〇 産業用コンピュータに求められる条件。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の期待があらゆる分野で高まっている。製造や建設業、エネルギーをはじめとする社会インフラ、運輸、通信、医療、小売など、マンパワーが主力の業種も例外ではない。
センサーやウエアラブルデバイスといったIoTの活用で業務の省力化・自動化が加速し、社会課題である人手不足を補う切り札になる。工場や医療の現場ではOT(Operational Technology)との融合によるデータの利活用が進み、イノベーションの期待も高まる。インダストリー4.0に象徴されるように、今後はこれらの分野がDXの主戦場になるという見方もある。
実際、既に生産設備の予防保全で稼働率向上を実現している工場もある。ベテランが遠隔から現場の作業員に指示を出し、難易度の高い作業をこなす。デジタルツインでリアルの工場を運用・監視し、生産シミュレーションでリスクも減らす。移動が困難な高齢者を遠隔で診療したり、AIが医師の診断をサポートしたりする――そんな世界も現実のものになりつつある。
一方、その実現には課題もある。OTやデジタル技術との融合を支えるIT機器をどうするかという問題だ。マンパワー主力の業種は屋外や過酷な環境下で作業することが多い。しかも、リアルタイム性や24時間365日の安定稼働が求められ、要求は非常にシビアだ。
汎用のPCやサーバーではこの要求に応えることは難しい。特殊な環境下でも壊れにくく、安定したパフォーマンスを発揮するためには、産業用コンピュータの活用が不可欠である。
しかし、特殊な環境とひと口にいっても、それは個々の現場で千差万別だ。求める要件にマッチした産業用コンピュータの開発にはパートナーの力が欠かせない。環境変化にもスピーディに対応できる柔軟性も求められる。そうしたパートナーに必要な条件を次ページ以降で考察する。
産業用コンピュータの開発に必要な2つの条件。
工場の作業に粉塵や振動は付きものだ。そんな環境でもセンサーやOT機器のデータをリアルタイムに分析できなければ、工場DXは実現できない。食品・食材を保存する冷凍庫内の品質・在庫管理には、超低温の特殊環境に対応し、防寒具の上からでも使いやすい端末が必要になる。
このように現場の作業は多種多様であり、それを支える産業用コンピュータの要件も多岐にわたる。そしてデジタル化の進展とともに、その用途も広がりを見せている。現場のデータをリアルタイムに収集・分析するエッジコンピューティングの重要性が高まっているからだ。
現場で集めたデータをクラウドやデータセンターですべて処理すると、どうしてもタイムラグが発生する。データ量が増えれば、ネットワークやサーバーの負荷が大きくなり、ボトルネックも発生しやすい。現場で処理できるものはできるだけ現場で処理すれば、データセンターの負荷を減らし、リアルタイム性も高まる。
エッジコンピューティングを支える産業用コンピュータはPCやタブレットなどのデバイスだけでなく、処理能力の高いサーバーやネットワークも必要になる。ハードウエアベンダーには、多様な現場のニーズに対応する幅広い製品ポートフォリオが求められる。
これに加え、もう1つ重要な条件がある。顧客要件をスピーディに形にし、長期にわたってサポートできることである。産業用コンピュータは現場の環境特性や使い方に合わせてカスタマイズが必要になるからだ。
これらの要件を満たすパートナーとして注目したいのが、デル・テクノロジーズである。産業用途の需要に応えるOEMビジネスを2000年に創設し、20年以上にわたって産業分野のソリューションビルダーを支援するOEMソリューションを提供している。共創パートナーであるソリューションビルダーはワールドワイドで500社超。40を超える産業分野で1万件以上の設計事例がある。構築したOEMソリューションは70カ国/4000社以上の顧客企業に利用されている。
「ビジネス全体のDXを実現するためには、データセンターやオフィスのIT環境だけでなく、エッジコンピューティングを含めたデジタル化が不可欠です。デル・テクノロジーズはエッジコンピューティングの用途を網羅する広範な製品ポートフォリオを提供しています」と同社の村上 有一氏は話す(図1)。
専任スタッフが企画・設計から保守までトータルサポート。
デル・テクノロジーズのOEMソリューションはこの製品ポートフォリオを「標準」として、顧客のニーズを汲み取って開発していく。「単にシステムを組み上げるだけでなく、専任スタッフが一貫したソリューションを提案します」と同社の角 雅治氏は強みを述べる。
どのような環境で、どんな使い方をするのか。企画・設計段階から顧客と対話を繰り返し、堅牢性・耐久性、処理性能などの最適値を導き出す。その要件を標準製品に組み込み、お客様の利用環境に最適な産業用コンピュータをつくる(図2)。
「標準製品をベースにカスタマイズを施していくため、きめ細かな対応を実現しつつ、ゼロからつくる場合に比べてリードタイムを大幅に短縮し、最適なコストで最良の製品を提供できます。いわば汎用製品と特殊製品の“いいとこ取り”です」と村上氏は語る。OEMソリューションもデル・テクノロジーズ製品の強みであるBTO(Build To Order)モデルで構築できるわけだ。
「開発段階では極端な温度環境や衝撃・振動に耐え得るかどうかの負荷耐久試験、過酷な屋外環境でも安定稼働できることを確かめる塵埃や水の侵入テスト、厳格な製品テストなどを実施し、カスタマイズした製品が要求通りの仕様を満たすかどうかを綿密に試験します。データセンターとエッジ環境の連携によるデータマネジメントや相互接続性まで確認し、品質とパフォーマンスを確保します」と角氏は説明する。
各種設定のデプロイメントもサポートし、納品後すぐに使える状態で出荷することも可能だ。「稼働後はグローバルレベルで長期保守サポートを展開し、トラブル対応はもちろん、OSのバージョンアップから廃棄までライフサイクル全般にわたって包括的に対応します」と角氏は続ける。これならグローバルに拠点展開する企業でも安心して任せられるだろう。
先述したようにデル・テクノロジーズのOEMソリューションはグローバルで豊富な実績がある。ソリューションビルダーとの共創で新たな価値創造を図り、多くの顧客企業のイノベーションに貢献している。
例えば、ある特殊用途のオリジナル機器メーカーは、水中で動作できるサーバー・ソリューションを開発した。高度な演算処理によって発生する高熱を高効率に冷却するためだ。学術研究用途で高い需要があるという。また別のOEMベンダーは、過酷な環境でも動作できる革新的なエッジ・アプリケーションの開発に成功した。これを活用することで、現場業務のデジタル化が進み、作業員の危険や負担の軽減につながると期待されている。
国内でもイノベーションが次々と生まれている。ある大手電機メーカーは自社の制御システムとOEM仕様のデル・テクノロジーズ製PCを組み合わせ、高品質のシステムソリューションを開発した。生産の自動化と可視化、設備の統合管理が可能になる強みを生かし、製造業のIA(インダストリアル オートメーション)化を強力に支援している。また、ある大手光学機器メーカーは、1回のスキャンで最大300枚のX線画像を処理し、わずか数分でこれらの画像を動画化するソリューションを開発した。X線装置とデル・テクノロジーズの最新ワークステーションを組み合わせることで実現したものだ。より正確な診断が可能になり、適切な手術計画や治療計画をスピーディに決定できるという。
特殊環境で利用される産業用コンピュータの要件は多種多様だ。堅牢性・耐久性に優れ、ハイスペックな性能も求められる。これをゼロから開発するのはコストも時間もかかり、ビジネスニーズに即応できない。この“溝”を埋めるパートナーとして、デル・テクノロジーズは大きな存在感を放っている。