映画と渓流釣り

物忘れしないための処方箋

太陽と桃の歌  家族の食卓

2024-12-16 14:40:00 | 新作映画
スペインのカタルーニャ地方がどんな所か知らないけど、そこで桃を収穫して生活しているひとつの家族のことはよく知ってる

無花果の木を大切にしているおじいちゃん
孫に物語を語ってくれるおばあちゃん

お母さんは大家族の要として、息子も旦那もピシャりと平手打ちする強さがある

息子は学業より畑仕事で褒めて欲しい
上のお姉ちゃんはダンスが好きな年頃

末の女の子は双子の従兄弟が大好き

お父さんは夏の収穫が終わった後、地主に毟り取られる桃畑で毎日腰痛に苦しみながら働いている

お父さんの妹夫婦たちも含めれば13人もの家族がそれぞれの繋がりでこの土地で生きている。面々と続いていた土と水と空と桃の木がある生活は、経済の無慈悲な力の前では余りにも儚く夏の終わりに消えようとしている

わたくしの散歩コースでも、空きあらばと太陽光パネルが乱立して久しい
渓流の山肌に黒光するパネルを見た時は、その醜悪さに辟易したものだ
狭い国土の日本でさえこんな状況だから、持続可能エネルギーに敏感な欧州辺りではもっと推奨されているのかも

重機が唸りを上げながら隣接する桃畑が破壊されてゆく中、大家族は家の周りに実った黄色の大きな桃を収穫し瓶詰めしてゆく
それでも、子供たちの笑い合う声は重機の雑音など無かった様に、もうすぐパネルに埋もれ消えてゆく桃畑に響くのだった


昔、映画に魅せられた中高生だった頃、ネオリアリスモ作品に傾倒していた。(延々と続く桃畑での収穫シーンはリアリズム)岩波ホールが全盛期の頃観た「木靴の樹」を思い出したりもした

時代は変わっても同じ様な苦悩は存在する
何が幸せかは断言できないけど、家族が揃って食卓を囲めることがそのひとつであることだけは間違いない

それにしても、スペインの桃は不味そうだった。日本の美しく滑らかで甘い桃を食べさせてあげたい



冬の朝
ビル街に朝日が眩しい






ルックバックとシビル・ウォー

2024-12-15 14:47:00 | 新作映画
映画は映画館の大きなスクリーンで観てもらうために作られているから、新作映画だとしても配信されモニター画面で鑑賞したものを安易に評価しちゃ作者に失礼だろう
ただ、どちらの作品も映画館で観るべきだったと後悔してる

ルックバックは漫画作りに情熱を燃やす高校生の友情物語だと思っていたし、シビル・ウォーはアメリカ内戦のドンパチ映画だと思い込んでいたから、かなり予想外の作品だったことに驚いた

観ようと思っていたのにタイミングが合わない作品って年にいくつかでてくるけど、こんな風に後追いするのは悔しいような救われたような複雑な気分

どちらも映画館で観ていたなら2024年のベスト10にランクインしてたかも

それにしても、配信されるの早過ぎやしませんか?






雨の中の慾情

2024-12-08 15:36:00 | 新作映画
令和の世で、つげ義春原作の映画を観ることになろうとは思いもしなかった
まだわたくしが若かった頃、つげ義春の漫画は一部のファンから神格化されていた。特にアンダーグラウンドの芝居や映画を愛する人からの熱い信頼を受けていた
わたくしも何冊か読んでみたので、そのユニークな作風は確かに中毒性がありそうだと思ったものだ

エロスとグロテスクな描写が多く、不条理で難解なストーリーは今の若者には受け付けられないだろう
だから、こんな題材をシネコンで上映する勇気何処から出てきたのか不思議だ

物語はあるようでなんだか取り留めがない。不条理な世界観は決して退屈ではなく、観客を置いてけ堀にする寸前で拾い上げるので心情に寄り添う事はできないけれど、同情に近い感情は持つことができる

演出と脚本を片山慎三がやっているから、原作がつげ義春じゃなくともある程度の察しはしていたが、重い暗さに押し潰されそうだ。ロケ地が台湾だからか湿度を感じさせ、より一層肌に纏わり付く

とても万人へお勧めできる映画とは言えないが、今年を代表する秀作だろう
時代錯誤な題材だと思うけれど、こんな作品が作られて公開される日本は文化的な多様性は担保されているんじゃないかな 

成田凌は二枚目役者に落ち着かず本格的な演技派を目指しているようだ。ヒットはしないだろうけど、この作品は彼の代表作の一つになりそうだ
全然興味無かった森田剛の飄々とした存在感に驚いた。色眼鏡で見てはいけない
特筆しておきたいのは、謎めいた女給を艶めかしく演じた中村映里子だ。スレンダーな肢体を惜しげもなく晒して自分本位に生きてゆく女を格好良く演じた。今後の活動に注目したい

追伸
他の方のブログ読んでたら、この映画、あいみょんが好きなんだって
より応援したくなった

ぽかぽかばかりじゃ無いけどさ ぼくのお日さま

2024-12-01 20:22:00 | 新作映画
ジャック&ベティ
この映画館は今でも開演前にはブザーが鳴るんだなと、そんな事思いながらスクリーンを見つめる
映画の日に映画館で映画観るのは久しぶりだな。Tジョイ系のビジネスでしか映画興行をとらえられない小屋は無視するとして、還暦過ぎた身となっては何処の映画館であれいつ観ても料金一緒だからファーストデイに映画観る習慣は無くなった。それでも40年以上前からあった映画の日に映画館へ行くのは何だか特別な気がする

テレビドラマ「海のはじまり」で初めて池松壮亮の演技力に脱帽したばかりなのに、この映画で再認識することになる
演技が上手くたって、一流のスケート選手を演じる事出来ないでしょ普通?なんだか演技してるようには見えない自然体なんだよな。生まれた時からスケート靴履いてたみたいに氷の上に立つ姿は、どんな修行積めばそうなるのか
不思議な役者だ

フィギュアスケートは日本人には馴染みのあるスポーツだから、滑っている姿に嘘は付けない。だからヒロインの女の子も、彼女に一目惚れする男の子もそれなりの素養はあってのキャスティングなんだろう
二人とも拙い演技ながら十代にしか表現できないナイーブな表情で精一杯魅せてくれた。二人きりで練習するリンクに外光がコントラストをつけるシーンは幻想的でさえあり印象に残る

多分、先生に淡い恋心を抱く女の子には同性愛は高いハードルだったし、屋外のリンクでお日さまに見せたあの笑顔は取り繕う事はできないと思う
だからあの決裂は仕方ない。先生も傷つきひっそりとさってゆく

ラスト、北海道の春の道で偶然出会う男の子と女の子。吃音の男の子は満面の笑みで語りかけようとするシーンで映画は暗転する
演出としてはありだけど、わたくしは彼が何を語るのか知りたかったし、彼女がどんな風に応えるかが知りたい

美しい作品だから、あのままが良いのかな

9月には見逃したので、ジャック&ベティで出会えたことに感謝


BE:the ONE-MEANT TO BE- 音はつながる

2024-11-24 13:21:00 | 新作映画
永らく映画館通いしてるけど、出待ちされたのは初めてだ。後ろから声をかけて来たのは多分20以上は歳下の女性
新手の美人局かと瞬時疑ったが、2300円もの映画観て交通費考えると残金2000円もないこんなオッサン誘わないわな

「さっきの映画お一人で観てましたよね?もしかして、BESTYですか?」

何故、還暦過ぎたオッサンが、BE:FIRSTのライブドキュメンタリー映画を観ていてかを彼女に語る

わたくしの娘がまさしくBESTY(ファンをそう呼ぶらしい)。来年から社命でニューヨークへ転勤するらしく、ひとりでも多く映画館に動員したかったみたいで餞別代わりに観てこいと
バカな親父は、誰もいそうも無い日曜朝8時25分に横浜の外れにある映画館なら恥ずかしくないだろうからとやって来たのです。と

理由はどうであれ、BE:FIRSTに触れてくれたことが嬉しかったと、暫く立ち話をすることになった
こんな風に音楽を通じて見知らぬ誰かと触れ合うから、きっとわたくしたちは毎日音を楽しんでいるのかも知れない


BE:FIRSTについて
何んにも知らない
基礎知識として、ウィキペディアで調べみるとAAAのメンバーのひとりがプロデュースしている7人のボーイズグループ
オジサンの拙い理解ではK-POPとLDHの真似っこダンスパフォーマー程度

この映画観てなければその認識は変わる事はなかっただろう。昨今乱造される同様のグループを識別するのは、もはや無理
野太い声でシャウトするライブを見るとただのアイドル崩れじゃなく、ロックバンドを後ろに付けても遜色ない力強いボーカルだ。それも、7人全員が皆んな歌唱力があるので説得力がある

実はBTS以外のK-POPはただの猿真似にしか感じられずウンザリしているし、LDHは世界観に違和感がありついていけない
ジャニーズ系列のお子様パフォーマンスは日本独自の学芸会芸として否定はしないけど、ライブで一緒に拳は振り上げられない

昨年行ったUVERworldにメンバーのひとりが客演してたからか、なんとなく歌の雰囲気が似てるよう感じたんだけど(知らぬ者のいい加減な感想)
元気なうちに、一度でいいからライブに参加してみたい。結構縦乗りで楽しむ自信はある


映画について
東京ドームライブコンサートに向けて準備するドキュメンタリーと、ライブのパフォーマンスが交互に映し出される良くあるパターン
メンバーのインタビューを見ると、彼等がまだ青年にもなり切れてない少年っぽさを有してることが分かる
応援してる所謂BESTYの多くは圧倒的に若い女性だけど、お母さん世代の方も結構いるのはそんなことも関係してるのかも

涙が溢れて仕方なかったのは、メンバーの真摯にライブへ取り組む姿より、ライブを成功させるために必要な最後のピースはBESTYだと言いきる信頼関係。それに応えるBESTYの無私の愛情
わたくしも熱心なAIMだから、その気持ちには痛いほど心を揺さぶられる


前にも書いたけど、わたくしたちの世代はビートルズには間に合わなかった分、音楽の多様性にはとても恵まれた
戦前のジャズベース歌謡曲や演歌の良さも知っていながらNewJeansにだって正当な応援ができる
ユーミンや中島みゆきを経てオリビアやABBAにポップスを教えてもらい、イーグルスとフリートウッドマックはロックの教科書だった
新しく知らない音楽に触れる事は、きっとこれからもわたくしの世界を広げてくれると信じている


何はともあれ、アメリカに旅立つ娘が事件事故などに巻き込まれる事なく、筒がない日々が送れるよう祈る
そして元気に帰国した折にはオトウをBE:FIRSTのライブに連れて行って欲しいものだよ
次はライブ会場で会えると良いですね。と言って別れたBESTYの彼女に、この白髪頭が跳ねている姿を見せてあげたい