映画と渓流釣り

2016 ありったけの Best10


毎年年頭になると鑑賞作品の足らなさを呪文の様に書きつらえておりますが、2016年のベスト10はそこそこ威張れるかな。それもこれも稀にみる邦画の質が高かったからです。何はともあれ順番です。(洋邦取り混ぜて、前編後編で一本とカウントしました)

①怒り
圧倒的な圧力を感じました。人が他人を信じることの難しさと尊さを観せてもらいました。原作も読んでいますが、わたくしは映像による表現の方が優れていると感じました。宮崎あおい演じる少し足りない女性や米兵の餌食となった沖縄に住む少女(広瀬すず)の慟哭は、映画でしか伝える術は無いと思います。
苦しみながらも人を信じる喜びが描かれていた事は、同じスタッフで作った「悪人」に比べ心寄り添える作品でした。キネマ旬報10位

②君の名は。
2016年を語る時、必ずこの作品を思い出す事でしょう。記憶にも記録にも残る傑作になった事を大変嬉しく思っています。ずっと新海誠の才能を愛でてきたのですもの、やっと世界中の人々が気付いてくれたんだと感謝したい位です。この作品が教えてくれた事、それは諦めない心の強さ、「好きだ」と言うシンプルな気持ちを保ち続けられれば、運命の人とは必ず惹かれあうのです。

③この世界の片隅に
優しい気持ちになれる映画でした。あのヒロシマで起こった無慈悲な惨劇に向かって物語は進んでいきますが、日々の生活は決して辛く苦しい描写ばかりではありません。少女のまま嫁入りした主人公の、創意工夫に満ちた愛すべき営みのドキュメントです。防空壕で接吻する若い夫婦のトキメキは、今この世の若者と何が違うのでしょう。主人公が喪った右手で描かれる筈だった未来こそ、わたくし達が享受している今なのです。キネマ旬報1位(よかった)

④シンゴジラ
まさか庵野ファミリーが創ったゴジラがこんなに面白くなるとは思いませんでした。エヴァは画期的で優れたアニメ作品ですが、庵野監督のクリエイター資質にそれ程賛同するものではありません。自分の好きな事をやり切ってもエンターテイメントとして成り立てば良いのですが、彼の作品はマスターベーションの域を出ない事が多いと思うからです。しかし、このゴジラは幸せな事にある意味オタクイズムがうまく作用した稀有な例となりました。ゴジラと言うより政治ドラマとして楽しめます。キネマ旬報2位(キネ旬選者が選ぶとは!?)

⑤聲の形
「友達からお願いします」そんな風に言いたくなりました。イジメとか障害とかの重い題材が内包されていますが、それもこれも友達から始めましょうよ。わたくしの歳になるとまわり道しなくとも近づける術を知っていたりしますけど、あの年頃はそうじゃありませんものね。だから不器用でも良い、伝わり辛い小さな声でも良いから、「友達からお願いします」と言えると良いね。そしたら少しずつわだかまりは無くなって、素直に好きって言えるんじゃないかな。

⑥オデッセイ
本当に久しぶりです。リドリー・スコット、ちゃんと監督していたんですね。邦題が酷すぎて真意が伝わりませんが、ひとりぼっちで火星に留め置かれたらどんなにか寂しいだろうと感情移入しました。単身赴任が長引いているからでしょうか?そんな環境でも植物を育てるのって、本能的に癒しになるんだなと思った次第です。派手な宇宙活劇も楽しいものですが、こんな地味でも実のある作品も良いもんです。

⑦ハドソン川の奇跡
映画の作り方を学ぶにはもってこいの作品でした。だからってこんな映画を誰もが作れる訳じゃ有りませんけどね。イーストウッド作品は題材によって好き嫌い分かれますが、これは好きな作品です。世界中の人が知っている美談をなんで今更映画にするんだろうと思っていましたが、観てみれば成る程です。美談の陰にはちゃんと人間ドラマと強い使命感があったんですね。納得です。キネマ旬報洋画1位(またかよって感じ)

⑧ちはやふる
広瀬すずが見たくて観た映画でした。特に前編(上の句)は、彼女の魅力が存分に発揮されたアイドル映画の体を成していましたが、見所はそれだけじゃ無く、競技かるたのスピード感ある面白さを観せてくれました。後編(下の句)にリズムの乱れが出てきて、快作とはなりませんでしたが充分楽しめる映画です。残念なのは無理矢理二部構成にしている事でしょうか。長い漫画原作をそのまま映画にしない英断を求めます。

⑨永い言い訳
西川監督が家族を描き出した事を嬉しく思います。師匠の是枝作品とは違った現代日本の家族を、これからも観せて欲しいな。日本映画の得意分野である家族ものは、小津や木下、山田といった世界的名監督によって確立されてきました。今の第一人者は是枝監督ですが、女性監督がいないのです。だから期待しています。オリジナルストーリーで映画が創れる数少ないクリエイターである事も期待しましょう。キネマ旬報5位

⑩葛城事件
出来れば観たくない心荒ぶ映画です。物語には全く救いがありません。暗いとかの短絡的な言葉で表現できないお話でした。家族が壊れてゆく様を見続けていると、ひとつふたつはどこの家庭にも有りそうだからいたたまれないんだと思います。三浦友和演じる主人公の父親がやっている事に、わたくしもそれとなく心当たりがあったりして、絵空事ではありません。

次点
64-ロクヨン–
淵に立つ キネマ旬報3位(かなり高評価だけど)
アイアムアヒーロー

次点が三つもあるなんて近年稀です。それだけ充実した年だったんですね。毎度の事ですが、外国映画は楽しそうなものしか観ないし、邦画も観たいと思いながら縁がなく見逃した作品がいくつかあります。それでも2016年は映画鑑賞として素敵な年になりました。


個人的に感心した事も記しましょう。
監督
これはもう、「君の名は。」の新海誠監督です。
次回作のハードル高くなりましたが、引き続き応援していきます。
脚本
「怒り」の李相日で。
原作よりも心打つ脚本書くのは相当難しいですから。
女優
「怒り」で新境地を開いた宮崎あおいと、
「淵に立つ」の神がかった演技を見せてくれた筒井真理子です。
男優
「怒り」出演の渡辺謙、森山未來、妻夫木聡、綾野剛、松山ケンイチ、の面々に。
特別賞
声の演技として、「君の名は。」上白石萌音と、「この世界の片隅に」のん。


どうしても許せなかった作品も。
「インデペンデンスデイ リサージェンス」「ズートピア」
どちらもアメリカの愚行(中東介入戦争や人種差別)を棚に上げた綺麗事映画にムカつきました。


2017年も沢山の出会いがありますように。ゆったり映画を観られるゆとりある生活が続きますように。良い映画を観た後は、心許せるあなたと熱く語れる日々でありますように。
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「映画ベストテン」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事