映画と渓流釣り

物忘れしないための処方箋

キネマ旬報ベスト10に寄せて

2025-02-11 08:25:00 | 映画ベストテン
今年もキネマ旬報がベスト10を発表しました。2024年は多少の後悔はあるにせよ、おおよそ観たい作品は映画館で鑑賞する事ができた一年でした

キネ旬読者が選ぶ読者賞の記事に選ばれた斎藤環氏の文章の中で、映画館至上主義は生活弱者や身体ハンディを抱えた人にとって受け入れられるものだと言えるのか?と、書かれていてハッとなりました
どんな人でもどんな環境でも、映画は気軽に楽しめる娯楽であって欲しいとの思いはわたくしも同感です。映画に費やす2時間とお金に対する価値観は人それぞれだから良いとして、観たくても観ることの叶わぬ金銭的な呪縛や映画館までの物理的距離に覚える絶望感、そして何より身体のハンディ故に映画館へ足を運べない人がいる現実を忘れていました

それでも、映画を作った人は大きなスクリーンで作品を観て欲しいから映画を作るのだと信じているから、わたくしはできるだけ映画館で観るよう努力しますし、作者に対してしっかり物申す権利は映画館で観た人にしかないと思っています
だからこそ、稚拙な感想であれ良い悪いを語れる強さを持っているのだと信じているのです

さて、選出された作品の感想です
まず一番に安堵したのは、読者選出に旧ジャ◯ーズ系応援団の組織票が無かったことでしょか。投票するために必要な応募ハガキ付きのキネ旬買わなきゃならないので、組織票が無くなるイコール販売部数減のジレンマあるにせよ、雑誌のステイタスを守るためなら長期的視野でみれば正解だと思います

本題
今回も選者読者とも邦洋一位は一緒でした
「オッペンハイマー」はある程度予測できましたが、「夜明けのすべて」のような地味でありながら心温まる作品が選ばれるのは嬉しいですね

洋画はいつものようにしっかり観た訳ではなく、「哀れなるものたち」の入選が共感できたくらいしか語れません。プライムビデオで鑑賞した「シビル・ウォー」を劇場で観ておけばと後悔しましたことも書き添えましょう
エマ・ストーンの破格な女優魂に感服したことが強烈な思い出となりました。いつか日本にもあんなパワー溢れる女優さん現れるでしょうか?ああ、日本にも田中絹代さんがいました

邦画は前述した一位作品の他にも選者読者共に選出された作品が6作品もありました。その内わたくしも観たのは下記のとおりです
「悪は存在しない」好きな濱口監督作品なのでかなり期待したのですが、結末の不明瞭さについていけませんでした
「ぼくのお日さま」小品ならではの味わい深い佳作です。少年少女が陽の光を背に楽しそうに滑る氷上が美しかったです
「ラストマイル」野木亜希子脚本の勝利ですね。エンタメでありながら社会的な問題点もしっかり語っています。作品評価だけじゃなく興行的な大成功を成したことをもっと評価すべきです
「あんのこと」河合優実の一年だった2024年でした。その中でもこの作品が一番彼女を愛したくなる映画だったと思います
「ルックバック」こちらもプライムビデオ鑑賞のみで、今となっては後悔している作品のひとつです。大御所以外のアニメ作品がどちらにもランクインするのはかなり珍しいのじゃないかしら

わたくしが観てない「ぼくが生きてる、ふたつの世界」は呉監督の前作が合わなかったのでそもそも敬遠してました

今回の選出に関しても、露骨に選者と読者の温度差を感じたのは以下の2作において
選者2位「ナミビアの砂漠」読者は選外でした。わたくしもこの作品のどこが良いのか分かりません
読者2位「侍タイムスリッパー」選者は選外だったのです。かつて「カメラを止めるな」の時にも感じた事ですが、映画評論家なる仕事は小難しく評論しているだけで、根本的なことですが映画を愛すると言った感覚は無いのでしょうか
わたくしはやっぱり映画を愛する読者が選んだ作品によりシンパシーを感じます

何はさておき、「夜明けのすべて」のような優れた作品が真っ当に評価される世の中で良かったですね

個人賞についても一言
三宅監督連勝。素晴らしい
野木亜希子が映画でも認められました
てっきり石原さとみだと思っていたのに、河合優実ちゃん(この歳で!)これからも楽しみです
松村北斗の受賞は納得しつつも、役者の評価って作品や監督との出会い次第なんだと実感しました

今年はどんな作品に出会えますのやら、コツコツ映画館通いしましょうか






2024 つべこべ言わない映画BEST10

2025-01-01 07:41:00 | 映画ベストテン
新年おめでとうございます




また365日が過ぎて、この一年お豆腐の値段が55円から72円に爆上がりしました。映画はどうでしょうか?金儲け主義Tジョイ系以外は頑張って料金据え置きのままです(老人価格しか知りませんが)
映画は映画館で観てこそ作家に対して物申す権利があると思いますので、少ないお小遣いやりくりして一本でも多くの作品に出会えるようあの暗闇に通いました
ハリウッドメジャーは相変わらず遊園地興行でウンザリ。欧州作品で久しぶりに感激しました。邦画は実力のある新興勢力が台頭してると思わせる一年でした


❶コット、はじまりの夏

初夏に観たこの映画を半年以上経った今思い出してもじんわりと目頭が熱くなる。そんな幸せな気持ちにさせてくれる作品って年に何本出会うことが出来るだろう。わたくしたち日本人にとって、アイルランドの夏の日々は物理的な距離よりもっと遠く感じる。決して家族に恵まれているとは言えない少女コットが、ひと夏に経験した本当の愛の物語

❷夜明けのすべて
最近の映画は表面的な人間の葛藤を描くより、マイノリティでありながらも普遍的な感情を細やかに描写するようになってきた。この作品では女性のPMS症状とエリート青年のパニック障害について繊細なアプローチで寄り添う。前作でも聴覚障碍者の女性をドキュメンタリーのように冷静な目でとらえた三宅唱監督らしい優しさ溢れる映画

❸太陽と桃の歌
年末に出会ったスペインの家族に心を揺さぶられた。二時間の物語なのに登場人物の家族全員から茶飲み話を聞いていたような親近感がある。若かりし頃に傾倒していたネオリアリスモ風な作風が、わたくしの琴線に触れたのが一番の理由だろう。それにしても世界中どこの農家も土地とそこで育む作物に対する愛情と拘りは一緒なのだと感じ入る

❹哀れなるものたち
2024年に出会った映画では一番衝撃的だった。敬愛するフェリーニやパゾリーニが描いたような猥雑で独創的な世界観は最近の映画作家の中では異色だ。エマ・ストーンの振りきれた演技も追随を許さない。モノクロとカラーをセンス良く使い分けた撮影も一級品だった。好きとは言えないけど、とても面白い映画だったと人を選んで勧めたい

❺雨の中の慾情
こちらも現代日本で映画化し、シネコンで上映するという暴挙をよくぞやったと褒めたい。作品ごとに問題作を発表している片山慎三らしいエロスとグロテスク満載の描写で、尚且つ原作つげ義春の難解な不条理劇は単純明快な作り物しか観ていない人には苦痛だったろう。配信やレンタルなんかで観ていたらわたくしも途中で投げ出してしまうかもしれない

❻ミッシング
石原さとみの代表作として今年度の女優賞大本命か。今まではコケティッシュな小悪魔系女子で認知されていたが、自身も子供を授かって今後の立ち位置を模索していたのではなかろうか。その意味ではとても良い出会いだったと思う。作品の題材は結論の出ない憂鬱さでいっぱいだから、観終わった後の爽快感は全くないけど淡々と応援したくなる

❼ラストマイル
連続テレビドラマでは本邦随一の名脚本家となった野木亜紀子と、いくつもの傑作ドラマを一緒に作りだしたプロデューサー・監督の勝利。社会的なメッセージも分かりやすく織り込みながら上質なエンタメに仕上げた。過去のテレビドラマを重層的に組み込んでいるけど、そのことでバランスを崩さなかったことが大成功の一因

❽あんのこと
映画好きな人からしたらやっと認知されたかとの感ある河合優実。2024年は評論家受けの良い「ナミビアの砂漠」より、ウェットで救いようのない短い人生を送ったこちらの主人公に感情移入する。薬物、毒親という社会問題も描いているけれど、コロナ過における悲劇をこうして見せられると、過ぎ去ったようでありながらまだあの遺恨はここにあるのだ

❾青春18×2 君へと続く道
ノスタルジックな甘さが気に食わない人もいるだろうけど、岩井俊二監督の「Love Letter」をモチーフにしていることに免じて許して欲しい。できるなら悲しい結末にしてほしくはないけど、懐かしさいっぱいの台湾の片田舎とトンネルの先にある真っ白な雪景色は哀しさとの相性は抜群なので仕方ないのかもしれない

❿ぼくのお日さま
中学生の煌めくような瑞々しさ、ナイーブな表情の横顔に当たる外光のコントラスト。氷上を楽しそうに舞う二人は美しく幻想的でさえある。対極にある大人の世界は打算と諦めの色に塗りつぶされている。日本映画らしい小品で繊細な映画だから、そっと公開され人知れず忘れ去られるのか。ラスト、男の子が満面の笑みで少女に何を語りかけたのかを知りたい

次点
ビヨンド ユートピア 脱北
からかい上手の高木さん
関心領域
十一人の賊軍
きみの色

監督
三宅唱「夜明けのすべて」
脚本
野木亜紀子「ラストマイル」
女優
エマ・ストーン「哀れなるものたち」
石原さとみ「ミッシング」
男優
池松壮亮「ぼくのお日さま」


そして2024年も我が家のベストテンを張り出しましたので、ご紹介しましょう


奥様は相変わらず凄まじい鑑賞本数を背景に劇渋なラインナップでした
大学生になった息子もより一層ヲタクっぽい選択になってるように感じます

2025年も平凡で穏やかな暮らしが続きますように。好きな映画が好きなだけ観ることがでる日々でありますように
顔を出したばかりの、お日さまにお願いしました

皆さんにも良い年が訪れますように







今年の吠えかたはチョット違う

2024-02-05 19:34:00 | 映画ベストテン

今回吠えたいのは、久しぶり復活したキネ旬読者投票の組織票について
一時期旧ジャ◯ーズメンバー出演映画へのしょーもない積み上げで、伝統あるキネ旬のベストテンが穢されていた。主要メンバーの脱退やお家騒動のお陰でこのところ沈静化していたと思っていたのに
なんたる事!元キンプリの岸くんに何の怨みはございませんが、彼を応援する方々お願いだから伝統あるキネ旬の読者票を弄ぶのはやめて頂きたい
誰が主演だろうが良いもの面白いものなら文句つけるようなことはしないのが純然たる映画好きなのだから、日本で唯一映画好きな人たちが投票するキネ旬の価値を下げないで欲しい

毎年、キネ旬選者よりよっぽど映画を愛している読者に選ばれたベストテンを信用してる映画好きは多いに違いない。2023年のベストも組織票のGメンを無視して一位からみて行こう

福田村事件を一位に選ぶところは流石キネ旬読者。怪物、ゴジラ–⒈0は順当。月より愛にイナズマを推したいわたくしとしては不服ではあるけど納得。正欲は原作がつまらなかったので映画は観てない。君たちはどう生きるかも正当に評価され、わたくしの好きな市子もランクインしてた。バッド・ランズは観てないし想定外なのでコメントできない。組織票の煽りを受けてPERFECT DAYSが漏れているのは罪なこと

選者が選んだ、せかいのおきく、ほかげ、花腐し、春画先生は如何にもキネ旬選者好きな監督ばかり
それはそれで一種の伝統芸能だから一目置いておこう
せかいのおきく以外は観ていないので何とも言えないのも事実


それはそうと、日本アカデミー賞ですよ
今回は至極真っ当なノミネーションでした。吠えるところありません
保守的な会員票は怪物に集まりそうです(山田先生に何かがあれば功労賞票も入りそうですが)。ヴェンダースにあげる勇気か福田村事件を選ぶ革新性を見たいなとは思いますけど
興行と今後の宣伝効果を考えればゴジラって言うのも有りかもです
そうそう、主演女優に趣里がノミネートされてないんですね
そうなると、市子の杉咲花一択なんですけど








2023 マスクなしでの映画BEST10

2024-01-04 09:52:00 | 映画ベストテン

新年早々辛い出来事ばかりで、嫌な2024年の幕開けとなりました
ここからは良いことの多い笑顔の一年になりますように

2023年を振り返って、好きな映画を並べてみました


❶愛にイナズマ
ほぼ同時期に公開された「月」の方が目立っていたし、実際わたくしも期待していたのだが思っていたのと違っていたため、やっぱり石井監督とは相性が悪いんだろうと諦めていた。だからあんまり期待していなかったんだけど、この家族映画には心底惚れてしまったのだ。どれ程汚い言葉で罵り合っても血縁の絆は太く強いことが描かれた

❷福田村事件
地震の多いこの国において関東大震災の教訓は長らく語られてきた。その中のひとつが流言飛語に気をつけろ
この映画は隠された日本人の差別意識を曝け出すことで、今でも行われているヘイトの意識を炙り出そうとした。一人一人は優しくて思慮深い人でも災害時の環境の中では、大多数の人が信じる方へ向かってしまう恐ろしさを痛烈に描写している

❸すべてうまくいきますように
個人主義の国フランスでも肉親の死は我々日本人と同じ感情で捉えているんだと、変なところで感心した。まあ、それでも父親の尊厳死を理解し認めて行くところはなかなか日本では難しいなとも感じる
人は生まれてくることは自分では選べないけど、死んで行くことは選択する能力があることもこの映画で知ることになる

❹市子
戸籍を持たないままこの国で生きて行くのは辛いことなんだろうなと思うけど、親の勝手でそんな負目だらけの人生を押し付けられるのはたまったもんじゃない。根底にあるのは貧困、それを引き起こす教育とか介護とかの環境の劣悪さ。日本は一人で生きて行くには充分豊かな国だけど、家族の誰もが笑っていられる国ではないようだ

❺怪物
是枝監督がこのところ新しい映画作りに挑んでいると感じていたが、この作品では脚本を他人に任せるという挑戦が正解か否かは判断できなかった。光の刺す草原へ駆け出して行く子供たちに、希望を感じるのか悲しい結末の暗示と捉えるのかは観客の感性に委ねられた。わたくしは無邪気な喜びとしてこの映画に寄り添うことを選ぶ

❻こんにちは、母さん
山田洋次の母三部作が完成したように思う。これまでの二作はそれほど感心できなかったけど、吉永小百合を神格化することなく下町の老婦人として描くことでようやく日本の母親像が心に響いた。現在進行形の日本社会とのズレは感じてしまうものの、人と人の繋がりを描く才は衰えることなく一流の職人技を楽しませてもらった

❼フェイブルマンズ
これもスピルバーグの母親に対する複雑な感情を織り交ぜながら、自分史に取り組もうとした作品となった
自伝的要素の高い作品なので、監督がどの様に映画に魅せられてのめり込んでいったのかも分かる。わたくしの個人的な感想として、ジョン・フォードとのエピソードは無くてもいいんじゃないかとも思う

❽PERFECT DAYS
役所広司は本当にいい役者なんだと再認識させてくれた。ドイツ人の目から見た東京の街は綺麗なんだということもなんだか新鮮な発見。毎日が同じことの繰り返しで、過ぎて行った一刻を振り返ることなんてないけど、その一日も微妙に違う特別で完璧な日々なんだとヴェンダースは教えてくれた

❾君たちはどう生きるか
やっと宮崎駿がジブリという足枷を断ち切って自分のやりたい事だけをやれたのじゃないかな。本当にこれが最後になりそうだからより一層思うのだけど、死後の世界を描くことに注力しているようだ。そしてこちらもファンタジー色がかなり強いけれど、自伝的なエピソードが散りばめられている。少年時代への郷愁は歳とともに強くなるのか

❿非常宣言
韓国の航空機パニック映画。この手の映画のお約束は、多少の犠牲を出しながらハラハラさせられるけど最後はメデタシメデタシの結末なんだけど、欧米人のメンタルと違うのは自己犠牲を美徳とするアジア人の崇高さだと思う
自衛隊が旅客機に攻撃する描写など荒唐無稽な部分もあるけれど、涙しながら最後まで楽しめるエンタメ

次点
最後まで行く
生きる LIVING
君は放課後インソムニア
せかいのおきく


監督  石井裕也「愛にイナズマ」
脚本  上村奈帆、戸田彬弘「市子」
女優 ミシェル・ウィリアムズ「フェイブルマンズ」
男優 役所広司「PERFECT DAYS」


ここからは恒例の奥様ベスト10
今年は高校三年生、我が家のペットたっくんも参加しました



家族といえどもここまで違うのはすごいですね
たっくんがちゃんと映画を観て感じていることが親としては嬉しいのです

今年も元気に映画館通いができますように



2022年 キネ旬ベスト10発表

2023-02-05 06:27:00 | 映画ベストテン
今年もキネ旬選者はいくつかのマニアックな選出をして如何にも評論家めいた雰囲気を醸し出していますが、そんなに良い映画だったならなぜもっと公開時に宣伝しなかったのかと思うのです。それが貴方達の仕事でしょうが
と、いつも思うのです
わたくしもそれなりにアンテナ張っているつもりですが、3位夜明けまでバス停で4位こちらあみ子9位千夜、一夜のランクインは予想できませんでした。当然観ていません

1位ケイコ目を澄ませて2位ある男の順位が選者読書とも一緒であるのは結構珍しいかもしれないです。選者票の同点が多くて、6位に3本並びました。ハケンアニメとPLAN75は納得です。9位も同点でさがすが入ってます
以上5本を鑑賞し、観て良かった映画として脳みそに刻まれているので文句はございません。勝率5割

やっぱり思うことは、選者より読者の選出の方が的を射ているのだと言うことです
8位のシン・ウルトラマンは賛同できませんが、上記以外の中で3位窓辺にて4位流浪の月7位愛なのにはわたくしも応援したい作品なので共感できます
結局読者選出のうち8位まで観ていました。30本しか観ていないのに結構な高確率でした

今回一番の驚きは、トップガン マーヴェリックの順位です。まさか選者が2位に選出するなんて思いもしませんでした。三十数年前には想像もできないことです
外国映画は殆ど観ないのですが、選者選出でも三作読者では五作も観ています。これも最近にしてはすごく珍しいことで驚きました

嬉しかったのは、岸井ゆきのちゃんが主演女優賞を獲得できたことです。それも次点の倍賞千恵子に三倍もの票差でした。寸評に彼女の努力が報われる評価をしてほしいと書きましたが、想像以上の評価で報われました。良かった