Q.関西在住のITエンジニアです。東京転勤を打診されましたが、親の介護を理由に断ったところ「同じような事情を抱えている転勤者は多数いる、わがままだ」と上司に言われる始末です。これには悲しい気持ちになりました。親に何かあるかもしれないので、遠地への転勤は心配です。いかがでしょうか。
筆者の顧問先企業(人事部門)からも、特に年度替わりの時期は類似の相談が多いです。転勤を命令したが、家族などの介護がある従業員への対応に関することです。
会社には「転勤しなさい」と異動命令できる権利がある一方で、従業員の介護事情も配慮しなければなりません。会社は、異動と介護の両面から総合的に判断する必要があります。
異動の判断材料として、介護保険被保険者証の「要介護状態区分等」は参考になりそうです。要支援1から要介護5までの区分があります。市町村などの機関で主治医の意見も参考に認定されるものです。
慣習的な転勤を廃止する検討を。
日本では高齢化が進んでいます。従業員は65歳まで働ける環境になりました。70歳までの雇用努力義務も施行されています。親の面倒をみなければならない年代の従業員がますます増えていくのは一目瞭然です。
中高年齢者の従業員については、ビジネス上で必要だという転勤のみとして、単なる慣習的な転勤は廃止したほうがよい時代だと筆者は思います。会社にとっても転勤は引っ越し代や住宅手当、帰省手当の支給がかさみ、経費が増えます。転勤が減れば、経費減につながります。リモートワークなどの活用で、働き方を柔軟にしてみてはいかがでしょうか。
会社の就業規則には通常、「転勤や出向、配置転換など異動を命ずることができる」と記載があります。異動命令があれば従業員はそれに従う必要があります。
一方、育児・介護休業法第26条により、従業員を転勤させる場合は介護状況に配慮が必要だとされています。
転勤することで介護が難しくなるといった事情を抱える従業員が増えてきました。親であれば、別居する世帯が多くなり、通いながら介護する時代なのでしょう。筆者の知るケースで、何かがあったときに駆け付けられる地域にいたいという理由で、転勤を免除された人が何人かいます。高齢になるほど弱ってくるので家の中で転んで骨折することもあります。昼夜を問わず、いつ負傷してもおかしくありません。遠方だと、夜中には飛行機も新幹線も動いていないので困ります。
転勤よりも介護事情を優先する。
従業員が抱える介護事情や介護レベルは様々です。例えば、親は兄弟姉妹と同居しているので普段は面倒をみていないといったことや、健康状態としては遠くへの買い出しは無理だが生活には支障がないといった個別の事情です。
会社は、その個別事情に前向きに向き合ってください。質問のケースで上司は、「同じような事情を抱えている転勤者は多数いる、わがままだ」と発言しています。
上司が言うように、同じような事情を抱えている転勤者は多数いるのかもしれません。一方で、介護で転勤を免除された従業員もいるでしょう。人事部門は全体を把握しているはずです。
わがままだという言葉も冷たいです。自身の親、あるいは子供が大病を患っている状況と置き換えて発言してほしいと思います。会社は、転勤よりも介護事情を優先させなければなりません。配慮義務があるので当然なのです。
残念なのは、介護が必要ではないのに転勤を拒む理由にする従業員がいることです。ほんの少数だと思いたいところです。少数であったとしても、本当に介護が必要な事情を抱えている従業員に失礼です。
質問者の文面からは、親御さんが必要とする介護の度合いが分かりません。いずれにせよ、従業員の介護問題が今後増えていくのは確実です。高齢化の現実に、質問者の上司は疎いようです。人事部門を含めて相談なさってください。