がまだ完成していず、毎日ファックスで少しずつ送られてくる状況。緊迫して燃え上がるような、東京都内の稽古場で、井上芳雄さんにインタビューしました。

「多喜二自身、”貧しい人がどんどん貧しくなって、一部の誰かが豊かになっていくのは何故なんだろう”という疑問を持って、それを素直に厳しく追及して生きていった人なんじゃないでしょうか。井上ひさしさんの台本や、三浦綾子さんの『母』を読んでそう思いました。
 多喜二は。搾取というシステムのこと、人を貧しくする社会の構造の問題を発見してしまって、そのままにしておけなかった。自分のこと、周りのことだけを考えるのでなく、とても広い、世の中
全体を見据えていたのが多喜二という人だったと思います。・・・やっと最近、井上先生の作品『ロマンス』に出演し、ほかの井上作品を見るようになって、役者の使命というものを感じるようになりました。たとえば多喜二が命をかけて自分の思いを伝え続けた、その一生を調べたのですが、比べてみて自分たちがあまりにも心が貧しいのではないか、と感じたり、もったいない生き方をしてはいないか。多喜二と同じことはできないけれど、伝えるということはできるのではないか。自分なりの何かができるようになればいいな、と今考えているところです」  (聞き手 大井民生)

 *井上芳雄氏の今回の舞台に対する気迫が感じられるインタビューですし、素晴らしい舞台になりそうですね。:御影

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1 コメント

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瀧口雅仁・芸能史研究家「組曲虐殺」 (御影暢雄)
2009-10-08 09:08:37
【多喜二の生、今をえぐる】
 歴史は繰り返すのではない。続いているだけなのだ。井上ひさしの書き下ろし作品を観て、そのことを認識した。
 時の権力によって壮絶死に至らしめられた作家小林多喜二の最後の二年九ヶ月を描いた作品だが、劇中二つの演出に大きく心を動かされた。
 まず主人公は多喜二だけでなく、我々もまたそうであるということだ。多喜二はプロレタリアの弾圧によって拷問死したのではない。自分とそして世の人々と向き合って生きたいという、一人の人間としての根源的な生き方を否定されて、国家により抹殺されたのだ。井上芳雄が演じる多喜二の書きたい、訴えかけたいというあふれる気持ちが我々の生きたいという欲望を喚起させている。
 そして、それを摘んだのが誰であり、実は世を間違った方向へ進めた我々にも責任があるのではないかという疑問に対しては、登場人物たちの明るさが答えを導き出してくれる演出を取っている。多喜二を囲む女性の中で、妻役の神野三鈴
が発する怒りと恋人役の石原さとみが抱く悲しさも印象的だが、姉チマ役を演じる高畑淳子が導き出す明るさと笑いこそが強い意味を持つ。その笑いは決してシニカルなものではなく、生きる灯を絶やさないための明るさ故のものである。さらに人は笑い終えた時に、笑いの原因を探ることがある。抑圧された社会の真っ只中で笑った人は何を感じるのか。登場人物全員の精力込めた演技と,台本、演出が普遍的な人間のあり方に迫ってみせた。
 社会を見据えた結果起こる井上流喜劇特有の笑いが、この作品でも人間の生きるべき社会の真の姿をあぶりだして見せている。井上ひさし・作、栗山民也・演出。
(10月8日しんぶん赤旗 
     『文化学問』欄より)
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