〇 いつの時代も、若者と大人には世代間ギャップがある。一例は中高年の「おじさん世代」がLINEなどのメッセージングサービスで活用する独特の文体「おじさん構文」だ。文体だけでなく、チャット中のコミュニケーションのスタイルも若者と大人で異なる。
ビジネスシーンで用いる言葉にも違いがある。Twitterで「#おっさんビジネス用語」というハッシュタグが話題となった。おじさん世代がビジネスで使う用語をユーザーがツイートし合ったものだ。
例えば「互い違い(にする)」という意味の「テレコ(にする)」。多くの大人にとってなじみのある言葉だろう。
テレコは国語辞書に載っている一般的な言葉といえる。そのため、若者が不勉強なだけだ、と思うかもしれない。しかしTwitterの#おっさんビジネス用語として取り上げられたということは、ビジネスシーンで若者に伝わらないケースがあることを意味する。大人はビジネス上のリスクと考えた方がいいだろう。
#おっさんビジネス用語のツイートを見ていくと、アラフィフの筆者も使っているビジネス用語がある一方で、知らないものもあった。若者と大人が互いの文化を知り、そこにあるギャップを把握しておくことは、円滑に仕事を進めるうえで重要なポイントの1つだ。今回はツイートなどを参考に、若者には伝わらないケースがあるビジネス用語をピックアップした。筆者独自の分類で紹介していくので、大人も若者も読んでほしい。
(1)擬音語・擬声語の「エイヤ」「ガッチャンコ」「ガラガラポン」。
最初に取り上げるのは「エイヤで作る(ざっくり作る)」「ガッチャンコする(くっつける)」「ガラガラポン(現在の状況をいったん白紙に戻したうえでやり直す)」という擬音語・擬声語だ。擬音語・擬声語を使うのは、言葉に力強さや勢いが生まれるからだろうか。厳密には擬声語ではないかもしれないが、「イッテコイ(上下はしたが元の状態に戻る)」もおっさんビジネス用語の1つとされている。
(2)同じ言葉を重ねる「ほぼほぼ」「いまいま」「イケイケドンドン」。
言葉を強調するため2回重ねる用語にも、おっさんビジネス用語がある。例えば「ほぼほぼ(ほぼ)」「いまいま(いま)」だ。「ほぼ」「いま」でも通じるが、2回重ねることで強い意味になったり語呂がよくなったりするのだろう。同じ言葉を重ねたおっさんビジネス用語には「イケイケドンドン(勢いよく突き進む)」もある。これらの言葉の意味はさすがに若者にも通じるだろうが、違和感を持つようだ。
(3)外国語を短縮した「ネゴる」「サチる」。
外国語を短縮したおっさんビジネス用語もある。例えば「ネゴる」は「ネゴシエーション」から来た用語で、交渉することを指す。「サチる」は「サチュレーション」から生まれた言葉で、飽和している状態を意味する。サチるは技術者が使う言葉だったが、ビジネスでは「売り上げがサチっている」のように用いる。
(4)かつて皆が使っていた物をベースにした「テープ回しといて」「鉛筆なめなめ」。
かつては皆が使っていたが、今ではあまり使わなくなった物やサービスを基にした言葉も、おっさんビジネス用語として少なくない。「テープ回しといて(録音しておいて)」は、記憶メディアが変わった今は通じないと考えた方がいいだろう。「鉛筆なめなめ」は、じっくり考えるといった意味もあるが、(ごまかして)数字の帳尻を合わせる場合に使われることが多い。もともとは、質の悪い鉛筆をなめると書きやすくなる現象があったから生まれた言葉だとされる。「そば屋の出前(もうできていると進捗をごまかす)」も、店に直接出前を頼んだことのない若者には想像できないかもしれない。
(5)野球や相撲、マージャンが語源の「ボールを投げる」「土俵際」「一気通貫」。
大人と若者では、親しんできたスポーツや遊戯が違う。野球や相撲、マージャンの用語を使った言葉を若者が理解できなくても仕方がないだろう。「ボールを投げる(仕事を依頼する)」「全員野球(メンバー全員で取り組む)」は野球から生まれている。「土俵際で踏ん張った(ギリギリで耐えられた)」「徳俵で残った(土俵の飛び出ている部分である徳俵で残れた)」などは相撲から来ている。
マージャン用語が源流の言葉もある。「リャンメン印刷して(リャンメンは両面の意味)」「一気通貫(初めから終わりまで)」などだ。一気通貫はマージャンで同じ種類の数はいを一から九までそろえる役だが、マージャンを知らない筆者はビジネス用語だと思っていた。
ここまでに挙げた言葉のほかにも、おっさんビジネス用語は多々ある。(1)~(5)の分類に収まらなかったが、よく使うおっさんビジネス用語を挙げよう。
「一丁目一番地(最初にやるべきこと)」「仁義を切る(筋を通す)」はビジネスや政治でも使う。「決めの問題」は、優劣がない選択肢がある際にどちらかに決めてしまっていいケースなどで使われている。「正直ベース」は「正直に言うと」という意味だが、「賃金ベース」や「情報ベース」と同様に「ベース(基礎)」を付けてもったいぶることで、特別感が出る。似たような言葉では「ドリブン」や「マター」もある。
実を言うと、これらのおっさんビジネス用語の中には、筆者の理解が曖昧なものもあった。二重・三重の意味を持つ用語もある。そのため大人同士でも、細かなニュアンスまでは共有できていないかもしれない。
特に社会人になりたての若者と会話をするときには、おっさんビジネス用語は業界の専門用語と同じく相手が理解できないかもしれないと想定して補足説明する必要があるだろう。「テレコは互い違いにという意味です」のような具合だ。そうしないと、若者は勘違いしたまま仕事を進めかねない。
とはいえ、おっさんビジネス用語を知っている人同士であれば、それを使うとコミュニケーションが円滑になる。気心の知れた大人世代が集まる場では、あえておっさんビジネス用語を連発するのも楽しそうだ。