雑感録

人間は一生自分という宇宙から出られはしない。

『マスター・キートン』の中でも最高傑作の誉れ高い第4巻の
『喜びの壁』に出てくるライアン神父の言葉である。

長年連れ添った妻に先立たれた男が、結局最愛の妻の死も自分の死のように悲しむことはできない、自分はそういう人間だと嘆くのに対して言う。
「あなたが彼女を愛しているのは本当のこと。それはあなたの中にあるからだ。
 でも、奥さんが本当にあなたを愛していたかはわからない。
 わかり合ってたなんて幻想に過ぎない。
 人間は自分の中に描いた他人とともに暮らし、ドラマを作り、泣き、悲しみ、死んでいく。」

ちょっと後ろ向きな言葉に聞こえるかもしれないが、
事実その通りだし、それほど後ろ向きな話でもない。
人が真実だと思っているものは、それぞれの人の中でしか成立しないもので、
その人の外に出てしまえば通用しない。
そんなものは真実ではない。
本当に真実というものがあるとすれば、
それは「存在するという事実」だけである。
僕はここに存在する。
あなたはそこに存在する。
人も石ころも大して変わらない。

では、どうすればいいのか。
すべてを「受け入れる」だけである。
何も否定しない。しかし、同意や理解をする必要も特にない。
不平を言わない。
足るを知る。
自分に関わるすべてのことは、良かれ悪かれ自分に起因しているのである。

なんかオレ、哲学者か宗教家みたいやなあ。
教祖にでもなって、ひと儲けしようかなあ。

ちなみに、マンガはこう続く。
「それでも奇跡は起きる」
奇跡を目の当たりにしたキートンたちは、
この瞬間だけは、生き物すべての心がつながっていると感じる。

残念なことに、オイラはいまだ奇跡に遭遇したことはない。
存在しているということ自体が奇跡だ、なんて都合のいい解釈をのぞけば。

もどるつづく

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