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あなたへのおたより

「犬王」を観た

2022-06-16 17:37:00 | 感想
*ネタバレあり だし、この映画がとても好きな人にはオススメしない記事です。

前評判が非常に高く、キャストも素晴らしいので、とても期待して観に行った。


まず、良かったところを並べていこう。

何よりも、アヴちゃんが素晴らしい。
歌はもちろん、演技でワクワクしたの久しぶりだった。
もちろん、森山未來も素晴らしい。
映像もとても美しく、ちゃんと「知ってる京都」だった。


目の見えない友魚が、"手触りや音から感じ取っている世界"を映像にしている場面が多く、それが説明過多にならず、するっと入ってきた。

ストーリーもとても真っ直ぐで、全員の性格や生き方が矛盾無く描かれていた。


冒頭から琵琶と唄と語りが素晴らしく、特に予告でも流れていた ”最初に犬王が歌う場面” でのアヴちゃんの声は「これだけで観に来た甲斐があった」と思ったほど最高だった。



…さて、ここからネガティブな感想が出てくるので、この映画がお好きな方はここまでで画面を閉じてほしい。




この物語は、それぞれに大きなものを背負ってしまった二人の若者が、音楽とパフォーマンスで自分の生きる場所を見つけるまでが大きな山場である。
そしてもちろん、この映画はミュージカルなので、音楽が非常に重要である。

で、いよいよ犬王と友魚の才能が開花する場面。
友魚たちが橋の上で演奏し始めたところで、「ん?」となった。


音楽が、古いのだ。


60~70年代の、まだ演歌やフォークの臭いが混ざっている頃の日本のロックだった。
パフォーマンスも、ロックど初期のそれである。

もちろん歌はうまい。
森山未來だから。
ただ、音楽的には完全に「おじさんが考えるカッコイイやつ」だ。


私はてっきり、劇中の人々と同じように「新しくて、刺激的で、かっこいい音楽にドキドキできる」と思っていた。
キャスト的にもそれができるメンバーである。


ここで、こんな古いものを出してくる意味はあるのか?


犬王の躍りも古い。
80年代のブレイクダンスや、マイケル・ジャクソンを思わせる振り付けが出てくる。
アニメなのだから、どんな動きでもできるはずだ。
しかも特殊な体を持った犬王である。
それなのに、古い音楽ビデオを見せられてるような気持ちにしかならなかった。

熱狂する人々のノリも、ステージからの煽りも、「よく知らない人が考えるロックコンサート」のようだった。
とても、アヴちゃんと森山未來にやらせるやつではない。
観てる間じゅうずっっっとそれが気になって仕方なかった。


あそこでわざわざロックにするなら、もっと新しい音楽を持ってこれたはずだ。
あんな古くて時代設定からもズレた音楽にするくらいなら、和楽器だけで演奏するかっこいい音楽をやってもよかったはずだ。
いるだろ、今はそういうのやってる人。


見終わってから今までずっと「わざわざああいう音楽にした意味は?」と考えているけど、私にはまったくわからない。
物語としては面白かったけど、このモヤモヤがずっと残っているので、そこまで手放しに「良かった!」とはいえないなぁ。


会場には何度目かで来てる人も多いようだったし、客入りも多くて、パンフレットも売り切れていたようなので、お好きな方はとってもお好きだと思う。
私の隣のお姉さんも、ずっと泣きながら見てたしね。

なので、見る価値はめちゃくちゃあると思うよ。
ただ、私はとても残念だったというだけの話です。

特撮あんま知らないけど「シン ウルトラマン」観た

2022-06-16 17:12:00 | 感想
*ネタバレあり

「犬王」と、「トップガン」か「シン ウルトラマン」のうちどっちかを一日で見るつもりでいて、事前に調べたときは「トップガン」の方を見る予定だったのだが、上映時間の変更があって、成り行きで「シン ウルトラマン MX4D」を見ることになった。

私にとって、生まれて初めてのMX4D。
まさかの予定外ウルトラマンでMX4D初体験。

すげーねアレ。
遊園地みたいだったわ。



ウルトラマンについては、昔なんとなく見たことはあるなーくらいだったので、どこまで楽しめるんだろうと思ってたけど、めちゃくちゃバキバキに面白かった。


まず、見ながら思ったことを連ねていく。

・最初に出てきたときのウルトラマン、「妙にスタイルのいい露出系の変質者」って感じですごかった。
いるよね、最高潮に興奮してるはずなのに、見た目から感情が全く読めない変態。

・MX4Dの演出で、座席が揺れたり風が来るのと一緒に、ときどき普通に背中をドン!てしてくるときがあって「いや、背中ドンは違うやろ」て思った。

・長澤まさみ、独り言多いなぁー。
思ったこと全部言うやん。

・ウルトラマン、人間界には「本」てものがあって「図書館」に行ったら貸してくれるらしいって、早い段階で解ったのすごいね。
どこかからデータ読み込むとかじゃなく、紙でいくんやね。

・デカくなった長澤まさみの場面、「大日本人」の板尾さんの場面思い出した。

・庵野、会議好きやなー。

・ウルトラマンの攻撃で、「ふつうに叩く」があるの面白いな。

・椅子に縛られてる斎藤工、性的すぎる。

・怪獣の知識無いから、山本耕史が怪獣の姿に変わったとき「うわぁ!山本耕史の顔、外国の海辺にあるデカイ建物みたいになった!」て思ってビックリした。

・ゼットン知ってる!聞いたことある!……え???…でっっか。

・斎藤工が海に落ちたとき、座席からすっごい微量の水を顔にピャッてかけられて「は?」てなった。
斎藤工めっちゃちっちゃいみたいやん。
リップクリーム落としたくらいの感じやん。

・ゾフィー、最初に伝えてきた「ウルトラマンの行動が許されない理由」と「人間を絶滅させる理由」はすごいハッキリしてたし、「この決定はもう揺るがないものです、上が決めたんで無理です」くらいの感じで来てたのに、最後「なんか、みんなめっちゃ頑張っててすごかったし」くらいの理由で許してくれたやん。
しかも、それゾフィーの判断で決めていいんや。上に一回言わんでええんや。
と思ってたら終わった。


MX4Dで揺らされたりかけられたり吹かれたりして、楽しさが何割か増してるかもしれないけど、映画としてちゃんと面白かった。

「あなたがた、もうだいたい察してるでしょ?」て部分はスパッと説明省くのもよかった。

最後のあの場面で、みんなが知ってるあのウルトラマンの画が出てきたとき「わー!ウルトラマーン!」ってなって、すごいワクワクしたし、「あ、それ、帰っていくパターンもあるんや」てなったし、色んなところでちゃんと特撮っぽい映像が出てくるの楽しかった。

ウルトラマン知らなくてもこんなにワクワクしたんだから、好きな人はもっと面白いんだろうなぁ。
私ですら最後「米津ぅーーー!」てなったもんな。

いやぁ、観られて良かった。


彼はなぜ7734号室に行かされたのか ─「残酷で異常」

2022-06-01 16:15:00 | 感想
映画「残酷で異常」の感想です。
*ネタバレあり


アマプラでおすすめに出てきたから観てみたら、思ってた倍おもしろかった。


とはいえ、タイトルとメインビジュアルの感じから想像するのが35点ぐらいの映画なので、倍になっても70点ね。
たぶんこれ、観た人みんなが「もうちょい売りかた考えたらよかったのに…」と思うだろうし、「思ったより面白いから観て!」って人に言いたくなるんじゃないかな。



内容的には「謎が解き明かされていく」系のヤツなので、ネタバレを全く気にしない方か、すでに観た方だけ、このあとを読んでください。

いきなり「答え」から書いていきますので。





結論から言うと、これは典型的なハラスメント男が、死んでから自分の本当の罪を自覚させられる映画である。



すべてのハラスメント加害者がそうであるように、主人公のエドガーという男も最初は「自分はなにも悪くない」「あれは仕方のないことだった」「事故だ」と思っている。
本っっっ当に「オレは悪くない。こんなに責められるのはおかしい。むしろ被害者だ」と思っている。

しかし、彼は無自覚な加害者でしかない。



まず、彼が「愛をたくさん注いで大切にしてきた」と思っている妻 メイロンは、彼が金でフィリピンから連れてきた女性である。

彼は最後の最後まで「メイロンを心から愛している」というが、それは愛ではなく”自分が満足を得るための所有物に対する執着心”だ。


彼自身、自分が「モテない」ことを自覚しているので、「いつか逃げられる、取られる」という意識から、妻を家に閉じ込め、自由な行動を禁じる。

当然、妻は何度も「嫌だ」という意思表示をしていて、それは他人から見れば明らかなのだが、彼は気付かない。気付いたとしても「お前のためだ、黙れ」と言って押さえ付けることしかしない。


メイロンは、子供も一緒につれてきているので、子供の生活のためにも、エドガーの言うことをきかなければならない。

メイロンの息子 ゴーガンは、あるとき同級生に「お前の父親は、父親じゃない。ママとヤッてる白人男だ。ママは金でヤラせてくれるんだろ」といわれ、最終的にその子を傷つけてしまう。

この同級生の言葉は酷い。が、しかし事実である。
エドガーには、ゴーガンの父になる気などない。メイロンを自分の自由に所有し続けたいだけだ。


エドガーは、メイロンに相談なく、ゴーガンを遠いところに住む親族のところへ行かせることを決める。
しかも、それをゴーガンに告げ「ママもそう思ってる」と嘘をつく。

逃げ出した息子からその事を聞いたメイロンは、エドガーにそれを確認するが「話してたら勝手に逃げた」と言われ、彼を毒殺しようと決意する。 

 
この決意は「どうしてもこの状況から逃げたい。もう限界だ」という、"突発的な攻撃"である。
後先考えたらやらない方がいいと完全に理解しているが、「嫌だ、止めてくれ」が勝ったということ。

ここまでずっと我慢してきて、何度も「嫌だからやめてくれ」という合図をしてきても無視されてきて、もうムリだと思ったから、普通ならやらない行動にでたわけだ。



当然、ハラスメントというのは「立場的に、強く反抗できない状況の相手」に対して行われることが多い。

そして、ハラスメントをする側の人間は「相手が自分を受け入れている」と思っていたり、「自分の言う通りにするのが相手のため」と思っていることが殆どだ。

だから、非難されたとき「そんなに嫌がってるとは思わなかった」「冗談だった」「みんなもやってるから、いいと思った」「親しみの表現だった」「相手も悪かった」等と言う。

そして、「わかりました、相手に嫌な思いをさせたことは謝ります」とは言えても、自分の思考が根本からダメだとは、気づかない。

絶対に自分は悪くないと思い込んでるので「なるほど○○はダメなんですね、あなたはそれがダメなタイプの人だったんだ。知りませんでした。ああ、今回はたまたま運悪く嫌がられたんだ」という結論になる。


本当に、どんなに説明されようが気づかない。わからない。理解できない。それが、ハラスメントの加害者だ。



死後の施設で、エドガーは他のどんな残酷な犯罪者よりも「問題がある人物」としてマークされている。
彼だけが7734号室(逆さにすると”HELL”地獄)に送られる。

それはおそらく、"殺し"そのものより、彼のように悪いこととも思わず、葛藤もせず、人を自分の満足のためだけに苦しめ、反抗されてムカついて殺してもまだ被害者だと思っていることが、1番罪深いことだからではないだろうか。


エドガーは最後、それに気付く。
が、これは映画なので、実際にあいつらがこんな風に気づくことなんて、無いんだよね。

絶望感がすごくて、笑えてくるね。




妻殺しに関してだけ言えば、エドガーの最初の間違いは「まともな方法でパートナー得ることを放棄した」ところだろう。

まともに自分と向き合おうとせず、人と向き合おうともせず、努力のいらない簡単な方法で「実態の伴わない自己肯定感」を手に入れたから、崩壊したと私は思っている。


実態の伴わない自己肯定感。
手軽に満たせる承認欲求。
付け焼き刃の価値。

そんなものを得て舞い上がって周りが見えなくなっていたから、壊れたときの対処を間違う。

1番ダメな手段に出る。

それがエドガーの場合、殺人という結果になったのではないか。




エドガーがやったような「付け焼き刃な方法で自分に価値を付ける」というやり方は、日常でもたくさん見られる。

一番近いのは「金をたくさん払ってチヤホヤしてもらってることを"自分自身に価値があるからだ"と思ってしまう」ってやつだろう。

もっと簡単なので言うと「注目されている人やグループと関わることで、自分も同じ位置に立てた気になる」とかね。
「あの有名人と知り合いでさぁ」「あの人と一回寝たことがある」とかもそう。

そういうのがたまにあって、話のネタとして持っとくのは良いと思うけど、それ「しか」ない場合が怖いよね。


本当に自分の中に積み重ねたものがあって、認められた上で得たのではない「価値」は、自滅の時限爆弾になる。

調子に乗ったり、天狗になったとたんにドカン。


自己顕示欲とか承認欲求に勝手に振り回されて自滅していった人は、たくさん見てきた。

おそらくその人たちは、「ある日突然、大変な目にあった」と思っただけで、理由もわからず、その後も自分の周りの世界で簡単な価値だけを身に付けて安心してるんだろう。




この映画、ラストでエドガーはまだ同じ施設にいて、そこで自信満々に「私の体験」みたいなことをシタリ顔で話し始める場面で終わる。

この手のタイプは、根本がアレなので、結局ここまで来ても「いやー、僕は気づいちゃいましたね。そこで僕のとった行動は、こうです!いかがですか、皆さん!皆さんも僕みたいに、気が付けると良いですね!」て方向に行くよね。

「おまえ、そういうとこやで!」ってなったね。



あと、この映画が妙に評価高いのって「面白くないかと思ったら面白かった」てとこが大きい気がする。

ちゃんと良いタイトルで良いメインビジュアルだったら、ここまでは評価されてなかったかもね。
むずかしいね。