◯ 「タウンページ」や「104」が相次いで終了、問われる音声通話サービスの今後。
NTT東日本とNTT西日本(NTT東西)は「タウンページ」などの電話帳サービスと「104」の番号案内サービス、そして「177」の天気予報サービスの終了を相次いで発表した。インターネットの普及によって、情報取得やコミュニケーションの手段が大きく変わったことが背景にあることは確かだ。今後、音声通話自体のあり方も大きく問われるときが来るかもしれない。
130年以上の歴史を持つサービスが終了。
スマートフォンが若い世代だけでなくシニアにも普及し、インターネットサービスが生活に根付いている2024年。その7月に、NTT東西から時代の流れを感じさせる発表が相次いだ。
1つはタウンページなどの電話帳サービスと番号案内サービスの終了だ。2024年7月19日に発表された。視覚障害者などに向けた「点字電話帳」と「ふれあい案内」は継続するとしているが、それ以外の電話帳サービスは2026年3月31日をもって終了する。サービス終了後は、NTTタウンページがインターネット上で提供している「iタウンページ」を利用してほしいとしている。
電話帳サービスと番号案内サービスは共に1890年に始まった。つまり明治時代から130年以上にわたって提供されてきた、非常に歴史のあるサービスである。50音別の電話帳である「ハローページ」の提供は既に終了している。今回の措置をもって、ほぼ全ての電話帳サービスが終了することになる。
そしてもう1つ、NTT東西は2024年7月26日、177番を終了することも発表した。177番は、電話をかけた地域の気象情報を聞くことができる天気予報サービス。市外局番に続けて177をダイヤルすれば、別の地域の気象情報を聞くこともできる。177番は電話帳サービスなどより早く、2025年3月31日をもって終了することが明らかにされている。
これらはいずれも年配者にとってなじみのあるサービスだけに、惜しむ声もあるようだ。だが終了する最大の要因は、言うまでもなく利用が減少したためである。人々の連絡手段が固定電話からスマホに移り、インターネットによる情報取得やコミュニケーションが主流となった現在において、固定電話を主体としたサービスの利用が減少するのは必然の流れである。
維持が厳しい固定電話、番号非開示の動きも逆風に。
ビジネスの側面からも、これらサービスの維持が難しくなっている様子が見えてくる。例えばタウンページなどの電話帳サービスは、広告の掲載によって収入を得ている。NTT東西の説明によると、スマホなどの普及によって、その広告掲載件数が2000年から94%も減少したという。
その一方で、電話帳サービスは紙を用いるため、紙の調達や印刷、輸送など様々なコストがかかる。売り上げが減る一方にもかかわらず発行にコストがかかることも、サービス終了を加速させた要因といえるだろう。
177番に限らず104番も利用者が大幅に減少している。104番の利用回数は2023年時点で、ピーク時の1989年から99%も減少しているという。
104番は1案内当たり66円から165円がかかる。177番も通話料がかかるサービスなので、利用してもらえればNTT東西の収入につながる。だが利用が激減しているために、サービスを維持するのが難しくなっているのが正直なところだろう。
現在NTT東西が提供している固定電話、とりわけメタル回線を用いたサービスは、設備の老朽化などによって維持管理に多大なコストがかかっている。だが一方で、ユニバーサルサービス制度によって日本全国であまねくサービスを提供する義務を負っているため、勝手に廃止することができない。
その赤字の規模は年間で500億円を超えるとされている。昨今のNTT法改正に関する議論において、NTTがユニバーサルサービス制度の見直しを訴える根拠にもなっている。
それだけ固定電話を巡る環境が厳しいことから、関連するサービスのコスト削減はNTT東西にとって急務となっている。それが一連のサービス終了にも少なからず影響したと考えられそうだ。
もう1つ、とりわけ電話帳サービスなどの終了に関しては、電話番号の公表を控える動きが進んでいることも影響しているだろう。個人情報保護の観点から個人の電話番号を公にしなくなっただけでなく、最近では企業も電話番号を非公表にする動きが進んでいる。企業の代表連絡先としてメールアドレスのみが示されることも少なくない。
従来電話が多く用いられていた製品やサービスのサポート窓口も、メールやチャットなどインターネットを活用した手段が積極活用されるようになった。
一方で電話によるサポートには、発信者側に料金負担が生じるNTTコミュニケーションズの「ナビダイヤル」を導入するケースが非常に増えている。その理由はサポートコストの削減やカスタマーハラスメント対策などのためと考えられる。企業が電話番号をあまり開示しなくなっていることも、電話帳サービスなどの存在意義を失わせる要因につながったといえる。
それでもニーズは大きい音声通話。
一連の状況を考慮すれば、NTT東西が固定電話に関わるサービスを従来通り継続できなくなっていることは確かだ。他のサービスに関しても、今後終了する可能性は高い。このような状況で気になってくるのが、固定電話に限らず、電話回線による音声通話サービスそのものの行方である。
天気予報などの情報を得る手段としては言うに及ばず、音声によるコミュニケーションに関しても、既にメッセンジャーアプリやSNSなどのインターネットを活用したサービスでほぼ代替できる。110番や119番などの緊急通報を利用できないという大きな課題は残っているものの、それ以外の日常的なコミュニケーションは、インターネットとデータ通信で事足りている。
それだけに、今後、電話番号を軸とした音声通話サービスがいつまで必要なのかという声が出てきても不思議ではないように感じる。だが一方で、「必要ない」といわれることが多かった音声通話が、実は意外と利用されているようだ。それを示す一例が、ソフトバンクが提供する携帯電話向けオンライン専用プラン「LINEMO」の新料金プラン「LINEMOベストプランV」である。
このプランの前身となる「スマホプラン」は、当初5分間の通話定額をセットで提供する予定だった。だが「LINEの音声通話があるから5分間の通話定額はいらない」という意見が多かったことを受け、急きょそれを削除して月額料金を安くすることにした。だがその後継プランとなるLINEMOベストプランVでは、5分間の通話定額がセットとなり、ベースの月額料金もスマホプランからアップしている。
その理由について、ソフトバンクのコンシューマ事業推進統括を務める寺尾洋幸氏は、5分間の通話定額オプション「通話準定額」を7カ月目まで無料で提供するキャンペーンを実施したところ、スマホプラン契約者はキャンペーン終了後も通話準定額を継続する割合がかなり多かったためと答えていた。
スマホのリテラシーが高い人が契約し、データ通信の利用が主と見られているオンライン専用プランでさえ、実は音声通話を必要とする人が多くいる様子を見て取ることができる。
2024年の時点で音声通話が不要という流れには至らないだろう。だが緊急通報のあり方など様々な部分が見直されることで、状況が大きく変わってくる可能性は十分あると筆者は見ている。その分水嶺を見極めることが、今後のコミュニケーションサービスやネットワークインフラを考えていく上で非常に重要になってくるのではないだろうか。