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あなたへのおたより

普段ほとんどホラー小説読まないけど「天使の囀り」読んだ

2022-09-16 17:30:00 | 感想
*「天使の囀り(貴志祐介著)」の感想です。ネタバレあり。


評判のいいホラー小説を検索したら速攻でコレが出てきたので、何も調べずに読んだんだけど、びっくりするくらい面白かった。

「そりゃ、このアイディアが出たら面白くなるに決まってるよね」と思ったし、アイディアとストーリーの間を埋めてくる知識量がすごい。
割と分厚い本だったから読み終わるまで時間かかるかと思ってたけど、二日で読めちゃった。


─ここからザックリと内容に触れていきたいので、まだ読んでなくてネタバレを避けたい方は、ここまでで止めてください─




物語の冒頭は、誰かが誰かに宛てた数通のメールから始まる。

メールの送り主は、数人でアマゾンの奥地を調査している最中らしい。
冒頭からの数ページは、アマゾンでの様子を丁寧に綴ったメール文と、メールが送られた日の日付だけが続く。
何通目かのメールの最後、送り主は「そういえばなんか珍しい猿がいて、食べ物無かったからそいつの肉を食べたよ」的なことを書いている。

ここで読者は「あー、始まったわ」ってなる。


で、この物語の主人公はメールの送り主ではなく、その恋人なのね。
終末期医療に携わる、精神科医の女性。
精神科医だから、人の言動とか心理状態には敏感なわけさ。

だからアマゾンから戻ってきた恋人の様子がおかしいこともすぐに気がつく。空港からかかってきた「帰ってきたよ」の電話の言葉遣いだけで「ん?」てなる。
「あなた…”かもしんない”とか言うタイプの人でしたっけ?」て思っちゃうのね。
「かもしんない」すら言わない人もすごいよね。
でもそれくらい、そのアマゾンに行っていた恋人は元々どちらかと言えば慎重で思慮深くて丁寧な「陰」の方の人だったわけ。

ところが、それが帰ってきたら完全に「陽」の人になってるのよ。
なんなら食事しながら「ねぇ、人が死ぬときの話聞かせてよ」とか嬉しそうに聞くようなデリカシーのない人になってる。

最初のうちは「なんか帰ってきたら明るくなってて、よかったかも」と思ってた主人公だけど、ここら辺で流石に変だと思い始める。「てか、元々死ぬことを異常に怖がっていた人(タナトフォビア)だったのに、なぜ死についてこんなに聞いてくるんだろう?病的なほど恐れてた死への反応が、そんなに真逆に反転することは有り得なくないか?」と強い違和感を持つ。

そうこうしてるうちに、恋人は主人公に電話をかけながら何かめちゃくちゃ楽しそうに自殺してしまう。
その後、一緒にアマゾンへ行っていたメンバーも妙な死に方をしていることが分かる。

これはなにが起きてるんだ?
どういうこと?



…というお話なんだけど、ここまでではまだ読み手は「あの時の猿だな」とは思ってても、呪い的なものなのか、菌やウィルスなのか、なにが原因なのかわからない。


結論を書いてしまうと、その原因は「寄生虫」なんだけどね。
死体から見たことの無い寄生虫が発見される。それで、どうやらそいつがヤバいということになる。

なぜ寄生虫でこういうことが起きたかというと、「宿主をコントロールするタイプの寄生虫」だからなの。

よく、蟻とかカタツムリとかを都合のいいように動かして、わざと補食させて、次の宿主に移り易くする寄生虫を見たことがあると思うけど、あれの一種が猿に寄生していたというわけ。


この寄生虫、どういう動きをする特性があるかというと「宿主が本来”怖い”と思う事に対して、快楽を感じさせる」というもの。

それはなんの為かというと、宿主を補食する生き物(敵)が宿主に近づいたとき「やったー!」つって敵の前に出ていくようにして捕食させようというやり方。


【本来なら恐ろしいと思っているものが、一番の快楽になる寄生虫】
それが人間に寄生すると、どうなるか…ていうね。



もう、こんなアイディアが出たらその時点で勝ちでしょ。
立ち上がって拍手したくなっちゃったもんね、ここまで読んだとき。


だって、人が「怖い」と思うものって、大体みんな少なからず嫌でしょ。
それが、大好きになってしまうわけよ。

しかも、軽い恐怖や拒否感も快楽にするから「それヤバくない?」て言っても「幸せだからいいじゃん!」つって聞かないからね。
人のネガティブな感情って大事ね。

寄生された人達は、一時すごい明るくなって、勝負強くなったり活躍したりするんだけど、同時にそれまで強く”嫌だ”と感じてきたものをどんどん求めてしまうようになる。
本来なら生理的な嫌悪感のあるようなものにめちゃくちゃ浸かりながら、恍惚として死んでいく人が次々と出てくる訳。

しかも体内に無数の寄生虫よ?
そんなの嫌に決まってんじゃんね。天才。


たまにこういう天才的なアイディアで出来た作品だと、アイディアだけで引っ張ったものの全体がスカスカしてるものもある。けど、この作品は間の密度も濃かった。
知識をギュウギュウ詰め込んであって、読み応えがあるし、多少の矛盾も「そうかな?」と思わせてくる説得力があった。

主人公の恋人が帰ってきた辺り(かなり序盤)からは一気に読める。
とはいえ、虫が嫌いな人は絶対無理だと思うし、普通に食欲がなくなるけどね。それでもよかったら、是非読んで欲しい。


あと、カバーの帯が本全体を覆うタイプのやつで売り文句が凄いっていうね。





不幸なことしか起こらん映画やけど好き【マジカル・ガール】観た

2022-08-04 20:16:00 | 感想
*ネタバレあり

アマプラが「あなたこれ、好きでしょ?」てやたら勧めてくるので観てみた。

【マジカル・ガール】という題名で、魔法使いの服を着た少女と女性の顔が並んでいるので、この少女の空想から何かが起こるのかと思いきや、そうではない。
不思議な魔法は、誰も使わない。

魔法で夢を叶えるのではなく、人に言えない秘密の方法で、誰かの「願い」を叶えていく話だった。


登場人物はみんな近くに住んでいて、どこかで薄ら関わってはいるものの別々に生きている。いや、生きていた。
しかし、1人の「ムリな願い」を叶えようする強過ぎる思いが生まれたところから不幸の輪が回りだし、1人ずつの人生を巻き取りはじめる。


まず、余命幾ばくもない娘の願い「魔法少女の衣装(90万円)が欲しい」を叶えるために金を作ろうとする男、ルイス。
彼は金のために宝石店を襲おうとする。

ここで、もう1人の登場人物と出会う。
夫の愛(または夫との生活、もしくは自分の隣にパートナーがいるということ)がどうしても必要な女、バルバラ。
このタイミングでバルバラと出会ってなければ、ルイスは普通に警察に捕まって終わっていたはず。


バルバラが裕福な暮らしをしてることに気づいたルイスは、バルバラの「願い」を壊すと脅すことで金を手に入れようとする。

バルバラは自分の体の痛みや精神的な苦痛より「願い」が大事なので、自分の体を傷つけられることで大金を用意する。

死ぬ寸前まで傷つけられたバルバラは、3人目の登場人物、ダミアンの家の前に行って倒れる。
ダミアンはかつてバルバラとの間に"何か"があり、彼いわく”バルバラの為に”捕まり、10年間服役して出てきたところだった。

ダミアンは、バルバラと出会わなければそのまま平穏に暮らしていただろう。
しかし、この出会いをきっかけにまた人生が狂う。

バルバラは、ルイスに罰を与えたいという「願い」をダミアンに伝える。
ダミアンは、自分の人生を捨ててそれを叶える。
なぜならダミアンの「願い」は、バルバラだから。


不幸な誰かが、不幸な誰かとすれ違う度、細い釣り針のようなものに引っかかり、引きずり込まれていく。
誰かが誰かの願いを叶える度に、不幸になっていく。
みんなが不幸の中にありながら"唯一の幸せ"を握りしめて、奪われまいとしている。


おそらく人は「この一点さえ輝いていれば、他の全てが地獄になってもいい」と思ったところでバランスを失ってしまうのだろう。


悪人は1人も出てこない。
ただ、全員が悲しい物語だった。



【追記】

この映画、最後に突然聞き覚えのある曲が流れ始める。
瞬間的に「美輪さんのアルバムに入ってる曲だ。シャンソンか?」と思ったのだが、よくよく記憶をたどったら「黒蜥蜴の唄」だった。
丸山明宏×三島由紀夫×江戸川乱歩の映画「黒蜥蜴」で流れたアレだ。
しかも、スペインの歌手の方かな?カタコトの日本語で歌ってくれている。

そういえば、黒蜥蜴の描かれた部屋が出てくる場面があったけども。あ、そう、そういう感じ?じゃあもうこの映画、好きだわ。

クレしん映画ほとんど観たことないけど【ブリブリ王国の秘宝】観た

2022-07-22 18:47:00 | 感想
※クレヨンしんちゃんの知識がほとんど無い人間が書いた「ブリブリ王国の秘宝」の感想です。
ネタバレは少し。


なんか…急にみさえとひろしがすごい夫婦感というか”男女”な感じ出してくるから戸惑っちゃった…。



ここでクレしん映画のレビュー書き始めたのが5月からで、この作品で13本目になるんだけど、私はすっかりもう ぶりぶりざえもん のことが好きで、ぶりぶりざえもんが出てきた時に軽くときめく程になった。

今回の ぶりぶりざえもん、かっこよかったなぁ。
てか、あれは ぶりぶりざえもん のようで ぶりぶりざえもん ではないのか。


お猿さんたちに優しくしてもらう場面良かったなぁ〜。すごい可愛かった。
あれで1本作って欲しいくらい楽しかった。


今回は、しんのすけがちゃんと子供扱いされてたから、安心して観てられた。
ちゃんと5歳児らしくふるまってて、色んな人に抱っこされて、寝顔かわいいって言われたりして、嬉しくなった。
しんちゃんかわいいね、て思った。


あと、ひろしが妙に歌上手いのよかったね。
ちゃんとミュージカル知ってる人が作ったであろう曲でね。
あのあとまた何回かミュージカル擦るのかと思ったけど、1回で終わるっていう謎の潔さもね。


こういう、悪い人は徹底的に悪くて、最後に容赦なくちゃんと懲らしめられて、ほかの人はみんな善人っていうお話は気持ちいい。
ひろしみさえ夫妻が仲良くて、しんちゃんが大事にされてて、見たあとの幸福度が高い映画だった。


しんちゃん、またえっちゃんのサインもらえるのかなぁ…。

クレしん映画ほとんど観たことないけど【雲黒斎の野望】観た

2022-07-21 20:00:00 | 感想
*クレヨンしんちゃんの知識がほとんどない人間が書いた「雲黒斎の野望」の感想です。
ネタバレは少し。


すごいちゃんとしたSF娯楽超大作だった。
もう、下ネタの名前が出てくること以外なにもふざけてないのね。


私の中で「雲黒斎」は"一番有名なクレしん映画"ていうイメージがずっとあったけど、内容は全然知らなかった。
時代劇なことすら知らなかった。

で、今回観てみて「あ、なるほどこれはウケるわ」と思った。
こんなのみんな大好きでしょ。
みんなが好きな設定と好きな展開が山盛りじゃんね。


男として育てられた剣術の達者なお姫様(吹雪丸)とかね。
ちょっとマイフェアレディっぽさも出しつつね。
みさえとなんかイイ感じになったりして、ひろしが焼きもち妬いたりして、みさえもまんざらじゃなくて、なんかもうソワソワしちゃうわね。


そしてその吹雪丸のバディとしての馬。
やっぱり馬と剣士の友情は最高よ。


ラスボスの隣にいる、嫉妬深くて美しい女(お銀)。
このお銀が戦いの途中、肌の匂いで吹雪丸が女だと気づいたときの声の変わり方がとてもよかった。
ゾクッとした。

お銀の最期の感じ、お子さまたちはかなり怖いんじゃないの?
個人的には、今まで見てきたクレしん映画の怖いシーンのなかで一番怖かったな。
「あらあらあら大丈夫?」と思うくらいに怖く描かれてた。


吹雪丸の母の仇が、柳腰の素浪人風で酒と女に囲まれてるタイプなのも良い。
「花のなかで死ねるとは運が良い」とかいっちゃうし。

この役、昔なら成田三樹夫あたりがやるよね。
お銀は太地喜和子でお願いしたい。


ラスボスのヒエール・ジョコマンの実写版はROLLYさんがいいなぁ。
良い悪役だったね。
良い感じに狂ってて、割りと軽いけど、かなりやり手っていうのいいね。

このヒエール・ジョコマンが、やたら瞬きが多いのすごいなと思った。

神経の細さ、みたいなのを説明無しで伝えてくるのね。そういうの一個加わると役に深みが出る。
そういうところに手を抜かないのカッコイイな。


あと、しんちゃんが急にムキムキの半裸の逞しい姿でガシガシ戦うシーン、妙にドキドキしちゃった。


中盤までしっかり時代劇をやって、ラストで一転すごいSFをしっかりやるっていう二段構えも良い。



そしてこの物語、何が怖いって冒頭で野原家全員が会社と幼稚園を無断で休むことになんの躊躇もないところね。

連絡しようともしない。
流れるようにタイムマシンに乗ってたね。
その感覚の狂い方からして既に薄ら現実離れしてた。


めちゃくちゃ考えて作られてるんだなぁ〜て感心する場面が沢山あったな。
面白い映画だった。

クレしん映画ほとんど観たことないけど【ヘンダーランドの大冒険】観た

2022-07-15 16:04:00 | 感想
*クレヨンしんちゃんの知識がほとんどない人間が書いた「ヘンダーランドの大冒険」の感想です。
ネタバレ少々。


「さあ、子供たちが観るファンタジー系冒険アニメを作りますよ!」って感じの映画だった。

画面全体がくすんだパステル寄りの色で統一されてて、背景が絵の具で描いたみたいになってて、ぜんぶが絵本みたいな雰囲気で好きだった。

さらっと観られる、おとぎ話っぽい作品だったなぁ。


観ながら思ったことを連ねると


・雛形あきこの出かたよ

・「群馬ヘンダーランド」って、「埼玉ゴズニーランド」以来の良い名前

・北関東一って小さめの括りのわりには、観たことないレベルで大規模なのね、ヘンダーランド

・↓コレでわかるのも、コレで見つかると思ったのもスゴい





・見てるうちに「ゴーストランドの悲劇」を連想し始めるくらいには切迫感がある

・”しんちゃんが考える三大ヒーロー”が出てくるの、めっちゃいい

・ぶりぶりざえもんのテンドン、もはや安心感がある

・エロ系の下ネタに手加減がないな

・いい人のふりして家に入り込んでみんなを洗脳していくス・ノーマン・パーの感じ、この世で一番怖いサイコパスのやつじゃん

・5才児が両親のいない家で怖い思いをする上に、両親を助けるために”怖い場所”へ向かっていくの、胸が苦しくなる
しかも、ひとりで電車や知らないおじさんのトラックに乗って行くのね

・リアルな感じになったときのひろしって、阿部寛に似るのな



最後までずっと絵がきれいだった。
「そんな童話のような綺麗ごと」が「ある」ていう、綺麗な映画。



私いつもクレしん映画を観るときはwikiで出演者と公開した年を調べるんだけど、検索かけると結構な割合で「(タイトル) 怖い」てサジェストされること多いのね。

クレしん映画は基本的に「日常に変なものが入ってきて、いつもの生活が壊されてしまうのを防ぎ、いつもの生活にもどる」ていう流れだから、怖くなりやすいのかもしれない。

ヘンダーランドもトップに「怖い」がサジェストされてたけど、確かに両親が両親じゃなくなるとか、家の中に入り込んだ人物の異常さに自分だけが気づいているとか、怖い人は割と怖いのかもね。

私はかなりファンタジーっぽい気がしたかな。



あと、冒頭のバスのシーンで急に私が今まで触れたことのなかった子がツッコミ役として配置されてて「だれ???」てなった。




なんだろう、お父さんが自己流のボクシングしてそうな。
お母さんが毎朝のお弁当作る行程をインスタにあげてそうな。
夏の夕方に家のガレージでバーベキューしてそうな。
活気のあるご家庭で育ってそうな彼。

今後またどこかでお目にかかるのかしら。