○ 2022年10月26日に発売された「第10世代iPad」(以下、iPad 10)は、エントリーシリーズの「iPad」(以下、無印iPad)として、初めてホームボタンのない形状を採用したモデルだ。
この記事では、iPad 10がどんなモデルなのかを紹介するとともに、意外に価格差が小さくなった上位の「第6世代iPad mini」(以下、iPad mini 6)と比較することで、仕事に使う端末としてどちらがお薦めなのかを見ていこう。
第10世代iPadはiPad Airからデザインを継承。
iPad 10は、2020年に発売された「第4世代iPad Air」から採用された現在のiPad Airのデザインを無印iPadに落とし込んだものと考えれば分かりやすい。ホームボタンが廃止され、ディスプレーを囲む額縁が細めになっている。また、これまでの無印iPadは背面の端が曲面で構成されていたが、iPad Airと同様にフラットなデザインになった。全体的にとても洗練された印象を受ける。
ディスプレーサイズが10.9型で、画面解像度が1640×2360である点もiPad Airと同じ。10.9型のディスプレーは、タブレット端末をオールラウンドで使いたい場合にちょうどいいサイズだ。
「Touch ID」(指紋認証)には、ホームボタンの代わりにトップボタンを使う。前面カメラを「Face ID」(顔認証)に使うのは「iPad Pro」シリーズだけで、それ以外の製品はiPad mini 6を含めてトップボタンにTouch IDを組み込む流れになっている。
またiPad 10の内蔵スピーカーは、横向きに置いたときに左右に位置する。これもiPad Air譲り。動画コンテンツなどのサウンドをステレオで楽しめるようになった。
背面カメラ性能の向上と前面カメラの位置変更。
背面カメラはiPad Air譲りで出っ張っているもののスペックが継承されており、12メガピクセルで動画撮影は4Kに対応するようになった。単体のカメラとしても十分な性能だ。従来のiPadは8メガピクセルで1080p動画までだった。
iPadシリーズは学習用端末として導入されることがあり、多くの児童・生徒はiPadをカメラとしても活用している。背面カメラの強化は歓迎されると思われる。
前面カメラは12メガピクセルの超広角だ。テレワークや自宅学習のオンライン会議で前面カメラが利用される機会が増えており、2022年の時点で全てのiPadがこの仕様になっている。
また前面カメラは「センターフレーム」に対応している。従来のiPadにも搭載されている機能で、超広角カメラが捉えた映像から人を認識し、常に中央に映るようにフレーミングする。オンライン会議などで重宝する機能だ。
これまでのiPadと異なるのは、iPadを縦持ちした際の右縁中央に前面カメラが配置されている点だ。ハードウエアキーボードなどを接続して横向きで使う場合などに、カメラが正面からユーザーを捉えられる。これによってオンライン会議で自然なアングルになる。これまではiPadを横向きにするとカメラが左側に位置していたため、ユーザーの顔がやや左側から映されていた。
Apple Pencilは第1世代を使用する。
外部接続用端子が「Lightning」から「USB-C」(USB Type-C)に変更された点もiPad Air譲りである。
充電が高速になることに加え、大きいサイズのファイルを外部ストレージ経由でやり取りしやすくなった。従来のLightning端子では供給される電力が小さく、変換アダプターを使うと外部ストレージが認識されないことがあった。一方、USB-C端子からは十分な電力が供給されるため、パソコンで一般的に使われるUSBメモリーやSSDなどの外付けストレージをそのまま接続できる。
iPad 10には両端がUSB-Cの充電ケーブルと20WのUSB-C電源アダプターが付属する。30Wの電源アダプターを用意すれば、より高速な充電も可能だ。ケーブルは編み込み被膜になり、しなやかに取り回せるようになった。
USB-C端子の搭載でややこしくなったのが「Apple Pencil」のペアリングと充電だ。iPad 10は第2世代Apple Pencilには対応せず、引き続き第1世代Apple Pencilを使う。
第1世代Apple Pencilは、ペン後部のキャップを外した所にあるLightning端子を使ってiPadと物理的に接続し、ペアリングと充電をする仕組みになっている。ところが、USB-C端子搭載のiPad 10には直接接続できない。この問題を解決するために、USB-CとApple Pencilを接続するアダプターが用意されている。
現在販売されている第1世代Apple Pencilにはこのアダプターが付属しているが、以前に購入した第1世代Apple Pencilを使う場合は別売の「USB-C - Apple Pencilアダプタ」(1380円)を購入する必要がある。
使おうとしたときにApple Pencilの充電が足りずに、その場で1~2分充電して使うといったことはよくある(Apple Pencilは、15秒の充電で30分使えるとされている)。その際にはアダプターとケーブルのセットが必要な点に注意しなければならない。
「Magic Keyboard Folio」はスタンドとキーボードが分離。
iPad 10の純正ハードウエアキーボード「Magic Keyboard Folio」には、従来の純正キーボードにはなかった特徴がある。
まず、iPadのスタンド部分が「Microsoft Surface」のような「キックスタンド」と呼ばれる方式になった。iPadをほぼ垂直から135度ぐらいまでの間で自由な角度で立てられるため、さまざまな体格のユーザーや、高さの異なるテーブルに対応できる。従来の「Smart Keyboard Folio」は2段階の角度を選べるだけだった。
また、キーボード部とスタンド部を分離できるようになった。動画を鑑賞する場合などでは不要なキーボードを外しておける。
従来のiPad用には「トラックパッド」(タッチパッド)搭載の純正ハードウエアキーボードは用意されていなかった。Magic Keyboard Folioにはトラックパッドが搭載され、よりパソコンライクな使い方ができるようになった。またiPadの明るさや音量を調整するためのファンクションキーも初めて搭載された。上位のiPad Pro用の「Magic Keyboard」にもファンクションキーは搭載されていない。
キーボードでの作業中に音楽を聴くことが多い筆者には、再生中の曲を送ったり音量を調整したりできるファンクションキーは、「待ってました」といえる機能だ。
iPad 10とiPad Airはサイズやデザインがほぼ同じなので、iPad Air用の「Magic Keyboard」が使えるのではないかと思うかもしれない。しかし、ハードウエアキーボードを接続するための物理端子「Smart Connector」の位置が異なるため互換性はない。個人的には、ファンクションキーを持つMagic Keyboard FolioをiPad Airでも使いたかった。
iPad 10は立ち位置が微妙。
iPad 10は、最も安い「ストレージが64GBのWi-Fiモデル」でも6万8800円(直販価格、以下同じ)。引き続き販売されている「第9世代iPad」(以下、iPad 9)で同じ構成を選択したモデルに比べて1万9000円も高い。そこで、iPad 9よりも優れている点を考えてみよう。
無印iPadは、上位シリーズで新規採用されたデザインや技術を周回遅れで取り入れている製品ラインだ。これにより開発や製造コストを抑え、低価格を実現している。
iPad 10は、iPad Airの要素を無印iPadに落とし込んだものだ。現在の価格で見ると、「2万4000円安いiPad Air」とも捉えられる。
とはいえ、無印iPadとしては安くない。さらに事態をややこしくしているのが、無印iPadとiPad Airの間にあるiPad mini 6の存在だ。「ストレージが64GBのWi-Fiモデル」が7万8800円で、iPad 10よりも1万円高いだけだ。
64GB | 256GB | |
---|---|---|
第5世代iPad Air | 9万2800円 | 11万6800円 |
第6世代iPad mini | 7万8800円 | 10万2800円 |
第10世代iPad | 6万8800円 | 9万2800円 |
第9世代iPad | 4万9800円 | 7万1800円 |
こうして見ると、iPad 10の価格は上位シリーズに寄り過ぎているように思える。iPad 10の購入を考えているユーザーは、iPad mini 6と比較検討してもよいかもしれない。
第6世代iPad miniは手軽に持ち歩けて高スペック。
iPad mini 6は8.3型のディスプレーを搭載した小型軽量のiPadだ。入れるバッグを選ばないサイズのため、手軽に持ち歩けるというメリットがある。キッチンスケールで実測した重さは、iPad 10の481gに対して、iPad mini 6は297gだった。これだけ軽いと、使う予定がないときに持ち歩いても苦にならない。
iPad mini 6は片手で安定して持てるサイズで、手書きメモや電子書籍リーダーをメインの用途とする際には大きなアドバンテージがある。
iPad mini 6の登場は2021年9月で、iPad 10よりも1年以上前だ。しかし当時の最新技術を惜しげなく搭載しているため、iPad 10と比較しても見劣りするスペックはなく、むしろ上回っている部分もある。SoCはiPad mini 6が「A15 Bionic」なのに対し、iPad 10は1世代古い「A14 Bionic」だ。
試しにベンチマークアプリ「GeekBench 5」で性能を測定してみた。「シングルコアスコア/マルチコアスコア」がiPad 10で「1575/4189」なのに対して、iPad mini 6は「1581/4674」だった。iPad mini 6のほうがやや優秀という結果だった。
また「AnTuTu Benchmark」で測定したGPUスコアは、iPad 10の「275533」に対してiPad mini 6は「353885」という結果だった。A14 BionicとA15 BionicにはGPUコア数に違いがあり、前者は4コアで後者は5コアなので、数値に大きな差が出たと思われる。
iPad mini 6を今購入しても、性能面では長く使い続けられる可能性が高いと考えられる。
また、iPad mini 6はフルラミネーションディスプレーのため、液晶面とカバーガラスの層が薄い。これには、Apple Pencilを使う際にペン先と描画位置のずれが小さくなるメリットがある。両方使ってみると、iPad mini 6のほうが違和感が少ない。
さらに、iPad mini 6のディスプレーには反射防止コーティングが施されている。光源の反射が抑えられるのに加え、全体的に黒い部分が白くなりにくく画像が引き締まって見えるという特徴もある。
これだけ優秀な点が多いiPad mini 6が、iPad 10に1万円プラスするだけで手に入るのは、コストパフォーマンスが高いと思える。個人的にはiPad 10のコストパフォーマンスは他のiPadと比較してあまり高くないように感じる。
持ち歩いて使いたいビジネスパーソンには、iPad mini 6がお薦めのモデルになる。1万円の価格差も、常に持ち歩いて使う機会が多ければ割に合うだろう。リアルの会議で手書きメモする際にも小型軽量は重宝する。小さなディスプレーが問題にならない場合は検討対象になるだろう。
一方、iPad 10はハードウエアキーボードと組み合わせ、テレワークなど屋内で使う用途に向いている。サイズが大きめの電子書籍を読むことが多い場合はiPad mini 6よりもiPad 10のほうが快適だ。