東京芸術座「蟹工船」上演に寄せて―/
弱者を切り捨てる社会ある限り「何べんでも」/
印南貞人
東京芸術座では劇団創立50周年企画として「蟹工船」をこの3月26日から、東京芸術劇場にて上演します。
初演は、1968年に小林多喜二没後35年、劇団創立10周年記念として、村山知義演出、大垣肇脚色で上演し、第3回「東京労演賞」を受賞した作品です。
翌年から70年代に五年間に渡って全国各地の労演、青年鑑賞会で上演されました。
団結の歌として
この度の創立記念公演にあたっては、約9年間、準備をするのに時間がかかりました。
上演にあたっての一番の難問は、共に舞台を創り出す、若い俳優たちを結集できるかどうかでした。村山知義の最後の言葉である「演劇運動万才」を理解し、人間を信じ、未来に向かって力強く生きている若者が必要だったのです。
今、稽古場では80歳のヴェテランから20歳になったばかりの若者、約60名が舞台「蟹工船」に乗船しました。
村山知義演出の特色を三つほど紹介します。
ひとつは、舞台いっぱいに「船」をのせたことです。あとは厳寒のカムチャツカの空と海と波だけです。暴風雨に翻弄される「蟹工船」が舞台で激しく揺れます。ダイナミックな仕掛けがリアルに表現されます。
第二に、小説「蟹工船」では、登場人物は名をもたない漁夫たちとして、群衆で描かれていますが、演劇として、立体的に一人ひとりをリアルに分かりやすく演出しています。
第三の特色は、暗い汚いと言われている「蟹工船」の漁夫・雑夫・船員たちが、「生きている人間」として目覚めるシーンです。本当の敵は何かを知る彼らが、ラストの80秒で歌う「ソーラン節」です。原作では附記として書かれていますが、民謡であり労働歌である「ソーラン節」をレジスタンスの歌、団結の歌として、「もういっぺん、もう何度でも」との力強さで描いています。
侵略性と暴力性
このたびの公演では、「村山知義演出による」を発展させ、現代に蘇らすことが出来るよう、毎日の稽古は「発見」の連続です。
小林多喜二は「蟹工船」というカムチャツカの海の上という閉鎖された状態の中での事件を描いていますが、特殊な支配者たちが起こした特別な事件として表現しようとしたのではありません。蟹工船は、国策として推進された近代化した事業だったのです。他国を領海侵犯し、ただ同然の「蟹」をとり、搾取しやすい未組織の「オチコボレ」の労働者を暴力で支配し、大企業にのしあがって行くのです。この「蟹工船」の侵略性と暴力性は敗戦を迎えるまで、大陸に全アジアに拡大していったのです。80年前に書かれた作品が、今現在でも世界中で読み続けられる理由がここにあるのでしょう。
非正規労働者の名のもとに法律によって大企業の横暴を許し、民営化の御旗を振りかざして弱者を切り捨てる社会があるかぎり、私たち東京芸術座は「蟹工船」を上演し続けるつもりです。「何べんでも!!」
(いんなみ・さだと 演出家)
「蟹工船」〔村山知義演出による〕(東京芸術座・創立50周年記念公演)原作=小林多喜二、脚色=大垣肇、演出=印南貞人・川池丈司。3月26~30日=東京芸術劇場中ホール。℡03(3997)4341東京芸術座
( 2010年02月19日,「赤旗」)
弱者を切り捨てる社会ある限り「何べんでも」/
印南貞人
東京芸術座では劇団創立50周年企画として「蟹工船」をこの3月26日から、東京芸術劇場にて上演します。
初演は、1968年に小林多喜二没後35年、劇団創立10周年記念として、村山知義演出、大垣肇脚色で上演し、第3回「東京労演賞」を受賞した作品です。
翌年から70年代に五年間に渡って全国各地の労演、青年鑑賞会で上演されました。
団結の歌として
この度の創立記念公演にあたっては、約9年間、準備をするのに時間がかかりました。
上演にあたっての一番の難問は、共に舞台を創り出す、若い俳優たちを結集できるかどうかでした。村山知義の最後の言葉である「演劇運動万才」を理解し、人間を信じ、未来に向かって力強く生きている若者が必要だったのです。
今、稽古場では80歳のヴェテランから20歳になったばかりの若者、約60名が舞台「蟹工船」に乗船しました。
村山知義演出の特色を三つほど紹介します。
ひとつは、舞台いっぱいに「船」をのせたことです。あとは厳寒のカムチャツカの空と海と波だけです。暴風雨に翻弄される「蟹工船」が舞台で激しく揺れます。ダイナミックな仕掛けがリアルに表現されます。
第二に、小説「蟹工船」では、登場人物は名をもたない漁夫たちとして、群衆で描かれていますが、演劇として、立体的に一人ひとりをリアルに分かりやすく演出しています。
第三の特色は、暗い汚いと言われている「蟹工船」の漁夫・雑夫・船員たちが、「生きている人間」として目覚めるシーンです。本当の敵は何かを知る彼らが、ラストの80秒で歌う「ソーラン節」です。原作では附記として書かれていますが、民謡であり労働歌である「ソーラン節」をレジスタンスの歌、団結の歌として、「もういっぺん、もう何度でも」との力強さで描いています。
侵略性と暴力性
このたびの公演では、「村山知義演出による」を発展させ、現代に蘇らすことが出来るよう、毎日の稽古は「発見」の連続です。
小林多喜二は「蟹工船」というカムチャツカの海の上という閉鎖された状態の中での事件を描いていますが、特殊な支配者たちが起こした特別な事件として表現しようとしたのではありません。蟹工船は、国策として推進された近代化した事業だったのです。他国を領海侵犯し、ただ同然の「蟹」をとり、搾取しやすい未組織の「オチコボレ」の労働者を暴力で支配し、大企業にのしあがって行くのです。この「蟹工船」の侵略性と暴力性は敗戦を迎えるまで、大陸に全アジアに拡大していったのです。80年前に書かれた作品が、今現在でも世界中で読み続けられる理由がここにあるのでしょう。
非正規労働者の名のもとに法律によって大企業の横暴を許し、民営化の御旗を振りかざして弱者を切り捨てる社会があるかぎり、私たち東京芸術座は「蟹工船」を上演し続けるつもりです。「何べんでも!!」
(いんなみ・さだと 演出家)
「蟹工船」〔村山知義演出による〕(東京芸術座・創立50周年記念公演)原作=小林多喜二、脚色=大垣肇、演出=印南貞人・川池丈司。3月26~30日=東京芸術劇場中ホール。℡03(3997)4341東京芸術座
( 2010年02月19日,「赤旗」)
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