何度も繰り返し見る夢がある
最近、忘れた頃に見るのは
部屋が八つあって回廊で繋がってる家の夢
住んだ事もないのに懐かしい
家族5人で居た頃の残照なのか
子供の頃には
顔が七星てんとう虫の怪人が出てきて
夜、眠るのが怖かった
今思えば、布団カバーの柄だった気がする
現実に描く夢を夢想しなくなって久しい
大人というか、老人の入口だから?
それでも、呑気に眠れば夢を見る
差し迫った苦しみはないけど
不安定な舟に乗ってる毎日
今夜は夢を楽しめるだろうか
去年のエマ・ストーンでも感じたけど、アメリカの女優さんは桁外れにパワフルだ。アカデミー賞が一番凄い賞だなんて思ったことないが、美しいだけでスクリーンを飾った往年のハリウッド女優の時代はとっくに過ぎた今や本物の実力と鋭い感性を持ち合わせた一握りの努力家がオスカーを抱く
この作品で振幅の激しい女性を演じたマイキー・マディソンは弱冠25歳の新人とも言える駆け出しだ。それなのに、こんなにも印象的な女性を見せられたら、日本の女優がやっている体当たり演技なんてものは学芸会の真似事にしか見えなくなる
ショーン・ベイカーと言う才人が一人で作りあげた小品に陽の目が当たるのは、若き主演女優賞の誕生共々アメリカらしい公正さだ
一昔前なら性労働従事者に焦点を当てた映画がアカデミーを取るなんて考えられなかった。人種差別問題や戦争後遺症に苦しむアメリカの実態を描いた社会性とは違うけど、アメリカのみならず世界各国にいる性労働従事者にどう響くのか興味深い
来店したロシアの放蕩息子に気に入られ、家まで遊びに行ってみれば大豪邸。アニーの住む高架線路脇のアパートとはまるで違う世界の住人だ。一週間専属契約で一緒に過ごすうちに、ノリで婚姻届にサインして夫婦になる。放蕩息子はアメリカの永住権が欲しいし、アニーは大富豪の生活が約束される
遊び呆けている二人は放蕩息子のロシア人ママの登場で破談になるのだが、ママが怖くて逃げ出した放蕩息子を探し出すまでの顛末が面白い。序盤、金持ちのイケすかない若者の集団だった遊び仲間たちも、結局は底辺で生きる労働者だったり護衛のロシア人も金に縛られた上下関係に苦しんでいることが分かってくる
わたくしがその意味を理解できなかったのは、放蕩息子とその一家に愛想を尽かし元の高架線路脇のアパートに帰ってきた時に流す涙の訳
ロシア人の護衛に股がりながら慟哭するアニーは、アノーラとして生まれ変わろうとしているのか?
ラストの慟哭になんだか救われた
その意味が分からなくとも、心が動かされる映画は素敵だ
ただ、今回も感じた外国映画に対するジレンマ。アメリカの性産業の現状、ロシア人とアルメニアの関係、多民族国家のコミュニティどれも知識もなければ、感覚も理解できない。これらが肌感覚で分かればこの作品をもっと楽しめただろうに
田中陽造の脚本で根岸吉太郎がメガホンをとるなんて、この先絶対無いことだと思っていたからこの映画化は嬉しい
二人のコラボは「ヴィヨンの妻」以来、根岸監督は結局その間一本も作品撮ってない。田中陽造も15年振りの作品のようだ
どれほど才能があっても、簡単に商業映画は作らせてもらえないんだ。そこが文学・絵画・音楽のように一人でも芸術できる世界との大きな違い
日本家屋の美しいショットから最後の青空へパンする画まで手抜きのない映画の品格を堪能させてもらった。とても久しぶりのカムバックだなんて思えない滑らかさだ。一度円熟した技量は年月ではたやすく枯れたりはしないのか
物語は詩人中原中也と評論家小林秀雄に愛された大部屋女優の長谷川泰子を取り巻く奇妙な三角関係が面々と語られる。昭和初期の大らかな人間関係が懐かしい街並みや家屋と相まってちょっとしたファンタジーのように感じさせる
しかし、三人の史実を調べてみると、リアルな話しであることを知った。映画ほどスッキリした三角関係だった訳ではなかっただろうけど、現代の我々にはなかなか理解し辛い感覚だから、なんだか痛みや苦しみを共有できないのかな
中原中也を演じた木戸大聖は有名な中也の写真像に寄せていて、坊ちゃんでありながら繊細な若き詩人を熱演してた。去年のドラマ「海のはじまり」で主人公の弟役が良かったけど、この作品で大きな役者になれると良い
岡田将生は安定のハマり役。最近このパターンに慣れ過ぎているのはどうかと思うが
問題は、この映画の肝である女を広瀬すずが演じ切れなかったことだ。演技力の未熟さはあるにせよ、彼女の年齢や人生のキャリアが映画の人物像の厚みに追いつけない。下世話な言い方だけど、女が熟れてないのだ。田中陽造と根岸吉太郎が描きたい女に追いつけない。頑張って背伸びして演じているのが見え透いていちゃ、興醒めで作品としては残念だ。ここらでそろそろ広瀬すずにも大人の演技をさせてみようとの気持ちは分かるけど、些かハードルが高過ぎた
ヒロインを広瀬すずにしたキャスティングの失敗がこの作品の致命傷
熟した女優に演じさせて、もう一度観てみたい
脚本も映画作りも職人の味が染み込んでいて、日本映画ならではの雰囲気なのにな
松たか子は凄い役者なんだと改めて思う
子供から見れば29歳と44歳の違いなんてよく分からないかも知れないけど、とっくの昔にその年齢を通り過ぎたおじさんにはあの15年を上手に演じ分ける技量に感服せざるを得ない
すれ違い会話も無くなり同じ空間に居るのも苦痛になっていく夫婦なんて、この世にはごまんと居るだろう。わたくしも滅多に奥さんには会わないし、だからって憎しみあってる訳じゃなく気の張らない同居人みたいになってる。近付き過ぎて粗探しの末、嫌な思いとストレスを溜めて挙句離縁するのが良くあるパターンなんだろう。この作品の夫婦もそんな感じで幕を閉じる
ラブファンタジーとしての物語はここから始まる。離婚届を持ったまま亡くなった夫の運命を変えるべく、過去にタイムスリップを繰り返すうちにファーストキスに辿り着くと言う作劇が本当に良くできている
この丁寧なエピソードの繰り返しが未来に繋がり、やり直しの夫婦生活は慈愛に満ちた15年になる
結末の未来は変えることはできなくとも、二人の歩んだプロセスは素敵な日々だった
坂元裕二の脚本にしては随分甘美なお話しだけど、僕ちゃん嬢ちゃんの恋愛物語ではないからベタ甘にはならない
大人が観てもすんなりその世界に馴染めるのだが、ミルフィーユのような多重構造だと言う時空を行き来する仕掛けがチープなのが減点ポイント。ファンタジーだからこそ細部の説得力が大事だと思う
演出は最近円熟味が増している塚原あゆ子なので安心して観られる。引っかかったのは、インスタントカメラの少年少女の使い方。写真が重要な小道具になるのだから、もうちょっと上手い絡ませ方がなかったのか。吉岡里帆が性格キツイ嫌な女にしか見えなかったのもミスディレクションじゃないかな
それでも年に一本くらい大人のラブストーリーを楽しみたい